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飛翔(3)

 そこは、静寂に包まれた世界だった――。

 造られし命が住まう楽土、“エデン”……。巨大な鐘堂を中心に展開されるその街にはヨツンヘイムのような機械的なデザインの建造物は一切存在しない。まるで彫刻のような、絵画のような、生活感のない甘美な世界が只管に広がっている。

 土は白く美しく、しかし命を育まない。木々はただ在るだけで、崩れては再生を繰り返す……。流れる水は澄み渡り、しかし人が飲むには美しすぎる水なのだ。全てが停止したかのように時の流れから、世界の流れから隔絶され、エデンは今日も静まり返っていた。

 頭から生えた白い耳をはやした人々は、大人も子供も確かに暮らしていた。だが彼らは何をするでもなく、まるで歩く彫像のようである。誰もが美しく整った顔つきで、誰もが皆生きる為に何をする必要もない。エデンの住人は食べる事も眠る事も無く、永久の命を約束されている。故にそこは時の止まった世界……。命が育まれない世界。造られし者の楽園――エデン。


「…………帰ってきたのか、余は……。この、作り物の世界に……」


 ハロルドは目を細め、結晶で出来た家々を見渡した。うさ子はエデンの住人たちを集め、なにやら会話を行っている様子だった。同じくうさぎの耳――否、“感情交換神経”を持つハロルドにはわかった。うさ子がどんな話をしているのか。どんな人々がそこに生きているのか。

 かつて王であった彼女は生まれ出でた場所への帰還を果たした。もう二度と踏む事は無いと思っていたエデンの大地……その白すぎる砂を踏みしめる。下層の人間達は物珍しい景色に歩き回り、あちこちを散策していた。しかしそこにあるのは見ても別段面白みも無い、まるで美術館のような世界だ。直ぐにそれぞれが戻ってきて、一箇所に集まった。


「どっちにいっても、同じような景色が続いているでござるよ……。これでは迷子になりそうでござる」


「こっちも同じ。ボクも迷子になりかけたし……」


「ホクト、これからどうする? 僕らはとりあえずガルガンチュアに戻るつもりだけど……。船を空けるわけには行かないし、エデンの地質調査とかもしようかと思って」


「なんだロゼ、そんな事もやるのか……? まあいいや、直ぐ出発出来るようにしておいてくれ。俺はもう少しこの辺を調べてみる」


 砂の海豚のメンバーと別れ、ホクトはうさ子の傍に歩いていく。うさ子と同じうさ耳一族は誰もがうさ子のようにニコニコしており、耳をぱたぱたさせている。老若男女、誰もがうさみみである。だがしかしホクトには強烈な違和感があった。


「……こいつら……生き物なのか?」


 ホクトの言葉に反応するかのように、うさ子は耳をしょんぼりさせながら振り返った。その目はキラキラと輝いているが、やはり違和感は大きくなるままだ。そう、うさ子と比べてここの人間達は――表情はあれど無感情、まるで……そう、うさ子ではない、もう一つの人格……ステラのようだった。いや、ステラよりもこの土地の人々はより無感情、より無思考である。うさ子はホクトのシャツの裾をぎゅっと掴み、首を横に振った。


「うさたちはね……人間じゃないの。うさたちはね……ゼダンが造った……“人造人間ホムンクルス”だから……」


 うさ子が顔を挙げ、耳をぱたぱたと上下させる。するとうさ耳族たちは一斉に散り散りに去っていく。そうして開けた道の向こう、鐘の鳴る場所を指差し、うさ子はホクトの手を引いた。


「ホクト君にね……見てもらいたいものがあるの。うさと一緒に来てくれるかなぁ?」


「……? ああ、そりゃもちろん。おーい、何人か一緒に来てくれ。鐘堂を調査する! あー……昴! それから……あー……」


「私も行きますッ!!」


 猛然と走ってくるシェルシ。その後ろには真剣な表情のイスルギが続いてくる。先ほどまでイスルギと一緒に居たゲオルクは無言で首を横に振った。結果集まったのは昴、シェルシ、イスルギ、ミュレイ、メリーベル、そしてハロルドだった。


「……お前ら集まりすぎじゃね」


「だって、なんだか事の真相がわかりそうな気がしたので……」


「そうだよ兄さん、大事なことなんだから皆知りたいに決まってるでしょ」


「ま、行ってみましょう」


 メリーベルがホクトの肩を叩き、それぞれがぞろぞろと歩き出す。肩を落としそれに続くホクト……しかしうさ子はずっとしょんぼりと元気のない様子だった。そしてその意味を、彼らは直ぐに知る事になる。

 鐘堂の重苦しい両開きの扉を開くと、そこには果てしなく奥まで続く回廊があった。そしてその左右にはずっとずっと奥まで巨大な水槽が並んでいる。昴とホクトはそれに見覚えがあった。厳密には全く同じものではない。だがそれは……インフェル・ノアの中で見た景色に酷似している。


「これって……!? まさか、この街の人間……!?」


「そう、この水槽の中に入ってるのがね、うさたちなの……。うさたちはね、“穢れ”を持たない人間としてここで生み出された……。アニマを覚醒させない人間として」


 うさ子はとことこと奥へと進んでいく。水槽の中に浮かぶ、うさ耳の人々――。うさ子はガラス面に手を触れ、悲しげに微笑んだ。


「うさたちはね、このうさ耳のお陰で言葉を話さずとも分かり合う事が出来るの……。うさたちはね、沢山の身体を持つけど、一つの命なの。一つの生き物……一つの存在。だから、絶対に争わない。誰もがにこにこして、誰もが全てを愛していて……。そういう命として、造られたの」


「…………アニマを覚醒させない為に……か?」


 ホクトはうさ子に歩み寄り、そう訊ねた。そう、この世界に生きる人間の“悪意”がアニマを覚醒へと導くのならば……。悪魔を目覚めさせぬ、新しい人類を造ればいい……。そうした計画が過去にあったのだ。そしてその実験場として用意されたのがこのエデン、そしてその計画で作られたのがうさ子やハロルドだった。

 彼らは語り合わずとも理解しあう生き物だった。食べずとも、眠らずとも、欲を持たずとも生きていける。個であると同時に総体であり、故に彼らは争わない。醜い心を持つ事もない。永久に純粋無垢――しかし、彼らはそうであるが故に自我を持つ事を赦されなかった。人の形をした人形……。指定された行動原理に則って動くだけのロボット……。機械仕掛けの人形は決して人間にはなれなかった。だからこの計画は頓挫したのだ。


「もしも、全ての人間が争う事無く分かり合えたら……ううん、どうしたら争わずに済むのか……うさたちはね、ずっとずっと考えていたの。そうだよね、ハロルドちゃん……?」


 ハロルドは腕を組み、うさ子同様複雑そうな表情を浮かべていた。二人はどんどん奥へ進んでいく。緊迫した空気の中、ホクトたちはそれに続いた。最奥には再び扉があり、その向こうへと続く道を開き、うさ子は眩しそうに目を細めた。

 扉の向こう、光の世界にあったのはミレニアムシステムと同じような造りの部屋だった。一番驚いたのはメリーベルで、その理由は明らかだった。そう、彼女はこれと同じ物を以前にも見ていたのだ。地下の遺跡――フラタニティにて。


「……このエデンを建造したのも、この計画を発案したのも、全て余のやった事だ。余は……元々、人間を全て滅ぼすつもりでいた。そして、エデンの民を変わりにこの世界に根付かせるつもりだったのだ」


「……どうして? わざわざ人間を滅ぼす為にエデンの民を用意したりして……。私にはよく話が見えないんだけど」


 昴の疑問はこの場に居る全員の疑問でもあった。だがそれは元々的外れな疑問なのだ。ハロルドは何も人間を消し去りたかったわけではない。ただ、この世界を――否。この世界の“神”を、護りたかった……。救いたかっただけなのだ。


「…………この世界に一人ぼっちというのが、どれだけ辛い事だか……貴様達は考えた事があるか?」


 ハロルドは背を向け、そして部屋の中央にあった大きな円柱状の水槽へと手を伸ばした。既に水も抜かれ、中には何もないその水槽を撫で、少女は目を瞑る。そこに確かに居たのだ。ここは、ゼダンが集う場所……。かつてのゼダンが在った時、この場所に神は居たのだ。


「神は寂しさのあまりアニマを生み出した……。アニマは神の寂しさを紛らわせる為に、異世界への侵略を行った……。ゼダンはアニマを封じる為にこの場所に残った……わかるか? この世界の物語とはつまり、突き詰めれば“子守”なのだ。眠りし神を優しく見守り、あやす事……。荒れ狂う神の力を癒し、レクイエムを謳う事……それこそがこの世界の運命。故に余は……彼女を護る為に、彼女が寂しくないように、ホムンクルスを作った。この身体もその計画の一環で生み出したものだ。余のもともとの体では、永久に等しい時間の流れには逆らえない。老いがある限り、私は神の傍に居続ける事は出来ないからな」


「それじゃあ……ハロルドは、神様を護る為にその身体になったの?」


「……尤も、ネイキッドの力を継承出来る程の肉体では無くてな。定期的に魔力を充電しないと動けない、ろくでもない身体になってしまったがな」


 自虐的に笑い、ハロルドは空を仰ぎ見た。鐘の音はこの部屋の真上から聞こえてくる――。吹き抜け構造となったその場所は、塔の頂上から音が反響し、何度も何度も聞こえてくる。目を瞑れば思い返すことが出来る、神と共にあった時間……。否、神だとかそんな事はどうでもよかった。ただ――美しいと感じた。護りたいと感じた。だから……護ろうとした。ただそれだけの事だった。それだけでよかったのに――。


「ここの人間に心は宿らなかった……。研究は大失敗だった。この肉体も、いつかは朽ちて果てるだろう……。新しい楽園を生み出せないのならば……! 彼女が笑ってくれないのならば……! この世界を管理するしかなかった……。彼女を護る為に……。彼女を、目覚めさせる為に……


 ハロルドは振り返り、それからホクトたちを見渡した。全ては既に遅い事。全ては既に遠き日の事……。だがここに来て、ハロルドは何年ぶりかわからない感情の昂ぶりを感じていた。何故、こんな事になってしまったのかと、意味のない後悔をしたくなる。そんなハロルドの手を握り締め、首を横に振るうさ子の姿があった。


「ここはね、ハロルドちゃんと……それからうさの、夢の残骸なの……。うさもハロルドちゃんも、きっと裁かれるべきなんだと思う。でも、皆にはここの事を知っていて欲しかったの。うさはね……きっとここで生まれて、ここで死ぬと思うから……」


「……夢の残骸、か……。なあ、うさ子は一体何者なんだ? そもそも冷静に考えてみると、“大罪”を持ってる時点で大体推測は着くんだが……」


「う、うさはゼダンじゃないのっ! うさは……。はう……。あのね、うさもね……半年くらい前に、ステラちゃんと“対話”して知った事だから、よくわかんないんだけどね、別に皆に隠してたわけじゃなくてねっ」


 左右の人差し指をつんつんと合わせながら上目遣いに皆を見るうさ子。仲間達は顔を見合わせ、うさ子の言葉を促した。少女は耳をぺったりとしおらせながら、消え入りそうな声で言った。


「…………うさはねぇ……? あのねぇ……? この世界のね、神様のね……。えっとね……? “ステラ・ロクエンティア”のね……? サルベージした魂を定着させた……“擬似・アニマの器”なの……」


「……すまん、ちょっと色々新単語があってよくわかんなかった。えーと、なんだって?」


「だからねえ~……。はう……。うさはねぇ……? 神様の代用品っていうか……。コピーっていうか……。つまり、この世界の神様のね……偽者っていうか……。はう……。あのねぇ、サルベージした魂のねえ……」


「いや、あれだ……とりあえず確認していいか?」


「はう」


 額に片手を当て、ホクトは冷や汗を流しながらうさ子を見やる。うさ子はホクトの顔をじーっと上目遣いに見つめながら目をうるうるさせている。


「つまり……お前が、“神”……?」


「…………なのなの」


「………………え? ステラ・ロクエンティアって神の名前なのか?」


「なのっ! ハロルドちゃんはねぇ、うさの身体……擬似・アニマの器の余剰パーツに魂を定着させてぇ、新しい体にしたの! だからねえ、うさとハロルドちゃんは家族なのっ」


「そうじゃなくて、お前が要するにこの世界の神なのかって話」


「……はう……!? ホクト君、怖いの……! うさもねえ、知らなかったの……。言おうと思ってたけどねぇ、なんか言うタイミングがわかんなくてね……? はう……」


 “ごめんなさいなのー……”と呟いたうさ子を前に全員が固まっていた。大飯食らいで泣き虫で、にこにこしていて元気で強くて明るくて、うさ耳の神様……。彼らの目の前に君臨したその事実が、静寂の世界の時間を更に止め様としていた――。




飛翔(3)




「ありえねえ~……。これが神とか……。ありえねぇ~……」


「は、はうっ!? なんだかごめんなさいなのっ! みんな、なんか元気がないのっ!? うさのせいなの!? うさのせいなのっ!?」


 慌てふためくうさ子の周囲、仲間達は全員地べたに座り込んで俯いていた。どうしたらいいのか判らずに涙目になるうさ子、その背後から身を乗り出しハロルドは笑った。


「まあ、そう驚く事も在るまい。こういう言い方は問題だが……うさ子への魂のサルベージは失敗したのだ。そうでなければ帝国など出来なかった」


「失敗……? じゃあのうさ脳の中に詰め込まれてるのはなんだ……?」


「単刀直入に言うと、判らん――。この魂のサルベージ計画というのは、“神”を目覚めさせる計画のひとつでな……。神が目覚めればアニマも覚醒する。だから普通は神を目覚めさせる事は出来ない。だから魂だけを……意識だけをサルベージしようとしたのだ」


 この部屋の中央の水槽には元々はうさ子が入っていた。厳密にはステラ・ロクエンティアの写し身の素体が入っていたのだが……。神は今も世界の最下層で眠り続けており、神が眠っているからこそアニマも眠り続けている。これは封印の性質上どうしようもない事実なのだ。だが、眠りの封印に晒された彼女を哀れんだゼダンがいた。それがハロルドだったのである。

 ハロルドは何とか眠る神とコンタクトをとろうと考えた。そのために言葉を交わさずとも相手と意思を交わすための交換感情神経――通称うさ耳を作り出し、そして神の意識だけを別の器に移動させる事を考えた。つまり神の本体は眠り続け、アニマの封印も継続される……。その上で神の意識だけを切り抜き別の器に宿すことで、神を封印の宿命から開放しようとしたのである。


「だが、それは失敗に終わった……。結果、器には“ステラ”という人格を宿す事が出来たが……それはここのほかの住人の例に漏れず、心が宿らなかったのだ。つまり、サルベージに失敗したという事だな」


「……それで、偽者のステラの人格が生み出された……と」


「ミストラルを彼女に宿したのは、“彼女が本来持つ心”の一つでも心に宿せば、もしかしたら神の心が目覚めるのではないかという淡い希望からだった。“大罪”は神が“求める心”そのものだ。故に余は全ての大罪を彼女に宿そうとまで考えた……。愚かしい事にな。それはつまり、アニマを覚醒させる事に他ならないというのに」


 偽者とは言え神の器に七つの大罪が揃い、そこに神の自意識が覚醒した時、本物と偽者は逆転する事になる。さすればこの世界の大いなる罪は目を覚まし、再び欲望の赴くままに他の世界を侵略し始めるだろう。それはゼダンとしては絶対にあってはならない、看過できぬ結末だった。


「だから余は計画を途中で斬り捨て第三階層に降り立ち、封印を護り続けるという本来の役割に徹したのだ。結果的にそれが神の為になると信じてな……」


 ハロルドの話が終わると、誰もがハロルドを複雑な目で見ていた。その視線に気づきハロルドは自嘲的に笑う。そう、哀れまれるような類の話ではない。ただ、我侭が……夢が叶わなかった人間の、良くある話なのだから。


「それでも余のした事に変わりは何も無い。貴様らは世界を管理する余を倒し、自由を勝ち得た……事実はそれだけだ」


「……ステラは神の“出来損ない”……。じゃあ、“うさ子”はなんなんだ?」


「それは余もずっと不思議に思っていたのだが……このうさ子という人格は全くの謎だ。何故唐突に発現したのかも全く意味不明だな」


「…………結局うさ子の謎は深まる一方ってわけね……」


 小さく溜息を漏らし、ホクトは苦笑を浮かべた。ハロルドの後ろに隠れ、おどおどしているうさ子を引っ張り出し、その頭をわしわしと撫で回す。怒られるかと思っていたうさ子はきょとんとした様子で仲間達を見渡した。


「ま、うさ脳だからしょうがねぇか」


「そうだね……。うさ脳だからね」


「はい、うさ脳では仕方の無い事です」


「うさ脳では良くあることじゃのう」


「……流石、うさ脳」


「………………。なあ、うさ脳って何だ?」


 一人だけ空気が読めないイスルギを無視し、仲間達は交互にうさ子の頭を撫で回した。もみくちゃにされながらうさ子は嬉しそうに耳をパタパタと振り回し、それから元気良くホクトに飛びついた。


「ホクト君、みんな! ありがとうなのーっ!! うさはねえ、これからもがんばるのーっ!! はうはう! はうはうっ!!」


「ま、元々なんだったかはしらねえが今はうさ子なんだ、別にそれでいいだろ……? 俺も人の事は言えないしな……」


 うさ子が飛びついて頬擦りするホクトを見つめ、ハロルドは優しく微笑みを浮かべた。どうしても笑顔にしたかったあの人の笑顔……それもきっと、こんなふうに眩く弾けそうなくらい、きらきらと輝いているのだろう。

 過ちを犯し、どうしようもない宿命に縛られ、そうやって生きてきた。ゼダンとなるべく異世界より召喚され、そして故郷から遠く遠く離れたこの大地で生きていく意味を見つけた。うさ子がホクトを心から信頼しているように……今なら少しは何かを信じられる気がする。信じられたらいい……そう、思えるようになった。


「そんじゃま、ここに居てもしょうがねえし……そろそろ引き返すとするか――?」


 ホクトがそう宣言し、踵を返そうとしたその時である。鐘の音が一層大きく鳴り響き、真上から何かが落ちてくるのが見えた。真っ先に反応したのは昴で、ユウガを構築してホクトの横に立ち、それを振るう。真上から落下してきた黒い剣を担いだシルエットはユウガと打ち合い火花を散らすと、部屋の奥にふわりと降り立った。


「――――また会ったな……北条昴」


「……タケル」


 黒い剣――ガリュウを担いだタケルは髪をオールバックに固め、鋭い眼差しで昴を射抜いた。仲間達が全員同時に臨戦態勢に入る中、うさ子が慌てた様子で声を上げた。


「だ、だめなの――――っ!!!! ここは、ハロルドちゃんの大切な場所なの!! うさたちの想い出の場所なのっ!! だから……壊さないで! 壊しちゃ、だめぇ――っ!!!!」


 その叫びをまるで合図としたかのようにタケルの影は膨れ上がり、鐘堂を闇の炎が包み込んでいく。うさ子の目の前で、無数の命が育まれた水槽が壊れていく。流れ出す光の雫……そして崩れていく人の形をした命。それでも……。仮に作り物だったとしても……。それでも、生まれてこようと必死に生きていた命――。

 うさ子の叫び声が響き渡り、タケルは黒き龍へと変貌した。巨大化する影は壁を突き破り、空に黒き翼を広げる。涙を流して手を伸ばすうさ子の体を担ぎ、ホクトはそれをシェルシに預けた。男は黒き魔剣を手に取り走り出す。対峙するは闇の龍……切り裂く刃は同じく闇。漆黒の光を纏い、ホクトは黒の鎧を纏って空へと大きく跳躍した……。


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