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婚約破棄(とざまぁ)の裏側で~婚約破棄→没落の侯爵家に勤めていたメイド(とその他)を拾った話  作者: あかね


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ある魔法使いと 6

 ギーはまず謁見の間の扉を開けさせた。

 アリッサたちが入ってきた時点で一度閉じられていた。この部屋にいるこの国の関係者は王と王太子、第四王子のみであった。護衛すらいない。それだけでは、なにを話しても黙殺されてしまう。

 外から誰かを、できるだけ多くの人を用意する必要があった。


 幸いアリッサたちが歩くあとを見物客として貴族や使用人がぞろぞろとついてきていた。好奇心なのか野次馬根性なのかはわからないが、命知らずである。


「皆に証人になってもらいましょう。

 陛下も、どうぞ、階下に」


 玉座は数段上に置かれている。警備上と演出ではあったが、今は不要である。ギーは王に睨まれたが無視した。

 ゆっくり時間をかけて王は階下に降りてきた。


「アリッサと申します。どうぞ、よしなに」


 微笑みすら見せずアリッサが言った。先に名乗る程度の礼儀は弁えているが、へりくだるつもりはないという態度に見えるだろう。

 いつもを知っているギーから見れば最高に緊張しすぎて無表情だ。声も硬い。


「マイニオ・テルヴァハルユ。この国の主である。

 王太子のミェス。第四王子のイスト」


 紹介された王子たちはアリッサに視線を向けていたがやけに熱がこもっているように見えた。

 アリッサは少したじろいだようにギーのほうに身を寄せてきた。


「場を整えましょう」


 お前が仕切るのかよという視線を向けられた気がしたがギーはこれも無視した。

 謁見の間に円卓が運び込まれた。誰が一番偉いと決めないためのテーブルである。それにしても上座と下座があると思うのは日本人的かもしれない。

 アリッサにはわざと扉に近いほうの席に座らせた。その対面に王、左右に王子が二人振り分けられる。


「まず、私がここに来た用件をお伝えします。

 先にお伝えしておきますが、私は始祖の名代としておりますので、始祖の言葉と同様にお考え下さい」


 アリッサは最初に告げた。腹をくくったのか堂々とした態度である。ただ、席につかず隣に立つギーの服をちょっと掴んでいるが。すぐそばにいなければ気がつかないようなものだが、握ってないと逃げるとでも思っているのかとギーはちょっと落ち込んだ。


「この国において常世の庭とされていた場所の花が枯れたことは許します。また、始祖は偽りの庭は理由あってのことですが、長きにわたり役目を課してしまったことを侯爵家の者に詫びたいとお考えです」


「枯れた理由については罪に問わないのですか?」


 王を差し置いて、第四王子が口を挟んだ。やはり黙っていることはできないらしい。

 問答予想にあった対応のため、アリッサは特に焦りもせず視線を向けた。


「あの場にあったのは特別な花ではなく、普通の花です。

 気候に合わせて咲いたりするもの。咲かぬ理由は、花の都合です」


「今までは咲いていたのにですか? 急に咲かなくなるというのはおかしいでしょう」


「咲かない日はこれまでもあったでしょう。

 しかし、曾祖母の思いを受けてあったように見せていたということではないかと考えています。眠れる庭を探させないために用意した庭です。

 その役目は、偽装。先ほども申しましたが、偽りを長く続けさせたことにはその献身と重荷に対して詫び、これまで続けたことに対する感謝を伝えるつもりです」


 私利私欲で偽ったわけではなく、長く続いた役目を全うするための偽りであった。そうなったのは偽の常世の庭を造った始祖を思ってであり、悪意はない。

 また、侯爵家が悪事を働いた、あるいは、悪しきものが後継者となったから枯れたのではない。


 この点を多くのものに伝える。

 これが侯爵家の名誉回復に不可欠だった。


 周囲の者がひそひそと話をしているのがギーの耳にも聞こえる。

 そんな話だっだだろうか、あれは誠意の無さが原因と、裏で悪いことをしていたからと聞いたぞ、等々。やはり侯爵家が悪いという噂は多くの者に広がっていたらしい。


「議会もその話を聞き及び、爵位の返上をなかったことにすると決めました。そのことは、後ほど説明に使者を送る予定でした。少しお待ちいただければ、ご足労いただくこともなかったのですが」


 王はそれの話には同意し、爵位の返還も問題ないと口にする。

 こころなしか王はホッとしたように見えた。

 アリッサはほんのわずかに表情を緩める。第一目的は達したからだろう。その花冠の花も増えた気がした。


「それはよかった。

 では、次のお話をいたします。

 我々は、噂も聞きました。花が枯れたのは、侯爵家の者がふさわしくないと判断したからだと。不貞を働くようなものは後継者であるべきではない。庭にそう判断された」


「そういう噂もあったと聞いています」


「それを信じて、処断したということもあっていますか?」


「侯爵家が責任を感じて、爵位を返上したのです。彼らが噂のもとでしょう」


「残念ですが、私たちはそれを信じることはできません」


「しかし、それが真実なのです」


 第四王子が王になにか言わせぬように断言した。みにやましいことがあるんだろうと邪推するくらいの速さだ。

 なにか言いかけていた王は口をつぐみ、王太子は大げさに肩をすくめて見せている。

 アリッサはゆっくりと三人を見た。


「私は貴方がたを知らない。ウソを付くのか本当のことばかりを言うのか。よく知る時間もありません。

 ですから、この薬を用意しました」


 アリッサはリーチェに合図をした。


「自白剤、とでも言いましょうか。嘘をつけなくなる薬です。

 隠すようなこともなく、真実を語るならば飲んでいただけるでしょう?」


 笑顔で、アリッサは薬を強要した。


「あら、なにかお困りごとでもありますの?」


 リーチェが追撃した。

 困ったなどと言えるわけもない。やましいことがあると宣言するに等しいのだから。


 同じ水差しから杯に水が注がれる。その杯に丸めた薬を一つずつ入れた。青い色がついたが、これはただの色素だ。今回用の特別配合の自白薬はすでに水に混ぜて攪拌されている。無色透明でそれっぽい演出がないから、別に色を付けるものを用意した。

 はったりも見栄えもこういう場には必要である。


 ギーが仕込みをするために耳目を集めるためにも。


「では、嘘偽りなく語り合いましょう」


 アリッサが緊張したような面持ちで、杯を手にそう告げた。そして、飲み干す。王と二人の王子もそのあとに続いて飲み干した。


「一つずつ公平に質問してまいりましょう。

 まず、陛下にお聞きします。王家の意向を受けて元公爵家の使用人を雇わせないように仕向けた、ということはございますか?」


 アリッサがどうしても問いたいといっていた言葉だ。再就職までの苦難の元凶はおまえかっ! というところである。

 対外的には、侯爵家にいた混血のものたちのことを心配してのことに聞こえそうではある。


「悪事を働くものの下にいれば、下も悪かろうとは言ったことがあるが、皆の名誉は回復されるであろう」


「まあ、そうでしたの。でも、名誉が回復されても辛い日々は消えません。

 どうせなら、陛下にも就職難で死ぬほどしんどい目に合っていただきたいわ。

 紹介状を見せるだけで門前払い、なくなる貯金、明日の食事と寝床の心配。

 謝罪より城下の暮らしをしてもらってよいかしらね。橋の下の」


 私怨である。リーチェもウンウン頷いているのでよほど大変だったらしい。

 使用人全員分の私怨を集めたらいい呪いになりそうである。


「アリッサ殿は知り合いの使用人がいたのか?」


「はい」


「軽率な言葉であった。補填はしよう」


「ありがとうございます」


 アリッサは今日一の輝く笑顔だった。補填、お金、大事、まで直行したような笑顔。

 しかしながら、事情を知らねば慈悲深いと見えそうなところが怖い。


「ではこちらからも質問をさせてもらおう。

 もう一度、花を咲かせることはできるか?」


「できますが、意味はあまりないかと思います。

 観光名所にでもします?」


「いや、くだらないことを言った。

 確かに咲かせる意味はないな」


 王は何かを考え込むように黙る。

 その次に質問をしたのは王太子だった。


「どうやって咲かせるのです?」


「お願いしたら、咲いてくれます。

 これは直系だけの特徴というよりは、個体差です。事実、親戚の旦那様は花を咲かせるのは苦手ですし」


「旦那様というと結婚しているということかな」


「結婚はしていませんね」


 結婚してないどころか雇用関係である。ギーは素知らぬ顔をしていたが、頭を抱えたかった。

 意味ありげにギーに視線を向けてくるのもやめてもらいたいところだ。


「では、私も質問をいたします。

 常世の庭が枯れた理由の噂の元は殿下ですか?」


 はい・いいえの2択しかない。これもギーが言うように話していたものだ。


「花が咲かないのではないか、という話はしたことはある。

 咲かぬ原因がなにかという話はしていない」


「原因はどのようにお考えですか」


「それは質問?」


「ええ、殿下は二つ問いましたので、どうぞ、()()()()


「理由なんて考えもしなかった。その話をしたころは、もう侯爵家は傾いていて味方をして余計な重荷を負いたくもない」


 そうよどみなく答えた王太子が、自分の発言に驚いていた。


「嘘偽りなく答えていただいてありがとうございます」


 淡々とアリッサは答える。


「陛下はいかがですか?」


 問われた王は言葉に詰まった。今、目の前で起こったことが理解できないだろう。

 いうべきではない本音に近い発言を強制的に言わされた、と見える。自白剤と言うが、それほど効果がないと考えていたのだろう。

 確かにあの薬は、舌の滑りが良くなる。それどころか余計なことまで一人で話をしてしまう。そのため、ギーは薄めて飲ませている。必要な話以外に揉めそうな火種はいらないからだ。ただ、それだけでは必要なものが手に入らない可能性があるので王族たちには別に暗示をかけている。

 キーワードを聞いたら、必ず答えなければならない。本来は返答は嘘でも何か答える程度の暗示だが、今、正直に答えることが要求される薬が効いている。


「どうぞ()()()()


 アリッサが告げると王の口が開いた。

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