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全く分からない展開に驚きながらも、今日の仕事はこなしていく。
人事部には採用だけでなく、労務や評価、教育などもあるため、それぞれの担当責任者から課長の私の所に一旦上がってくる。
そして・・・人間関係の問題まで・・・。
会議室の中、綺麗な顔に怖い表情をさせた女性・・・
営業部の屋敷さんがテーブルに向かい合う私を睨み付けてくる。
「本当、あなたってつまらない顔ね?」
そんな第一声で、私は笑ってしまった。
「何笑ってんの!?」
「いえ、本当のことをハッキリズバッと言う方だなと思いまして。」
「私がキツイっていうんでしょ?」
「はい。」
「仕方ないじゃない!私昔からこうなの!」
「はい。なので、嬉しいです。」
何か言い返そうとした屋敷さんが、口をパクパクしたまま固まった。
「そういう方も必要ですから。
屋敷さんがいないと、上がらない声もありますからね。
良かったです、私はちゃんと、屋敷さんを選べていたようですね。」
その後、会議室は数分間無言に。
屋敷さんは不貞腐れた表情で下を向き、足をたまにユラユラ揺らしている。
「何か、ありましたか?」
「・・・うん。
担当店舗の店長の子に、泣かれた。」
「そうですか。それは困ってしまいますね。」
「別に、売上が落ちて責めたわけじゃない。
何で落ちたか店長の分析が聞きたくて、聞いただけ。」
「そうですよね。それが屋敷さんのお仕事ですから。
どこの店舗の店長ですか?」
屋敷さんが答えると、会社から電車で1時間くらいの所だった。
私は椅子から立ち上がり、屋敷さんを見る。
「では、行きましょうか?」
「・・・どこに?」
「その店舗の店長に会いに。」
「今から!?もう定時になるけど・・・。
それに、人事部も大変でしょ?」
そんなことを言う屋敷さんが面白くて、私は笑う。
「これも、人事部の仕事の1つですから。」
渋々立ち上がった屋敷さんを見詰める。
「拗れた人間関係は、一刻も早く修復するべきだと私は思います。」
*
「部長に報告した方がいい?」
鞄を持ち、屋敷さんと2人で廊下を歩いていると聞かれた。
律儀な屋敷さんに、私はまた笑ってしまう。
「そんなの、まだしなくていいでしょうね。」
私が立ち止まると屋敷さんも立ち止まった。
私は屋敷さんを見る。
「本来なら、問題が起きたらすぐに報告するのが正解だと思います。
ですが・・・うちの会社の場合は、それだと不正解です。」
私の言葉に屋敷さんもすぐに気付いたようで、苦笑いした。
「なんでうちの会社、部長こんなに年寄り多いの?
時代錯誤なことばっかり言ってるしさ。」
そんな、ハッキリズバッと言う屋敷さんに、私はまた笑ってしまう。
うちの会社はグループ会社2つで成り立っていて、1つは高級ランジェリーの部類に入る物を取り扱っている会社。
そして、もう1つ、それが私のいる・・・名波社長が社長として立ち上げた会社。
少し奮発すれば手に入る、いつもの自分に少し贅沢な気分を・・・
そんなコンセプトの元、名波社長や他の社員、パートさんも日々頑張っているのだけど・・・
「花崎、もう帰るのか?
営業の・・・屋敷さんか!今日も美人だね! 」
定時ピッタリで帰る町田部長が、今日も定時ピッタリに廊下を歩いている。
「花崎もさ、屋敷さん見習って?
折角良い身体してるんだからさ!
・・・おっと、これはセクハラ?ごめんごめん。」
そう言いながらそそくさと去っていく町田部長。
「あのオッサン、最後にアレつければいいって勘違いしてるでしょ?」
屋敷さんの言葉に、私はまた笑ってしまう。
*
「今日は・・・ありがと。」
「屋敷さんが原因で泣いたわけではないと分かってよかったですね?」
屋敷さんと店舗の店長の元を訪れ話を聞くと、頑張っても頑張っても売上が下がってしまい、そんな自分が不甲斐なく泣いてしまったそう。
電車の中、屋敷さんの隣に立ちながら会話をする。
「実際に店舗に来て買い物をするお客さん自体減っていますからね・・・。
ネット通販の方はかなり順調なのですが。」
「それでも売上伸ばしてる“王子”は凄いわ。
入社してすぐに胸触らせてとか言ってるの聞いた時は、何事かと思ったけど。」
「そうですね。たまに見掛けると毎回驚いてます。」
「花崎さんどう思う?“王子”。
花崎さんって男の影全然ないけど、“王子様”なら良いとかある?」
“王子様”
屋敷さんから出てきたその言葉に、私は少し笑ってしまう。
「昔は“王子様”に憧れていたこともありますね。
でも、“王子様”の隣にいるのは、いつだって“お姫様”ですから。
そうしないと、物語が終わりませんので。」
「いいじゃない、花崎さんが“お姫様”になれば。」
その言葉に、私はゆっくりと隣に立つ屋敷さんを見る。
「私が・・・?まさか・・・。」
こんなにパッとしない私が。
こんなにつらない女の私が。
王子様の隣にいるお姫様に?
「こんなお姫様だったら、国民もガッカリしてしまいますね。」
私がそう言うと、屋敷はツボに入ったようで「それは正解かも」と笑っていた。
「でも、たまに人肌恋しくなったりしない?
私結構そういうタイプなの。」
「人肌、ですか・・・」
屋敷さんに言われ、少し考えてみる。
「・・・雨が降っていると、思うかもしれません。」
「雨?じゃあ今梅雨だし大変ね。
そろそろ明けるけど。」
「そうですね、そろそろ明けますね。」
「花崎さんって、最寄り駅どこ?」
私が答えると、屋敷さんは「遠いわね!?」と驚いていて。
大学進学でこっちに出てきてから、私は引っ越していない。
でも、そろそろ会社に通いやすい所に引っ越そうかなと思っている。
店舗から最寄り駅に着く頃には、22時前になっていた。
改札口を出て、駅の出口に向かうと・・・
「雨・・・」
出口の所で、シトシトと降っている雨を見上げる。
鞄から折り畳み傘を出し、ゆっくりと広げた時・・・
シトシトと降っていた雨が勢いを増し、ブワッと風が吹き・・・
雨が横に流れるのを目で追うと・・・
出口の隅に立ち、黒い空を見上げている・・・
藤澤さんが、いた・・・。
驚き、固まった・・・。
でもすぐに頭を回転し、人事部に提出された藤澤さんの住所を思い出す。
履歴書に書かれた藤澤さんの住所、それから半年間、住所変更の申請がなかったことを思い出すと・・・
確かに、藤澤さんの家の最寄り駅は、ここだった。
私に気付いた様子のない藤澤さんを無視し、折り畳み傘を差して歩きだす。
激しく降る雨の中・・・
1歩・・・
1歩・・・
「折り畳み傘でよければ、入りますか?」