地獄と呼ばれた場所(2)
「アンダーグラウンドが、何故地獄と呼ばれているのか……貴方は知っていますか?」
一日の大半を支配する砂の海の上、ガルガンチュアは静かに進んでいる。船上部にあるバルコニーには潜航の名残である排除し切れなかった砂が残り、シェルシの足音をより大きく闇に響かせた。
風が優しく吹き続け、シェルシの髪は靡き続けている。萎びた煙草を口に咥え、その隣でホクトは手すりに背を預けて空を見上げていた。煙は風と共に流れて去り、シェルシは言葉を続ける。
「それは、誰もアンダーグラウンドの事を知らないから……」
アンダーグラウンド。それは、六つしかない界層の中、最下層とされるオケアノスよりも下に存在する、謎の地下領域である。
そこへ送られるのは帝国に反逆した罪人たちと、それを監視する為の騎士だけである。一般人にとってアンダーグラウンドの存在は非常に不透明であり、そこに送られた人間は誰一人戻ってくる事はない。故に人々は未知の領域であるアンダーグラウンドを恐れ、そこに送られることを死と同義に感じていた。
恐怖と畏怖は連なり、地下にある世界に対し人々は自然と地獄という言葉を用いるようになった。それは決して不自然な事ではない。誰も、その存在を証明出来ない――。少なくとも、そこに足を踏み入れない限りは。
「貴方たちは、アンダーグラウンド送りになった罪人たちを助けたそうですね」
「結果的にそうなっただけで、助けたつもりはねぇけどな」
「……ですが、結果的には。そうなったのでしょう? 助けた罪人たちは、何処へ……?」
「さてね……。そのへんは、俺じゃなくてロゼのほうが詳しいんじゃないか?」
そう片目を閉じて笑うホクトであったが、実際の所彼は助けた罪人たちがどうなったのか、知っていた。ガルガンチュアに乗せられた罪人たちは、カンタイルの町に放たれたのだ。勿論、重罪人は然るべき処理を行った。しかしあの列車に積み込まれていた罪人の殆どは、反帝国思想であると判断された一般人なのである。
帝国は、反帝国思想の人間に対して一切の容赦をしない。慈悲はなく、反論や言い訳を聞くつもりもないのだ。反帝国思想である可能性さえあれば、それだけで大罪人として扱われる事となる。
カンタイルでは当たり前のように存在している反帝国主義者たちも、表では別の顔を持っている。砂の海豚が何でも屋同然の組織として活動しているように、表立って反帝国活動をしている組織は非常に少ないのである。
ロゼの目的は、そんな反帝国主義者たちの救出と帝国の計画の阻止であった。結果、列車に乗せられていた罪人の半数以上が砂の中に沈み……しかし生き残った罪人たちは救出することに成功した。その成果を成功か、或いは失敗かと判断するのは難しい所である。少なくとも計画した本人であるロゼは納得していない様子だった。
冷たい風の中、シェルシは長い金髪を風に靡かせ憂鬱さを湛えた瞳で世界を見つめている。風の向こう、まるで誰かがそこに存在しているかのように……。白い、見覚えのない装束が風に尾を引いている。ホクトは煙草を片手に身体を起し、シェルシを見つめた。
「風邪引くぜ。こんなクソ寒い中、ぼんやりしてたらよ」
「……それは、貴方も同じ事でしょう?」
「俺は船内禁煙だからしょうがなくだ。そろそろ潜航の時間になる。どっちにしろ、戻った方がいいぜ」
「あの――」
歩き出したホクトの背中、そこにシェルシは声を投げかけた。男は煙草を指先で弾き、砂の海の中に放り込む。その行いは決して褒められた事ではなくシェルシは一瞬眉を潜めたが、諦めたのか言葉を続けた。
「どうして私がアンダーグラウンドに行きたいと言い出したのか……不思議には思わないのですか?」
「不思議だな」
「……理由を、訊かないのですか?」
振り返り、首をかしげるホクト。それから少しの間考え込み、シェルシへと歩み寄る。
「訊いて欲しいのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「だったら訊かないさ。話したくなったら話せばいい。君は俺のクライアントなんだ。必要なことを、必要なだけ求めればいいさ。違うか?」
全くの正論である。しかしシェルシは納得の行かない様子だった。が、いつまでもここで話しているわけにもいかない。ホクトは艦内の掃除を命じられており、現在絶賛サボり中なのである。
再び艦内へと続く扉に向かって歩き出すホクト。今度はもう、シェルシもそれを留めるようなことはしなかった。振り返り、再び砂の海を眺める。この界層は――余りにも寂しく、冷たく……物悲しすぎる。
ホクトが吸い込まれていったガルガンチュアの口へとシェルシもゆっくりと降りていく。迷いは勿論、消えたわけではない。
ガルガンチュアがカンタイルを出港して三日目――。事の発端は、クライアントであるシェルシが口にした、一つの我侭であった――。
地獄と呼ばれた場所(2)
「アンダーグラウンドに行きたい……?」
食事時、食堂に集まって砂の海豚のメンバーたちが食事を取っている時の事である。突然、シェルシがそんな事を言い出したのである。
アンダーグラウンドと言えば、当初からシェルシの目的地であった。何しろそこに忍び込む為にあの列車の中に潜んでいたのだから。しかしその事実は伏せられており、彼女はこれからもそれを話す予定はなかった。
事情は、誰にも話せない……。本当の事を話せば彼らがどんな顔をするか判った物ではない。彼女に求められているのはこの状況の中、いかに彼らを騙し、ただのクライアントとしてアンダーグラウンドに潜入するか――その一点に尽きると言える。
一方、ロゼとリフルはどこかその突拍子もない言葉に対して眉を潜めつつも、納得しているような節があった。さて彼らがシェルシの企みに感づいているのかどうかはともかくとして、クライアントからのお願い事である。当然、無碍にするわけにもいかない。
しかしそんな探りあいにも近い状態が続く食堂の中、二人だけ暢気に食事を継続している者が居た。白い耳をぱたぱたと上下させ、幸せそうに目に星の輝きを宿している少女が一人。その隣で煙草を咥えている男が一人である。
「んで、そのアンダーグラウンドってのは……何だ?」
全く状況についていけないのも無理はない。ホクトは記憶喪失なのである。見かねたようにリフルが溜息を漏らし、目を瞑る。
「アンダーグラウンドとは、第六界層オケアノスよりも更に下に存在する、いわば第七の界層の事だ」
「へぇ、そんなもんがあったのか。でもロクエンティアは、六番目までの界層しか存在しないんじゃなかったか?」
「アンダーグラウンドは“界層”としてのナンバリングを受けていない。帝国の方針でな。尤も、あそこはナンバリングを受けていようがいまいが、あまり関係がないのだが」
アンダーグラウンド――。それぞれの界層を一番目から1G、2G、3G……と略して表記するこの世界において、アンダーグラウンドのコードは“UG”で通っている。UGが界層としてのナンバリングを受けていないのにはいくつかの理由があるのだが、その中で最も大きな理由として上げられるのが“他の界層との差別化”である。
UGには街と呼べる施設は存在せず、古よりそこは“地獄”であると語り継がれてきた。実際にUGに立ち入る事は帝国によって禁じられ、送り込まれた罪人たちはそこで強制労働についているだとか処刑されているだとか、様々な噂が存在するがその実体は未だ不透明である。
そんな通常の世界とはかけ離れた場所――地続きの地獄としての演出であり、UGという名前はそれに相応しいのである。制定したのは帝国だと言われているが、結局の所帝国の一部の人間以外にUGがどうなっているのかは判らないのである。
「特に、反帝国主義者はUG送りにされる事になっている。人々は迷信的なUGの存在を未だに恐れ続けている……。UG送りは、反帝国主義者を押さえ込むいい薬でもある」
「それで地獄なんて演出されてるわけだ。実際は地続きなんだから、地獄も天国もあったもんじゃないんだろうけどな」
「確かな事は、UG送りになって無事に帰ってきた人間は一人も居ない……それだけだ」
語り終え、リフルはグラスに注がれた水を一気に呷る。緊迫した空気の中、うさ子がもぐもぐと口を動かす音だけが響いていた。
「……お前、全く緊張感ないのな」
「もきゅ?」
「つか、皆もうとっくに食い終わってるのに、何回もおかわりしやがって……」
「だって、二回まではいいって! いいってロゼ君が言ったもん! 言ったよね? 言ったよねっ?」
「……言ったけど、本当に毎回二回きっちりおかわりするか、普通……」
居候に近い形で居座っているだけなのだから、もう少し肩身の狭い思いをするべきなのだが、うさ子にそうした神経を求めるだけ無駄なのかもしれない。
話が脱線してしまったが、シェルシはずっと肩を縮こまらせたままである。こちらはクライアントなのだから、もう少し偉そうな態度でもいいくらいである。遠慮している……というより、シェルシはずっと緊張した様子だった。おそらく彼女の気が休まった瞬間はガルガンチュアに乗り込んで以来、一瞬たりともないのだろう。
「それで、アンダーグラウンドに行きたい理由というのは?」
腕を組み、ロゼが語りかける。シェルシは背筋をびくりと震わせ、微かに震える声で言った。
「それは……その……っ」
「言っておくけどね。アンダーグラウンドに潜入するなんてのは、馬鹿のやる事だよ。クライアントの護衛を引き受けはしたけど、自ら死にに行くヤツを守る事なんて出来るはずがない」
「おいおい、そんなにヤバいのかよ?」
「ヤバいで済むわけないだろ……? アンダーグラウンドは帝国の騎士団が駐留しているゲートを通過しなきゃ潜入できないし、仮に潜入できたとしても何がどうなっているのか全く判らない場所だ。危険は完全に予測不能……何が出るのかも判らないのに、依頼人を守れるか」
UG関連の情報は帝国により完全に操作されているし、UGへの道は帝国管理のメインゲート以外には存在しないとされている。入ったら誰も出てこられない地獄……そんな所にわざわざ行きたがるのは死にたがりくらいのものである。護衛しろといわれても、地獄の川まで共に渡るのは御免被る――当然の反応だった。
「報酬なら、払いますっ! アンダーグラウンドまで……私を送り届けてくれるだけで構いません!」
「報酬って……。死亡確率の高い依頼がギルドでどれくらいの相場で依頼されてるのか、あんたわかってんのか? それに金額の問題じゃない。そんな依頼、組織全体に関わる事だ」
ロゼの正論にシェルシはぐうの音も出なかった。ただおずおずと引っ込み、項垂れるだけである。
「しかも理由はいえないと来た。バカにしてると思われてもしょうがない」
「そ、そんな事は……」
「おいロゼ……あんま子供を泣かすなよ」
「わっ!? 私は十九歳ですっ! 子供じゃありません!」
十九歳といえばロゼより年上である。見た目的にも小柄なロゼよりは年上なのだが、どうにも世間に関してはロゼよりも無知らしい。少なくとも自分は子供ではないと叫ぶような人間は、どこからどう見ても子供そのものだ。
「十九歳ねぇ……。そりゃ大人だ。うん、大人だとも」
「何故、ニヤニヤしているのですか……?」
「身体は大人! 頭脳は子供! ってか?」
ホクトの視線はシェルシのふくよかな胸元に向けられている。慌てて両腕でそれを隠し、敵意を込めた視線でホクトを串刺しにするシェルシ。ホクトの冗談は一向にシェルシに理解される気配はなかった。
「貴方は……騎士道とは程遠い方なのですね」
「生憎傭兵でね。育ちも多分、あんまりよくない」
「身なりを見れば判ります……! 貴方みたいな人に助けられたなんて……」
屈辱――。言葉にせずともそれは全員に伝わった。シェルシにしてみれば、あの月夜自分を助けてくれたホクトは少なくともヒーローだったのだ。ピンチに颯爽と現れ、自分の命を救ってくれた剣士……と書けば、少女向けのメルヘンな小説にでも出てきそうな男前である。しかし蓋を開けてみればこの通り、ただのスケベであった。期待していただけにシェルシの怒りはより一層である。
そして、そんなシェルシの気持ちを全員それなりに理解しているつもりだった。冷ややかな視線は四方八方から降り注ぐ。ホクトは煙草を灰皿に押し付け、苦笑を浮かべる。
「なんスか……? 皆さん、視線が怖いッスよ」
「兎に角、私をアンダーグラウンドまで送り届けてくれるだけでいいんです! 帰りは構いません! 報酬も支払います!!」
「だったらまずどうやって送り届ければいいのか! しかも帰りは構いませんって、あんた大金を今用意出来ないんだろ!? 報酬はあんたが生きて帰ってこなきゃもらえないだろがっ!」
「それは……! それは、その……」
「ったく、あんた言ってる事が滅茶苦茶だ……。具体的に潜入方法はどうするんだ?」
「それは……!」
シェルシは一瞬ためらったが、少しの間思案しそれから迷いを振り切るように首を横に振った。立ち上がり、机の上に小さな半透明の石を置く。そこには術式が刻まれており、薄い長方形に石は何かの機械部品のようにも見えた。
「――ここに、UGへ通じるルートが記されています」
ロゼとリフルが驚き、身を乗り出した。ホクトもそれに倣って石を見下ろす。ホクトにしてみればそれはなんの変哲も無いただの石なのだが、術式を魔石に刻み込んだ一種の記憶媒体である事は見る者が見ればすぐわかる。
「帝国が使用している通常のゲート以外にも、“シャフト”に侵入する方法はあるんです」
「ロゼ先生、シャフトって何スか?」
「……。シャフトというのは……というか誰が先生だ誰が」
「いちいちツッコまんでいいから、話進めようぜ」
カチンと来たロゼであったが、正論である。仕方がなく周囲を見渡し――長い櫛を一本、テーブルの上から手に取った。そしてそれを徐にうさ子が食べているサラダの中に突き刺したのである。
「あああああああ――――ッ!? うさのトマト――!!!!」
櫛に次々にトマトを刺していくロゼ。その度に悲鳴染みたうさ子の声があがり、最終的に櫛にはトマトが三つ、突き刺さっていた。
「ロクエンティアはこういう世界だ。巨大な櫛に、世界が六つ突き刺さってる」
「…………判りやすくて助かるが、うさ子が目を見開いたまま燃え尽きて真っ白になってるぞ」
「知るかバカ……。で、シャフトというのはこのトマトを刺している櫛に該当する」
ロクエンティアは一つの巨大な塔――シャフトを中心に連なる板状の巨大な世界である。それぞれの界層の中心にはシャフトがあり、シャフトによって世界は支えられているのだ。
現在でこそ各地に上下の世界を行き来する為の装置が開発されているものの、かつて世界はシャフトによってのみつながれていた。故にシャフト周辺では幾度も戦乱が巻き起こり、シャフトを制する人間が天下を制するとまで言われたほどである。
「ま、今じゃ帝国の管理下になっているけどね。シャフトさえ押さえておけば、上下の移動を監視する事も、大規模な世界移動も簡単に行えるってわけ」
「なるほどねえ」
「で、UGが界層の一つに数えられていない理由の一つがここにもある。UGは、厳密にはプレートじゃないんだ。シャフトの中――つまりオケアノスより下のシャフトの中に存在するんだよ」
ロクエンティアに存在する六つの界層は、文字通り間違いなどではない。最下層は第六界層のオケアノスであり、そこから下に世界はないのである。シャフトはオケアノスより下に続いてはいるが、そこにトマトは突き刺さっていないのだ。
「へえ。じゃあ、シャフトに進入さえ出来れば……UGに行けるんだな」
「逆にシャフト以外からは全く進入出来ないから、UGに行くのは難しいという事でもあるんだ。帝国に管理されてるからね」
櫛からトマトを一つ引き抜き、ロゼはうさ子に向かって投げる。うさ子は目を輝かせ、ぱくりとトマトに食いついてみせる。もぐもぐと口を動かすうさ子をドン引きで見つめるシェルシと、呆れたように笑うリフル……。ロゼはトマトを投擲しつつ、話を続ける。
「シャフトは通常、一つの界層に一つしか出入り口が存在しないんだ。だからそのたった一つの道を封鎖するのは帝国にしてみれば凄く簡単な事なわけ」
「はむっ!」
「それは同時に僕たちの侵入が酷く難しいということでもある」
「はむはむっ!!」
「だけどもしも他にルートがあるっていうなら、まあ不可能ってわけでもないかもね」
トマトを全てキャッチし、うさ子は満足げに両手を掲げた。ホクトが笑いながら拍手をし、シェルシがやはりドン引きした様子でそれを見つめている。
「問題は、UGがどうなってるか……だな」
ホクトの言葉にロゼは頷いた。今は兎に角そのもう一つのルートというヤツを解析してみるしかない。記憶媒体を持っていたものの、シェルシはその中に記されている情報を解析できなかったのである。つまり、どうやって行くのかは未だに不鮮明である。
すぐさま媒体の解析をする為にロゼが部屋に戻り、リフルもその後に続いた。残されたシェルシとホクト、そしてうさ子の三人は食堂に残り、解析を待つのであった。
「…………あの……ずっと、気になってたのですが」
「ん?」
「その……うさ……子? の、頭にあるのは……なんなでしょうか?」
「わからん」
「耳……でしょうか? ずっと、動いてるんですが……」
うさ子の耳は犬の尻尾のようである。感情に反応し、まるくなったり伸びたりする。嬉しい時はぱたぱたと上下させて喜びを表現するし、へこたれると耳もしょぼくれるのである。
シェルシは余程それが不気味だったのだろう。恐る恐るという様子でホクトに問いかけてくるのだが、ホクトにだってなんなのかはわからない。そしてホクトは何を思ったのか、突如うさ子の耳をむんずとつかんで見せた。
「な、なんで耳をつかむのーっ」
「あ……耳なんですね、それ」
「耳だよーう!! 耳以外の何者でもないのー!」
「なんか……ぐにゃっとしてる」
「やぁーっ! 耳つかんじゃらめぇーっ!!」
じたばたと暴れるうさ子。暫く楽しそうに笑っていたホクトであったが、うさ子がぐったりしてきたので慌てて手を離した。結局ソレがなんなのかは誰にもわからない。
「だって耳……ちゃんとあるじゃないですか」
シェルシの言うとおりである。うさ子の耳は、ちゃんと人間にあるべき位置に生えているのである。では頭から生えているその物体はなんなのか……大いに謎であった。
「何はともあれ、UG行きになったとしても俺の護衛は継続だ。よろしくな、シェルシ」
「………………」
しかし、シェルシは無視である。どこか不機嫌そうなのも無理はない。シェルシにとって、ホクトは最も嫌悪するタイプの人間である。軽々しく、礼儀知らずで緊張感に欠け、何より女性に目が無いのだ。正真正銘の三枚目である。シェルシは元々男性は苦手だったが、ここまで嫌いなタイプも珍しい。
無言で席を立ち、そのまま立ち去ってしまうシェルシ。それを見送りホクトは求めた握手の手を空しく引っ込めた。ふりかえるとうさ子がお茶を飲んでほっと一息ついている。その緩んだ頬が妙に気に入らず、また耳を鷲掴みにするホクトであった――。
~はじけろ! ロクエンティア劇場~
うさ子「うさ子でもわかる! ロクエンティア教室のお時間だよ~!」
ホクト「…………まあ色々突っ込み所はあるけど、ここは飲み込むぜ」
うさ子「というわけで、このコーナーでは本編で疑問な事を、うさ子が解決しちゃます! 第一弾である今回は~~!! ずばり! ずばり!! “砂の海豚”はなんで“海豚”なのか! です!!」
ホクト「……まあ、なんでイルカなんだろうな?」
うさ子「うんうん」
ホクト「もっと強そうな動物の名前にすればいいのにな」
うさ子「例えば? 例えば?」
ホクト「砂の……サメとか」
シェルシ「いいじゃないですか、イルカ。かわいいですよ」
うさ子「でも、食べられないよ? その点、サメはまだ食べられるところあるし……」
シェルシ「……え、そういう問題なんですか?」
ホクト「なら、砂のクジラとかにすればよかったのにな」
うさ子「!? ホクト君、ホクト君! それはね、名案なのっ!! 早速ね、ロゼ君にお願いしてくるのっ!!」
シェルシ「えぇ!?」
ホクト「で、結局なんでイルカなんだ?」
リフル「私も知らないな。先代の団長の時からこの名前だから、今は亡き先代の団長に話を聞くしか答えを知る事は出来ないだろう。それよりロゼ様に変な事を吹き込むのはやめろ」
うさ子「でも、クジラの方がおいしいよ?」
リフル「……だからどうした」
ホクト「そんなわけで、第一回はここまで! また次回、お会いしましょう!」
うさ子「……でも、イルカって漢字でかくと、すっごく美味しそうだよね!」
シェルシ「えぇ!?」