どっちなの真希ちゃん!?
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
春の季節。今の私だと浮足立ってはしゃぐ季節だろう。何せ高校入学、いやはや学力が足りないと思っていたが何とかギリギリで合格できて良かった。
本当なら、周りの同級生たちと同じように友達を増やしてさっさと関係性を深めるはずだろう。
だが、今の私は頭を悩ませている。
その原因が――。
「おはようございます"白土涼夏"さん」
隣の席の、"五常真希"さんだ。彼女、本当に彼女だろうか? いや、今日は彼女だ。可愛らしく制服を着て登校しているので今日は彼女。
彼女の性別は、分からない。正直言って多分先生でも分かっていない。
昨今話題になっているトランスジェンダーだとか、ノンバイナリーとかでは断じて違う。
事情を説明しよう。事の顛末は入学式当日。真希さんは男子の制服で、男子の声で入学式に望んでいた。まさしく中性的なイケメンだと私は思っていた。実際さっぱりとした清涼な声と、その優しい目付きと、ついでに整い過ぎて逆に気色悪い顔だとか。まあ色々ある。
問題はその後だ。その日の内に、真希さんは女子トイレに入ってしまった。そして一言。「あ、間違えた」と言ったのだ。その様子は私も見ていた。
真希さんはその後すぐに男子トイレの方に向かった。
まあ、ここまでなら残念なイケメンですむ。結局はイケメンだ。問題はあるが、問題はない。
次の日、彼、いいや彼女は女子の制服で、髪を腰辺りにまで伸ばして登校した。まさしく今日のような、こういう格好で。
顔の良さは学校中に広まっており、今後の動向が注目されていた人物なだけに、これにはこのクラスだけでは無く学校中の生徒、教員も含めて頭を混乱させた。
そしてその日は女子トイレに入った。偶然にも、その日も私は目撃した。
そう、性別が一切分からないのである。というか声まで変わっているし、何なら髪の毛まで伸びている。入学式の時にはそんなに長くなかったでしょ!?
そして何より、おっぱいがある。そう、おっぱいである。あの柔らかくて男子を虜にする、なんなら私も虜にするおっぱいである。
女子の格好をしているときには、必ず胸の膨らみが確認できる。しかし男子のときには確認されなかった。さらしでも巻いて潰しているのか、それとも何か入れているのか。
性別が、その日その日によってころころと変わる。何なら真希さんが女子の日に、授業終わりに見なくなったと思ったら、男子になって戻ってきたこともある。声も、髪型も、その日はなぜか髪色まで変わっていた。
気になって気になって、しょうがない。まさに夜も眠れない状態に、私は陥っているのだ。
解明するのに手っ取り早い方法はもちろん、まあ……その、なんていうか、アソコを、ね? 見れば分かる。当たり前だが。
だけど、そんなハレンチなことできるわけないでしょうが!! よって解明する手段はほとんどないと言っても過言はない。
だが、解明したい。解明したいのだ。
「おはよう真希さん。今日は女子なんだね」
「ええ、今日は女のコですよ。あ、もしよろしかったらリップクリームを貸してくれませんか? 忘れてしまって……」
「ああ、それくらいなら良いよ。えーとどこにあったかな……」
クッソ、多様性のせいでこの行動が女子と決めつけたらいけない気がする!! けど女子で良いよねこれ!? これでもし男子だったら異性が口つけたリップクリームねだる変態ってことになるから女子で良いよねこれ!?
真希さんはそんな私の葛藤もいざ知らず、優しい笑みを浮かべていた。
クッソかわいいなおいィ!! いっそのことアクリル樹脂で固めて部屋に飾ってやろうかなァ!!
「はいこれ」
「ありがとうございます! どうにも私は、体質的に唇が乾燥しやすくて……助かりました」
「いやいや、役に立てたのなら良かったよ」
あーもう女子っぽい悩み! どっちだこれ?! 女子っぽい男子か!? それとも本当に女子か?! 天元突破した女子か!?
天元突破した女子であって欲しい! 男子の唇に私のリップクリームが塗られるのは嫌だから!
真希さんは、リップクリームを塗る姿が、なんというか、その、スゴくえっちだ。
可愛らしい色気というか、唇にクリームを塗っているだけなのに、妙に感情が揺さぶられる。心臓の鼓動が速まって顔に火照りが浮かぶ。
私がまじまじと見ていると、真希さんはもう一度にっこりと微笑んだ。
もうこの人聖母として日本で崇めるか。世界平和だ戦争も紛争も無くなったぞバンザーイってできるでしょこの人なら。
それにしても、この人、妙に親しい気がする。いや、別に嫌という訳ではないのだが、何だか私が気付かない内に距離がどんどん縮まっている気がする。
まだ入学して十日しか経っていない。つまり八日しか会ったことがないのだ。にも、関わらずこんなに仲良く接してくれる。
これは私が陰キャなだけなのだろうか?
ああ、ついでに、その八日間、登校時の性別は男子が三日で女子が五日である。
頻度から考えるに、やはり女子だろうか? でもそのときのおっぱいの大きさも違うんだよなぁ……。髪型はまだ何とかなるけど、なーんで髪の毛が短い日の次が滅茶苦茶長くなったりしてるんだろ。
「……どうされました? さっきからよく私の顔を見詰めてますけど」
「……まあ、目に入れても痛くないからね」
「……えへへ」
真希さんは照れくさそうに笑っていた。こいつかわいいなこんちくしょう!!
そして、ホームルームの時間が始まり、すぐに授業に移った。授業中にも真希さんの観察は続けている。
今日の文房具は水色のシャーペンらしい。まあありふれたシャーペンなのだが、これが違う日もあるのだ。恐らくその日の性別で変わっている。……のかな?
「甕棺墓……っと」
聞き耳を立てていたら、シャーペンの芯で流れるように文字を書く音に混じって、そんな小声が聞こえた。隣の私だから聞こえる程度の、本当に小さな小さな声。
「じゃあ、そこの涼夏さん」
真希さんの小声に耳を傾けているからか、教壇の方にいる先生の声が聞こえなかった。
すると、真希さんは心配そうに私に目配せをした。
「……当てられてますよ?」
「え? あ、あぁ!! はい!!」
隣から笑い声を少しだけ吹き出す音が聞こえた気がする。それはまあ、一旦、気のせいだと思っておこう。
授業が終わると、真希さんは次の授業の準備をすぐに終わらせると、教室から静かに去って行った。
身を潜ませながら真希さんをあとを追ってみると、どうやらトイレに行くらしい。さあ、どうなる。今日は男子トイレか女子トイレか。
それにしても、歩き方が本当に綺麗だ。背筋がぴんと伸びて、歩いていてもそれが崩れない。脚以外の体が微動だにしないのだ。
そして、真希さんが入ったのはこの学校に新しく作られた多目的トイレだった。
オイ多様性! こんなときばっかり無駄なことしやがって! LGBTQの方々を馬鹿にする意図は一切ありませんけどね!
数分程すれば、真希さんはトイレから帰ってきた。ただし、男子生徒の制服とさっぱりとした短髪の姿でだ。あのおっぱいは一体どこに?
髪を乱雑にかきむしると、気だるそうに欠伸をしながら腕を伸ばしていた。目をこすり辺りをきょろきょろと見渡すと、どうやら私に気付いたようだ。
親しげな笑顔を見せると、私に向けて手を振った。
何だあのイケメン。イケメンと言うか、女子にも見えるが男子にも見える美形と言うか。
「どうしたんですか白土さん。何か僕に用ですか?」
「いやー特に、何も……」
「そうですか? あ、そうだそうだ。白土さんに渡したい物があったんだった。えーとどこにあったかな……」
真希さんは制服の裏ポケットをまさぐると、そこからビニールの袋に入った何枚かのクッキーを私に手渡した。
「はい、リップクリームのお礼。僕が作ったクッキーだけど、舌に合うかな?」
「……すっご。え、一人で?」
「そう一人で。凄いでしょ。本当はおやつにでもしようかなと思ってたんですけどね。よく考えたら僕ダイエット中だったや。だからあげますよ」
「……ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方ですよ。あ、授業始まりますよ?」
これならやはり男子の方が良いのでは? このイケメンなら男子の方が良い。いやでも……女子の方が……いやー……!
……って、違う違う。
「一つ聞いても?」
「どうぞ、どんな疑問でも」
「……どうやって着替えたの?」
「イリュージョンだよ、マジック。なら僕はマジシャンかな?」
真希さんの男子の声はそう言っている。くしゃりと笑いながら、まるで私で遊んでいるようにも見える。
次の授業中、真希さんは机の上で教科書もノートも広げずに白色のシャーペンを指先で絡めながら寝ていた。少々の寝息も聞こえるので、多分本当に眠っているのだろう。
春になってぽかぽかと暖かく、昼寝をしたい気持ちも分かるが、学校で寝るのはどうなの?
その授業中はずーっと眠っていた。休み時間になっても起きる気配は一切無く、むしろ死んでいるのかと勘違いしてしまうほどに微動だにしない。
「真希さん、もう次の授業だよ」
「……んぁ……んぅ」
「ほら、さっさと起きて」
「……もー少し眠らせて……」
何だこのイケメン。さっきまでの女子はどこに行ったんだよ。
「……チョコレートもあげるから……」
「……それも?」
「……僕が作ったやつ……はいこれ……」
制服の裏ポケットから出したビニール袋に包装されたチョコレートは、恐らくチョコペンで可愛らしい猫のイラストでも描かれていたのだろう。しかし季節は春、しかも人肌によって温められてもいる。
そう、形は崩れ可愛らしいイラストは怨嗟の声を吐き出しているかのようなおぞましい表情に変わっている。
「こっっわ!? 形がもう猫じゃなくてゲームのスライムの方が近いけど!?」
「……あれ、あぁー……。まあ、味は変わらないから、だいじょーぶだいじょーぶ」
そう言って真希さんはもう一度眠り始めた。
まあ、ある程度真希さんのことは理解してもらえただろう。だからこそ、気になるだろう。
結局どっちなの真希さん、と。
そう、これは私が真希さんの性別をあの手この手で解明するだけの話である。
やはり新鮮な環境だからか、夕暮れはすぐに訪れる。茜色と舞い散る桜の花弁を、教室の窓から眺める真希さんは、たった一人で憂いた表情を浮かべていた。
ああ、今は女子らしい。しかし昼頃に男子だった頃と比べ髪は長く、それをふんわりとした三つ編みにしている。
細く長い指は器用に動いて、お手製の髪飾りを作っていることが分かる。出来上がったそれを先程までの憂いの表情を一変させて、まるで女児のような満面の笑みを向けた。
白色のリボンにタンポポを模した飾りがあるそれを嬉しそうに髪に着けると、一人しかいない教室でくるくると、まるで踊るように回っていた。
すると、私に気付いたのかその足をぴたりと止め、顔をりんごのようにまっかにさせた。
「み、見てました!?」
「それはそれはもう、最初から」
「あはは……恥ずかしいですね……」
あーもう食べようかな。
「真希さん、一つ聞いていい?」
「ええ、何でも」
「結局、男子? 女子?」
真希さんは若干表情を曇らせると、すぐに笑みを浮かべた。そしてスカートの裾を右手の人差し指と親指で掴むと、扇動的にひらひらと揺らした。
「見てみます?」
私はすぐに自らの身体を床に落とした。
これこそ五体投地! あのかわい子ちゃんの秘境の地を見る為だけに恥も外聞も捨て去った一人の女の五体投地! 下着越しならもう分かるだろう!
そのまま顔をあげると、次に移った景色は真希さんの秘境では無く、むしろ五体投地中の私の顎下に繰り出された蹴りであった。
「本当に見ようとする人がどこにいますか!!」
「『見てみます?』って言ったのは真希さんでしょ!」
「一応女のコですよ今の私は!」
「あーもう結局どっち!! 女子!? 男子!?」
「今は女のコです!」
「だーかーらー!!」
私は勢い良く立ち上がり、真希さんの肩をがっしりと掴んだ。
「本当は! どっち!?」
「えーと……そんなに知りたいんですか……?」
「うん!」
「……いやー……」
「おーしーえーてーおーしーえーてー!!」
真希さんの答えを急かすように彼女、彼女? の体を何度も何度も揺すっていると、そのまっかな頬は少しずつ青ざめていった。
「待って……吐きます……!!」
「三半規管がクソザコすぎる!?」
「さーんにーいーち……!!」
「はい! 離した!」
「……ふぅ……」
この人今までこんなクソザコ三半規管で大丈夫だったのだろうか。
「……それで……えーと……私の、性別ですか?」
「そう! 髪の毛の謎もおっぱいの謎も!」
真希さんは人差し指を立てて、自分の唇に付けた。そして小悪魔的に微笑んだ。
「秘密です」
「……その人差し指へし折ってやろうか」
「何でそんな物騒なんですか白土涼夏さん!?」
「涼夏ちゃんでいい。真希さんの性別を解明する初めての女、それが私!」
「……なら、私のことは真希ちゃんでいいですよ」
「男子のときは?」
「そのときは真希くんとでも」
まだまだ分からない真希ちゃん。明日も真希ちゃんかどうかは分からない。
真希くんかもしれないし、真希ちゃんのままかもしれない。しかもその日に真希くんから真希ちゃんにもなる。
分からないことだらけ。だからこそ解明したいと思うのはきっと、人間の本能だろう。
「お友達ですね、涼夏ちゃん」
「今更? まあいっか」
真希ちゃんはずっと微笑んでいる。私もつられて微笑んでしまった。あーあ、もう後戻りできないや。私は真希さんに夢中になってしまった。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
どうも、ウラエヴスト=ナルギウです。これって百合なんですかね?
百合……百合かなぁ? 百合じゃないけど百合っぽい……うーん?
……まあ、頭からっぽにして読んで下さると幸いです。
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