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Saudade(3)

「さて、実際にミュレイさんをどう救出するか……。結局、戦力はまるで集められないまま慌てて飛び出してきてしまいましたしね」


 第五階層エル・ギルス――。半分が上界層のプレートにより壊滅し、廃退化した世界の中でもまだ列車は走り続けている。ガタガタと揺れる列車の中、相向かいの席に座ったシェルシとイスルギは夜の草原を眺めていた。

 あの日以来、壊れてしまった世界は未だに元には戻せないまま……。シェルシは目を細め、今は亡き故国の事を想う。あの戦いで多くの大切な物が失われてしまった。護りたかった国、故郷、人々、そして家族――。殆ど彼女の大事な物は壊れ、そして大事に想う人もまた彼女を護って消えてしまった。

 ホクトが居なくなった後、重傷を負ったうさ子を担いでシェルシは歩いた。あの瓦礫の中で過ごした時間は生涯忘れないだろう。歩けども歩けども、死と死と死だけが蔓延した世界……。運良くメリーベルの捜索隊に発見されたから良かったものの、見つからなかったならば今はもうあの死の世界の中に埋もれてしまっていた事だろう。

 異形の力……悪意の象徴。ガリュウという魔剣を持っていた男――タケル・ヨシノ。あれがタケル本人ではないという事は判っている。だがそもそもタケルの経歴には不可解な部分が多すぎた。彼はヨシノの血筋ではないし、かといってザルヴァトーレの血筋でもない。どこからとも無く現れ、ヨシノの一族の中に組み込まれていたのだ。

 タケルの事を調べれば調べるほど、彼の存在が怪しく思えてくる。実際に彼の悪意が牙を向いた後にそんな事を知ったところで何の意味もないのかもしれない。だが、せめて知っておきたかったのだ。どんな物にだって理由はあると、そう思いたかった。憎しみや怒り、悪意だけで染め上げられた黒き人の心など、最初から存在はしないのだと……そう信じたかったから。

 姉であり国王であったシルヴィアは死んだ。彼女の存在そのものでもある魔剣を奪って、タケルはホクトと共にどこかへ消えてしまった。だからこそ、彼女はタケルに対する注意を怠らなかった。ホクトが必ず戻ってくると信じているからこそ、彼もまた必ず再び目の前に現れるのだと、そう確信していたから。

 ふと、窓の向こうの世界に手を伸ばした。くすんだガラスに触れる指先は冷たく、世界の夜の冷たさを伝えるかのよう……。光に映る物はすべて幻、だからこそシェルシはそれを懐かしむ。切ない胸の内……。逢いたかった。何としてももう一度、彼に。


「カンタイルから脱出しても、恐らく奴はまだ追ってくるでしょう。いいえ、奴だけではなく……恐らく次々と剣誓隊の刺客の襲撃を受ける事になります。敵にはミレニアムシステムも、探知系の魔剣使いも山ほどいるはずです。逃げ切れるとは思えない」


「…………わかっています。だから、戦って勝ち続けるしかない……そういう事でしょう?」


「これからは些事と思える事全てに目を配ってください。私が貴方を護れるように努力はしますが、それも完璧であるとは言い難い……。出来る限りの用心を」


「今は兎に角、彼女を救出する為に……先手を打ちましょう。このまま逃亡を続けてもいずれは追いつかれ、討たれます。剣誓隊の実力者が出てきたところを見ると、相手も本気ですから」


 今までは特に目立った行動など何もしてこなかったが、これからは違う。あえて危険を冒し、戦わねばならない。もう逃げ回るのはウンザリだったし、それも悪くないと思う。こちらから攻めるのだ。彼ならきっとそうする……そう心の中でホクトの姿を思い描いた。


「まずはローティスに向かい、メリーベルと合流しましょう。彼女もミュレイを救出する為に策を練っているでしょうし……。シェルシ、少しの間ですが休んでおいた方がいい。私が見張っていますから」


「え……? その、大丈夫ですか?」


「列車の中は安全……とは言い切れませんが、ざっと車内の安全は確認してきました。この車両には他に乗客も居ませんし、見張っていますから休んでください」


「でも、イスルギは……? 貴方だって疲れているんでしょう?」


「ローティスについたらちゃんと休みます。さあ、心配なさらずに」


 優しく頷くイスルギの言葉に甘え、シェルシはそっと目を閉じた。するとやはり疲れていたのか、驚くほど早くすっと眠りにつく事が出来た。小さく寝息を立てるシェルシへと目を向け、イスルギは微笑む。その身体に自らの上着をかけ、それから姫の前髪に手を伸ばした。幼い頃から面倒を見てきた姫……。それが気づけばこんなにも強く、立派になっていた。


「複雑な心境……というわけか」


 自虐的に笑い、肩を竦める。一から十まで面倒を見ずとも良くなった。自分で物を決め、自分で好きな男を作った。理想を掲げ、悲しみを乗り越え、恋というものに向き合おうとしている……。かつて人形のように笑う事の無かった姫と共にあった彼としてはその変化は嬉しく、しかし少々寂しくもある。まるで大切な妹が、嫁にでも行ってしまうような……そんな心境に近いのだろうか。尤も、本当の妹であるミュレイが嫁に行こうがこんな気持ちにはならないのだろうが。


「今は、お休みなさい……。その気高き志が、壊れてしまわないように――」


 かつて、彼女の母は――シャナク・ルナリア・ザルヴァトーレは言った。娘を頼むと……。イスルギはその言葉を今でも覚えている。本当の妹を――ミュレイを護る事が出来ないから、傍に居る事が出来ないから、その代替品としてシェルシを護っていた……そういう一面もあった。確かにそうだ。だが今は、自分の意思で……。彼女を見て思うのだ。何事も、素直で綺麗な心こそ真実なのだと。正しさとは、常に潔癖さの中に産み落とされる。少なくとも彼はそう、信じているから。

 列車は二人の思いを乗せて夜の闇を進んでいく――。その二人が向かう先、ローティスの街の中を歩くメリーベルの姿があった。共に転移してきたはずのホクトとタケル……その二人が何故か一緒に現れなかった事が、彼女の思考を麻痺させていた。焦りもあり、戸惑いもある。もう時間が無い――そう思えば思うほど、何かに急かされるように心が焦るのだ。


「…………まだまだ甘いな、私も」


 メリーベルは目を瞑り、そして護りたい物を思い描いた。そもそも、この世界の住人ではない彼女が何の為にここに居るのか……。全てはこの世界――ロクエンティアと呼ばれる世界に起因する。この世界という言葉で表現されるすべて、そこにあるロジック、それらを知るメリーベルだからこそ、焦り、人一倍急いでいるのだ。

 全てを仲間に話そうと思っていた。少なくとも、この運命に巻き込んでしまった昴とホクト、二人には全てを知る権利があった。それを話さずこの世界の動向を見守ってきたのは、ある意味において彼らに嘘をつき続けてきた事に他ならない。偽るつもりはなかった。だがそれはつもりがあるだとかないだとか、そういう問題ではない。


「……リリアもキツい事言ってくれるよ。でも……だからこそ、かな。あの子の真っ直ぐな目……綺麗な眼差し……。つけなくなるよ、嘘が……」


 壊れかけた世界を見上げ、メリーベルは静かに目を細めた。その様子はどこかすっきりしたような、踏ん切りがついたようなものだった。時は止まずに動き続けているのだ。どんなに過去を思い描いても……そう。想いは決して、留まる事などないのだから――。




Saudade(3)




「シェルシ殿! イスルギ殿~っ!! こっちでござるよ~!!」


「ウサク! 久しぶりです」


「いやあ、ご無事で何より。拙者、メリーベル殿より出迎えを頼まれたでござるよ」


 ローティスに列車が到着し、ホームに下りた所でウサクが両手を振っているのが見えシェルシは彼へと駆け寄った。遅れてイスルギが周囲を警戒しながら続き、紅い外套を纏ったウサクと合流する。とりあえず話は歩きながらという事で、三人は駅を出てローティスの街を歩き出した。

 半年が経過した今でもローティスの街の機能は著しく低下したままで、そもそも収入源であった上位界層の観光客がぱったりと訪れなくなった事により街全体の活力が低下……。今となっては修復する事もままならず、エル・ギルスに存在するほかの街に漏れずすさんだ状況にある。プリミドール東プレートの落下により、エル・ギルスは甚大な被害を被った。直接被害を受けなかったプレートも資源流通の停止や帝国との戦争により、全体的に悲惨な状況にあった。

 明日の生活さえもままならないような世界がエル・ギルスでは当然となり、だからといってプリミドールは違うのかといえば似たような物である。世界全体の衰退……。戦争と繰り返される魔物の襲撃、人々はそれらに抗う力も持たずただ死を恐れる日々が続いている。


「街は相変わらず酷い様子でござるよ……。ローティスはまだいい方でござる。このたった半年の間にいくつの村や集落が無くなった事か……。拙者たちも何とか手を打とうとはしているのでござるが、どうしたって人手が足りないのでござるよ」


「すいません、皆が忙しい時に私は自分の私利私欲で動いてしまって……」


「あ、いや、そういう意味じゃないのでござるよ!? シェルシ殿は、ホクト殿を探していたのでござろう? それは悪い事ではないでござるよ。拙者もホクト殿の行方は気になっているのでござる」


「全く……。シェルシを放っておいてあの馬鹿はどこで何をしているのやら。実に無責任だ」


「イスルギ、別に私は彼と特に深い間柄ではないんですよ……? 彼が私の事を放っておいたって、別に彼は悪くありませんよ」


 少し拗ねた様子で諭すようにそう語るシェルシ。それを左右から挟み込むように歩くイスルギとウサクはじーっと見つめていた。何故だか判らないが恥ずかしくなり、きょろきょろしながら顔を赤らめる。


「わ、私何か変な事を言いましたか?」


「いえ、別に……」


「シェルシ殿は一途な乙女でござるなあ、ウンウン」


「はい……っ?」


「なんでもないでござるよ。それよりそろそろバテンカイトスに着くでござる。実は拙者もこっちに戻ってきたのはついさっきでござるが、何やらメリーベル殿がシェルシ殿に話があるとか」


 三人は久しぶりに訪れたバテンカイトスの扉を潜り、半年前の戦闘から何とか修復されたエントランスに辿り着いた。そうして螺旋階段を上がり、メリーベルの部屋へと向かう。久しぶりで少しだけ緊張したものの、シェルシは扉をノックして一声かけてからそれを開け放った。

 メリーベルは自分の机の上に腰掛け、魔道書を読みふけっていた。部屋に入ってきたシェルシたちを見るなり本を閉じ、机の上から降りて微笑みを浮かべる。久々の再会に駆け寄るシェルシ――その肩を叩き、笑うメリーベルの様子は以前より少しだけ彼らと――こちら側の世界と打ち解けたように見える。


「お久しぶりです、メリーベル!」


「無事に逃げてるようで何より……。一人で旅をするなんて言い出した時はどうなるかと思ったけど、その様子じゃちゃんと色々乗り越えたみたいね」


「…………お互い、色々ありましたから。ホクトは見つかりませんでしたが、色々他の事が判りました。イスルギを迎えに寄こしてくれたのもメリーベルですよね? お陰で命拾いしました。一人だったらここには戻れませんでしたから」


 それからシェルシは色々とここに来るまでにあった事をメリーベルに話し始めた。大雑把にこれまでどこを旅していたのか等をシェルシが話そうとした時、それを遮るようにメリーベルは口火を切る。


「シェルシ、その……ホクトの事で、話があるんだけど」


 その真剣な口調に気圧され、思わず黙り込んでしまう。冷や汗を流すシェルシ……。メリーベルの様子から、それが朗報であるとはどうしても思えなかった。最悪の可能性をも考慮し、思わず身構える。そんなシェルシの心境を察してか、メリーベルの口調はたどたどしかった。


「その……ホクトは異世界に跳ばされた……かもしれないって話は、一応したよね? こっちの世界にまだ居るかもしれない、とも言った」


「はい……」


「でも、ホクトはこことは違う世界に……昴が居た世界に居たの。そして連れ戻そうとしたんだけど……」


「けど……?」


 気まずい表情のメリーベル。実際彼女にもどう説明すればいいのかはわからなかった。世界間移動中の、外部からの干渉――。そうとしか考えられない、しかし今のメリーベルの術と知識では太刀打ちの出来ない現象……。彼女は異世界への移動を容易にはしたものの、そのすべてのロジックを解き明かしたわけではないのだ。或いは完璧だと思っていた異世界移動の術の理論がどこか破綻していたのか……。どちらにせよ、メリーベルにはホクトが今どうなったのか、それが全く判らなかった。

 その沈黙はシェルシの悪い想像を掻き立てる。胸に手を当て、増えるシェルシ……。その背後ではウサクもイスルギも気まずそうな顔をしている。メリーベルもどう説明すればいいのか判らず思案すると、結果的に場にはただ沈黙だけが残った。その時である――。背後で扉が開き、ひょっこりとホクトが顔を出したのだ。誰もが同時に振り返り、目を真ん丸くしていた。メリーベルの手からぽろりと魔道書が零れ落ち、シェルシが目を白黒させながら口をぱくぱくと開け閉めする。


「…………ど、どうした? 何かあったのか?」


 そんな間抜けな言葉と共に焦るホクト。誰かが声を上げるよりも早く、走り出したのはシェルシだった。ホクト目掛けて突っ込み、そして思い切りその身体に抱きついた。慌てて抱き留めるホクトだったが、シェルシの華奢な身体は震え、泣いているのが直ぐにわかった。


「何かあったのか、じゃないですよ……っ! 貴方……! 貴方、今までどこで何をしてたんですか!?」


「……あ、ああ。悪い……?」


「悪いじゃなくて……そうじゃなくて……っ! もっと他に言う事ないですか……ばか……っ」


 ぎゅうっとしがみ付いたまま、シェルシは顔も見せずにそう呟いた。困ったように頭を掻くホクトだったが、周囲三人は何だか呆れたような様子で二人を見つめていた。シェルシは両目から涙を流しながらも、幸せそうな表情で小さく微笑んでいる。ホクトに触れる事が出来る――またこうして巡り逢う事が出来た。それが嬉しくてたまらなかった。だから、見逃してしまったのかもしれない――。きっと、彼の顔をいつも見ていた彼女なら気づかないはずはなかったのだ。そのホクトの表情の中にあった、小さな“異変”に――。


「よかった……無事で……。貴方が……生きていてくれて。おかえりなさい、ホクト……。おかえりなさい……」


「…………シェルシ」


 苦笑するホクト、その彼から身を離し、シェルシはまだ手の中に残るホクトの温もりを握り締めるようにそっと指を閉じた。傍目から見れば彼女の気持ちは明らかだったが、ホクトはどうにも気づいていないのかそれとも気づいていて気づかないフリをしているのか……そしてシェルシもまたそれでいいと思っているのか。何とも言えない空気が流れた。そのシェルシから放たれる甘ったるいムードを壊すようにメリーベルが何度か手を叩き音を鳴らす。そう、話はまだまるで終わっていない。


「ホクト、今までどうしてたの?」


「どうもこうも、その辺ブラブラしてたぜ」


「…………本当に? 本当にそれだけ? タケルはどうなったのか知らない?」


「何、あいつどっか行っちまったのか……!? せっかくとっ捕まえたってのに、また厄介だな……」


 腕を組み、唸るホクト。その様子から嘘を感じることは出来なかった。やはり、転移魔法の異常か……メリーベルがそう自分を強引に納得させようとしたその時だった。まるで思い出したかのように、当たり前のように。シェルシは小首をかしげて言った。


「……ホクト? どうかしたんですか?」


「ん? 何がだ?」


「あ、いえ……。何だか、凄く苛立っているというか……慌てているように見えたので」


 その一言に、一瞬ホクトの視線が鋭くなる。それこそ見られたシェルシがびくりと肩をすくませるくらいに――。しかしそれは一瞬、ほんの僅かな刹那の事であり、直ぐにホクトは普段通りの飄々とした様子に戻ってしまう。


「何言ってんだ? 俺はいつでもおおらかな心で人と接する紳士だぜ? いつもとかわんねーだろ?」


 ぐりぐりと、シェルシの頭を撫でるホクト。その手の優しさはシェルシには懐かしく、感覚を鈍らせてしまう。もう先ほど感じた違和感のようなものは消えてしまい、シェルシはその言葉に納得してしまった。


「…………。とりあえず、ホクトが戻ってきたのは大きいよ。これでミュレイ救出作戦を進める事が出来る」


「なんだ、あいつ捕まってんのか……?」


「それどころか問題は山積みもいいところ……。とりあえず今日はみんな疲れてるだろうし、少し休んで。九時間後に再集合って事で」


「では、拙者たちは部屋で少し休ませてもらうでござるよ」


 メリーベルの言葉でぞろぞろと部屋を出て行く一同。彼らの姿が完全に部屋からなくなってメリーベルが一人で煙草を取り出した時――ふと、思い返す。振り返ってみる。ホクトの言動……微かな違和感。


「あいつ……記憶喪失……治ったの――?」


 部屋を出たシェルシはホクトに駆け寄り、背後からシャツの裾をつまんでちょいちょいと引っ張った。振り返ったホクトは煙草を咥えながら首をかしげる。


「あの、ホクト……? 今までどこで何をしてたんですか?」


「あ~……まあ、話すと長くなるな……。まあ後で話すよ。何ヘラヘラしてんだ?」


「…………嬉しいんですよ、貴方に会えて……えへへっ! きっと戻ってくるって言ってましたもんね……。私、信じていました」


「――――。そうか。“そうだった”な……」


「え?」


 どこか上の空なホクト。ぽりぽりと頭を掻きながら、申し訳なさそうに片目を瞑りつつ……ホクトはシェルシの肩を叩いた。


「シェルシ……だよな?」


「……はい?」


「あ~、いや、名前は覚えてるんだよ。名前は……。ただ、なんつーか……色々忘れてるっていうか……その、なんだ? 記憶喪失っていうか……だな」


「え――――?」


 途端に、シェルシの顔色が青ざめた。そのショックの大きさはホクトにも伝わったのか、ホクトはだらだらと冷や汗を流しながら視線を反らした。シェルシは暫く呆然とした後、その場にがくりと膝を付いた。ホクトはまるで以前と変わらないようで、まるで冗談を言っているように見える。しかし――そうではないのだろう。いくらホクトでも、言う冗談と言わない冗談がある。

 自分はこんなにもホクトの事を探していたのに、そのホクトは自分の事をすっかり忘れてしまっていた……。それを冷静に頭の中で考える。でも、戻ってきたのだからそれで良いではないか。何度も言い聞かせた。そもそもさっき自分で言ったばかりだ。ホクトとは、そんなに深い関係などではなかったと――。

 そうだ、ただホクトは自分の命の恩人で、憧れの人で……。何に憧れるといえば生き方やその潔さ、真っ直ぐな目……。言動には品格が感じられる、どうにもふざけた調子で、女好きで煙草好きで酒好きで、だらしがないダメ男の顕現のような男……。思い返せば思い返すほど、ホクトとの想い出が胸の内から溢れてくる。再会出来ただけで、それで良かったと思っていたのに――何故だろうか。涙が止まらず、絨毯の上に零れて滲んだ。


「お、おい……悪かったって……。泣くなよ……」


「うぅ……。うぅ~~っ」


 涙目で唸り、顔を上げるシェルシ。じっとホクトに向ける視線……子犬のような様子にホクトは流石に焦った。良心が痛むのは言うまでもなく、その場に片膝を付いてシェルシの頭を撫でた。


「本当に……全然、覚えてないんですか……?」


「あ、ああ……。まあそのうちひょっこり思い出す可能性もあるけどな」


「忘れたままの可能性もあるんですか?」


「ないとは言い切れない……っておい、だから泣くなよ!!」


「私……ずっとあなたの事、探して……っ!! なのに、貴方は……貴方って人は……!」


 ホクトの事だけが支えだったのだ。絶望の中にいた彼女が今日まで胸を張ってこられたのはホクトに会うという目的の為だった。だが、その全てを否定されたようなこの瞬間、今までの苦労や悲しみが一気に襲ってきたのだ。涙が止まらず、絶望的な気持ちを噛み締めるシェルシ……。項垂れ、歯を食いしばって涙を止め様と試みる。しかしそれは難しい事だった。当然である。それほどまでに、ホクトは――彼女の中で、大きな存在になっていたのだから。


「…………シェルシ」


「……いいんです。私たちを、護るために……そうなったんですよね……。だから貴方は悪くない……貴方は、悪くないけど……。でも私、貴方を待って居たかった。貴方の居場所に……帰ってくる場所になってあげたかった……。いつも貴方は寂しそうで、ぼろぼろで……。だから護りたいって、そう心から思ったんです……」


 立ち上がり、シェルシは涙を拭った。それから無理に笑ってみせる。その笑顔にホクトは目を細める。シェルシはホクトの手を握り締め、それからにっこりと――優しく微笑んで見せた。


「――――貴方の事が大好きです……ホクト。例え貴方の記憶がなくなっても、私……。別に、愛して貰えなくても良いんです。覚えていて貰えなくても良い。でも……私が貴方を大好きだって事だけ……知っておいて下さい」


 それが、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレの生まれてはじめての愛の告白だった。勢いに任せてしまった感は否めない。そして状況に流されているのも確かだ。若さ故に未熟、そしてその恋心も真実の愛かと言えば当然その答えは判らない。それでも今のシェルシの素直な、純粋な、真っ直ぐな気持ちだった。それから寂しげに目をそらし、シェルシはとぼとぼと歩き出す。やがてその歩みは走りに変わり、シェルシは逃げるようにどこかへ走り去ってしまった。

 少女の後姿を見送り、それからホクトは自分の手をじっと見つめた。シェルシが握り締めた手……。優しさや、愛情や、“与える”気持ちが伝わる手……。“奪う”ことしか出来ない自分の手に触れた確かな誰かの気持ち。思い出す事は出来ない日々……。やりきれない気持ちだった。だから煙草に火をつける。煙を吐き出す。じくりと、胸に刻まれた傷跡から血が流れ出すかのように心が痛む……。だが今の彼に出来る事は何もない。そう、何もないのだ。


「…………大好き、か……」


 ぼんやりとそう呟くホクト。その気持ちを受け入れる事は、きっとないのだろうと思う。けれども彼女が言ったどこまでも優しい、ホクトの自分勝手を受け入れるような言葉……。それだけはどうしても耳から離れる気配もなかった――。



~はじけろ! ロクエンティア劇場アンケートランキング特別編~


*はうはう! だけで会話が成立すると思う*


うさ子「はうっ! というわけで、第二位はうさだったのーっ!! しょんぼり…………」


シェルシ「えッ!? ど、どうしてしょんぼりなんですか!?」


昴「確か、一位だったらいっぱいご飯がもらえる約束だったからね」


うさ子「うさは……うさは、ご飯もらえないのです……。しょんぼりなの……」


シェルシ「えーと……。うさ子への投票率は全体の15%でした。やっぱり票が割れている結果ですね」


昴「一位までは結構差があるけどね」



【コメント抜粋/キャラコメント】


カワユス

うさ子「はううーっ!! ありがとうなのーっ!」


口調がいい

うさ子「なのなのっ!」


はうっ!

うさ子「はうはうっ!」


うさ子かわいいようさ子

うさ子「はううーっ!」


一番ヒロインぽいし、暗くなりがちなストーリーで彼女の存在は貴重。

うさ子「うさはねえ、皆が幸せならヒロインじゃなくてもいいの~」


ぬけてる感じが良い

うさ子「はう?」



シェルシ「これ、いいんですか――?」


昴「さ、さあ……」


シェルシ「というわけで、ここから先はうさ子の番外編です」


うさ子「なのーっ!!!!」




 遊楽都市ローティス――。帝国婚姻の儀、そしてハロルドの皇帝就任百周年記念式典の直前……。にぎわうローティスの街の中、いかがわしいお店が連なるストリートの一角にそのお店はあった。

 ピンクのネオンがあしらわれた看板の下、色っぽい服装の女の子たちが客引きをしている入り口……の反対側に存在する裏口から入ったスタッフルーム。そこに一人の大男が座っていた。男はフォーマルな格好に身を包んでおり、片手には履歴書を持っている。


「何々……? えーと……? 過去の経歴……名前が“うさ子”って事しか書いてないけど……」


 男が顔を上げる。そこには目をきらきらさせ、耳をパタパタさせるうさ子の姿があった。うさ子は男に顔を寄せながら目を輝かせ続けている。耳パタパタ。男はスキンヘッドの頭を指先で掻いて冷や汗を流した。

 彼はこの店のオーナー、通称“マダム”である。サーペントヴァイトのボスであるブラッドとは親友であり、まあそれらの点から推測するのは容易なのだが彼もまたブラッド同様“オネエ”である。平たく言えばオカマだ。

 そんなオカマの彼が営業しているのは、若い女の子で男性を接客して楽しませ、金を巻き上げる所謂サービス業である。先日ブラッドから何とかこの子を働かせて上げてほしいと頼まれ、今日は面接の日であった。やって来たのは実に可愛らしい、見た目だけならばなんの問題も無い美少女だったのだが……。


「うさはねえ、うさ子なのっ! うさはねえ、記憶喪失なの~。でもね、ホクト君がうさ子って名前をくれたの~! だからね、うさはうさ子なんですっ」


「ホクト君……? まあそれはいいけど、貴方も何だか色々大変なのねえ……。面接に来るのに既にコスプレしてるっていう根性もすごいわ。この耳は作り物?」


「つ、つかんじゃらめえーっ! それはうさのお耳なのーっ!!」


「そ、そう……? まあ、兎に角実際に働いてみればわかるでしょう。貴方、こういうお仕事の経験は?」


「まったくないのー」


「そう、じゃあこれだけは覚えておいて。貴方の仕事はお客様を楽しませる事、幸せにする事よ。うちのお店に来るさえない男たちを幸せ~な気分にさせて金を巻き上げるのよ」


「…………? よくわかんないけど、みんなが幸せになるの?」


「まあだいたいそんなかんじね」


「はううーっ♪ うさはね、うさはねっ! みんながねえ、幸せになってくれたらうれしいのーっ!! はうはうっ!」


 立ち上がり、両手を広げて耳をパタパタさせるうさ子。瞳の中で星が輝き、マダムは苦笑と共にうさ子を眺めていた。立ち上がったマダムはうさ子の肩を叩き、それから親指を立てて白い歯で笑ってみせる。


「それじゃあ早速今日からお仕事してもらうわよ。言っておくけど、ウチは厳しいからね? 覚悟しておく事!」


「大丈夫なのっ!! うさはねえ…………。ホクト君より、こわいものはないの……。がくぷる、がくぷる……っ」


 急にしょんぼりした様子で青ざめ、耳をぺたんこにしてぷるぷる震えるうさ子……。そんなうさ子の肩を叩き、マダムは笑う。理由や事情が複雑な人間などこの町には掃いて捨てるほど居る。あえて彼女の事情を詳しく訊く事はあるまい。大事なのは仕事がちゃんと出来るかどうか……それだけなのだから。




うさぎのみたゆめ




「はうぅぅううぅぅ……っ! ホクト君、ただいまなのー……」


「…………おかえり。つーか……待て、なんで俺の部屋に帰ってくるんだお前は?」


 バテンカイトスの一室、ベッドに座って本を読んでいたホクトの所にふらふらとうさ子が寄ってくる。ばったりとベッドの上に倒れこむと、鼻をすぴすぴさせながら目をしょぼしょぼさせる。ホクトはウトウトしているうさ子の耳を掴み上げ、眉を潜めた。


「あーっ!! 耳はらめえーっ!!」


「おい、だからなんでお前は一々俺の部屋に来るんだ?」


「……? ちょっとホクト君が何ゆってるのかうさわかんないの……」


「え!? いやだから、お前の部屋は別にあるだろ……? 狭いガルガンチュアじゃねえんだから、お前はお前の部屋に居ればいいだろが」


 うさ子はベッドの上をころりころりと転がった後、ホクトの膝元にくっついてにへら~っと笑った。すりすりと頬を寄せるうさ子……なんだかもう何も言う気がなくなり、ホクトは本に視線を落とした。


「うさはねえ……。うさは、ホクト君と同じ部屋なの……。はう……」


「狭いだけじゃねえか……。お前すぐ俺をベッドから蹴落とすし、かけ布団もってくし……」


「すりすり……。ホクト君……ねむいの~……」


「寝ろ」


「寝るの~……。おやすみ……むにゃむにゃ……」


 ベッドの上、うつ伏せになって涎をたらしながら眠るうさ子。ホクトは溜息を漏らし、その身体を仰向けにひっくり返してから布団をそっとかけるのであった。片手で本を閉じたホクトはそれで肩を叩きながら立ち上がり、酒瓶を枕元から拾ってそれを呷りながら部屋を出て行った。

 残されたうさ子はすやすやと眠り続ける――。ころりころりとベッドの上を転がりながら夢見る事……。うさ子がバイトを開始してから数日、ここのところうさ子はバイドから戻るとくたびれて直ぐに眠ってしまっていた。


「それでうさ子、ボスにどんな仕事紹介されたの?」


 というのはホットパンツのポケットに指を突っ込んだアクティの言葉であった。寝て起きて、うさ子はぼさぼさの髪をそのままに口をむにゃむにゃさせながら着替えていた。アクティはそんなうさ子の髪型の乱れを直しながら冷や汗を流す。こんな自分の事もロクに出来ないようなうさ子に出来る仕事などあるのだろうか……。そう彼女が疑問に思うのも無理はない。


「ちゃんと働いてる? いじめられてない?」


「うん、大丈夫なの~……。みんな、いいひとばっかりなの~」


「ならいいんだけど……。あんまり無理しないでね」


「アクティちゃん、ありがとうなの~。うさはねえ、いってくるのーっ」


 小さなアクティの身体をひしと抱きしめ、うさ子は部屋を飛び出していった。そんなうさ子の背中を心配そうに見送るアクティ……。彼女はうさ子が何故バイトを始めたのかを知っていた。その理由を最初にうさ子が口にしたのがアクティだったのである。ナイショだからと口止めされているものの……うさ子の現状が不安になってしまうのであった。

 うさ子のバイト先――そこでうさ子は露出の多いメイド服に着替えていた。ばたばたと慌しい店内……そう、そこは所謂メイド喫茶であった。うさ子と同年代の女性があれこれな接客を行う中、例に漏れずうさ子も額に汗して働いていた。

 彼女の働きぶりは真面目そのもので、基本的にうさ子は間抜けではあるが人の言う事を素直によく聞く人間であるというのが良く判る。マダムことオーナーはそんなうさ子が懸命に働く姿を後ろから見つめ、一人で腕を組んで頷いている。


「いやあ~、うさ子ちゃんはいつも一生懸命でかわいいね~~!」


「はうう、そんなことないの~……。でも、ありがとうなの~っ」


「うさ子ちゃん、毎日一日中居るけど大丈夫なの? ちゃんと休んでるの?」


「うさはねえ、元気だけが取り得なの~っ! だからね……むにゃむにゃ」


 客との会話の最中だというのに突然うつらうつらし始めるうさ子。まるで充電の切れ掛かったオモチャのようである。客はそんなうさ子が倒れそうになるのを慌てて支える。


「うさはねえ……。いっぱい働いて、お金を貯めたいの~」


「へえ? なんでまたお金が?」


「ホクト君にね、プレゼントを買ってあげるのっ!! あ、でもそれはナイショだから、秘密にしててほしいの……っ」


 目をキラキラさせ、トレイをぶんぶん振り回しながらうさ子は語る。その様子に周囲から笑いが起き、何故だか理解出来ない本人だけが小首をかしげていた。


「いいなあ、うさ子ちゃんの彼氏は……。幸せ者だよ」


「う? 違うの、ホクト君は彼氏なんかじゃないの」


「じゃあ、お兄さんとか?」


「…………? よくわかんないのー。でも、ホクト君はホクト君なのっ! はうはうっ」


 うさ子の生活はそんなこんなで二週間続いた。部屋に戻っては倒れて眠り、寝ている時間以外は殆ど通しで働き続けた。結果、彼女は客からのチップも含め短期間にしては多くの金を得る事に成功したのであった。マダムから給料袋を受け取ったうさ子はぺこぺこと頭を下げ、ホクトの元へと向かって行く。

 そうしてうさ子はホクトにライターを買ってあげる事になり、一緒にローティスの街を歩いた。その時はただ、ホクトに何かがしてあげたいと思っただけだった。ホクトは記憶喪失のうさ子にとって、同じ境遇の仲間……そして同じ部屋で一緒に暮らす住人だった。だから彼に対してうさ子が懐いているのは当然の事であり、うさ子自身もそれに疑問を抱く事はなかった。

 部屋に戻った二人はその後、あれこれと下らない話をした。尤もそれは会話というよりはうさ子が一方的に話し掛け、ホクトが相槌を打つだけであったが。本を片手に頷くホクトの横顔……それをじっと見つめていると、うさ子は何だかとても幸せな気持ちになった。ごろごろと転がって、ホクトの膝の上に頭を乗せる。頬を寄せながら、そのしなやかな両腕をホクトの足に絡め、満足げにゆるゆるとした笑顔を浮かべるのであった。


「ねえねえ、ホクト君ホクト君?」


「んー……?」


「彼氏ってなに?」


「…………唐突だな」


 肩をすくめ、それからホクトは少し考える。それから空いている片手でうさ子の額を撫で、髪を梳く。きらきらと透き通るようなうさ子の瞳……。ホクトはその中に自分の姿を捉え、それから目を瞑った。


「そういうのはお前にはまだ早い!」


「えーっ!? 気になるのーっ!!」


「まあ、いつか自分でわかる時が来るさ」


「そうなの? じゃあ待ってるの~……。はうはう……っ」


 足元で丸くなるうさ子。ホクトはまるでペットか何かを飼っているかのような気分に陥っていた。実際二人の関係はそれに限り無く近い物だったのだが……。


「うさはね、ホクト君と一緒に居られて幸せなの~。ホクト君はあったかくて、なんだかほっとするの~」


「ホクト君だけにほっとするんだな」


「ちょっと意味わかんないの……」


「まあ……良く頑張ったな、うさ子。金を稼ぐ大変さも、これでよくわかったろ」


「うん、わかったの! もうねえ、うさはいいうさになったのですっ」


 耳をパタパタさせるうさ子の顔を見下ろし、ホクトは優しく微笑む。うさ子はそんなホクトに満面の笑顔を向けた。穏やかで、緩やかで、暖かくて長い時間……。それがずっと、ずっと続くと思っていた。そう、信じていたのに――。




「ホクト君……どうして……? どうして、うさの事叩くの……? うさが……うさが、悪いうさだから……!?」


「どうして……ミラを殺した!? 答えろッ!!!!」


 大切な、とても大切な人に剣を向けられて漸く気づく事もある。風の吹き抜ける空飛ぶ居城の上、うさ子は黒き魔剣使いと対峙していた。


「ホクト君、怖いの……。怖いの、怖いの……。どうして、うさの事いじめるの……? ごめんなさい、ごめんなさい……っ」


「謝って……それで済むのか……? 殺し殺されて……それでも憎しみは消えないのに……」


「うさは……うさはね、ホクト君の足を引っ張ってばっかりのね、悪いうさだったの……。でもね、これから……これからはいいうさになって……ホクト君と、一緒に……」


 ホクトと共に過ごした記憶――。本来ならば決して相容れない、敵同士の二人が傍に居られた時間。うさ子がホクトの後をついてまわり、ホクトはそんなうさ子の手を引いていた。ぎゅっと、その手を握り締めてうさ子は感じていたのだ。確かな幸せ、そして人間が人間に感じる、愛にも似た感情を。

 沢山の人と触れ合い、そして感じたのだ。知ったのだ。うさ子はもう、人形ではなくなっていた。仮にその存在がどんなものであったとしても、紡いだ人との絆は本物である。当たり前だと思っていたその中で、胸が張り裂けそうなくらいに悲しいこの今で、ただ目の前の人の為に感じる事――。

 胸を刺し貫く剣の痛みを確かめながら、うさ子は目の前の人へと微笑みかけていた。両手を伸ばしていた。今更になって気づく。それは、うさぎが見た淡い夢だったのかもしれない。夜が明ければ消えてしまうような、儚い空想だったのかもしれない。それでも思い描いた事は……この気持ちは、きっと消える事はないから――。


「ごめんね、ホクト君……。うさは……ミラちゃんの代わりにはなれなかったの――」


 かつて、あの雨の降る荒野でうさぎは思ったのだ。愛する人の亡骸を抱きしめながら俯く彼の姿を見て……。どうか、この人を笑顔にしてほしいと。この人を護ってあげたいと。夢見て、願って、そしてそれは一時だけでも叶ったのだ。

 倒れるうさ子の視界が暗くなっていく。その中で、しかし恐怖を感じる事は無かった。脳裏に描く、ホクトの膝の上で見た彼の姿……。笑顔の二人が指を絡める、そんな幸せな――愚かな、小さな、彼女が見た夢だから――。


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