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タッチの差で敗北した話

作者: 単位終わったわ

7月31日21:30

私はパソコンとにらめっこしていた。

目の前にあるのは、タイトルと自分の名前が書かれたレポート。

裏を返せば、それ以外何も書かれていないそんなレポートを目の前にして私はただ焦り以外の何も感じることが出来なかった。


そのレポートの提出期限は今日、すなわち7月31日の23:59、日が変わるその瞬間までに提出をする必要があった。


レポートは2000~3000字程度でまとめる必要があり、書く内容は決まっていても、書く方針や文章の組み立てが一切できておらず、また、タイピングに自信がある訳でもなく、かなり厳しいといった現状があった。


無論ここまでの窮地に陥ったのには理由がある。別にサボっていた訳では無い。

ただ単純に風邪を引いたのだ。

学期末ということでレポートが溜まっていた、そんな状況で風邪をひき、さらにそれに加えてレポートを書くための資料を読むのにも予想以上に時間が掛かり、今の状況へと繋がっているのだ。


そしてそうこうしている間にも時刻は22:00。

残り2時間となり焦燥感は増していくばかりである。

現時点でのレポートの進捗はおよそ200文字。このままのペースではとうてい終わりそうにない。

むしろ自分の単位が終わりそうですらある。

しかしながら今の自分にできることは、いい感じの文章が天啓のように閃くのを待つだけ、時の流れは残酷に過ぎていくばかりである。


時刻は23:00。

残り1時間を切った時点で、残りの文字数は1000字程。かなり好ペースで進んできたもののまだ足りない。

残りの文字数とにらめっこしつつ文章を紡ぎ出して行くことしかできなかった。


話は変わるが、最悪のレポートとは何か?という問いがある。

その答えは一つだ。それは提出されていないレポートである。

提出されていないレポートは当然採点対象ですらなく、付けられる点数は最大でも0点だ。しかもそれに費やした時間も無駄となる。すなわちマイナスにしかならない。


そんな話をしている間にも時間は過ぎて現在の時刻は23:40。残り20分である。

残りの文字は400字。原稿用紙1枚分である。残り400字くらいになった時点レポートのまとめに入ることに決めていた。

これまで読んできた文章からなるべくレポートにふさわしく、なおかつ詩的な文章を用意する。

そう、この期に及んでの卑劣な文字数稼ぎである。しかし、それが功を奏し、ペースは加速する。


そして時刻は23:50、残り10分となる。残りの文字数はわずか100文字、

いける!ここでやっと光明が見えてきた。

そして資料を思い返しつつ最後の文字をタイプする。


時刻は23:56、残り時間は4分。そしてレポートの総文字数は2009文字。


そう、私は勝ったのだ。レポートという名前の魔物に。2000字という条件に。そして諦めようとする自分自身に。


しかしまだ戦いは終わらない。まだ敵は残っている。それがこの参考文献というものだ。

かつて味方として力を貸してくれた者が、今度は敵として立ち塞がって来るのだ。

参考にした資料を引っ張り出し、タイトルと作者名、そして奥付から出版年月日、あるいは参考にしたサイトのURLをコピーして貼り付けたりもする。焦っていてもぞんざいにしてはいけない。かつての戦友であるわけだから、丁寧に扱う必要がある。

そして時刻は23:58、最後のURLが貼り付け終わる。


残す作業はあと1つだけである。それは、レポートのファイル名を変更するただそれだけの作業である。そしてそれにはあまり時間がかからなかった。


そして最後に提出を行う。提出フォームを開き、ファイルをアップロードするただそれだけのこと。時計を見ると23:59を示していた。


そして提出フォームを開こうとする。が、開かない。


「このフォームの利用可能時間を過ぎています。」残酷な一文。


時計を見ると0:00を示していた。


日が変わってしまった。


たとえ竜を殺した英雄であっても時の流れに勝つことはできない。

もちろんレポートという名前の魔物を打ち倒した私は言うまでもない。


この瞬間私のレポートは最悪のレポートと成り下がった。



私はパソコンの前で1人、らくたんしたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見てるこっち側としては面白いものの、同じようなことがあったので、苦しさが十分身にしみてわかります。 ご愁傷様です。
[一言]  参考資料を書かずに提出して、教授から指摘があった時に 「え?」 とか小芝居をして後日追加提出する体じゃダメだったのかな?  いやもう過ぎちゃたことなんだけど、次回策として記憶の片隅にでも。…
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