親子と復讐とざまぁ 5
速やかに。という言葉は、文字通り過ぎた。
ギーはローレルに持ってるはずでしょ? と魔法の絨毯をカツアゲされた。使役獣もいるはずよねと卵も割らされた。
魔法の絨毯は3人程度乗せて飛べるものだ。魔女がめんどいと言いながら年に一枚くらい作ってみるかもしれないというブツ。基本的必要に迫られて作るので一般流通しない。さらに魔力切れするとただの絨毯に戻る使い捨て仕様。ギーは使う気はなく、なんかあったときにと小さくして持ち運ぶお守りのようなものだ。
使役獣は卵を割ると異界から契約している異獣を召喚できる。騎獣扱いできるが、使用回数制限あり。こちらもいざというときの備えでしかない。
どちらもお金で贖えないものである。
「俺の秘蔵品が……」
ギーはレアドロップ品を死蔵するタイプだった。エンディングまで後生大事に抱えて、使わなかったなぁと遠い目をする。
「お祖母様に新品用意してもらうからいいわよね?」
「変な改良してそうなのが怖いから、お金がいい」
「じゃあ、それで。
ではお家に帰りましょう」
殴り込みに行きましょう! ではないだろうか。ギーはそう思ったが、言わないことにした。
ローレルとディルが荷物と一緒に魔法の絨毯、ギーとアリッサは召喚した騎獣に分けて乗ることになった。
ギーが呼んだのは羽竜といわれるもの。羽毛に覆われた巨大トカゲである。顔ももふもふなのでなんだか巨大な毛玉にしかみえない。飛ぶより地面を走るほうが得意で、そこそこ賢い。騎獣用の道具を使ってもさほど気にもしないほどには温厚でもある。
アリッサが卒倒しないような可愛らしさに配慮したかたちだ。速度重視ならふわふわさはない。
「かわいい?」
アリッサは疑問の顔だが、忌避感はないようでギーは安心し手綱と鞍をつける。馬用よりも大きく固定されていないように見えるが、魔法で固定しているためずれることもない。
ギーは先にあがり、アリッサを引き上げて自分の前に座らせる。それを確認すると羽竜はゆっくりと歩き始めた。それから羽竜がちょっと走るねと鳴いたあとにギーはすっかり忘れていた事に気がついた。
速くないといってもこの世界にある乗り物では最速の部類にはいるということを。
ひぇっという悲鳴が聞こえた。すこし停めようかと思ったが、見れば絨毯が先を進みすぎている。声を掛ける距離にない。
ローレルの暴走のほうが予後がわるそうである。
ギーはこの先、数十年あれはひどかったと事あるごとに言われる覚悟を決めた。
「大丈夫、大丈夫」
そう言い聞かせて続行することにしたのだ。幸いアリッサは暴れるほどでもなく、途中でもう大丈夫ですからっ! と叫ばれた。ギーは腹の括り方が男前だなと感心する。やはりくぐり抜けてきた修羅場の数が違うからだろう。
数日分の距離を数時間で走破し目的地に到達した。領主館がある街の外壁のそばに降りる。
「帰りは絨毯にします!」
アリッサは何より先にそう宣言した。羽竜がくえ? とつぶやき、くえぇええとうなだれた。
「ちが、そうじゃなくって、乗り心地は良かったです、素敵な毛並みがええ、あなたに落ち度はないです」
流れ弾でギーに落ち度があったことが判明した。ローレルとディルがなにやったんだと言いたげに見ている気がした。
ギーはそーっと羽竜の影に隠れることした。怒れる母の鉄槌は喰らいたくない。なにもしてない、と思うがギーにはなにが悪かったか全くわからないのだからなにも言わないほうがいい。
そうしている間にアリッサはローレルにあれこれ耳打ちをしていた。その結果、じろりと見られるだけだったのでギーは取り成してもらったと思うことにした。
あとで鉄槌とやられる可能性は、置いておくことにして。
街への外壁はそれほど高くなく、乗り越えることは可能そうに見えた。外敵、主に野生生物からの防衛程度ではこのくらいでいいのかもしれない。そうギーは思ったが、アリッサとローレルは難しい表情で外壁を見ていた。
「この上に生け垣が生えてたのよ」
「枯れたってこと?」
「刈り取られたようね。可哀想に」
ローレルはそう言って指を振った。
「主の帰還を知らせよ!
この地はわれの支配下に置く。どのような若木でも、老木でも、我が臣下であり、庇護下に置かれるべきものである」
ローレルのその宣言をえらそーとアリッサは呟いていたが、実際偉いのである。ただ、娘としては十年以上もほっといて! というところはあるだろう。
ローレルは焦ったようにアリッサちゃんあのね、これは手順の建前のはなしでねっ!と言っているが、やや冷ややかな表情は変わらなかった。
「べつに、いいですけど。
私、婚約者を紹介し、正統な権利主張のために来たのでお母様は後ろで大人しくしていてくださいね。お仕置きはそのあとで」
「はい……」
うなだれるローレルは権威ある立場とは到底思えなかった。
「で、どーするんです?」
背景に馴染んでいたディルはちょっと困ったようにそう言った。唯一の部外者は的確にツッコミを入れてくれる。ギーならば扱いに困るようなこともスルーしていた。
ひとまずは門へ向かうこととなった。
アリッサはギーと。ローレルはディルと分かれて入ることにした。街に入るものはほとんどおらず、分かれた意味すらなかった。やる気の無さ気な門番はアリッサにもローレルにも反応せず、素通しである。
町並みはどこかくたびれていた。出歩いているのは生気の薄いものか、やけに元気に見えるものの両極端である。まだ入ってすぐに遭遇した村人たちのほうがまともに見えた。
静かで不気味と言えた。
アリッサはショックを受けたように黙り、ローレルはどいつから締め上げてやろうかしらと呟く。
領主館への道のりは順調だった。誰も遮るものも迎えもない。それどころか、領主館の門番すらいなかった。
よほど困窮しているということでもあるだろうが、言いようのない不気味さがあった。
「これ、誰もいなくなってません?」
ディルが怯えたようにそう言う。皆が思っても言わなかったことを。それくらい人の気配がなかった。
ギーは敷地内を見回す。土も養分があり、乾いた様子もない。それならばなにか一つでもありそうな緑がない。木さえ枯れた。皆枯れて久しいのかカサカサの葉すら残っていない。
「背高草すら生えないって……」
アリッサが呟く。荒れ地でしぶとく生き残る黄色い花すらない。それはよほどのことだ。
まさかとギーが確認すると植物が育つために必要な魔力のようなものがない。普通に土にも空気にも含まれるこの世界にある限り枯渇することもないものがないはずだった。
「これは本物の百年草出たかな」
「あり得るわ……。
誰かがなにも考えずに成長促進させたのよ」
百年草は育つときに周囲の植物の力を奪っていく。普通はゆっくりと集めていくところを一気にとなると枯渇するまで集めてしまうだろう。なにもかも育たぬように。
薬草として生まれたのではなく、生物兵器として作られたのではないか、という話があるくらい強烈なものだ。
「たぶん、」
言いかけたローレルはなにかに気がついたように口を閉じた。
それは屋敷ではなく、庭であったものの奥からやってきた。色褪せた金髪の女性はジョウロを持っていた。普通の庭であるならそれほど違和感はなかっただろうが、ここにはなにもない。絶望的なまでに緑がない場所に水やりをしてもなにも生えてこない。
エリン? と呟いた声が聞こえた。見ればアリッサが青ざめた表情だった。
「アリッサ! 良かった! 来てくれたのね」
そう呼ばれた女性はそう嬉しそうに笑った。ギーはなぜかそれに鳥肌が立つ。
「あなたの力が必要なの。ショウではもうだめなの」




