召喚、救世主(2)
風が気持ちのいい街だった――。
第四界層、プリミドール――。そこにある国、ククラカンの首都、ラクヨウというのがこの町の名前だという。私の隣を歩き、楽しそうに先ほどから喋り続けているなんとも明るい忍さんが教えてくれた事だ。
ひたすらに意味がわからなかったので私は直ぐに考える事をやめた。ああ、これはきっと何かの悪い夢なのだ。私には関係の無い事が延々と続いている。どこまでも、どこまでも……。
ラクヨウは首都というだけあり、とても賑やかな街だった。少し油断するとウサクとはぐれてしまいそうになる。しかしウサクから遠ざかろうとすると、ウサクは私の後に吸い付くようについてくるのだ。流石忍ということなのだろうか。
ひたすらに人でごった返した街を歩くのはどこだって疲れる物だ。しかしこの街には活気と呼べる不思議な空気が漂っている。客引きの声があちこちから飛び交い、人々は笑顔で歩いている。まるで住人全てが隣人であり、友人であるかのようにさえ思えてくる。
「どうでござるか? ラクヨウは。ククラカンの中でもここより活気のある町はどこにもないでござるよ」
「……は、はあ」
何故彼は初対面の相手に対してこんなにもフレンドリーなのだろうか。マスクのような物で顔の下半分を覆っているので顔全体は見えないのだが、目だけでニコニコしているのがわかってしまう。
正直、私はこういう人は苦手だ……。私はそもそも人間が好きじゃない。他人といるとなんだかとても疲れるのだ。見覚えのない街という事もあり、私はとても孤独な気持ちを味わっていた。見ず知らずの町、見ず知らずの人々の波……そこに乗れという方が無理な話なのだ。
ずれた眼鏡を中指で押し上げ、私は小さく溜息を漏らした。そんな小さな仕草でさえウサクは見逃さず、私を気遣うようにして声をかけてくる。
「大丈夫でござるか? 姫様は街を案内しろと仰りましたが、無理にそれに付き合う必要はないでござるよ。姫様の言う事は、大抵無理難題なのでござる」
「そう……なんですか?」
「然り! 毎日あの姫様と一緒に暮らしていると、命がいくつあっても足りないでござるよ。あ、勿論これはオフレコでお願いするでござる」
オフレコて。忍者がオフレコて。
「しかし、昴殿はどうにも拙者が想像していた救世主とは違う気がするでござるよ。その、奇抜な召し物は最新のファッションとかいうやつでござるか? 拙者、忍装束以外着たことがないのでファッション? には疎いのでござるが」
「いや、これは……」
「救世主というからには、凄まじい剣豪のようなものを想像していたでござるよ。しかしこう可憐な乙女が出てくるとは……いやはや、姫様は何をなさるか実に予測不可能でござるよ」
なんでこいつこんなに楽しそうなんだろうか。こっちが言葉を挟む暇もない。しかしちゃんと私の事は気遣ってくれているのか、通りに面した茶屋に連れて行ってくれた。木製のベンチの上に座り、ウサクが注文してくれたお茶を口にする。ようやく一息つき、町の喧騒を眺める余裕が生まれてきた。
ウサクは隣でもぐもぐと団子を頬張っていた。なんというか、奇妙な世界観の街である。深々と溜息をつき、静かに手にした湯飲みに映り込んだ自分の顔を覗き込む。
記憶の中、私は確かに死んだはずだった。何故ここで目覚め、何故こんなことになってしまったのか……。気持ちに余裕が生まれてくると、同時に不安も湧き上がってくる。疑念は心を支配し、ぴりぴりとした痛みにも似た苛立ちがこめかみを刺激する。
高層ビルから落下する記憶。振り返って見た誰かの姿……。大学で話した言葉の意味。呼び出しのメール。朝の掃除……。記憶は確かに頭の中にあるはずなのに、まるで別人の記憶を見ているかのようにそれが正しく連続してくれない。
滅茶苦茶にデフラグされまくったデータを見ているような気分だ。ふと、ズボンのポケットから携帯電話を取り出してみる。勿論電波は来ていない。それはもう判りきっていたのだが、確認しておきたかったのだ。
「それ、なんでござるか?」
「…………ケータイ」
「けぇたい……? なんだか良く判らないでござるが、カッコイイでござる! して、これは武器か何かでござるか? 投げたりするのでござるか?」
「いや投げない投げない」
暫くウサクは携帯電話について聞いてきたが、彼にとっては所詮意味不明な機械なのだ。直ぐに興味を失ってしまったのか、私の隣に座り込みのほほんと空を見上げていた。
「平和でござるなぁ……」
「…………そうですね」
そう語りながら片手で携帯電話を弄る。やはりメールも電話も使えるはずがない。薄々わかっていた事だ。というか既にハッキリと明言されている。私は今、何がどうなってしまっているのか――。
目が覚めた時、私の目の前にはミュレイの顔があった。彼女は言った。“異世界人を紹介するのは初めてだ”……と。目の前にはどうみても時代錯誤の景色が広がっている。文明錯誤、というのも付け加えていい。
アジアンチックな町並みだが、こんな場所は私の知る世界にはどこにもありはしないのだ。私は何者かにビルから突き落とされ、殺された……。あれが夢や幻ではなかったのだとしたら。その直後、私はこの世界に召喚されたのだ。
我ながら馬鹿げた推測だ。しかし最早推測の域をとっくに飛び越えている。目の前には淡々と事実が並んでいる。狂ったのは私の方なのだろうか。だとしたら、どれだけ幸せだろう。
私は、殺された……。誰かに、何かの理由で。どうして殺されなければならなかったのか。もし本当に死んだのだとしたら、ここは死後の世界という事になる。私の身体は高層ビルから落下したとは思えないほど無事で、傷一つない。それもまた謎だった。
もしかして。もしかすると。私が現実だと信じていた世界は……全て幻だったのかもしれない。そんなことあるはずもないけれど。でもそれくらい、今のこの世界は現実味に溢れていた。
何もかも、無駄になってしまった……。そう思った瞬間、言葉に出来ない悲しみが押し寄せてきた。私は、ずっと何とか“償って”生きて行こうと思っていた。死んではいけないと。生き続けなければいけないと。
でも無駄になってしまった。決めた覚悟も……彼の言葉も。今日までしてきたことが全部なかった事になった。もう、確かめる事もできない。私と一緒に暮らしてくれたあの夫婦の事も、別にどうでもいいとおもっていた友達の事も。
「…………ど、どうしたでござるか? 昴殿……お口に、合わなかったでござるか……?」
不安げに、ウサクが語りかけてくる。理由はわかっていた。私の頬を流れる熱い雫……それを彼が見つけてしまったからだ。
私は何も答えられなかった。大丈夫とも駄目とも言えなかった。団子はおいしかったし、お茶も気に入った。でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。
全部駄目になっちゃったんだ……。そう考えたらもう、止められなかった。あんなにも嫌だったあの世界……でも、そこで必死にあがいて生きてきたんだ。
血や汗も、流した涙も……あの世界にはきっと染み付いていた。だから私は苦しくて死にたくて居なくなりたくて消えてしまいたくて……でも、それでも生きていた。
涙を拭えず、ただ目を閉じて項垂れた。何よりも情けなかった。腹が立った。こんなにも私はあの世界の事が懐かしい。あの世界の所へ、帰りたいと思っている。
「す、昴殿……。拙者、ど、どうしたら……あわわ……っ!?」
私がいなくなったら、奥さんはどんな顔をするだろう? 師匠は……? 私が帰ってくるまで、夕飯を始めずに待っているに違いないんだ。
二人ともきっと、帰ってきた私をしかってやろうと待っているんだ。でも私は戻ってこない。どれだけ待っても、もう戻ってこない……。
きっと、二人はとても悲しむんだ。奥さんは泣いてしまうかもしれない。私が居なくなったら、あの道場はとても静かになるだろう。師匠もきっと、寂しがるだろう。
もう戻って上げられないかもしれない。いや、きっと戻れないのだ……。どうしようもなく、悲しくて。寂しくなった。そんな事、感じるようなことはなかったはずなのに。
携帯電話を握り締める手が震えていた。それはもう何処にも繋がる事は無い。私は非日常と呼ばれる下らない世界に巻き込まれた。いや、突き落とされたのだ。あの、最悪の想い出が眠るビルの上から――。
召喚、救世主(2)
「なあロゼ、これは確認なんだけどよ」
「どうした」
「砂の海豚は……反帝国組織なんだよな」
「その通りだ」
「反帝国組織ってのは、第三階層エンビレオに存在するハロルド帝国をやっつける為に活動しているわけだ」
「卑劣な社会を生み出す帝国に対する正義の戦いだ」
「うん。じゃあ、その正義の戦いの為にやる事が――これなのか?」
カンタイルに存在する、ギルド労働組合本部――。そこでロゼとホクトはクエストボードと呼ばれる巨大な掲示板の前に立っていた。二人の周囲には同じように掲示板を眺める人々の姿があり、二人はもう数十分はこうして掲示板を眺めている。
砂の海豚は反帝国組織であるが、それ以前に組合に所属するギルドである。ギルドには帝国の認可を受けているものから非合法な物まで様々な物が存在するが、基本的に組合によって取りまとめられている。
この砂上都市カンタイルは移動するギルド本部でもあり、それ故に三百六十五日二十四時間常に人でにぎわっているのである。ロゼたちがこの街に立ち寄ったのも、当然そうした理由を含んでいる。
砂の海豚の拠点は潜水艦ガルガンチュアである。しかし、ある意味この街は大きな意味で彼らの拠点とも言えた。ガルガンチュアがカンタイルに停泊してから既に数日が経過している。その間、ロゼもホクトも反帝国的な活動をする様子は一切なかった。
「あのなぁ、組織を維持するのにどれだけ金がかかると思っているんだ……? ガルガンチュアの維持費だけでも凄まじいんだぞ」
「それで資金調達にこうしてお使いを引き受けてるわけね……」
「お使いじゃない、依頼だ馬鹿! そもそも、適度に組合に貢献しないと色々と面倒なんだぞ。組合からの補助だって受けてるんだからな」
ギルド本部はそれぞれのギルドの元締めであり、砂の海豚もギルドである以上それに逆らう事は出来ない。砂の海豚は反帝国組織である以前に、ギルド組合に所属するただのギルドなのである。
帝国でさえ、ギルド本部については追求の手を止め、放置している状態にある。反帝国組織なども別け隔てなく囲い、中には犯罪者まがいの集団もある為当然帝国としては取り締まらねばならないのだが、結局帝国だけではどうにもならないこまごまとした問題はギルドに委ねているのが世界の現状なのである。
故に、帝国はギルドを黙認している。当然行き過ぎたギルドに対しては警告もするが、それを裁くのはあくまでギルド本部である。ギルド本部と帝国は非常にデリケートかつ曖昧な関係を維持していた。
ロゼたち砂の海豚もギルドからの依頼を斡旋して貰い、それをこなすことで活動資金を稼いでいる所謂弱小ギルドの中の一つだった。依頼の内容は子供のお使い程度のものもあれば、魔物の討伐まで非常に幅広く引き受けている。その態度から年々仕事は増えているが、当然経済的に厳しい時だってあるのだ。
「例えばそう、新しい魔剣使いと大飯食らいを仲間にした時とかね……」
「なあ、俺の給料ってちゃんと出るよな?」
「それはあんたの頑張り次第じゃないか? まあ、この間倒した魔物の頭が結構高く売れたから暫くは困らないんだけどね」
「俺の活躍だぞ、それ……」
肩を落とすホクトの傍ら、ロゼは顔色一つ変えずにクエストボードを眺めていた。ホクトの事は眼中に無い様子である。仕方なくホクトはその場を離れ、周囲を見渡した。
ギルド本部はクエストボードが並んでいる以外の部分を見れば巨大な酒場と呼ぶのが相応しい。四六時中酔っ払いたちの騒ぎ声が聞こえてくる、非常にやかましい場所だ。ホクトは全くそんな事は気にしなかったが、うさ子などは酒の匂いを嫌がり強く留守番を希望した。
依頼を引き受ける手続きをするのは団長の仕事である。ロゼも騒がしさを好むタイプではなかったが、この場合は仕方が無い。適当な席に勝手に座り、両足を投げ出して身体を伸ばすホクト。砂の海豚に入って一週間……。なんとも平和な時間が続いている。
「……暢気な事だな」
ふと、隣から声が聞こえて視線を向ける。そこには仏頂面のリフルの姿があった。視線だけでホクトを見下ろし、呆れるように溜息をついてみせる。
「そう言われても、ロゼが依頼を選んでいる間は暇だろうが」
「貴様も魔剣士ならば常に凛としていろ。だらけた態度は魔剣士にとってはよくない事だ」
「だからってお前みたいに常に怖い顔してたら精神的によくないと思うんだが」
ホクトの言葉にリフルが睨みを効かせる。慌てて立ち上がったホクトはそのままそそくさと逃げるように店の外に出た。夜の冷たい空気が吹き込み、欠伸を浮かべる。昼と夜の感覚が無いこの街だったが、眠くなるものは眠くなるのだ。
「平和なのはいいんだけど、退屈だよなあ……。せめてこう、もっとヒロイックな出来事がないと盛り上がらないよな」
そうしてホクトは腕を組み、想像してみる。例えばこう……聞こえてくるのだ。遠くから走ってくる少女の声。少女は叫ぶのだ。
「――――誰か、助けてっ!!」
少女は悪漢どもに追われており、捕まってしまったらあんなことやこんなことになってしまうに違いない。想像していてちょっと口元が緩んでくる。だがそうならない為に、色々と下心もあるので助けてあげたりしたいのだ。
颯爽と現れ、悪漢どもをばったばったとなぎ倒すホクト……。少女はそんなホクトの勇敢な姿に一目ぼれ。そのままお嫁にもらってくださいとか言い出したりするのだ。
「我ながらキモい妄想だな……って、おっと」
「きゃっ!?」
ホクトの腕の中、一人の少女の姿があった。白い、フードの着いたコートを着込んだ少女は顔が良く見えない。しかしホクトは悟ってしまった。正面から走ってきたこの少女は、おそらく道のど真ん中で妄想していた自分に激突してしまったのだろう、と。
しかも、身体に当たってみてよくわかる。この少女、フードの下は間違いなく巨乳である――。ホクトの目が輝き、一瞬で凛々しい顔つきに変わった。紳士的な物腰で少女の身体を気遣い、優しく微笑む。
「大丈夫ですか、お嬢さん――」
しかし、どうやら少女は大丈夫ではないらしかった。しきりに背後を気にしており、ホクトの顔は見ていない。せっかくカッコイイ顔をしていたのに意味がなかったと表情を歪め、眠たそうな顔でホクトは少女の視線の先へと自分の視線を重ねた。
すると、そこにはいかにも胡散臭い感じの悪漢っぽい男たちが走ってくるではないか。どうやら先ほどの少女の声は妄想ではなく現実のものだったらしい。となると、その先の展開も現実になるかもしれない――。
「追われてんのか?」
「え、ええ……」
「しょうがねえ。結婚するにはまだちと早いがな……! まずはお付き合いから始めようぜ」
「……はっ?」
呆気に取られ立ち尽くす少女を背後に押し退け、ホクトは前に出る。駆け寄ってきたのはいかにも小物そうな悪漢であった。
「なんだてめえ! 庇い立てするなら容赦しねえぞ!」
と、悪漢が叫んだ所でホクトは直ぐに動き出した。叫んでいる悪漢の顔面に靴先を減り込ませ、吹き飛ばす。見事に振りぬかれた蹴りは少女のコートをはためかせ、一瞬ホクトの視線はそちらに向けられてしまった。
スカートが捲れたかと思ったのが期待はずれ、少女はちゃんとスカートを両手で抑えていた。舌打ちするホクトに背後から悪漢その2の繰り出したナイフが迫る。それを見もせずに左手の人差し指と中指で挟み込んで止め、手をひねって刃を圧し折る。
人間の力では出来ない事がある。しかし、この世界の人間にはそれを可能にしてしまう力が存在する。魔力と呼ばれる特殊な力を持つ人間――しかもその究極である魔剣使い、それがホクトの肩書きなのである。ナイフ程度でどうにかできるはずもなかった。
背後から襲ってきた男の襟首をつかんで放り投げ、大地に叩きつける。そのまま追加で襲ってきた三人目を振り返ると同時に足払いし、崩れた所を踏みつけて動きを止めた。一瞬の出来事であり、大きな騒ぎにさえなることはなかった。
「なんだこいつら……? 超弱いぞ」
「あ、ありがとう……助かりました」
「礼には及ばねえよ。おっぱいは正義だ」
「は……?」
「それで、君の名前は――っと」
次の瞬間、甲高い金属音が鳴り響いていた。思わず目を瞑り身を縮こまらせた少女の前、ホクトが手を突き出していた。握り締めているのはつい先ほどまでベルトに下げられていたナイフである。それを引き抜き、少女目掛けて投擲されてきた何かを弾いたのである。
直ぐに少女はその招待に気づいた。手裏剣――そう呼ぶのが相応しい投擲武器である。ホクトが弾き、それは少し離れた大地に突き刺さっていた。そちらに視線を向けた瞬間、まるで隙を見計らっていたかのように連続で手裏剣が投擲されてくる。
ホクトは直ぐに前に出てそれを全て弾き飛ばす。たまたまギルド本部の前で酒を飲んでいた男の酒瓶に弾いた手裏剣があたり、ビンが砕け散った。
「今度はその辺のチンピラって感じじゃねえな」
ナイフを片手でくるりと回し、逆手に構えなおす。人込みの中に紛れ、唐傘を被った数人の人影が見えた。ホクトは直ぐに少女の手を引き、弾かれるように走り出す。
「ちょ、ちょっと!?」
「いいから逃げろ! 事情は知らないが、ありゃちょっとした腕前だぞ!」
「あ、貴方を巻き込むわけには……っ!」
「助けてって、言っただろ?」
背後、再び手裏剣が飛んでくる。少女を抱き寄せ、ホクトはそれを回避した。唐傘の男たちは追いかけてくる。移動速度はホクトたちよりも速い。
仕方がなく、ホクトは少女を抱きかかえた。両手がふさがってしまうのは問題だったが、今はそうしなければ逃げ切れない。両足に力を込め、一気に加速する。少女は腕の中、じっとホクトの横顔を見つめていた。
「女の子が助けてって言ったらな、男は助けるものなんだよ」
「……それが、貴方の騎士道……ですか?」
「そんな大層なもんじゃないさ。男は女を守る――――そうさ、常識って奴だ」
背後から飛んでくる手裏剣をかわしながら走り続ける。暗い、狭い路地を抜け。疾風のように駆け抜けるホクトの移動に吹かれ、少女の被っていた白いフードがはらりと下りた。
金色の長い髪が風に広がり、少女の顔が露になる。ホクトはそれを見下ろし口元をにやけさせた。少女は紛れもなく美少女だったのだ。これは間違いなく、ヒロイックな展開だと言えるだろう。
壁を蹴り、それを三度繰り返して建造物の屋根の上に移動する。夜の闇の中浮かび上がる街を飛び回る。その間少女はずっと、じっと黙り込んでホクトの事を見つめていた――――。