親子と復讐とざまぁ 7
ギーたちはひとまず薬草園の方に向かった。
そこはもう土だけがある場所だった。そこに一つだけ草が茂っている。その青い葉は光を浴びて輝いているようだった。
「あれが百年草?」
怪訝そうに魔女が言う。通常見かける百年草はただの雑草にしか見えない。薬草を専門に扱うような魔女ですら見たこともない形状であるようだ。
「最終系かな。ここまで育つらしいとは聞いたことがあるけど実物は初めてみた」
「これは才能がある」
始祖がそう感心したように呟く。
ギーは確かにと頷くところはあった。
百年草の株は大きくても幼児サイズだった。これは大人ほどの身の丈がある。それだけに周囲は枯れ果てなにもない。
ギーも多少の吸い取られを感じるくらいだ。青ざめた顔のアリッサは今にも倒れそうである。
「外出ましょ。これは良くない」
ローレルがアリッサを支えながらそう訴える。
「そうだね。先にひ孫その2のところ行ってて。
私はこれを隔離する。魔女、手伝って。ほら、あるでしょ。合わせ」
「ギーでもいいのでは?」
「さっき水出させたからしばらく使えないよ。あれ魔女のほうが良かった?」
「無理。属性を冠した魔法使いレベル求めないで」
「でしょ。こっちはあれこれやってから行くから……ってなに?」
「ディルを置いていきますね? 素直な彼なら、何事も見たまま話してくれるでしょうからね」
余計なことすんなよと釘を差すだけでは足りない。ギーは魔女の弱みを全面に打ち出した。
うげぇという呻きを始祖はあげていたが、魔女は逆に張り切った。
「私のかっこいいところ見てね!」
「はい!」
二人の世界だった。
問題がある三人を残し、ローレルとアリッサ、ギーは屋敷の中に戻った。エリンはすでに別室に監禁中である。お手軽に捕縛できる植物が二人もいればお手の物だ。
あまりに手際が良すぎて引くほどだ。
始祖は年月の経過を思えばありえなくもないが、ローレルの手際の良さは軍隊式だ。どこでなにしてたのか、というのは聞かないことにした。
そもそも始祖の血縁、まともなほうが少ない。ギーは自分のことを棚上げしてげんなりした。
人の気配のない屋敷を歩く音だけが響く。本当にお金がなかったのかたまに割れた窓に板が張られていたので少々薄暗い。
「アリッサ、自分の部屋、確認してきたほうが良いかもね」
「なにも残してないんですけど……」
「念のため、ね。
廊下で待っているわ」
やや強引にローレルはアリッサを部屋に送り込んだ。
「ギーは、あの、水の魔法使いだったのね」
ローレルが少し困ったような声で確認する。
それを聞きたくて一時的に娘を隔離したのだろう。
「そうだよ。恥ずかしいから外で言わないでほしいな」
水の魔法使いとは、すべての、と後に名を贈られた魔女の血縁であり、ある水系の魔法使いの血をひいた者が使える称号だ。能力があるからではなく、その血に生まれた水系統の素質がある魔法使いが条件である。そのため、魔法界には複数いる称号だ。
ただ、積極的に名乗っていないためそれが存在しないと思われている。
ギーもだが、どうしてもというときだけそう名乗ることになっている。
他の属性を名乗る魔法使いというのは最強とかランキング一位などの条件が付加されているためだ。水属性は血統による継承。それも条件ユルユル。最強には程遠い。それなのに拒否できない称号である。
そのため基本的にこの名で呼ばれるものは水魔法は使いたがらない。しょぼいのがバレると重みが減る。
本人が恥ずかしいのはともかく祖先と未来の者が疑われるのは避けたいという消極的理由である。
ギーには最後の魔法使いというのもなかなかに恥ずかしい称号ではあるのだが、最後に残ったから仕方がないと諦めている。
「名乗るほうが面倒がありそうですものね……。
アリッサには伝えないから、ご自身で説明してくださいね?」
「それはそっちからなんか言ってほしいです」
ギー自身でも面倒な血の繋がりだと思っている。言わずに済むなら済ませたい。そういうものだ。
「それは無理。始祖に吹き込まれる前に言っておきなさいね」
「はい」
ローレルに釘刺しもされてギーはなにをどこからと困る。逃げられないかなという不安も多少あった。お家騒動なんて軽いというくらいの訳ありだ。
「どうしたの?」
部屋の確認を終えたアリッサが出てきたが、二人をみて怪訝そうに尋ねた。
「植物界の事情を多少聞いただけだよ。
面倒なことだよね……」
「そうね。そんな感じ」
「そうですか」
疑い深い、そうですか、だった。ひとまずそういうことにしておきますね、という副音声も聞こえてきそうである。
「さて、ショウはどういう状況かしらね……」
ローレルは頭が痛いと言いたげで、アリッサはちょっとだけ心配そうだった。
以前と同じ部屋にアリッサの兄のショウはいた。ベッドにぐるぐる巻きで放置されている。
「みのむし」
ローレルが哀れみの目でそう呟いた。
「アリッサ!? おとなになって」
「私はこっちですが」
母親と間違われてアリッサはショウを冷たい目線で見下ろしていた。
「え、じゃあ、誰!? もしや、父さんの隠し子!?」
この失言の感じはディルに似た感じがある。ギーは無言を貫く決意をした。飛び火もいろんな冤罪もされたくはない。
「母の顔を忘れたの?」
「年取ってない」
「植物精霊がたかが十年でふけるわけないでしょっ! ボケが発芽しちゃったのかしら。こわいわぁ」
「母さん、昔から兄は素っ頓狂でした」
「ひどいよ。小粋な冗談だよ」
体感、5度下がった。ギーは寒いなと腕をさすった。
「それで? どうして、こんなに領地を荒らしたの?」
「良い薬草を育てたんだよ。取引も順調で問題なかった。
ところが、この半年前から提携先が倒産。資金繰りは悪化し、自力で生産へ乗り出したが時遅く、引くに引けないうちに土地が枯れ始めた」
「どうして、もっと早く何とかしないの!」
「その取引もエリンにまかせていたんだ。妻として領地の発展に貢献したいって話、無下にするわけにもいかないだろう? 実際利益は出ていた。
提携先が倒産した時点で手を引くべきだった、とはあとからは言える。
今もエリンは取り返そうとしているところで、責めるべきことはない」
「……で、なんでぐるぐる巻きなの?」
「勝手に伸びるから困ってね」
ため息をついてローレルはぐるぐる巻を外す。
ショウの体は半ばまで人の体で、それ以外は枝だった。細く絡み合う枝は健康そうとも言えない。それどころか末端はもう枯れていた。
百年草に吸われてもう残りは人であった部分だけなのだろう。こんな近くにいたらそうなる。もっと速く逃げていれば違っただろうが、そうできなかったからこうなった。
エリンの言ったショウはもう無理なのというはこういうことだったのだ。
そして、こうなるとわかっていてアリッサに求めてきた。それがおかしいとも思っていなそうなところが不気味過ぎた。
「留守居を任せて悪かったわ。
あとはお母さんがなんとかする。しばらくお眠りなさい」
「ごめんなさい」
囁くような声を最後にショウは目を閉じた。一時的に休眠状態にしただけだろう。息すらしないので死んだのかと埋められることもある。植物精霊なので困らないが。
「私が残っていれば、戻っていれば良かったでしょうか」
アリッサが気まずそうにそう呟く。絶縁された実家の状況を確認しないのは普通だろう。状況のわかるような距離感でもない。また、状況を知るような環境にもない。普通のメイドに貴族の情報は流れてこない。他領ならなおさら。
「遅かれ早かれね。
もともとの薬を作ったものをなんとかしないとほかでも同じことは起こっているだろうし、もっとひどいことになっているはずなんだけど」
「エリンとお話しておかないと」
お話、という可愛らしいことで済めばよいが。ギーは手持ちの道具を脳内で確認した。荒れる怪獣をどうにかするのは手持ちが足りない気がした。
そこで控えめに扉をたかれる音がした。
「……あのいいかな。
その子も引き取っていくよ。もうちょっとみんなのこと気にかけてあげればよかったね」
「いえ、始祖は引きこもっててください。ろくなことになりません」
ローレルはきっぱり拒否された。え、とショックを受けている始祖。
「力になるよ!」
「それがやりすぎなんです。
ギー、アリッサを任せましたので、エリンはこちらで」
「いえ、私も聞きたいことがあります」
ローレルと始祖がちょっとだけ残念そうな顔をした。こいつらに任せはいけないとギーは確信し、アリッサの言葉を支持することにした。
なお、魔女とディルはちょっと二人の世界に旅立ってます。ピュアな方で。




