ある魔法使いと 8
本日2話目です。
いろいろあったが侯爵家は結局、返上したまま平民の生活を謳歌することになった。
もう責務はこりごりと肩の荷をおろしたような元侯爵夫妻の住む地には、花が絶えることはなかったという。
もう花なんて見たくないかもしれないけどねと始祖は語っていた。
もう一人の当事者である子息の方はといえば、変わらず露天商をしていた。今度は一人でということだが、奥さんがおめでたらしい。
ああいう責務を妻子に負わせるより自分で稼いだほうがよほど気楽ということだそうだ。
そして、ギーは彼に一つだけ聞いてみた。
どこまで、薬が効いていたのか、と。
数年分忘れたが、惚れ薬のほうはあまり効かなかったらしい。
むしろそちらで、気持ち悪いのが増えたらしい。耐性があったのか、体質にあわなかったのか。
どちらにせよ相手の思うようにさせていたのは、惚れ薬だけのせいではないようだった。
「俺は、ジャネットが大事でした。だから、あれはもう彼女じゃなかったということがわかってしまいました。それなら、終わりにしても良いと思ったんです」
ひどく寂しそうにそう語ったのが印象的ではあった。
後できいたところによると惚れ薬とは、どちらかといえば媚薬に近いもので、既成事実でむふふふと魔女が使うものだったそうだ。
まれに合わない人いるんだよねとディルをみながら魔女は呟いていた。
ギーはディル青年の肩を叩くことにした。
なんです? という顔をしてたが、強く生きるんだぞと言っておいた。
ぜひともその天然さで、魔女を翻弄し続けていてほしい。
ジャネットは違法薬物使用の罪で収監された。本人は黙秘を続けているらしい。
証拠はでてきているので、それなりに処罰される見込みだ。一生監禁されるのではないかと言われてはいる。本人が望んだわけではないらしいが、侯爵家の没落及び、常世の庭を引きずり出した件は相当の恨みを周囲から買ったらしい。
勝手にした第四王子とかが悪くないか?というところもあるが、彼女に騙されてと周囲が言っているらしい。なお、第四王子本人はそのことについては自分が勝手にしたと言っていたというから、噂というのは……ということを体感しているだろう。
第四王子は、速やかに異界に送られた。その親族は順次移動見込みとギーにも連絡が来ている。そこはかとなく、手伝えよ、という圧を感じたが、言われるまでスルーすることにしている。
なお、悪事に加担していない使用人は普通に雇うようにと通達がでているらしく、侯爵家の二の舞いはないらしい。
侯爵家の使用人たちはといえば、国からの見舞金が送られた。そして、新しい仕事場として新侯爵に仕えるか今の仕事を続けるかという選択が与えられた。
新侯爵は、元、王太子である。公衆の面前で人を見捨てたことを白状してしまえば、王として不適合とみなされるだろう? とあっさりとしたものだった。
ギーの屋敷にいた面々はできればここで働きたいということで、使いたくはなかったがギーは実家を頼ることにした。
今まで実家の役割を請け負っていたがその請求書を出すことにした。こちらに残るために用意した言い訳なので請求することはできないと思っていたが、なにせ金がいる。
快諾とはいかないまでも、資金提供はしてくれた。ギーにもどれとは言わないということはまだ遊んでいて良いらしい。
その血があるかぎりは、始祖もそちらを気にするでしょうとどこか諦め混じりだった。
孫の一人でもと口うるさい親の話を切り上げて、アリッサの母親の試験が終わったのかを確認した。
あと数カ月程度で終わり、こちらに戻ってくるらしい。
それまでにアリッサに事情説明しなければならないらしい。
実はお母さん生きておりまして、試験中で帰ってこれなくてと。その間に苦労した娘はなんと答えるのか未知数だ。
そのアリッサは、遺産を受け取る手続きを進めている。
ただ、ちょっとばかり思い悩んでいるようだった。
そんなある日、でかけませんか?とアリッサに誘われた。
「買い物? 荷物持ちは他の……」
「違います。いえ、買い物ですけど、荷物持ちじゃなくて、ええと、一緒に、お出かけです」
しどろもどろのアリッサにギーは察した。ギーは鈍いがこれがわからない程は鈍くはなかった。
「デートのお誘い」
「そう! それ!」
自棄になったような返答にギーは面食らった。なんかものすごく赤い顔よ? と指摘したら、ひっぱたかれそうな気がしたギーは行きますと答えた。
3日後ですよ、空けてくださいね、と言い捨ててアリッサは去っていった。
なんか果たし合い?と首を傾げるギー。
そこでふと気がついた。今世、デートしたことない、ということに。
この世界のデートは一体何をするものなのか。
困り果てたギーはイェレに聞くことにした。なんとなく年が近いからか親近感がある。
そこからなぜか、第一回男子会が開催され、某露天商が緊急招集された。
屋敷内の面々が普通のデートしたことがないということが判明したからである。
余談ではあるが、アリッサの誘いの前に女子会が開催されていたりしたらしいと聞いたのは結構あとになってからである。
行くなら今っ!と焚き付けてやりましたよ、特別報酬くださいとリーチェが言ってきて判明することになる。
どたばたのデートの末、なんか、付き合うことになったんだけどと困惑顔になるのは、もう少し先のことである。
本編はこちらで終了です。予定の倍くらいになりました……。
読んでいただきありがとうございました。
少し間があきますが後日端的なものを追加予定です。デートとか、アリッサの実家の件とか、その他使用人たちの話等。




