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螺旋ノ刻(1)


「世の中にはどうしようもない、変えられない悲劇という物も確かに存在するのです――。大切なのはその悲劇に飲み込まれ、他の大切な事までも見失ってしまわない事……。貴方なら判るでしょう、ヴァン? 力はただ力……。貴方の持つその闇と死の力でさえ、それはきっと何かを護る力になるのだから……」


 そう語り、少年だったヴァンに魔剣の使い方を教えた人は笑っていた。それはヴァン・ノーレッジの、他人の記憶……。ホクトにとってはどうでもいい記憶だ。しかしそれでも忘れる事は出来ない。きっとこの身体の中に、心の中に、刻まれている限り……。忘れることなど出来ないのだ。

 紫煙を吐き出し、ホクトは丘の上から遠くルーンリウムの城壁を眺めていた。傍にはブラッド、アクティ、ゲオルク、ウサクの姿がある。ルーンリウム攻略隊に選抜された彼らはいよいよ決戦を前にホクトを先頭に敵陣の様子を伺っていたのである。


「しっかし、完全に戦力を分断されちまったな……。ミュレイと昴だけで向こうってのも無理な話だから、まあこれでよかったんだろうが」


「ま、こっちはこっちで何とかするしかないわねぇ……。期待してるわよ、ホクト♪」


 ブラッドが背後から肩を叩き擦り寄ってくるのを見てホクトは無言で煙草をぽろりと口から落とした。青ざめた表情を浮かべるホクトの隣、ゲオルクは双眼鏡を片手に慎重に様子を伺っている。


「やはり、攻略は一筋縄ではいかないらしいな……。だが守りが堅いのは城の外までで、中に入ってしまえば何とか成るだろう」


「判るのか?」


「元々ルーンリウム城は貴族か王族しか立ち入る事の出来ない聖域だ。兵の配備もかなりずさんだろうな。まあ、奴さんの騎士団長は出てくるだろうが……」


「馬鹿に詳しいな、おっさん……? まるで見てきた事があるみたいな言い方だな」


 そもそも、今回の攻略作戦はゲオルクの案を採用している部分が大きい。これといって攻め口を見つけられずに居たメンバーに、城内まで通じる隠し通路の存在を暴露したのが彼なのである。

 ホクトたちルーンリウム城攻略メンバーはルーンリウムの東に存在する坑道から隠し通路へと入り、そこから場内に潜入――。一気にシルヴィア王を打倒し、城を占領するのが仕事である。尤もその隠し通路の存在は未だかつて誰も知らなかった事であり、情報収集能力に長けた忍部隊でも調べられなかった情報である。実際に行ってみるまでは半信半疑だと考えていたのだが、ゲオルクのやたらと詳しい様子からホクトの考えも変わりつつあった。


「おっさんか……。うーむ、まだこう見えても三十一歳なんだがな……」


「えっ!? ゲオルク、三十一だったんだ……。すっごくふけて見えるけど……」


「アクティ殿、それは失礼でござるよ……。せめて大人びているとか、落ち着いてるとかいった方がいいでござる……」


「…………。まあ、あんまり気にしないでくれ。ふけてるのは自覚があるんだ」


 頭をわしわしと掻きながらゲオルクは溜息を漏らした。アクティとウサク、子供組が苦笑を浮かべる中ホクトはゲオルクから奪った双眼鏡で城を覗き込む。当たり前だがシェルシの姿が見つかるはずも無く、そして城周辺の警備は厳しい。


「まあおっさんがふけてるかどうかは兎も角、その情報まで枯れてんじゃねえだろうな?」


「連絡通路がまだ防がれていなければ、の話だ。俺がそこを通ったのはもう十年以上前の話だからな……。確証はない」


「ねえウサク、ゲオルクって何なの? 単騎特攻でもしたことがあるの?」


「いや……ゲオルク殿の過去なんて今まで考えた事もなかったでござるよ……」


 子供二人が興味津々に見つめてくる視線を背中に感じながらゲオルクは腕を組み、冷や汗を流していた。ブラッドとホクトはその様子に苦笑し、それから一気に丘を下っていく。


「さーて、ほんじゃま通路が閉ざされてない事を祈りつつ、ついでにミュレイたちの無事も祈ってやろうぜ。作戦開始だ! おら、行くぜー!」


 ホクトを先頭に一行が移動を開始した頃――。界層の彼方、空に浮かぶ“太陽”――。その内部に立つ昴たちの姿があった。

 この世界に存在する太陽と月、その二つは永久機関によって動き続ける巨大な人工衛星である。虚空の海の中を漂い続け、定期的に光とエネルギーを世界中に供給しているのだ。

 そしてその空に浮かぶ太陽――通称、ホルスジェネレータと呼ばれる場所に昴たちは足を踏み入れていた。それも全ては帝国のプレートパージ作戦を阻止する為である。


「てか、ここ……室温高くない?」


 愚痴りながらロゼはシャツの胸元を緩める。ホルスジェネレータ内部は外部の超高熱から高精度の断熱材と魔力障壁で護られているのだが、それでも本来人間が長居出来るような温度の世界ではない。こちらの攻略メンバーは昴、ミュレイ、ロゼ、そしてリフルの四人である。

 古代遺跡によく使われている特殊な機械材質により作られた迷宮にもにた要塞、それが太陽の実態である。無数に張り巡らされた動力パイプとあちこちから吹き出る高温の蒸気、紅いライトで染まった熱の世界……。流石にこれは辛いのか、リフルもミュレイは茹だる様な表情を浮かべている。極め付きは昴で、全身に鎧をつけて仮面までつけているので暑くて仕方が無いのか、顎からぽたぽたと汗を垂らし続けていた。


「……暑くないのか、昴?」


『…………暑い』


「じゃあそれ外せばいいじゃん……」


『いや、あえてこのまま行かせてくれ……。多分、仮面を外したら気持ちが緩んでへこたれそうだ……』


「あ、そうなの……」


 呆れたように呟くロゼ。しかし一番堪え性がないのはミュレイで、殆ど胸元を完全にはだけさせた状態でセンスで風を仰ぎ入れていた。


「あーもう、あづい……っ! なんじゃこの気温は!? このままじゃリアルに死んでまうわっ!!」


「水分補給だけは気をつけた方がいいな……。これから行って、帰る事も考えるとペース配分もキツそうだ」


 リフルは全員に水筒を配るのだが、ミュレイはその場でほぼ全部飲み干してしまう。余りにも子供染みたその行動に誰もが唖然としていたが、顰蹙な視線にミュレイは堂々と頷いて見せた。


「わらわは炎魔の姫……! その気になれば熱など大したことはないわ!」


「うっそだ今暑いって言ってたじゃん!?」


『心頭滅却すれば、火もまた涼し……というわけにはいかないか……』


 四人はそれでも前に進むしかない。プレートの切り離し作業とは、この世界のシャフトおよびプレートの管理を行っている第三階層ヨツンヘイムが中枢、インフェル・ノアのマザーコンピューターである“ミレニアム”によって完遂される。よってそれを阻止する方法はミレニアムに直接乗り込み、操作を行うしかないのだが……。ミレニアムどころかヨツンヘイムに上がることすら困難なこの状況、当然そんな悠長な事が出来るはずもない。

 よって打開策として彼女達が選んだのがこのホルスジェネレータ奥に存在するミレニアムと同等の機能を持つ管理システム、“スパイラル”である。元々プレートの管理は“ミレニアム”、“スパイラル”、“デスティニー”と呼ばれる三つのシステムによって行われており、特に第四界層以下の界層の管理はスパイラルとデスティニーの管轄なのである。

 つまり帝国側がプレートを破壊する為にはミレニアムからデスティニー或いはスパイラルへと接続、そこを経由してコントロールを行わねばならない。故にミレニアムへと直接乗り込んでそれを阻止するよりも、スパイラルへとアクセスしてミレニアムとの接続を解除するのが良作なのである。


「しかし、この世界は本当に何でもかんでもわけのわからない機械をアテにしてるんだね……」


『界層の管理もそうだが、気象と魔素の管理までホルスジェネレータが行っているとはな……』


「上位システムであるミレニアムを制御している帝国がこの世界の覇者だっていうのも頷けるよ。それにしても、最初からこういう手に出てこなかっただけもしかしてハロルドって甘いヤツなのかな」


「ロゼ、そんな次々にプレートを破壊したら困るのは帝国ですよ……」


「お主ら結構余裕あるな!? わらわなんか今直ぐにでも死ねるぞっ!?」


 汗だくで叫ぶミュレイ。そのミュレイが途中で倒れてしまっては大問題なのである。そもそも、このホルスジェネレータは本来簡単に足を踏み入れることの出来ない聖域なのだ。当然だがここを管理するという事は四界層以下の界層全てを管理するという事に直結する。この太陽の力を得た瞬間、その人物は界層の神となるのだ。

 故にこの場所へは足を踏み入れる事も、そしてスパイラルシステムへも干渉する事は硬く禁じられ、そしてそれは強固なセキュリティによって護られてきた。上位システムの管理者であるハロルドでさえ、スパイラルを完全に制御する事は出来ないのである。


「それにしても、伝承は本当だったんだね。太陽の姫と月の姫……。ククラカンとザルヴァトーレの姫は、それぞれ太陽……ホルスジェネレータと、それから月……ディアナドライバの管理者だったなんて」


 それこそこの二つの国が互いに均衡を護り続け、そしてプリミドールという世界に二つの王族が存在する理由なのである。ミュレイたちヨシノの一族は太陽……ホルスジェネレータを管理する役割と力を持つ管理者であり、同じくシルヴィアたちルナリアの一族は月……ディアナドライバを管理する一族なのである。

 二つの王族はこの世界が産み落とされた時より長らく太陽と月……人工衛星を管理し続けてきた。かつての時代その二つの王族は一つの国を共に統治していたのだが、やがてその均衡は破られ、国は二つに分断されたと言われている。

 このホルスジェネレータを管理する事が出来るのは、現状ミュレイとその母ミザロだけである。帝国側もミレニアムの力を借りずしてはこの太陽に干渉する事は出来ない。ラクヨウ城からここまで直結する転送装置を持っていたのも、この封印された人工衛星に立ち入る事が出来たのも全てはミュレイのお陰なのである。そしてミュレイだけが、帝国の浄化作戦を阻止する力を持っているのだ。


「まあ、ここに来るのは大分久しぶりじゃからのう……。生まれたばかりの頃、一度母上につれてきてもらっただけじゃ」


『さっき入り口のところで認証出来たんだから、ミュレイはやっぱりククラカンの姫なんだな……』


「なんじゃ、わらわが普段は姫っぽくないと言いたいのか?」


『そ、そうじゃないけど……。さあ、とりあえず今は早く先に進もう。ミュレイが倒れてしまわないうちにね……。それで、スパイラルはどの辺りにあるんだ?』


「うーむ、全く判らんが……一応どこかの通路に全体の見取り図があったはずじゃ。とりあえずはそれを探すとしよう」


 昴たちも先を急ぎ、移動を開始する。それぞれの場所でのそれぞれの戦い……。世界を護り、変える為の第一歩が踏み出されようとしていた。




螺旋ノ刻(1)




「戦争の中止……。恒久の平和、か……」


 静まり返るルーンリウム城内、シルヴィアは玉座に一人座り目を閉じていた。思い起こすのは妹の悲痛な叫びである。思えば妹は……シェルシはいつも泣いてばかりだった。母親であるシャナクが連れて行かれた時も、自分がハロルドの妻にならねばならないのだと言われた時も……。泣きじゃくり、お姉様、お姉様と泣いていた。そんなシェルシの顔を見ているのが辛くて目をそらし、背を向けたのはほかならぬ自分なのだとシルヴィアは理解している。

 そうだ、最初から自分も逃げていた。きっと他にも道はあったのだろう。だがこれこそが唯一つの生きる道なのだと信じ、迷いを廃して突き進んできた。それがひいては国の為、民の為、そしてシェルシの為だと思っていたのだ。

 帝国に反旗を翻したザルヴァトーレ……。首謀者であるシャナクはUGへと送り込まれ、そしてシルヴィアは齢十六で女王へと即位した。本来ならば反逆者は皆殺しにする帝国がシルヴィアを見逃した理由……。それは彼女たちルナリアの血筋を絶やしてしまえば月――ディアナドライバの管理者が居なくなってしまうからに他ならない。そうでなければとっくの昔に一族はおろか、民まで虐殺されていてしかるべき国なのである。

 シルヴィアはまだ少女だった時に母の剣、エリシオンを継承させられた。強引な継承の儀式は何日にも及び、シルヴィアの身体は無理な術式継承によりあちこちに異常が出てしまっている。その苦痛を堪え、王として……そして民を護る戦士として。あらゆる痛みからこの国を護ろうと努力したのがシルヴィアのここ十年の人生であった。

 シェルシにだけは、そんな思いはさせたくない……。だから手を汚す事もしたし、帝国に頭を下げた。機嫌を取り、民には馬鹿にされ、貴族たちには笑われた。屈辱の日々を超え、王は王足りえたのである。その頃のシルヴィアには、シェルシに触れてあげるだけの余裕はなかったのだ。

 この血と汗だけを刻み、美しく輝く鋼鉄により護られた手が一体何をつかめるというのだろうか。得ようなどとは思わない。この世は残酷で冷酷だ。当たり前のように幸福が奪われていく。奪われたくなければ、奪う側に立つしかない。そうやって、勝ち続けるしかないのだ。

 敗北は死、滅亡――勝利は新たな罪の始まり。その罪悪の全てを背負い、そしてシェルシには背負わせない……。それが彼女の矜持だった。だが――己の意思で戦いを避ける道を選び、成長した妹の姿に思わず胸が苦しくなる。


「シェルシ……。馬鹿な愚妹の分際で……。いつのまにか、でかくなりやがって……」


 自分の所為でシェルシの顔から笑顔が消えてしまった。涙も消えてしまった。シェルシはこの城から出るまでずっと人形のままだった。それでも帝国に行って、ハロルドの傍に居ればいい暮らしが出来て、ここよりはまだ自由に生きられる……そう考えていた。今でもそう考えている。結局の所ヨツンヘイムで暮らすことこそ、この世界における至上の幸福なのだから。

 ぎゅっと握り締めた拳を見つめる。だがそれでも……シェルシはそれでも、運命に抗おうとしている。それはとても辛い選択だ。己を顧みない選択だ。だからこそ、強い意志が居る。成長しているのだ、彼女は。いつまでも人形のままでもないし、子供のままでもない。


「もっと……優しくしてやれば、良かったな……」


 後悔の言葉は空しく響き渡る。誰にも届かず、誰にも聞こえない。玉座へと続く紅い絨毯の端、支柱の影に隠れたネーヴェ以外には――。




「で……。なんとか坑道まで到着したわけだが……。こりゃ、古代遺跡か何かなのか?」


 ザルヴァトーレ領土、東に存在する坑道――“アンフィエナ遺跡”。かつてはザルヴァトーレによって積極的にサルベージ作業が行われていたその遺跡も、今は殆どの資源を採掘し終えて無人の廃墟となっている。

 大地にぽっかりと開いた巨大な縦穴を下りていくと、無数のこまごまとした分岐通路が見えてくる。ゲオルクはその中の一つを迷い無くすたすたと進んでいくのだが、続くホクトたちは道があっているのかどうかが不安で仕方が無かった。


「アンフィエナはザルヴァトーレの採掘資源の要所だった場所だ。古代技術のサルベージもここでよく行われていた」


「結構有名な遺跡の一つよねぇ、アンフィエナって。ここ数年は殆ど枯れちゃってるって話だけど」


「ほー……。俺そういうの全然興味ねえからな」


「何言ってんのよ? あんた、昔は古代遺跡を廻ってたじゃないの」


「そ、そうなのか? いや、それは俺じゃなくてヴァンだろ……? 覚えてねえよ」


 そんな雑談をしながら進んでいると、一行は行き止まりへと当たってしまった。どう見てもただの岩の壁にしか見えないその様子にアクティは眉を潜める。


「もしかして、迷子になった……?」


「いや、ここで合っている。少し待ってくれ」


 ゲオルクは一歩前に出ると、岩の壁に片手を差し伸べた。すると岩に光が走り、魔術でカモフラージュされていた鋼鉄の扉が姿を現した。ゲオルクはそこの認証端末に片手を触れ、ロックを解除して扉を開けてみせる。


「ゲオルク殿、本当に何者なんでござるか!?」


「俺の事はいいだろ……あんまり騒がれるのは好きじゃないんだ。それよりこれでルーンリウムの地下水路に直行出来るはずだ。仮にシェルシが捕まってるとしたら地下だろうからな、丁度いいだろう」


「あら、じゃあお姫様の救出作戦でもあるってわけね♪ 頑張りなさいよ、ホクト?」


「へいへい……。くだらねえ事ダベってないで先進むぞ……」


 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま歩いていくホクト。その背中を追うようにブラッドたちも先に進んでいく。最後尾、一人残ったゲオルクは懐かしむように目を細め、自らが開いた扉を見上げていた。やがて気持ちを切り替え、再び歩き出す。目指す場所は既に直ぐそこにあった。

 ルーンリウムは複雑な水路が入り組むようにして構築されている街である。その水脈ラインは主に地下に集中しており、その構造は既にルーンリウムの住人ですら把握できないほど複雑怪奇になっている。ゲオルクは一行の先を進み、その毛細血管のような水脈パイプの中を掻き分けて進んでいく。


「あんた、本当に道に詳しいな」


「昔は、この辺で良く探検したもんだからな……っと、見えたぞ。このマンホールから地下牢に抜けられるはずだ」


 水脈パイプを足場にして片足を引っ掛け、天井のマンホールを開くゲオルク。巨体からは考えられぬ軽快な身のこなしで上がっていくゲオルクに続き、ホクトたちもマンホールから脱出した。

 広がっていたのは無数の牢獄――。特に見張りの姿も無く、投獄されている人間の姿も無い。周囲をきょろきょろと見渡してシェルシを探して見るが、その姿は見当たらなかった。


「シェルシ、いないね?」


「地下牢はいくつかのエリアに分かれている。東西南北に四つ存在するから、シェルシがいるのはこことは限らない。それより警備が手薄とは言えあまりノンビリしている暇もないぞ」


「ああ、判ってる。シェルシの探索は後回しだ。シルヴィアさえ倒しちまえば、シェルシを探すのは簡単だしな」


「えー……それまでほっとくつもりなの……? それはちょっと可愛そうじゃない……?」


「あら、じゃあアクティが探してあげなさいよ~。貴方魔剣も使えないんだし、丁度いいでしょ? シルヴィア王は私たち三人で十分だし」


「では、拙者も一緒にシェルシ殿を捜索するでござるよ。それで良いでござるか?」


 とりあえず話が纏まり、シェルシ捜索の為にウサクとアクティが移動を開始する。二人とも隠密行動には長けているので問題ないとは思うが、ホクトは少々不安げにその背中を見送っていた。


「大丈夫か、あのお子様チームで……」


「ウサクは優秀な忍者だ。問題ないだろう」


「さ~て、こっちはこっちで頑張るわよーっ♪ ささ、行きましょう!」


「だあーッ!! キメエ!? 腕を取るんじゃねえ!?」


「ち、近い……」


 ホクトとゲオルクが青ざめながら移動を開始する頃――。ホルスジェネレータ内部のシェルシたちもスパイラルシステムのある場所へと辿り着いていた。複雑に入り組んでいる道もあるのだが、基本的にスパイラルまでは入り口から一本道である事がわかり、後は真っ直ぐ進むだけで直ぐに到達する事が出来たのである。

 スパイラルは巨大な螺旋状の光を纏った円柱型の機械で、その周囲には無数の動力パイプがつなげられている。放熱を続けている為か他のエリアよりも更に温度が高く、熱風は嵐のように渦巻いている。


『こ、これはきついな……』


「早い所片付けて撤退しよう……。ミュレイ、いけるか?」


「そう急かすな……。えーと、この端末がこうで……。こっちのがこうで……?」


「違うでしょ……。てかまず室温なんとかしようよ。室温は多分あっちのスイッチで……」


「後ろからごちゃごちゃ言われたらワケわからなくなるじゃろうがっ!?」


 頭を抱えて絶叫するミュレイ。ロゼは呆れた様子で黙り込み、振り返った。その時突然コントロールルーム内に警報が鳴り響き、四人は同時に顔をあげる。空中に浮かび上がったいくつかの映像の中、そこにはこの太陽の中へ乗り込んでくる剣誓隊の姿があった。


『剣誓隊……!? どうやってここに!?』


「出入り口のロックはさっきミュレイが開放しちゃったし……連中はミレニアムの転送装置が使えるからね。まあ、ここになだれ込んできてもおかしくはないけど……」


「昴、防衛に出るぞ! ロゼはここでミュレイと一緒に!」


「ちょっとまって、隔壁が降ろせないか弄ってみる!」


「待て、お主ら後ろでごちゃごちゃするな!? わらわはただでさえ機械弄りは苦手だというのに、ええい……ッ」


 ミュレイとロゼがもみくちゃになりながら端末を操作しているのを見つめ、昴とリフルは無言で部屋を出た。心配せずともどうせここまでの道は一本なのだ。敵に裏をかかれる事もない。守るべきはこの幅5メートル程度の直進通路のみ――。昴とリフルは同時に魔剣を装備し、歩き出した。


「さて……。あの二人が隔壁を降ろしてくれる事を期待しようか。水は飲んで置けよ、昴」


『あ、ああ……。しかしこんな環境での戦いか……。つくづく私は……戦況に運がない……』


 正面、彼方から押し寄せてくる剣誓隊の姿がある。それを捉え、二人は同時に走り出した。ここが防衛の要所、そして界層を護る運命の場所である。負けるわけにはいかない――その覚悟と共に、二人は魔剣を振るうのであった。


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