表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/108

大罪(1)


「ミラ・ヨシノ……? でも、貴方は死んだはずでは……」


「そう、死んだわ。死んだけど、生き返ったの……。どうしてだか判る? 貴方に私の気持ちが判る? ねえ、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ……」


 突きつける刃――。瞬く炎の光に照らされて影は何度も揺らめいた。シェルシは息を呑み、思わず身構える。目の前に居るのが本当にミラ・ヨシノなのだとしたら――それは、どんな事実を意味しているのだろう?

 ヴァン・ノーレッジが愛した女性……この物語の悲劇の中で消え去ったはずの命。ミュレイ・ヨシノの妹、そしてシェルシとよく似た境遇にいた人物……。一度は死んだという彼女の言葉の意味、そしてその敵意と同義の笑顔の意味……。混乱の中、戸惑うシェルシを見て笑いながらミラは歩く。ゆっくりと、靴音を響かせて。


「まあ……貴方に特に用はないの。私にとって重要なのは……バテンカイトスの魔女、貴方よ。そう容易く世界を股にかけられては、ゼダンの面目がないの」


「ゼダン――」


「ゼダン……? ゼダンとは……? メリーベル、貴方は彼女について何か知っているんですか?」


「知っているからこそ、この世界に居る……そうでしょう? この世界がどれだけの悲劇を歴史として紡いできたのか……。そしてこの世界が一体なんなのか……。貴方は全てを知り、知った上でこの世界を利用している……。何も貴方の命を奪いたいわけじゃない。ただ、余計な手出しをしないでほしいだけ……」


 イスルギが魔剣を構え、ウサクが両手に小刀を装備して前に出る。しかしミラはそれを意にも介さない。冷や汗を流すシェルシの傍に歩み寄り、そうして微笑んだ。背筋も凍りつくような、刺すような瞳で。


「……私、貴方が羨ましい」


「えっ?」


「貴方の事が羨ましいと言ったのよ……シェルシ。貴方は皆に愛されてる。貴方は皆に護られてる……。貴方は皆に必要とされている……ね、そうでしょう兄さん?」


 目を細め、シェルシを下がらせるイスルギ。兄であり王子である男は妹であり姫である女と対峙する。イスルギの表情は複雑であった。死者は蘇らないのだから、ならば目の前のそれは幻か偽りの類である。しかしそれは実態を持ち、亡き妹の声で、顔で、確かに存在しているのだ。槍を突きつけるイスルギ……その切っ先を握り締め、ミラは目を見開く。


「兄さんは、姉さんどころか私も護ってくれなかった……。なのに、兄さんはその子を護ってるのね……?」


「……ミラは死んだ。貴様は何者だ……? いや、貴様が何であろうと私には関係の無い事だ。私はただ、貴様を排除するのみ……」


「私に刃を向けるの……兄さん?」


「仲間に危害を加えるのであれば……止むを得まい」


 イスルギが槍を振り上げた刹那――ミラの唇がゆっくりと動き、何かの言葉を紡いだ。シェルシにはそれが、“だったらしょうがないね”という風に動いたように見えた。勿論聞こえたわけではないし、彼女に読唇術の覚えがあるわけでもない。それでも何となく――そんな風に笑ったように見えたのだ。

 ひゅるりと、音を立ててしなる刃が大地を削り火花を散らす。振り上げた槍は下ろされる事は無く、イスルギに腕は高速でうねった刃の腹にて一瞬で切断されていた――。槍を持ったままの腕が血と共に舞い上がり、ミラは実の兄の腕を片手でキャッチし、変わらぬ笑顔に返り血を添えて微笑んでいた。

 よろけるイスルギを背後からウサクが支える――と同時にシェルシは走り出していた。まるで――まるで見えなかった。どんな速さで剣を動かせばイスルギの腕を、あの騎士の腕を刎ね飛ばせるというのか……。先ほどからずっと、ミラから強い違和感を覚えていた。それがなんなのか、なんとなく理解する。彼女は――死んだはずだとかそんなこととは無関係にそもそも……異常なのだ。その放つ魔力も、その在り方も、まるで“間違い”が、“矛盾”が服を着て歩いているような、そんなおかしさ……。

 勝算は無かった。しかしこのままではミラは何の躊躇も無く兄を微塵に切り刻むだろう。恐らくはあの冷たくも美しい微笑のままで――。そんな事はさせないと誓った。故に魔術を発動する。放つ光の刃――それが舞い踊るような動作と共に繰り出されたミラの剣で木っ端微塵に砕かれ、そのままの勢いで刃がシェルシへと飛来する――。目前に切っ先が迫って漸く自分が死に瀕しているのだと気づき、シェルシが声を上げる間も無く無情にも血の雫は空へと舞い上がった――。




 黒い……黒い、雨が降り始めていた。世界の全てがモノクロに見えた。血に塗れたミュレイを腕の中にそのまま、昴は涙を流しながら両目を見開いていた。あんなにも護りたかった人が自分の腕の中で、しかも自分の剣によって貫かれている……。それは俄かには受け入れ難い現実だった。

 肩を震わせ、昴は思考を停止する――。自然と脳裏を流れる様々な記憶、思い出……。いつも見守ってくれていた、姉のような優しいミュレイ……。二人の関係はどこかおかしく、しかしどこか微笑ましく、そして確かに暖かかった。ミュレイにとって昴はもしかしたらミラの代用品だったのかもしれない。昴にとってミュレイはただの都合のいい居場所だったのかもしれない。互いに利用しあっていた、それだけの関係なのかもしれない。それでも今の昴は信じられるのだ。それだけでは、ただそれだけではなかったのだと。

 ミュレイと共に過ごした時間は本物だった。別に……良いではないか。利用しても。何かの代わりでも。それでも手を取り合い歩み、そして心を埋めあったのは事実なのだから。ミュレイは確かに昴にとっては大切な人だった。確かに、彼女は心を通わせたのだ。


「ミュレイ……。私……私ね、ミュレイが居なきゃだめなんだよ……。ミュレイが……ミュレイが必要なんだよ……。お願いだよ……目を覚まして……。また昴って呼んでよ……。また抱きしめてよ……。ねえ、ミュレイ……。ミュレイったら……っ」


 何故、こんな事に……とか。どうすればよかったんだ……とか。様々な念が思い浮かんでは消えていく。しかしそれらにどれだけの価値が、意味が、あるというのか? そんな物は意味がない。全くの無意味、無駄足、徒労――。済んでしまった事は変えられない。過去は変わらないのだから。けれどももしも……もしも。その過去を変える力を、持っているのだとしたら……?

 昴の脳裏をユウガの誘惑がちらついた。けれどそれを飲み込み、昴は歯を食いしばった。やり直せるのか……? やり直して、それでいいのか……? 覚悟は決めたはずだった。なのにこんなにも力は魅力的だ。失った物を、貴方の大事な物を修復してあげましょうか――? 剣は無言でそう昴に問いかける。少女は目を瞑り、拳を大地に叩きつけて叫んだ。


「出来ないよぉっ、ミュレイぃいいいっ!! 出来ないんだよお、そんなのはもうっ!! だって……だって、私はぁああああああああッ!!!!」


「私は……なんだって?」


 声は背後から聞こえた。涙を流しながら振り返るとそこには昴へと駆け寄る影が一つ――。繰り出された蹴りが昴の顔に直撃し、昴の身体は派手に吹っ飛んでいく……。その身体を駆け寄ってきたアクティが支え、二人は同時に見たのだ。そこに居る男の姿を――。

 黒衣に身を包んだ長身の男は目を瞑り眠るミュレイの身体を抱き上げ、眉間に皺を寄せて震えていた。弟――タケル・ヨシノと呼ばれた少年だった男は昴を見やり、それからミュレイの身体を揺さぶった。


「姉さん……姉さん! しっかりしてよ……僕の……僕だけの、ミュレイ姉さん……っ! ああ、くそう……こんなに血まみれになって……かわいそうに――着物が汚れちゃったじゃないかぁっ!!!!」


「昴、大丈夫!? あいつ……な、何? よくわかんないけど……滅茶苦茶だよ……」


 探査能力に優れていなくとも、アクティは直感的にその恐ろしさを実感した。昂ぶる感情に反応しタケルの全身には術式の紋章が浮かび上がっている――。血走った瞳から涙を流し、肩を震わせて怒りを湛えた目で昴を睨む。そうしてミュレイをそっと下に下ろすと、頭を抱えて絶叫した。雨が降り始めたインフェル・ノアの上、タケルはその髪を振り乱して呼吸も荒く叫び続ける。


「姉さんが……僕の姉さん、姉さん姉さん姉さん、あぁあああああああああああッ!!!! ちくしょう! ちくしょう、くそ、くそ、くそがあッ!! 昴ぅううううう……! てめえ、よくも姉さんを……動かねえだろがよお、クソがあああああッ!!」


 黒い魔力が一斉に解き放たれ、インフェル・ノアの空に黒い光の柱が立ち上る――。闇の波動はただそれだけで昴とアクティを吹き飛ばし、二人はなんとかやっとの思いで外廓にすがり付いていた。


「許さねェ……。その身体を刻んで刻んで、刻みに刻んでガリュウに取り込んで復元してからまた切り刻んで、それを百日続けてやるよクソ女……!! せっかく人が今日まで面倒見てやってたってえのに恩を仇で返しやがって……ッ!! あぁああクソッ!! 絶対にブチ殺してやる……ラクに死ねると思うなよ……!!」


「す、昴……やばいよ……に、逃げた方が良くない……? 何なの、あれ……! ただの魔剣使いじゃない……」


「…………アクティは……逃げて」


 昴は唇を噛み締め、立ち上がる。ユウガを再構築し、それを握り締めて前へ……。血走った瞳のタケルはガリュウを召喚し、まるで獣のように大地を這うようにして襲い掛かってくる。予測不能な軌道からの斬撃を受け、昴は必死で剣を振るう。アクティが昴を援護しようと魔剣を構えるが、ガリュウの瞳がそれを捉え、口を開いてそこから光を放った。アクティ目掛けて放たれた光の矢は魔剣で防御したものの、少女の身体をずたずたに傷付け、雨の中にその小さな体躯を倒してしまう。


「アクティッ!?」


「余所見してんじゃねえぞコラァアアアアアアッ!!!!」


 振り下ろされるガリュウとそれを迎撃するユウガがぶつかり合い、激しくスパークする。何度も火花を散らしながら攻防は続くが、常に攻めの主導権はタケルにあった。その激しい猛攻を前に昴はただ受けに回るしかないのだ。ガリュウの一撃は重く、受ける度にユウガの刀身に皹が広がり、それを握る昴の手からは血が流れていた。


「タケル……? タケルなのか……!?」


「人の名前を気安く呼んでんじゃねえよ売女がッ!! 俺の姉さんを殺しやがって……絶対に許さねえッ!!」


 防御しようとした昴の腕を掴み、ガリュウがそこに喰らい付く――。肉ごと、骨ごと、ガリュウは噛み砕いて引きちぎった。昴の右腕は無残に擡げ、既に剣を持てる状態ではない。殆ど皮一枚でぶら下がったような状態であり、止まらない血と痛みというより激しい熱に似た感触が昴を襲う。タケルがその隙に剣を鎧へと叩きつけるとあれだけ強固だった白神装武は砕け、白い鎧の破片が舞い散るのであった。

 更に繰り出される蹴りが昴の脇腹に減り込み、ごきりと嫌な音を鳴らす――。体中を血が逆流するような奇妙な感触と同時に口から一気に吐瀉物と同時に血が驚くほど飛び出してきた。空気が抜けるようなかすれる音で呼吸をする昴の左足をガリュウが襲い、大地ごとその足を抉り去っていく――。立つ事もままならず倒れた昴の肩に刃を突き刺し、ぐりぐりと上下に動かしながらタケルは昴を踏みつけた。


「…………弱すぎだろ、雑魚がよぉ……。雑魚の癖に……雑魚の分際で……俺の姉さんを……姉さん……ミュレイ姉さん……大好きな、僕の姉さんッ!!!! なんでテメエみたいな糞以下の糞女に殺されなきゃならねえんだよ、あぁあッ!?」


 倒れた昴は口と鼻から絶え間なく血を流しながらも、残された左腕を剣へと伸ばしていた。タケルはそれに目を見開き、笑いながらガリュウを更に肩に深く食い込ませていく。信じられない激痛に最早悲鳴なのかなんなのか判らない奇妙な声を上げ、昴は気を失った。しかし直ぐに痛みのあまり目を覚ましてしまう。タケルは剣から手を離し、昴の首へと両手を伸ばした。そうして握り締めた細く白い首へと思い切り力を込め、鈍い音と共に骨を折ってみせる。昴はそれでまた気を失い――今度は直ぐに目を覚ます事は無かった。

 死んだと……そう思った。どう考えたって勝てる相手ではなかったのだ。だが心のどこかでこうして無残に殺される事を望んでいる自分が居たのかもしれない。護るべき人をその手で殺めてしまった空しさ、後悔……。この程度で全てが許されるなどとは思っては居ない。だが、これで少しは罰を受ける事が出来たのだろうか……。

 意識が途切れた。何も無くなった。死ぬ――――――。そう考えた時だった。昴の心の中は極限まで研ぎ澄まされていた。何もかも失ったと思ったその瞬間に、心の中で蘇る鮮やかな色……。真っ白な世界が急に茜色に染め上げられ、幼き日の夕暮れの中に彼女は立っていた。

 そこには彼女へと手を差し伸べる兄の姿があった。兄は昴の手を握り締め、それから問いかけるのだ。“どうした?” “なんでへこたれてる?” そうやって笑うのだ。昴は目を瞑り、それから寂しげに微笑んだ。何故だろう? 今はとても心が穏やかだった。彼は自分の所為で死んでしまった……失ってしまった大切な人。そして今またそれを繰り返している。

 一度は何も出来ず、二度目も何も出来なかった。だから今度こそはと三度目の正直で白騎士となった。しかしそれで何が出来たというのだろう……? 結局ミュレイは護れなかった。やり直しても結果は結局ここに落ち着いた。もう、戦う事が嫌になってしまった。疲れてしまったのだ……。膝を抱え、座り込む。夕暮れを背に、兄の顔は見えなかった。もう、思い出す事が出来ない彼の顔……。兄はそれでも心の中に生き続けている。

 何の為に戦うのだろう……? 何の為に生きたのだろう……? 全てがもしも無意味だったのならば、こんな優しい記憶なんて思い出させないまま無慈悲に殺して欲しかった。涙を流し、世界の中で一人震え続けた。そんな昴の肩を叩く人の姿があった。紅い着物に身を包んだ、紅い瞳の君……。ミュレイは膝を抱えた昴を背後から抱きしめ、優しく頬を寄せる。昴はそうしてミュレイの声を聞いた気がした。ミュレイの存在を確かめた気がした。その刹那――――唐突に何もかもがどうでも良くなり……。


「…………そうか、やっと判ったよ……ミュレイ。わかったんだ――お兄ちゃん」


 死んだと思った昴が目を見開いた。一度は止まった心臓が激しく動き出す。昴は見開いたその瞳でタケルを捉え、その首を片腕で掴む。一瞬怯んだタケルを謎の白い光が弾き飛ばし、男は遥か彼方で白煙と共に停止する。その身体は凍て付き、タケルは黒い炎で氷を溶かしながら昴を見やった。

 足を失い倒れていたはずの昴がそこには立っていた。破魔剣ユウガの刀身が巨大化し、斬馬刀へと姿を変える。同時に刀身が巨大な光を発し、昴が伸ばした千切れかけた腕がまるで“巻き戻し”の映像のようにするすると修復されていく――。気づけば五体満足に戻った昴は顔を挙げ、目を見開いて笑顔を浮かべた。それは気弱な少女が……。たった今最愛の人を失った少女が浮かべる笑顔だとは思えないほど清清しく、力強い笑顔であった。


「これが……魔剣の本当の意味……! これが私が抱える大罪なんだ……っ!! ミュレイ、私は自分勝手だよお~~~~っ!! 判ったんだ! 判ったんだよお!! ふふ……アッハハハハハハハッ!!!!」


「…………テメエ、何笑ってやがる……ッ!! 姉さんを……姉さんを殺しておいてえええええええええッ!!」


「違うね……。それは……ミュレイが勝手に死んだんだよ――ッ!!!!」


 昴の姿が消え……直後、上空に煌く白刃があった。厚い雲が割れ、合間から月明かりが差し込んでくる。背を背中に浴び、昴はタケルへと襲い掛かった。ガリュウは一撃で両断され、タケルの身体にまでダメージは貫通する。半身を殆ど切り落とされかけた瞬間その肉体を修復するが、昴は着地と同時にタケルの首を刎ね飛ばした。

 血飛沫をシャワーのように浴びながら昴はうっとりとした表情で刀に付いた血を舌で舐め取った。こくりと音を鳴らして唾と一緒に飲み込んでみる。それはとても甘美で、とても苦々しく、そしてうっとりするほど下らない有象無象の味がする――。昴はその刃に付いた血を振り払い、そして目を瞑った。


「ミュレイ……大好きだ……。ミュレイ……貴方を愛してる……。もう、他の事はどうでもいいや。絶対に生き返らせてあげるからね、ミュレイ♪ 何回でも何百回でも♪ 別にい~~もん、こんな世界どうなっても……。勝手に滅べぶなりなんなりすりゃいいだろ」


「テメ……ッ!?」


 首を繋げると同時に再びガリュウを構築するタケル。その剣を空に掲げ、封印していた魔力を一気に解き放つ。しかしそれと全く同じ構えを取った昴の口から出た言葉に――タケルは戦慄するのである。


「「 コード“剣創ロクエンティア”……発動ッ!! 」」


 同時に世界に白と黒の光が瞬いた。雨雲を吹き飛ばし、衝撃はレコンキスタの街へと広がっていく。その力の渦の中心で昴は蒼炎を纏ったユウガを揮い、白い甲冑に全身を包み込んで立っていた。


「…………神に干渉……!? まさか……到達したってのか……自力で……! 自分の罪を受け入れて……ッ!!」


「私は無能なんだ、タケル。君の言うとおり糞以下の女だよ……。でもそんな事はどうでもよかったんだ。全ては些事なんだよ! 私がミュレイを愛しているというたった一つの真実以上の物なんて何もない! 世界も! お前も!! たとえミュレイ本人も!!!! 私の“愛”は絶対不可侵――ッ!! 到達した! 自分の真実に……この“愛”にッ!! ああ、ミュレイ……愛してる! 好きだ! ずっと傍に居たい……ずっとずっと傍で、貴方を見ていたい……。だから、他の事はすべて切り払う。我は我が大罪の代弁者にして我が正義を問答無用で刻むのみ……ッ!!」


「そんな付け焼刃で……俺様に敵うとでも思ってんのかよォオオオッ!! 思い上がってんじゃねえぞ、ド素人の糞女がッ!!」


「ミュレイが好きだ! 大好きなんだ!」


「人の話を聞けってんだよおおおおおおおッ!!!!」


「お前の事なんてぇ! どぉおおおお~~~~でもいいんだよォオオオオオオオオッ!!」


 相反する二色が激突し、空に光が立ち上った。眩い魔力の炎の中、昴は目を見開き高らかに笑う。血走った眼でタケルはそれに応え、二つの異形は激しく対の力をぶつけ合い、空に想いを轟かせるのであった――。




大罪(1)




 降り注ぐ剣の雨――それを昴はすべて破魔の力を切り払う――。そも、この二人の相性は圧倒的に昴に傾いているのだ。魔剣を生み出す能力と、その魔剣を一切破壊する能力……。昴は笑い声を上げ、楽しそうに剣の乱舞を繰り出す。四方八方から襲い掛かってくる剣を一つも打ち漏らす事無く迎撃するその様子にタケルは舌打ちし、ガリュウを構築し炎を纏わせて襲い掛かった。


「俺の姉さんを……姉さんをよくもおおおおおッ!!」


「違うね! ミュレイは私のモノだ!! お前のじゃないッ!! 私のだ!!」


「いいや、俺の姉さんだッ!!」


「私のなんだよ! そう決めた、今決めた、私が決めたあああああああああああッ!! ミュレイ、好きだ……好きだあああああああああッ!!」


 近づいてくるガリュウの切っ先にユウガの切っ先がすんなりと食い込み、すっぱりと音を立てて綺麗にガリュウは縦に両断された。すれ違うと同時に反転した昴は笑顔のまま太刀を上段に構え、切り裂いた魔剣たちの魔力をすべてユウガに収束し、それを纏めてタケルへと叩き返す――。

 “鳴神”――。ユウガが持つ破魔の技の一つが炸裂し、インフェル・ノアの外廓は半分以上がその一撃で吹き飛ばされ、空飛ぶ居城は大きく傾いた。あまりのダメージに浮遊を続けられなくなった城はゆっくりと下降を開始する。上半身が吹っ飛び、下半身だけが残って倒れているタケルに背を向け昴はミュレイを抱き上げ、恋する乙女のように頬を赤らめながらその頬に自分の頬を寄せた。


「…………ミュレイ、大好きだよ」


 城が落ちていく――。そんな中昴は走り気絶しているアクティを拾って跳躍する――。空中に停止した時間のレールを敷き、一気にレコンキスタの街へ――。タケルの上半身が再生する頃には既に昴の姿はどこにもなく、タケルはガリュウをインフェル・ノアに突き刺して空に吼えた。その一撃で更にインフェル・ノアが傾き、失速し始めたのは誰も知らない真実である――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ