ロマンス(3)
「しかし、既にお祭り騒ぎの最中だったとはな……ッ!!」
転送魔術によりインフェル・ノア内部に潜入したホクトたちは地下部へと向かい走り続けていた。ミュレイが囚われている牢屋へと続く道へと最短ルートで走る彼らだったが、その行く先には次々に剣誓隊が立ちふさがる。先頭を走るホクトがガリュウでエクスカリバーの所有者達を一気に薙ぎ払うが、ぞろぞろと現れる敵の機動兵器と騎士たちを前に流石のホクトも疲れ気味だった。
「こいつは骨が折れるな……。しゃあねえ、手分けするか……」
「手分けでござるか? しかしどのように……?」
「牢屋を探さなきゃならねえからな……。とりあえず俺はこのまま内部で剣誓隊をぶっ潰す。丁度いい機会だからな、姫様の救出はお前らに譲ってやるよ」
「ホクト、何を勝手な事を!」
「そっちにゃイスルギも居るし、それにシェルシ……お前だって強くなったんだろ? せっかくメリーベルに調整してもらったんだ、調子のいい内にガリュウで連中を駆逐する」
駆け寄る機動兵器が放つミサイルを切り払うと同時に影で分解し、次々と放たれる弾丸の雨を大剣を高速回転させて防ぐ。反撃で剣を投擲しながらホクトは爆風を受け白い歯を見せ笑った。
「兎に角俺は俺の好きにやらせてもらうぜ。俺が派手に暴れれば暴れるほどそっちもやりやすくなんだろ!?」
「…………。まあ、確かに……。わかった、私たちはミュレイを探す。ホクトはこのまま時間を稼いで」
腕を組んだメリーベルがそう呟くとシェルシは不安そうな目でホクトを見やった。その隣に並んだイスルギは魔剣を召喚しその手に構え、ホクトへは視線を向けずに敵を見据えて言った。
「任せても構わないんだな?」
「そっちこそ、姫をちゃんと護れよ」
男二人はそれ以上言葉を交わす事はなかった。二人は勝手に納得して別々の道を歩き始め、残った三人は互いに顔を見合わせて各々のリアクションを返した。メリーベルとウサクがイスルギに続いていき、残ったシェルシは何かを決意するかのように頷いてホクトの背中を叩いた。
「必ず迎えに戻ります。だから、死なないで下さい」
「俺を誰だと思ってるんだ? 俺は魔剣狩りのホクト君だぜ? そっちこそ、勝手にくたばるんじゃねえぞ」
シェルシの頭をくしゃくしゃと撫で、ホクトはガリュウを肩に乗せながら走っていく。通路の向こうで爆発が起こり、轟音が鳴り響いた。それに背を向けてシェルシは迷いを振り払うかのように走り出す。
当たり前のように、彼女はホクトについていきたかった。けれども今やるべき事はミュレイの救出である。そしてホクトについていったところで自分は足手まといでしかないということを彼女は理解していた。共に戦えぬのは悔しかったが、しかしいつかは並んでみせると誓った。ミュレイを救出さえすれば、ホクトのところに行けるだろう。今は逸る気持ちを抑え、ミュレイを探すしかない――。
「…………さあ、ミュレイさんを探しましょう。この世界の……希望を絶やしてしまわない為に――!」
一方その頃、インフェル・ノア外廓通路――。ガルガンチュアが飛ぶ空の下で魔剣を構えながら走るアクティの姿があった。昴は猛然とアクティへと襲い掛かり、取り付く島も無い。剣による射撃攻撃を続けるアクティだったが、剣の閃光は次々に昴に切り払われてしまう。
間合いを詰めて昴が放ってきた氷結の衝撃を魔剣で防ぐが、アクティの足元は風が吹きぬけると同時に凍結する。マントと髪が一瞬で凍りつき、あまりに急激な温度の低下に苦しみながらも昴の追い討ちの斬撃を防御する。
「昴ッ!! ねえ、昴聞いてよ!! ボクだよ……わかんないの!? ボクたち、昴を助けに来たんだよっ!!」
「侵入者を排除……抹殺する。それが私の役割だ」
翳した昴の掌を中心に時空が歪み、放たれた衝撃でアクティは魔剣ごと弾き飛ばされる。凍った皮膚が剥離し血が流れても少女は諦めず、落下してくる魔剣をキャッチしてそれに片手を翳した。
「モードチェンジ……! リロード、“ダガーバレット”ッ!!」
ライフルの形状をしていた魔剣は光に包まれ、アクティの手の中で形状を変化させる。二丁の拳銃の姿になった魔剣を同時に昴へと向け、その引き金を連射する。次々に放たれる剣――それを薙ぎ払い、昴は刀を逆手に構えて思い切り振り下ろした。
遠距離から放たれる、魔力による斬撃――触れる全てを凍結させ砕く刃……。アクティはそれを横に回転しながら回避し、反撃で引き金を引き続ける。二人は互いに踊るように距離を近づけ、何度も攻防の度火花と閃光が瞬いた。
「目を覚ましてよ、昴ッ!! 昴は何の為に戦ってるの!? ミュレイを護る為なんでしょ……? 皆を護るって言ったじゃんかッ!! なんでそうなっちゃうんだよお、昴――――ッ!!!!」
「――――死ね」
アクティの叫びに耳を貸さず、昴は至近距離で刃を振るう。その閃光は見事にアクティの首を刎ね飛ばす――はずだった。しかしそれは叶わない。昴が放った斬撃は、突如乱入してきたミュレイの扇により受け止められていたからである。
至近距離で刃を交え、見詰め合う姫と騎士――。昴が破魔の力を発動し、炎魔剣ソレイユごと自分をを斬り殺そうとしていることに気づき、ミュレイは身を離すと同時に昴の鎧に触れた掌から火炎を放つ。まるで砲撃でも受けたかのように炎を巻き上げながら昴は吹き飛び、外廓の上を転がりながら燻った。
「ミュレイ……ヨシノ……」
「昴……」
二人は見つめあい、そして昴はゆっくりと立ち上がった。白神装武の力に護られている昴はあの程度の攻撃では倒れない――それは判りきっていた事だ。ミュレイは悲しげに視線を伏せ、眉を潜めた。握り締める拳――こんな事になってしまったのは誰かの所為というわけではない。全ては必然的、しかしそこにあえての責任を問い、所在を明らかにするとするならば……それはきっとミュレイ・ヨシノ、彼女の胸の内にあるのだ。
昴を召喚し、昴と共に戦い、彼女と心を通わせ共に在り続けてきた――。それら全てを間違いだったと否定したくは無い。だが事実として、ミュレイさえ何もしなければ昴はこんな目には合わなかったのだ。もしも、もっとミュレイに昴を護れるだけの力があれば……。もしも、昴が戦いなどしなければ……。もしも、もしも……彼女がこの世界に現れなければ――。全ては過ぎ去った過去の事。思い返したところで意味などない、終わった事だ。だが……。
黒い風が二人の間を駆け抜けていく。ミュレイはそっと目を閉じ、直ぐに開いたその時には既に甘さも弱さも捨て去った強い目をしていた。片手を翳し、そして振るうようにして扇を開く――。剣の名を持ち炎を操る大魔道の力……。今それを彼女に向ける事に、迷いなど何一つ存在しない。
「すまぬな、昴……。わらわにはこうする以外……これ以外に思いつかぬ……。のう、昴……? わらわはな、妹一人救えなかった愚かな女じゃ。昴、お主の事も救えぬかもしれぬ。じゃが仮にそうだったとしても……わらわは」
天に光、炎の剣を翳す。究極の力を持った魔剣使い同士の戦い――。ヨシノの力を継ぐ者たちの戦い。白騎士は剣を両手で構える。ミュレイは振り上げた炎の力を振り下ろし、その真紅の瞳を輝かせる。護るべき者、護られるべき者、すれ違うそれぞれの想い……。今は戦うしかない。それ以外に何も思いつかないから。だから、戦うしかない。
ミュレイが炎を巻き起こし、昴は破魔の力でそれを叩き割る。ミュレイは息つく暇もなく次々に魔術を発動し、炎の嵐が昴へと襲い掛かる。外廓全体が紅い光に包まれる中、昴は低空で跳躍し、全てを薙ぎ払うかのようにその白き光を振り回すのであった……。
ロマンス(3)
『…………。お前か……ステラ』
ハロルド王が座する玉座の前、歩く小さな影が一つ……。顔を上げたのはうさぎの少女。彼女は巨大な黄金の王を見上げ、それから寂しげな笑顔を浮かべた。王は目を細め、玉座の上で頬杖をつきながら少女を見下ろしていた。
「…………久しぶりなの、ハロルドちゃん……」
『ほう……? 今の貴様はステラか……? それとも……“彼女”なのか?』
「うさはうさだよ。どっちでもないの。ねえ、ハロルドちゃん……もう、終わりには……。もう、全部終わりには……出来ないのかな……?」
『何を今更……。全てはアニマの器の……ハロルド・ロクエンティアの為に存在する。この物語は彼女が見る夢なのだ、ステラ……。全ては夢に始まり、夢に終わる……それが自然の摂理』
「でもっ! ハロルドちゃんだって本当はこんな事したくないんでしょっ!? うさ、わかるの! うさは……ハロルドちゃんと同じだから……っ」
胸に手を当て、うさ子は叫んだ。そうしてゆっくりとハロルドに歩み寄り、耳をぺったんこにへたれさせながら王を見上げる。その瞳は涙で潤んでいた。ハロルドは一度目を瞑り、それから優しげな目で唸る。
『……もう取り返しはつかぬのだ……。余の目的は、ロクエンティアの開放……それ以外に何もない。名にもないのだ、ステラよ。貴様も余も、ただそのためだけに生み出された……』
「ハロルドちゃん……。皆で仲良く……皆で、仲良くにこにこ手をとりあってね……。そういうの、とっても素敵なの……。あったかくて、気持ちよくて……! ハロルドちゃん、判ってほしいのっ! うさはね、ステラはね……っ」
『もう、良い……。さあ、ここを立ち去るが良い偽りの器よ……。さもなくば余は貴様を斬らねばならぬ。出来れば同胞の血など見たくはない』
祈るように呟き、王は立ち上がった。それと同時に部屋全体を被っていた隔壁が一斉に上がり、ミレニアムシステムが露となる……。中心部に現れた水槽の中、金色の光の中で浮かぶ幼い少女の姿……。その少女はゆっくりとその目を開き、口から泡を吐きながらうさ子を見据えた。
『余はシステムと一つになり、既に百年……。もうどこにも帰る場所もなければ、他に成すべき事もないのだ。この場を離れれば数刻と持たず倒れるこの身に一体どんな希望がある? ステラよ。ステラ・ロクエンティアよ……。全ては遅すぎたのだ。時の針は戻らぬように、その流れを留める事は最早叶わぬ』
「ハロルドちゃん……」
『さあ、立ち去るのか……それとも余とやりあってみるか? いかにアニマの器とて、余の“魔剣”には勝てぬぞ』
うさ子はしょんぼりした様子で俯き、ぽろぽろと涙をこぼした。ハロルドはそんなうさ子へと剣を向け、切っ先に悲しみをの色を宿して静止していた。それから永久にも、無限にも等しい時間が流れた。張り巡らされた水槽に浮かぶ、沢山の記憶――。うさ子と呼ばれた少女が失い、そしてこの半年の間に思い出した事……。ハロルド王の、罪を背負った一人の王の物語……。
記憶は波に流されてしまう。事実はただ時の経過という事だけを経て想い出に変わってしまう……。どんなに大切な事も忘れてしまえばただの失われた記憶の残滓に成り下がる。もしも、もっと早く……。もっと早く、うさ子という意思が生まれていたのならば……この孤独な王を救う事が出来たのだろうか――?
少女は両手で涙を拭い、唇を噛み締める。それでも涙を留める事は出来なかった。ぽろぽろと、ただ零れ落ちる光の雫……。ハロルドは優しげにそれを見つめ、刃を下ろす。
『さあ、戻りなさい……ステラ。君の居るべき場所へ……』
「駄目だよ……。駄目駄目、駄目なの……。うさはね……決めたの。もうね、誰も悲しまない世界が欲しいの……。誰かが泣いたり、苦しんだり、憎しみあったり……そんなのはもういらないの。悲劇なんかいらないのっ」
『ステラ……』
「だからうさはね、戦うの……っ! うさはね……悪いうさだよ……。何にも出来ない……ただのうさだよ。でもね……ハロルドちゃん? きっとそれでいいんだよ。うさたちはっ! それでも生きていたいんだよっ!!」
うさ子が両腕を広げると同時にその腕に魔剣ミストラルが構築される。だがそれは今までのミストラルとは違っていた。より鋭く、より美しく――。少女の肩からは二対の光の翼が生えていた。うさ子は涙を流しながらその両手の指を固め、拳を作る。
「ハロルドちゃん、ごめん……ごめんなの。うさはね、馬鹿だから……。うさの脳はね、ちっこくてみんなより馬鹿だから……。こんなやり方しか、思いつかないんだ……っ」
『…………ならばそれに応じよう。ステラ・ロクエンティア……貴様を我が障害と認識する。理想の為に我が剣の露と消えよ――友よ』
光の翼を広げたうさ子が走り出す。その拳が瞬く雷を迸らせる――。揺れるインフェル・ノア……。うさ子が雷を放つとほぼ同時、外廓では炎が巻き上がっていた。
次々と魔術を発動するミュレイだったが、昴は破魔の力でそれを尽く無力化してしまう。正面から魔剣で斬りあう事が出来るほどミュレイの剣は戦いに向いた形状はしていない。だからミュレイはただ自分の思いを込めて自分に出来る事をするのだ。炎を一刀両断する昴の……妹の剣を相手にして。
「…………のう、昴……? お主は……本当に強くなったな……。最初は魔剣使いどころか、何も出来ないただの気弱な女子だったお主が……今はここまでわらわを追い詰める」
式神を召喚したところで昴はそれを一撃で分解してしまう――。破魔の力は対魔術戦においては絶対無敵、まるでミュレイに勝ち目はなかった。昔からそうだった。妹のミラと喧嘩をして、ミラに勝てた事など一度もなかった。
昴の剣を扇で防いでも吹き飛ばされ、衝撃波を障壁で防いでも防ぎきれない――。ミュレイは何度も外廓の上を転がりまわり、その全身は傷だらけだった。体中が軋んでもそれでも立ち上がる。そう、諦めるつもりなど微塵もなかった。
彼女との想い出を一つ一つ、痛みの中で何故か悠長に思い返していた。記憶を振り返りながら、戦いの中でミュレイの身体は何度も傷つき倒れた……。それでも心の中にはこんなにも想い出が溢れてくる。どうしようもない、消し去る事など出来るはずのない思い出……。血を吐き、ミュレイは顔を上げる。何故だろう、笑えて来る。こんなにも自分は――弱くて脆い。そしてこんなにも……昴を救いたいと思っている。
「わらわは……何をしてきたんじゃろうな……。何を……成せたと言うのじゃろうな……」
両手を広げ、その手からソレイユが零れ落ちた。昴は一直線にミュレイへと駆け寄ってくる。ミュレイはそれに対し――何もしなかった。抵抗は愚か、防御の姿勢もない。必然、昴の構えた刃はミュレイの胸を深々と貫いた。根元まで突き刺さり、そしてミュレイは昴の身体を抱きしめる。
他に昴を止める方法が思いつかなかった。早すぎる昴の足を止めるにはこれくらいしか考え付かなかった。だから、仕方が無い……。ミュレイは涙を流し、昴の身体を強く強く抱き閉めた。昴が暴れる度に突き刺さったユウガはミュレイの身体を食い破っていく。それでも――それでも構わない。
「昴……今……助けて……やるから……」
昴の身体に直接触れ、ミュレイは術式を発動する――。ソレイユの力を昴の身体に送り込み、昴の全身をくまなく探し回った。するとそれはあっさりと見つかったのだ。昴の身体を意図せぬ力で動かす原因……。その術式に魔力で干渉し、それを破壊する――。光が昴の身体を走り、騎士は悲鳴を上げて身体を仰け反らせた。その苦しみを少しでも和らげてあげられるようにとミュレイは強く、優しく昴を抱きしめ続ける。彼女の紅い衣は気づけばより紅く、濃すぎる命の色に染まっていた。
「あ……あぁ……あ……っ」
「昴……覚えておるか……? 色々な事が、あったなあ……。色々な……どれか一つ選べないくらい、色々な……。全部、楽しかった……幸せだったよ。だからわらわは……なあ、昴……」
血に染まった手で昴の頬を撫でる。ふと、突然正気に返った昴は自分の目の前にミュレイが居る事に気づき、そして一瞬で状況を把握する。信じがたい出来事に思わず絶句する昴……その顔についた傷を撫で、ミュレイは蒼い顔で微笑んだ。
「かわいそうに、こんなに傷だらけにされて……。わらわの可愛い、可愛い昴……。もう、大丈夫じゃ……」
「……ミュ……レイ……?」
「もう、誰も……お主を傷つけさせん。わらわがずっと……ずっと、傍でお主を護るから……。だから……大丈夫じゃ」
「ミュレイ……ミュレイッ!! ミュレイ、血が……剣があっ!!」
「…………お主の声が……好き、じゃ。わらわの名を、呼んでくれる……その、声が……。わらわ、は……」
二人の背後、夜の闇で爆発が起こった。瞬く炎の光に照らされ、影の中で昴はミュレイを抱き上げていた。ミュレイが急に黙り込み、昴の背中を嫌な予感が過ぎった。慌てて肩を揺さぶるも、彼女は何も応えない。
「ねえ、ミュレイ……。ミュレイったら……ねえ……。起きてよ……。目を覚ましてよ……! ねえ、ミュレイ……!! ミュレイ――――ッ!!!!」
昴が絶叫すると同時に、その声を掻き消すように空に再び光が瞬いた――。その瞬きは城内を走るシェルシたちの横顔も照らしていた。シェルシたちの行く先に立ちふさがる女が一人……その顔を見つめ、シェルシは息を呑んだ。あまりにもその顔は似すぎていたから……。探し人に、しかし決定的に違う何か……。蒼いドレスの姫は冷めた微笑を浮かべ、血の雫をこぼしたように赤い瞳で言った。
「こんにちは、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ……」
「貴方……は……?」
「初めまして……ではないんだけどね。幼い頃に会っているわ、何度か……。でも、きっと忘れてしまっているのよね。だから名乗ってあげる。貴方の為にも、私の為にも……」
女はその手の中に魔剣を召喚し、それを振り回す。力を加えられた刀身は無数に間接を分離させ、まるで鞭のように撓って大地を打った。女はまるでそうする事が自然な事であるかのように、笑顔とはかけ離れた刺し殺すような威圧感を湛えた笑みで、その名を口ずさむ。
「私の名前はミラ……。ミラ・ヨシノ。“改めまして”、シェルシ。これからどうぞ、よろしく――」
闇の中に再び光が瞬き、二人の横顔を照らし出す。ミラは目を細め、ゆっくりと靴音を立てて歩み出した。そこに感じるものは単純な恐怖――そして、言葉では形容不可能なただならぬ殺気であった――。