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I need you(1)

『第一、第二、第三エンジン始動――。次元艦フラタニティ、起動します』


『コード“剣創”正常に作動。魔力循環開始』


 かつて、その世界には一人の神が存在した――。世界を生み出し、そしてその世界に森羅万象を創造した神である。神話の時代、神は一つの世界を作った。そこは極楽浄土の名に恥じぬ、楽園に限り無く近い場所だった。

 しかし世界は無垢な者の存続を許さなかった。彼女が世界に産み落とした数多の罪……。それは今も直この世界を苦しめ、汚染し、奈落へと貶めている。ハロルドの目的……そして彼の願い。それはこの煉獄からの脱出。そして人類の手による、真の革命……だった。


『ミレニアム、スパイラル、デスティニー……三基の起動を確認――すべて正常。フラタニティによる次元探査開始』


『架空第七次元への干渉を開始。時間軸、平行軸、共に安定……。ディバイトシステム正常作動。剣創、発動します』


 世界に産み落とされた一人の神は、己の孤独を埋める為に最大の罪を犯してしまった。この世界に産み落とされた偽りの神……。平穏を維持する為だけに続く煉獄の世界。当たり障りなく、しかしそれは確実に世界を蝕んでいく。フラタニティの動力炉に直結された“神”の前に立ち、ハロルドは静かに目を細める。伸ばす黄金の腕……それ硬く冷たく、かつて彼女に触れようとした時とは大きく異なっている。

 時代が変わった事をはっきりと実感し、ハロルドは己の手を見つめた。魔力の消費を抑えなければ、数刻足らずで消滅してしまう脆いこの身体を今ほど呪わしく思う事もない。もしも彼女の傍にずっと居られたのならば――。そう、ハロルドがまだ、“この異世界に召喚された時のまま”だったら。こんな無様な姿を晒す事もなかっただろう。護りたいと願った、彼女の前に――。


『貴方が生み出した、七つの大罪……。もう直ぐ揃える事が出来るかもしれない。我が百年の夜の夢……漸く終わりの兆しが見えたのだ。貴方が私に託したこの世界の理……。その意味を、今度こそ……。見守っていてください。ハロルド様――』




 むかし、むかしの物語――。それはまだこの世界に、たった一つしか世界がなかった頃の物語――。

 何もない世界、一つしかない世界……。世界には誰も居ませんでした。草木もなく、獣も鳥も、虫も人も居なかった世界……。何もない、虚無の世界。そんな世界にも、願いと祈りがありました。

 世界には“産まれたい”と願う心があったのです。世界は生きたがっていました。誰も存在しない無の世界の中、ただ何の法則もなく続く世界……。そこで、世界は己を観測する存在を求めました。そして願わくば、共に世界を創造する存在を……。仲間を。家族を。求めていたのです。

 真っ白な世界に、一つの命が生まれました。それは世界の意思によって導かれた存在――。彼女は名前も無く、初めは形もありませんでした。白い世界の中に生まれた透明な影……。影はしかし、沢山の思い出を持っていました。影は徐々に世界の真ん中で己の姿を思い出します。そして、世界の姿を――。

 平行線の上に、瞬く間に世界が広がりました。世界に生まれた緑、生き物、そして彼女が夢見る世界――。“世界”は彼女の正体を知りませんでした。しかし徐々に理解するのです。“世界”は一つだけではなく、無限に連なるものなのだと。

 生まれたばかりの“世界”のほかにも無数の世界があり、彼女はそのどこかからやってきた事を知ります。眠り続ける影から記憶を吸い取り、世界は己の姿を確かめていきます。次々に生れ落ちる世界――景色。それは最初はただ彼女が夢見た物だったのかもしれません。しかし気づけばそこには立派な世界があり、影は目を覚ましました。

 影は神と呼ばれる存在となり、白い力を以って世界を生み出し続けます。彼女の願い、記憶、夢の中の全てを“世界”は汲み取って己を構築していきます。やがて沢山の命が生まれ、世界がそれ単体でも自立して循環するようになった頃――。既に何億年もの時が流れ、ふと神は思いました。“どうして、この世界には私しかいないの?”と――。

 世界に、人間が生まれる事はありませんでした。人間と呼ばれる形をしていたのは、神ただ一人だけ――。急に思い返して寂しさがこみ上げた彼女は、何とかして世界に人を産み落とそうとしました。しかしそれが全ての悲劇の始まりだったのです。

 彼女が人を作ろうとして夢見たのは、黒く黒く、真っ黒な闇でした。彼女の心の中にあった人の記憶は、彼女の中に眠る悪意をそのまま汲み上げてしまったのです。彼女の元々居た世界にも、きっと人間は沢山いたのでしょう。しかし記憶を失った彼女の心の中、悪意だけは――。罪だけは、しっかりと刻み込まれていたのです。

 神は世界が滅ぶ夢を見ました。そしてその通り、世界は滅びの道を辿ったのです。億単位の世界の歴史はすべて虚無になりました。神はまた眠りについたのです。今度こそ、正しい世界を……罪のない世界を産み落とそうと。

 “世界”はそんな彼女の事が哀れでなりませんでした。何度、何度もそうして世界を作り直しても、彼女は一人ぼっちのままでした。やがて“世界”は思いつきます。無から人を生み出すのではなく、彼女をそうしたように――。“別の世界から、人間を持ってくればいいんだ”と。

 夢見る神とは関係なく、世界の意思が動き出しました。世界は“欲”という形を覚え、七つの翼を広げて歩き出しました。その胎内に眠り続ける神を残して……。

 とある世界に、その悪魔は訪れました。他の世界を喰らい、そしてそれを取り込もうと侵略してきたのです。世界は勿論、それが悪い事だなんて夢にも思いませんでした。ただ、神を一人ぼっちにしておくことがかわいそうだと思っただけなのです。しかしその黒い翼は他の世界を次々に飲み込んでいくのです。

 戦争が始まろうとしていました――。唐突に現れた異世界の怪物を倒そうと、六つの世界が手を取り合いそれに立ち向かったのです。絶大なる力を誇る異形を前に、六つの世界は勇敢に戦いました。そして長い長い戦いの末に、ついに暴れ狂う“世界”を鎮める事に成功したのです。

 六つの世界に一人ずつ存在した、それぞれの世界の英雄――。彼らは救世主と呼ばれ、それぞれの世界の平和を象徴する存在となりました。救世主は異世界より出向き、自らの意思で暴れ狂う世界の意思に根付く事を決めます。そうしてついに、一人ぼっちで眠り続けた神は対面するのです。自分以外の人間――異世界の救世主と。

 孤独という心を埋めた神は目覚め、そしてもう二度とこのような事がないようにとこの世界の罪――異形の七つの翼を結晶にして封印しました。そしてその七つの力をそれぞれの世界の救世主に一つずつ託しました。その力が永久の平和の為になるようにと。もしももう一度世界が過ちを侵した時は、その力で荒神を阻むようにと――。

 七つの大罪と呼ばれた力はそれぞれが剣として持ち、六英雄は長らく世界を見守りました。そうしてこの世界にはロクエンティアという名が与えられ、神は幸せな眠りの中で安らかな世界を創造し続けるのでした――。めでたし、めでたし…………。




 砂に包まれた大地、第六界層オケアノス――。その海の上を駆け抜ける一つの列車の姿があった。その車体の各所は派手に損壊し、既に車両そのものがコントロールを失い暴走している状態にある。各所から火の手が上がり、その中に閉じ込められた人々は皆それぞれが迫り来る死に恐怖し、祈りを捧げていた。砂中から突如現れたのは全身を強固な銀色の鱗で被った砂龍である。雄叫びを上げながら猛然と追尾してくるそれを、窓にかじりつくようにして見つめる一人の少年の姿があった。

 少年は龍を睨み、そしてぎゅっと唇を噛み締めた。何故こんな事になってしまったのだろう――そんな事を思う。車内の人々は誰もが疲れきっており、既に状況を絶望視して諦めている者も多い。しかし少年は諦めていなかった。否――諦めたくても諦め切れなかったのだ。こんな理不尽な世界に飲み込まれて、むざむざと死んでいく……。そんなのはどうしたってごめんだった。

 半年前、横暴な帝国を倒そうと世界全体が立ち上がり戦った事件があった。しかしその結果、反乱軍は結局帝国軍により鎮圧されその後は泥沼のゲリラ戦が続いたのである。半年間そうして帝国と下層プレートの住民との戦いは続き、その結果村や町は次々に焼かれ、激しく燃え上がる戦火は無関係な住民達も容赦なく追い詰めて言った。

 少年達一行も、そうした村や街を追われた難民たちである。このオケアノスの海のどこかに、そうした難民達が集まって寄り添うように暮らしている町があるというアテにもならない噂を聞き、それだけを頼りにここまでやって来たのである。かつて帝国で使用されていた砂上列車に乗り込み、かすかな希望を求めて旅に出た……。その矢先、この化け物に襲われてしまったのだ。ここで車両が砕かれれば、あとはただ砂の中に沈んで死んでしまうだろう。この中に居る、誰一人残す事無く――。

 そんなのは嫌だった。死にたくない――そう強く願った。体が震える。目前の恐怖に堪えきれるはずもない。誰もが死を予感していた。しかし、これからだったのに。やっと苦しい旅を終わらせ、この海にまで辿り着いたというのに。諦めきれるはずがない。しかし龍は容赦なく車両へと迫ってくる。

 巨体をくねらせ、車体に側面から体当たりを行う龍――。全体に激しい振動が起こり、無数の悲鳴と絶叫が連なった。後部に続いていた車両の連結が破壊され、列車と共に仲間達が砂の中に落ちていく……。龍の巨大な顎で噛み砕かれて死んでいく人々を見つめ、少年はただ震える事しか出来なかった。

 半年前の戦争の開始から、世界には極端に魔物が増え始めていた。次々に人々を襲う魔物の群れ……しかしそれから人間を護る力は残っていなかった。帝国との戦いに革命家達が熱を上げている間に還るべき場所は滅ぼされ、帝国もまた戦争の中で資源や人材を次々に失っていった。誰も得する事のない戦乱――。もう、ウンザリだった。


「くそ……! こんなところで……皆死ぬのかよぉ……っ」


 声は震えていた。涙が零れ落ちるのも止められない。誰もが啜り泣き、呪いの言葉を口にしていた――。龍はいつまでもしつこく列車を追い続けている。長年この海に暮らすものですら異常だと思うほど、魔物は興奮状態にあった。目をギラギラと血走らせながら追跡してくる龍――。それが再び攻撃を開始しようとした時、彼らは誰もが目を瞑り死を覚悟した。しかしその中でただ一人、少年だけは見ていたのだ。空を翔る一つの影――。黒い人影が舞っていた。それは砂上を高速で疾走するサンドバイク……。砂漠の高低差を利用して列車をまたいで跳んだそれは、空中から真っ直ぐに龍へと落ちていく。


「危ない……!?」


 思わずそう呟いた少年の言葉通り、バイクは空中で龍の尾を叩き込まれ爆発してしまったのである。しかし砂上に影はまだ一つ――。黒いマントを纏ったその人影は、空中を舞うようにして移動しながら全身に光を纏わせていく。

 龍は咄嗟にそちらの方が重要だと判断し、直ぐに迎撃の姿勢を取った。生えた巨大な角で刺し殺す為に、頭から一気に影へと突っ込んでいく。影は空中で体位を入れ替え、角を交わして靴底で見事に龍の背中に着地して見せた。火花を散らしながら靴底は鱗で摩擦し、削られていく。影がもう一度跳ね――その時少年は見たのだ。

 黒いマントの下から現れたのは、金色の髪を靡かせる美しい女性だった。黒衣に黒装、そしてその両腕には魔剣の術式が刻まれたグローブが嵌められている。蒼い瞳が光を吸い込んで輝き、そしてそれは幻のように空中を駆けていく。


「……人間が……戦ってる……!?」


 龍の背中の上から跳ねた陰は空中を舞い、その両手に巨大な剣を構築してみせる。それは重さを感じさせないような軽やかさで女の手の中に納まり、白い羽にも似た光をばら撒いた。まるで天使のような姿――けれどもその姿は黒く、美しくも悲壮を感じる。影は再び龍の背中の上に収まると、その二対の刃で龍の背を激しく斬りつけた。

 それは猛々しい――しかしとても無駄のない、美しい剣撃だった。龍はそれで悲鳴を上げたが、少年は解せなかった。何故か斬りつけられたはずの龍の背中からは血の一滴も零れず、傷一つついていなかったのである。しかし龍は激しく悶え、苦しんでいた。女は両手の剣を龍に突き刺し、次々にその手の中に剣を産み落としながら龍の背を駆け抜けていく。

 次から次へと身体に剣を突き刺され、龍は悲鳴を上げた。女はそのまま一気に頭まで駆け上がり、頭部に一際巨大な剣を突き刺し空中へと舞い上がる。龍が悲鳴と共に倒れるのを背後に女は在ろう事か移動している砂上列車の上へと着地し、窓から中へと飛び込んできたのである。偶然にもそれは少年の目の前――。龍は先ほどまでとは打って変わった穏やかな様子で、砂の中に平然と戻っていく。


「……良かった。あの子を傷つけないで済んで」


 そう優しく呟いた女は身体についた砂を払い、それから金色の髪を風に靡かせ目を細めた。単純に、美しいと――。そう思った。口を開けっ放しで呆然と立ち尽くす少年へと視線を向け、女はその手を差し伸べる。頭を撫でられ、少年はようやく思考が正常に戻ってくるのを感じた。


「……お、お姉ちゃん……魔剣使い……?」


 少年も本物の魔剣使いを見たことなど無かった。だからそれは勘……。しかし、単身で魔物を――その中でも上位種である龍種を撃退するなどという芸当が魔剣使い以外に出来るとも思えなかった。しかし女は首を横に振る。そう、彼女は魔剣使いなどではない。ただほんの少し他人よりも恵まれた魔力と才能を持つ、ただの魔術師である。


「だったらお姉ちゃん……なんなの?」


 それは最早興味から来る質問だった。そんな少年の問いかけに女は口元を緩ませ、悪戯っぽく笑う。それから自らの胸に手を当て、光の中でこう宣言した。


「私は、“魔剣狩り”――。悪い魔剣使いをやっつける、正義の味方です」


「魔剣狩り……?」


「はい、そうですよ。そしてまたの名を、メイドプリンセス」


「はっ?」


 それが彼女の冗談だという事に彼が気づくまでにはかなりの時間を要した。光の中で女は胸元に手を伸ばす。そこには大切な人から預かったパズルがあった。伸ばしていた髪を短く切ったメイドプリンセス――シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ。彼女は今もまだ、この世界で一人戦いを続けていた――。




I need you(1)




「はあ、やっと着きました……。こうして無事に辿り着いたと思うと、中々感慨深い……」


 列車から降りたシェルシは大きく身体を伸ばしながら久しぶりに訪れるカンタイルの街を眺めていた。半年前、例の事件があってからオケアノスを訪れていなかったシェルシにとっては懐かしい景色である。

 一日の殆どを夜が占めるその町で、思えば色々な事があったものだと思う。ホクトや仲間達と出会い、様々な経験をした――。あの頃からは何も変わっていないようで、何もかもが違っている。ぼんやりと感傷に浸っているシェルシのおなかが空腹を訴えて鳴き、姫は顔を紅くしながら歩き出した。そういえばここ暫くロクに食事も摂っていなかった。

 かつてギルドの本部があった場所には大きなレストランが出来ており、そこにシェルシは一人で入った。柄の悪い男達の中をスイスイと進み、席に着く。メニューにはろくなものがなかったが、それでも何も無いよりはマシというもの。ここに来るまで食べられそうな野草を食べたり、賞味期限が危険な缶詰や獣を狩って食べてきたシェルシには涙が出るほどのご馳走である。


「宮殿で美味しい料理を食べていた時代が懐かしい……」


 しかしそれも当然の事。彼女はもう既に姫でもなんでもないのである。ザルヴァトーレは滅び、ハロルドの所には戻らないと決めた。である以上、彼女はザルヴァトーレの第三王女でも、ハロルド王の妻の一人でもない。ただのシェルシ……。シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレなのだから。

 出される水は不味かったが、それでも喉が潤えばなんでもよかった。グラスに映りこんだ自分の姿は以前とは大きく異なっている――。清楚な姫のような服装とは異なり、今では好むのはスカートではなくズボン、ドレスではなくジャケットである。かつてホクトが着ていた服装に良く似たそれは彼女なりの決意を意味しているのかもしれない。ちゃらちゃらとしているわけにも行かず、長く綺麗に伸ばしていた髪も肩口でばっさりと切ってしまった。それが自慢でもなんでもなく、ただ邪魔なものでしかなくなってしまったのも彼女の心境の変化が産むことなのだろう。

 シェルシはあれから半年間、あちこちを旅しながら自分を鍛えてきた。途中で何度も死にそうになったりもしたが、何とかこうして健康にやっている。帝国の魔剣使いと戦ったり、人々を襲う魔物と戦ったり、やる事は色々と多かった。運ばれてきた肉をもぐもぐと噛み締め、思わずじんわりと目尻に涙が浮かぶ。砂漠の中をサンドバイクで放浪していた時はどうなることかと思ったが、結果的に人助けをして良かった。サンドバイクの燃料は尽きかけていたが、何とか列車に便乗させてもらいここまで辿り着けたのだから。

 そんなシェルシの背後、いかにもちんぴら風ないかつい男たちが集まりつつあった。この町では見慣れない、若くて美しい女が席に座っているのである。口説く積りだったのかもしれないし、脅すつもりだったのかもしれない。しかしシェルシの背中に手を伸ばすより早く、シェルシはいつの間にか立ち上がりその全身に白い剣を纏っていた。


「何か……もぐもぐ……。御用ですか?」


 片手で骨付きの肉を頬張りながらシェルシは振り返った。何のモーションも詠唱もなく発動されたのは、剣の形をした封印魔法である。しかしそれを良く知らない人間からみれば、それは無数の魔剣を展開させているようにしか見えない。尋常ではないものを感じ取り、男のくせに悲鳴を上げて逃げ去っていく。それを見てしまったらもう誰もシェルシに声をかけようなんて気にはならなかった。


「食事中に人の後ろに立つなんて、なんて野蛮な人たちなんでしょうか……もぐもぐ」


 片手で肉を食べながらシェルシは空いている手で首から提げたパズルをいじっていた。こうして指先でこれを回すのは既に癖になっており、こうしているとなんとなく気持ちが落ち着く気がした。

 ホクトが居なくなってから、彼女は彼女なりに前に進んできたつもりだった。ホクトの姿を探しつつ、各地を転々として“世直し”に興じる日々……。それが果たして前進なのか後退なのかはわからなかったが、少なくとも力のなかった姫の魔術は飛躍的に、そして驚異的に上達した。今ならば並の魔剣使いでは相手にもならないほどの力を揮える事だろう。

 食事を終えたシェルシは夜の街に繰り出した。彼女がここまでやって来た目的は一つ――。しかし目当てのものはそこにはなかった。立ち尽くす、潜水艦が無数に並ぶ埠頭――。以前はそこにあったはずの潜水艦、ガルガンチュアは既に姿を消した後だった。

 あれから、仲間達には誰一人会っていない。色々と事情はあったが、会っている余裕もないのが実情だった。しかし今シェルシは一つの明白な目的を持って行動を開始したのだ。そのためにはロゼの力を借りたかったのだが……。


「いないのでは、仕方がありませんね」


 カチリと、音を立ててパズルが回転する。円柱型のパズルはくるくると回り、シェルシの心の焦りや苛立ちを表現する。どうすれば正解で、どうすればこのパズルが解けるのか……それはシェルシにもわからなかった。しかしホクトがくれたものだから、肌身離さず持ち歩いてきた。そう、これがある限りもう一度彼に出会えると信じて。

 必ず戻ると言って笑った男は、もう半年も彼女をほったらかしにいしていた。会いたい……素直にそう思う。もう一度会って、今度こそ――。空に手を伸ばす。星空は遠く、しかしとても近く見えた。闇に包まれた時代の中、それでもシェルシは生きている。失った何かを求めて。己の成すべき事を、求めて――――。


~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*そして超展開へ*


シェルシ「どうも、主人公になったシェルシです」


うさ子「…………え?」


シェルシ「はい?」


うさ子「あれ? えっ?」


シェルシ「はい。それは兎も角、そろそろアンケートが締め切りです。今日の深夜くらいまでで」


うさ子「アンケート上位三名には、どっかで番外編やるのっ!」


シェルシ「お楽しみに~」


うさ子「…………。それで、えっと、どういうこと?」


シェルシ「はい?」


うさ子「だから、えっと……。アレ?」


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