表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄(とざまぁ)の裏側で~婚約破棄→没落の侯爵家に勤めていたメイド(とその他)を拾った話  作者: あかね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/22

ある魔法使いと 4

 会議のあと何食わぬ顔で不死者の少年(ディオ)は戻り、ゲートルートに甘えていた。ほかの男の匂いするといやそうな顔をしていたが。

 リーチェはずぶ濡れで帰宅し、アリッサを大いに心配させた。なんでも親子喧嘩して縁を切ってきたらしい。いまさら遅いんですわぁっ! とせせら笑っていたのは、背筋が凍るほどに迫力があった。

 シシリーは、帰宅後に困惑顔で雇用主に迷惑かけたとうちのおじじが、と分厚い封筒を差し出してきた。中身は小切手である。中身は無記名。王都にある銀行に行けば換金できるとメモも入っている。さらに謎の鍵も。

 なにかの美術品や金貨などを送らないだけ、マシとは言える。

 ギーはそれを預かることにはした。いざというときのへそくりはあったほうがいい。


 イェレは、異界住みの土妖精におお我が親戚と押しかけられ、庭見せろ遊ばせろと言われていた。ギーは面倒だからしばしの逗留を許したが、なにかしたら追い出す契約だけは結んでおいた。


 ディルは魔女たちが回収していった。姉弟子、妹弟子の恋人候補を検分する。といったところだった。あれが婚期を逃す理由ではないだろうか。


 ギーも女王様のお庭見せてと押しかけられていたので、平穏とは無縁である。

 表面上、何もなく平和なのはニコラとアリッサくらいだろう。


 外から見ればバタバタと忙しいように見えるだろう。今回の件はもう終わったことのように。もう興味一つないように。


「……ほんと、馬鹿な選択しないでほしいよね」


 そうギーが願ったようには、ならなかった。


 会議から三日後、来客があった。


「あの、ご主人様にお客様らしいんですけどぉ」


 ギーがのんびりと本をめくっていたときにそう声がかかった。邸内の本類もなくなっていたので、元々の拠点から移動していた。雑に積んで暇があれば並べなおしているが、手を取った本をそのまま読み始めて何も進まない状況にあった。

 そのためか、本を読んでいる時は声をかけてよしとメイド内で共有されているようだった。

 ギーが視線を向ければ、三人のメイドがそろっていた。来客のお知らせぐらいで三人も必要はない。さすがにギーは身構えた。


「どうしたの?」


「ゲートルートさんが今対応してますけど、なんかやべーの来ました」


 シシリーが呆れたように言い、アリッサはものすごい困った顔をしている。リーチェは何かの瓶を持っていた。


「…………黄色い頭のやつ? 白い頭のやつ?」


「金髪でした。簀巻きのなんか持ってきて」


「本当に、ご主人様のお客様なんですか?」


「残念ながら、俺の知り合い」


 植物界からの使者である。タンポポの精霊で、フットワークが軽い。質量も時々軽い。なお、形状がいくつかあり、いつもは緑の髪をしている。現場に合わせて金髪の形状にしているのだろう。ただ、あれのときは、アレなんだよなとギーはため息をつく。


「ゲートルートさんがぶっ倒れる前にどうか、何とかしてください」


「昼食のために頑張るよ」


 ゲートルートは人口密度の増えた屋敷の食事を一手に担っている偉大なる使用人である。大事にせねばならない。

 ギーは本を置いて、急いで客間に向かった。


 ギーの予想通りの人物がそこにいた。それから、予想通りの簀巻きも。


「ギー兄さんの懸念は当たってました」


 挨拶もそこそこにタンポポ色の髪の青年はニコニコ笑いながら、簀巻き状の物体を足で小突いた。


「だからって、これはまずかろうよ……」


 ギーはゲートルートを部屋の外へ出るよう促した。彼女は来客中ならと部屋にとどまりそうだったのだ。使用人としては正しいが、現状では衝撃映像続きすぎるだろう。

 ほっとしたようなゲートルートを見送ってから、ギーは簀巻きにされたものを見る。


「報告」


「はい。

 本日、予定通り、露店を広げて商売をしたんですが、これがなかなか面白く」


「それはあとで聞くから。こいつら、どこからきて、なにした?」


「王家からの使者を名乗り、登城するようにと。断ると王命であると言われました。

 断るなら反逆罪で処断? するとかなんとか」


 そのあたりで聞くのが面倒になったんだろう。ギーはそう推測した。いつもはもうちょっと落ち着いた奴なのだが、開花している状態だとどうしても好戦的である。


「それで、叩きのめして偉そうだった一人を簀巻きにして、ここまで連れてきた」


「その通りです。ギー兄さんはよくわかりましたね!」


「ここまでは飛んできた?」


 わかろうよ。とギーは言わなかった。その代わりに逃亡経路を聞いた。重量の少ない形状をとることはできるが、それは人を運ぶのに向いていない。


「屋根の上を穴開けないように頑張ってきたんです。地面は目立つかなって」


 色々言いたいことはあったが、ギーは労っておくことにした。いつもは別の界で生きているのだ。この世界の常識やらなにやらを言っても仕方がない。

 長期でいると問題がありすぎるが、今、一番役に立つのは彼なのだ。


 タンポポの精霊などの地下茎を長く伸ばす精霊はちょっと特殊であった。群体であり、個でもあり、複数常時存在が可能。別れている時にはそれぞれの自意識があるらしい。常に同期しているとそれはそれで面倒なところがあるそうだ。しかし、その気になれば意思の疎通は一瞬もかからない。


「本物は問題ない?」


「奥方ともどもお元気です。また、元侯爵夫妻のところにはまだ誰もきていないようです。調査させますか?」


「いや、いい」


 ジークとその妻は会議が始まったころに避難してもらった。その隠れ家で分体が常駐している。元侯爵夫妻のところへも分体の一つを送っていた。普通なら時間がかかるところを風で飛ぶほどに軽くなって。

 その代わりに彼に露店を開いてもらったのである。怪しげにフードをかぶっていた人物だったのだが、相手はよく確認もせずジークだと断定したのだろう。多少の目くらましも役に立ったのかもしれないが。


「で、こいつ、どうします?」


自白して(うたって)もらうよ」


 ギーは気は進まないが、ほかの誰かに任せると人が物体になってしまいそうだった。人の脆さを忘れがちなのだ。

 簀巻きの中身をギーは確認した。手荒に扱われても意識不明のままでいる。逆かもしれないが。


 ギーはその男に見覚えがなかった。使者というわりにどこの誰かを示すようなものも持っていない。使者が持っている指令書もなかった。


「気付け持ってる?」


「踏めばよろしいのでは? 痛ければ目覚めるでしょう?」


「医者呼ぶ方が良かったかな」


 運搬の都合で気絶させた、ではなく、痛みの結果の気絶であるようにギーには思えてきた。


「とりあえず薬箱持ってくるから手出ししない」


「栄養剤もください」


「わかったよ」


 薬箱の中には自白剤の残りもあったはずだった。

 植物の界の主は、異世界の知識にある薬を実用化に持ち込んだ。興味本位で。そのため、おおよそギーが考えつくような薬はもうこの世にある。

 傷つかず話が片付くのだから彼らにとっては良いことだろう。


 始祖謹製自白剤は少量で良く効いた。

 問いに考えることすらせず返答している。


 彼らは貴族会議で決定したことを伝える使者であった。


『常世の庭に花が咲かぬのは自らの罪と言っていたが、それは誤りであるため爵位の返上を無効とする。

 また、誤った認識を流布させた事により、他の界のものに迷惑をかけた。登城し謝罪せよ』


 つまりは、噂の元は侯爵家なんだから、侯爵家が謝ってよね! という話にすり替わった。それに元に戻すからいいよね! である。最初に噂を流したもの、ということは全く触れてもいない。


 この話を元嫡男であるジークに告げ、断らせず、その場で拘束し連れてくるようにとおくようにと命じられた。断った場合には、妻が無事でいるためには、ついてきた方が良いなどと言う予定で、家のほうにも誰かが向かっていた。

 同様の使者が元侯爵夫妻のところにも送られたらしいが、そちらにはもうご子息はお城にいますよと脅し付きらしい。


 始祖に直で話が行かなくて幸いである。

 より怒るどころか、上層部全とっかえ、ではなく、じゃあ、民主主義はじめちゃお? と言い出しそうだ。

 その意が、てめぇら全員、断頭台送りだという意味だとわかるのはギーだけである。その後の国の混乱を思えば、やりたくはない。

 とはいえ、後処理を全部、他人任せにして皆が幸せになるならギーもやりたいが。


「……一応、聞いておくけど、反対した人は?」


「王太子殿下や王妃殿下のご実家などが反対なされ、国を継ぐものとしては不適合だと牢に入れられました。廃嫡し、第四王子が王太子につくと」


「は?」


「異界の者とも話をし、譲歩を引き出したことで王の賞賛を得ていました」


「…………自分に都合の良い話にもほどがないか」


 約束を破ったことについてなにも思うところがないのか。ギーは呆れる。ただの人とした約束ではないというのに。即効性の罰則ではないことが裏目に出たということだろう。


 令嬢の処断も甘々どころか何もしない可能性すら出てきたが、そうなれば、魔女が速やかに回収し、自らの手で処断するだけの話になるだろう。

 そっちはほっといても勝手に何とかなっているし、事後報告してくれれば御の字である。


 ギーは他にもいくつか気になる点を聞き出し、記録をとった。その後に表情なくタンポポの精霊に問いかけた。


「魔の種、いくつかある? 手持ち切らしてて」


「同種で良ければ」


「なにを」


 不穏な雰囲気意を感じたのであろう使者が声をあげる。


「植物舐めてるから、植物に寄生させられれば少しは考えを改めてくれるかなって思ったんだよ」


 一週間ほどで枯れるが、体に植えた場所から花が咲く。懲罰からファッションとしてまで幅広く活用された技術だ。今はこの世界には残っていない。

 植物の界に残っているモノも痛みもなく、ビジュアル命のものだが、知らぬものが見ればぎょっとする。


「かわいいおめめに、あおいたんぽぽ。目と同じ色がいいですよね」


 それが本気で可愛いと思っているだろうタンポポの精霊をそっと視線から外した。そのあとに、屋敷の外に放り出しておけば勝手に回収するだろう。

 そして、ちょうどよく。目から芽が出るのを目撃してくれるといいのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっばいですね……。
上層部総取っ替えレベルのやらかし。 馬鹿だなぁ……(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ