親子と復讐とざまぁ 4
アリッサはお嬢様をしていたが、母の付き合いで領地の村をいくつか回ったことがある。それ以外でも屋敷のあった街なら巡ったこともあった。
しかし、今、目の前にある村というのは、廃村かといわんばかりの荒れっぷりだった。
「草も生えないほどというのはどうなのかしら?」
「根こそぎ、栄養が抜けているって感じだ」
「ぱさっぱさね」
雑草も元気をなく末端から変色していた。雨も降らない真夏にそうなるのはわかるが、今は違う。
木も葉を半分は落とし、一部は変色していた。季節が巡った結果というわけでもなさそうだ。畑であったであろう場所も白っぽい土が残るばかり。
ローレルとギーは土の様子を探っているようだった。
アリッサには井戸を確認してほしいと言われ、ディルと二人で村を探す。
「井戸が枯れたんすかね?」
「そのほうが、まだいいんだけど」
井戸の水は枯れていなかった。澄んだ水が見える。アリッサはディルに頼んで汲み上げてもらった。その水をほんの少し口に含んでみたがおかしな味はしない。
それどころか、味がしない。
同じように口に含んだディルが顔をしかめていた。
「魔女さんのところで使う水みたいっすね」
薬を作る時の特別な水で、精製して作っているという。その精製というのがなにをしているのかはディルもわからないらしいが。
アリッサたちは元の場所に戻ることにした。
「ここには誰も住んでないそうよ。近くに別の村を作っているんですって」
「嘘をつかれたってことですか?」
「村につれていけ、という意味ではあってる。
現状を確認できたのは良い。無駄に労力かけさせられたのは無駄」
ギーが無駄を二回言うほどに無駄だったらしい。アリッサは連れてこれた男たちに視線を向けた。皆がうつむいている。いや、一人だけ地面に崩れ落ちている。華麗な花が頭にわっさり咲いている。
やっぱり、拷問とディルが恐れおののいている。あれはアリッサには花の種を咲かせたものだとわかるので愉快ないたずらの領域を超えない。
人は普通花など咲かせないし、自らの体に咲き始めたら恐怖を感じる、という観点はアリッサから抜け落ちている。
「なんかよくわからない薬草を植えたら、数年は収穫できたけど、土地は枯れ、もう雑草くらいしか生えなくなったそうよ。そういうのを、もう一回したみたい」
「そんなわからないものを植えたりするんですか?」
普通、胡散臭いと断るものではないだろうか。アリッサの疑問にローレルは困ったように眉を寄せた。
「領内を仕切る役人から通達が来て皆が植えるように言われ、収穫したものは同じく役人が集めたそうよ」
「それって、他のところでもってことですよね?」
「たぶんね。
これで収穫量が下回っていくのも理解可能だわ。精霊も逃げ出すような草ってアレだと思うのよ」
「アレ?」
「ほら、うちの庭にもあったよね。百年草。管理されない土地にあれの株分けしたら、あっという間に食い尽くす」
ギーに言われアリッサはイェレが念入りに世話をしていた薬草を思い出した。周囲の草花を移し替え、その空いた場所に肥料を撒いていた。大盤振る舞いを超えたいつもならありえないような対応にアリッサも駆り出されて一時期腰がとても痛かった。そこまでしなければ、百年草は周囲の栄養を奪いに行くという。
抜いたり枯らしたほうが良いのではというものだが、屋敷の庭ではしばらく様子見となった。換金性がとても良いからだ。百年草はきちんと使えば、万能薬とまでいわれるほどの薬効がある。大変役に立つが、それ以上に土地を荒らす荒野の申し子。あるいは、生物兵器とまでイェレに言われていた。
庭師でも扱いが難しく、周囲が謎に枯れはじめてといわれるとすぐに疑われるようなものだ。
農民でも薬草などの専門家でなければ完璧な対応はできないだろう。
「それで間違いはないと思うけど、どこから来たのかが謎なのよね。
領内にはあったとしても10年とか20年ものくらいのはずよ。そのあたりは数年に一回の視察で探知していたから。大きいのは悪いけど実家送りしてたし」
「外部持ち込みでしょうか」
「たぶん? それに、これだけの薬草を用意して売り出したら目立つと思うのだけど、ギーはそういう噂聞いたかしら?」
「ないな。薬草として売り出されてないんじゃないか? とはいっても薬に加工するにもそれなりに技術がないと薬効薄いし」
「魔女か工場が欲しいわね。
……ひとまずはこの場は離れて新しい村に連れて行ってもらいましょう。ねぇ、今度はお願いできるわよね?」
ローレルは二コリと笑うと大人しくしていた男たちはびしっと姿勢を直す。短時間で何があったのか。アリッサの胡乱な視線にローレルはちょっと慌てたようだった。
「な、なにもないわよ。ええ、お話したの。そうでしょう。皆さん」
「イエス! マム!」
なにそれ、と呟くアリッサにギーは、軍隊の応答といっていた。むしろよくわからなくなった。
もう一つ村はほどほどに遠かった。そのくらい離れなければ作物の収穫も難しいらしい。
新しい家がいくつか建っていたが、ほとんどはテントのようなもので暮らしているようだった。畑も小さく開墾したばかりというものでこれでは何もかも足りないだろう。
人の気配はするが、誰も出てくる者はいない。息をひそめて見知らぬものを観察しているのだろう。
「なにやってるのかしら。あの人」
ローレルが領主である夫の所業に頭を痛めていた。アリッサも兄と父の考えの無さに呆れる。善良ではあるが、ちょっとばかり思い込みの過ぎる兄と父ではあった。
思えば、現実的なところは母が握っていたのかもしれない。母がいれば、友人の子を連れてきても別の対処をしたように思える。
「速やかに家に帰るわ。
締め上げてからじゃないと話にならない」
否をいうようなものでもなかった。




