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婚約破棄(とざまぁ)の裏側で~婚約破棄→没落の侯爵家に勤めていたメイド(とその他)を拾った話  作者: あかね


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親子と復讐とざまぁ 2

 あるどんよりと曇った日にアリッサは故郷へと足を踏み入れた。

 同行者はギーとローレル、そしてディルだった。

 ディルはギーがどうしても連れて行くと主張したために連行された。男一人、しかも親子旅同行はさすがにつらいという訴えは妥当性はあった気がした。なぜディルなのかと言えば、二コラには馬車が窮屈、イェレには老体は旅行したくないとお断りされた結果だ。デラはもう故郷に戻っている。

 アリッサは魔女が妙に大人しくディルをお見送りしたのが引っ掛かりはするが、結果を知るのは帰宅したあとだろう。


 あたりを見回しても迎えはない。まあ、それも当たり前かと思う。国境ともなれば入国のための街などがあったりするが、領地となるとなんとなくこの辺からという曖昧な形が多い。街道に立て札が立っていれば良い方だ。よほど優良な土地や山、森などがあれば別だがそうでない荒れ地であればこの程度の扱いだ。本格的に調べられたりするのは街などに入ったときだ。村程度ならおや、旅人かい? くらいの緩さがある。


 ここも当然のごとくなにもない荒れ地であるので、荒れているのは当然なのだが。


「なんか、元気ない?」


 荒れ地で隆盛を極めるような雑草がこころなしか、ヘタっている。思わずアリッサは背後を確認した。

 雑草が、へいへい、俺がこの地の主だせ! と言わんばかりに調子に乗っている。


「良くないな」


「よくないわね」


 同行者としてやってきたギーやローレルもそれを感じたらしい。そうなんですか? とディルが首をかしげている。普通の人なら、気が付かないほどの差だろう。


 ローレルとギーはしゃがんで葉っぱに触れている。

 アリッサもなんとなく隣にしゃがんで葉っぱを触ってみた。え、俺もですか? という顔でディルも横に並んだ。


「聞こえないな。

 ここに、意思あるものはいない」


「そうね。昔は、俺様がって言ってたんだけど、向こうに移住したのかしら」


 その声に答えるようにわさわさと国境の向こう側の草の群れが揺れた。


「話を聞いていくかい?」


「自分の話しかできないからもっと先の大木に聞きましょ」


 さらにわさわさと揺れていたが、ローレルは気にもとめず背を向けている。行きましょと先立つローレルのあとをアリッサは追った。


「外れてほしい方の予想が当たったようね」


「そうですね」


 アリッサの故郷であるウェスデンはいまいち作物の収穫が上がらない状況を長く続けているらしい。国全体の不作ではなく、ここだけ前年より減産が続いており十年前と比較すると1/3ほど減っている。

 わかりやすく作物が枯れるようなことはなく、麦の穂の実がちょっと少ないなどが続いていた。


 この原因にあるのが精霊の減少と予想していた。植物精霊には、いる場所の植物を元気にさせる力がある。ほんの僅かな手助けではあるが、あるとないとでは収穫も違う。

 この地はローレルが在住していたことにより、他領より多く実り豊かだった。

 それがローレルがちょっと旅行と出かけている間に目減りした。目減りすること自体はローレルも知っていたが、娘のアリッサが能力を継いでいるのだから成長している間に目減り分を補填してくれると思っていたらしい。

 しかし、アリッサは家を出ていった。

 緩やかに底上げしていた分が元の収穫量まで戻った。それだけで済めばよかったのだが、現在、それを割り込みそうな勢いであるらしい。


 元々地元にいた土着の植物精霊も逃げ出しているのではないかと予想される。それが異変なのか、愛想をつかした結果なのかはまだわかっていない。


「ここにはあまり強い子はいなかったはずなのよね……。

 今日も暖かい日があってよかった、風がサワサワできもちいいのとか。そのくらいの話をするくらいだったから」


「短期間に成長したとか」


「それなら異常を誰かが感知して、異界につれていくよ。自我をもって歩き回るようなやつは保護対象だからね」


「普通に、みんな、いなくなっちゃった、なのかしら。

 そうだとしたら周囲の領地が肥えるはずなんだけど、そうでもなさそう」


 アリッサも今まで通ってきた街などに特別な裕福さは感じなかった。

 疑問の答えは長生きの大木に話を聞くまで出そうにないため、四人はそのまま街道を進むことにした。


 街道の整備というのは領主の仕事の一つである。

 どこもかしこも綺麗にととのえておけということではなく、大穴が空いていたら埋めさせ、橋が落ちたらもう一度作り直す、そういうことをするものだ。

 細かな管理は街道近くの村や街が請負い、その分の手当をもらっているはずだ。


 そのため、街道が行き来できないほどになることなど滅多にない。


「……あらま」


 眼の前の橋が閉鎖されていた。閉鎖されているところから覗けば橋の半ばで崩れている。人ならば通れそうだが、馬車などは少々難しい。石造りの橋が半ばから壊れているというのは、よほどの災害でもあったのだろうかと思えた。

 そのやや下方の川に船着き場がある。一人の男が暇そうに座っていた。


「やあ、お客さん。渡し賃は銀貨一枚だよ。そうじゃなきゃ迂回して3日くらいかかる」


「橋は?」


「領主様が橋を直すには資金が足りない、もうちょっと待てば金策ができるということで半年」


「で、渡し船ね。それなら無料でも良くない?」


「労働力を割いてるんだからそのくらい払ってくれてもいいだろう?」


 男の流れるような説明に幾度もしてきたという雰囲気がした。


「まあ、その言い分にも一理はある。

 壊れた橋の石はそこら辺にある?」


 ギーが尋ねると川に落ちているという答えだった。


「うーん。銀貨四枚」


「へい、毎度」


「銀貨四枚、支払いしてくれるなら、直してもいい。半年の保証はする」


「へ?」


 なにを言われているかわからないという顔の男の前でギーは川の石を取り出してみせた。勝手に水から浮き上がっていく石の群れを見て男は悲鳴を上げた。


「お、俺達はなにもっ!」


「嫌だなぁ。直してあげるって話しかしてないよ。

 なぜか、勝手に、壊れたんだろ。使えないのは困るから、ちゃんと直ししてあげるよ」


 ギーが笑ってそう言っているそばから、石は勝手に橋の上に積み上がる。


「や、やめてくれっ! 俺が絞められる」


「どうしてかな。

 困りごとを解決してあげるって話でさ」


 青ざめる男が慌てて走り出した。街もないような方向だった。


「どういうこと?」


 アリッサが尋ねるとギーは肩をすくめた。


「たぶん、この人たちが橋を壊して、渡し賃をもらっていたのよ。

 全く、良いことはないわね」


 ローレルがため息を付いた。


「どうして? みんな困るわよね?」


「その一、ご近所の村が困窮した結果、渡し船ビジネスを始めた。

 その二、迂回路の村も困窮していて遠回りしてお金を落としてほしかった。

 この2つのうちどっちか、あるいは両方だと思うよ」


「……橋の修復ってものすっごいお金かかるわよね?」


「よほど裕福な領地でなければ数年積立して資金確保しておかないとできない事業だね。

 ま、魔法使いは魔法を都合よく使って直しちゃうんだけど」


 ギーが言っているそばから石が勝手に隙間に入り込み元の橋に戻った。


「目先の困窮のために、高価なものを壊しちゃうんですか?」


 ディルが信じられないと言いたげだった。アリッサにしても同じ意見だが、ギーはちょっと困った顔で、そうなんだよねと肯定した。


「それを直すのは領主様で自分たちじゃない。懐が痛むことがないなら、ちょっとくらいって話じゃないかな。そのくらい、余裕がない、という現状が問題なんだけど」


「……試験を受けなければ良かったかしら」


「どれも今更だよ。

 ま、とりあえず、あっち行ってみる?」


「気は進まないけど行くしかないんじゃないかしら」


 ローレルは気遣わしげにアリッサを見た。アリッサを連れて行くのは気が進まないというところなのだろう。アリッサは大丈夫ですと主張したが、まずはギーとディルが二人で行くことになった。その間にアリッサとローレルは近くの植物に聞き込みをした。


 あったかいぽわぽわがなくなって元気ないの。

 ふわふわしたのがないの。

 土が冷たいの。

 ぴたぴたってするの。


 以上が証言である。曖昧で自我らしきものはまだ生まれていない植物らしい回答だ。それでも荒れ地の雑草よりは意思がある。


「日照りがあったというわけでも冷害があったというわけでもないから、外的要因ではなさそうね」


「ぽわぽわとかふわふわってなんでしょう」


「精霊力、っていうのかしらそんな感じのこれじゃないかしら」


 そう言って手のひらから水のようなものを地面に注いだ。それを受け取った草たちはピンと葉を伸ばした。


「このあたりの精霊も家出したのかも」


「ですかね……」


 どこに行った、という問題はさておいてこの地に底上げしてくれるものはいない。収穫量もそれなりに下がるだろう。前に戻っただけだが、その前というのもおそらく20年を越える前だ。年寄が若い頃はあまり収穫できなくてなと語るような遠い話。

 毎年減っていく収穫。それは来年こそはという気持ちを潰していく。


「帰ってきたほうが良かったんですかね……」


 ここにアリッサがいれば防げたことだ。領主の娘として、領地に責任を取るべきだったのだろうか。

 しかし、そうなることを誰も教えてはくれなかった。


「そもそも母さんが、言っていってくれれば」


「さすがに、娘が家を追い出されるなんて想定してないわよ……」


 それももっともである。


「だいたい、ああいうのを言うとアテにして、増えないとか文句言い出すのよ。黙っている方がいいの。

 出ていけといったのは、相手なんだから、知らないわよ」


 ローレルはそう言ってため息をつく。


「まあ、ローワン一人じゃこの地は重たいでしょうね……」


「私には重たいの背負わせる気で?」


「資質が十倍くらい違うのよ? 当たり前じゃない。

 別に、それが偉いっていうわけではないからね?

 ローワンは領地を治める資質があるの。あなたにはない」


「はい……」


 アリッサは領地を采配するような気概もなかった。勉強や色々なことを頑張る兄を大変だなと見ている立場だった。

 アリッサはアリッサでこの世界で人の擬態をして生きるためのあれこれを仕込まれていたので、大変ではなかったというわけでもないが。

 幼児のころなど、軽率に花を咲かせたり、新しい植物を生成していたりしたのだ。今、考えると恐ろしい。人に迫害される前に、魔女がやってくる。


「さて、戻ってこないから仲裁しにいかなきゃいけないみたいね」


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