表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

5

「花崎さんって、彼氏いるの?」



出社しロッカールームに寄った所で、営業部でも目立つ3人の女の子達に聞かれた。

なんだか怖い顔で3人に見られ・・・

他にもいた数人の女の子達はサーッといなくなってしまった。



「いません。」



朝から起きた全く意味の分からない展開に、私は少し笑いながらロッカーを開ける。



「どんな人がタイプなの?」



「それは・・・難しい質問ですね。

私は誰ともお付き合いしたこともないですし、タイプとかも正直よく分からないです。」



「本当に、誰とも付き合ったことなかったんだ?」



その質問の仕方を少し不思議に思い、女の子達の方を見る。



「花崎さんの所の部長がよく大声で言ってるから聞こえてる。」



「あの方、声が大きいですからね。」



「いくら本当のことでもさ、言い返したりした方がいいって。

黙ってたらどんどん酷くなるよ?」



「あれでも、一時期よりは凄くマシになりましたから。」




私をよく疎ましい顔で見ている3人が心配してくれているのを知り、また少し笑った。




「じゃあさ、合コンする?」














もう、本当に・・・全く意味の分からない展開で・・・




その日の夜、すぐに合コンというのが開催された。

存在は知っていたけど、詳細は全く知らず・・・。

定時になった所で、女の子3人がいきなり私を迎えにきたのだけど・・・




「花崎さんって、凄い仕事出来るから!」



「そうそう!でも、しっかりしてるだけじゃなくて、ちゃんとうちらの話もよく聞いてくれるし!」



「うちら3人とも、花崎さんに選んでもらったんだよね~?」




と・・・普段は私を疎ましく思っているような3人の女の子達が、ニコニコと笑いながら目の前に座る男の人と私を交互に見てくる。




「へぇ~、こんなこと言ってもらえるとか、花崎さん・・・恵美ちゃん、良い子なんだろうね。」



「雰囲気からして優しいの分かる!」




など・・・目の前の男の人達からも言われ・・・

何と返事をしていいのか分からず、お辞儀をしておいた。




「みんな可愛いし、会社の男にも人気あるでしょ?」



「うちの会社、男の人少ないんですよね~。

花崎さん、もっと若い男の人入社させてよ~!」



「下着の会社だよね?

もうそれだけで、俺達今日はテンション上がってるよな?

急だったけどすぐにOKしたよ!」




男の人4人、女の子3人で盛り上がり・・・

私は、真ん中の席でいちごミルクのカクテルを少しずつ飲んでいる・・・。




しばらく盛り上がっていた時、男の人達がこまめにテーブルの下でスマホを操作したりしていて、大きな会社の方達だったので仕事も大変なんだろうなと思った。





「そろそろ、席替えしよう!」





その言葉に私が驚いていると・・・




「あれ?女の子達、微妙?」



「席替え・・・か~。」



「どうする?」



「・・・少しだけなら。」





と、女の子達が渋々了承して・・・。





男の人達が、それはもうテキパキと指示をしていき、みんなで動き始める。





「恵美ちゃんはこっちね。」





と、男性陣の幹事と自己紹介していた男の人が、私の飲み物やお皿などを持って移動させてくれた。

その男の人についていき私は端の席に座り、男の人が私の隣に座った。





「花崎さんに変なこと言ったりしないでくださいね?」



「うちら、そういうのは本当無理なんで。」



「凄い愛されてるな~。」



と、隣の男の人が笑いながら言っていて・・・

いつもと全く違う様子の女の子達に驚いてはいたけど、3人とも優秀な営業の女の子。

私の前で見せる姿だけでなく、外で見せる姿も見ることが出来て嬉しくもなった。

そんな女の子達を眺めながら、少しだけ笑った。




「3人とも恵美ちゃんが選んだ子なんだ?」



「そうですね。皆さんすごく素敵な方達です。」



「凄いね、恵美ちゃん見る目あるね。」



「見る目はないんです。」




私を見る男の人の視線に気付きながらも、目の前にあるいちごミルクのカクテルを眺める。




「私は人を見る目がないんです。

だから、ちゃんと見ないと。」




そして、そろそろ2時間が経とうとした時・・・

隣に座っていた男の人が他の人達に背中を向けるようにし、グッと私に近付いてきた。




「恵美ちゃん、いいね。俺タイプ。」




私に大分顔を近付け、そう言われた・・・。




「・・・そんなこと、初めて誰かに言ってもらいました。」




こういう場でもあり、本当のことではないかもしれないけれど、それでもそういうことを言ってもらえたのは嬉しいと思った。




「初めて?今までの彼氏あんまり言ってくれない人だった?」




「私は・・・28歳ですしお恥ずかしいのですが、その・・・誰ともお付き合いしたことがありませんでして・・・。」




目の前にある、ほとんど減っていないいちごミルクのカクテルのグラスに、ソッと手を伸ばし、触れた。

その手を、隣の男の人が少しだけ触れてくる・・・




「・・・それ、本当?」




男の人を見ると・・・

怖いくらいの目で・・・



「最初は控え目な子なのかと思って、俺そういう子好きだから良いなって。

でも話してみたら、なんか・・・上手く言えないけど凄い喋りやすいし、俺が予想もしないような返事を返したりして、話してて凄い楽しいんだけど。」



「それは・・・ありがとうございます。」



「連絡先、交換しようよ。」



「連絡先ですか?」



スマホを取り出した男の人が、私を見て面白そうに笑った。



「合コンもあんまりしない?」



「今日が初めてです。」



「それは・・・俺今日来てよかった。

また会おうよ。」



「また・・・ですか?」



「うん。連絡先を交換してないと、また会えないだろ?」



男の人が手に持つスマホを眺める。



「・・・連絡先を交換していないと、会えないですよね・・・普通。」



スマホを取り出そうと、鞄に手を伸ばす。



「俺達の職種は転勤多いからさ。

単身赴任してる人も多いけど、俺はついてきてくれるような子がいいんだよね。」



その言葉に、鞄に伸ばした手が止まった・・・



「女の子はさ、やっぱり家にいるのがいいよ。」



恐る恐る・・・隣の男の人を見る。



怖いくらいの目・・・



わたしを、支配するような・・・



怖いくらいの、目・・・



その目が、告げる・・・





私には、“人権”などないのだと・・・




こんなパッとしない、つまらない女には・・・




“人権”など、ない・・・。





鞄に伸ばした手が、震えてくる・・・





呼吸が苦しくなってくる・・・





怖い・・・





怖い・・・






「花崎さん。」




私の名字が呼ばれ、震える手には少しひんやりとした冷たい手が・・・




「もう時間、帰ろっか!」




見上げると、女の子達3人が鞄を持ち、私を見下ろしていた。




「もう帰るの?二次会もやろうよ!!」



「明日もお互い仕事ですよね~?」



「また、個人的にも連絡お待ちしてま~す!」



「これ、私達の分のお金・・・花崎さんのも入ってるので、ここ置いておきますね?」




テンポ良く3人が話し、私の手を握ってくれた女の子が私の鞄を持ち立たせてくれる。




「ちょっと待って恵美ちゃん、連絡先だけ交換しておこう!」




隣の男の人が立ち上がり、スマホを持って近付いてくる。




「花崎さんはね、ダメなんです。」




私の手を握り続けている女の子が、私の手を少し引き他の女の子達の間に立たせる。




「花崎さんは、ダメなんです。

でも、花崎さんのこと気に入ってくれてありがとうございました。」












「向こう、急に集めたメンツなのに当たりだったね?」



「急な時は“みんな下着会社のメンバーで~”って言うと、ノリノリで集まってくるらしいよ?男って単純だよね。」



お店をみんなで出て、駅までの道で女の子達が楽しそうに喋っている。



「花崎さんには刺激強すぎた?

無理矢理ごめんね!」



「いえ、貴重な体験でした。

ありがとうございます。」



合コンに誘ってくれるような友達もいないので、今日の出来事は本当に貴重な体験だと思っていた。

そう答えると、女の子3人は顔を見合わせた後、大笑いして・・・




「それならやってよかった!」



「花崎さんさ~、確かにつまんない顔してるけど、もっと自信持ちなって!

隣のイケメン君だって必死に連絡先聞こうとしてたじゃん?」



「あの人、私1番狙ってたんですけどー!」



「こ~んなつまんない顔の花崎さんにいかれるとは、ある意味ショック!!」




“つまんない顔”と言いながらも楽しそうな雰囲気で、私も少し笑ってしまう。




「何で自信ないのかは分かんないけど、もっと自信持っててよ?」



「花崎さん、“会社の顔”なんでしょ?

つまんない顔だけどさ~!」



「そのつまんない顔に、うちらは選ばれちゃったの!

花崎さんが自信なくなってると、選ばれたうちらだって自信なくなってくるから!」




そんな・・・ことを言われ・・・




「それは、考えたこともありませんでした・・・」




驚き、反省した。




「私の為に、今日は開いてくださったんですね。

本当にありがとうございます。」




深くお辞儀をしてから顔を上げると、女の子達が満足そうな顔で笑っていた。




「少しずつでも自信をつけられるよう、頑張ります。」















電車で家の最寄り駅まで帰り、改札口を出ると・・・




私は、立ち止まってしまった・・・。




改札口を出てすぐそこの柱の所に・・・




私に真っ直ぐ視線を向けた藤澤さんが、立っていた・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ