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北斗(1)

 放たれた弾丸は、白騎士の偽りの仮面を砕く――。爆ぜた白い仮面の破片が舞い、同時に血飛沫が零れた。顔を片手で抑えながらぐらついた白騎士はそれでも踏ん張りを利かせ、動きを止めずに剣を振るう。ブラッドが慌てて残りの機動兵器を片付けると、白騎士はユウガを握り締めたまま片膝を着いた。


「アクティ!! 貴方……ッ!!」


 狙撃を行った張本人であるアクティは震える指からライフルを零し、瓦礫の破片が散らばったエントランスに音は空しく響き渡った。ウサクが慌てて白騎士に駆け寄り、その身を案じる。白騎士の顔、右半分は鮮血で真っ赤に染まり、負傷したのか目からは血の涙が流れていた。

 騎士はそっと、顔を上げる。恐怖に震えるアクティへと向けられる視線……それは、怒りや憎しみなどではなく。寂しさや戸惑いや――それでも他人を許すかのような、優しい眼差しだった。仮面の下に隠された、消し去れない人間らしさ。拭い去れない、罪悪感……。それらが彼女の瞳には如実に現れていた。寂しげな眼差しは少女を射抜く。それは、決してアクティが予想していた姿ではなかった。

 白騎士は敵……ずっとそう考えていた。実際彼女さえ居なければ、ヴァン・ノーレッジは記憶喪失になる事もなく。ホクトはきっと、彼女の元から居なくなる事はなかっただろう。ずっと恨んできた。憎んできた。剣誓隊に与した、白い仮面の悪魔――。けれど、想像していなかった。予想もしていなかった。その中身がまだあどけなさを残した少女であり……。そして、その目はとても悲しげである事も。

 言葉を失い、アクティは一歩あとずさった。痛みに表情を歪め、白騎士は涙を流しながら目を閉じた。駆け寄ったウサクが何かを叫び、ブラッドが白騎士を連れて奥へ後退していく。入り口に残ったウサクは遅れて到着したギルドの増援と共に入り口から飛び出し、外で再び戦闘が始まった。断続的に聞こえる銃声と悲鳴の中、アクティは首を横に振りながら耳を塞ぐ。黙り込む少女の前、リフルは剣を降ろして険しい表情を浮かべていた。


「…………気は晴れたか?」


「…………」


「気が晴れたなら、銃を拾え。君にはまだ出来る事があるはずだ」


「無理だよ……。ボク、一人じゃ何も出来ない……。戦ったって、もうヴァンは……」


「――――それでも、戦えと言うのは酷な事かも知れない。それでも言うさ……。戦った方がいい、アクティ」


 落ちたライフルを拾い上げ、アクティの手にそっと握らせる。リフルは強く真っ直ぐな眼差しで頷き、そして颯爽と振り返った。


「何かを傷つけたその数の倍、人を助けよう……。奪ったその何倍の数も、命を救おう。そうする以外、この世界と折り合いをつけていく方法はないんだ」


 剣士は一人、戦場へと向かっていく。アクティは震える手でぎゅっと銃を握り締める。リフルは責めなかった。戦場では、何があってもおかしくないから。誰かを憎み、誰かを殺し、そしていつかは殺される――。そんな渦中の中に在る以上、誰が何をしようとそれはその場に身を置く己の責任だから。

 判っていた。白騎士を倒しても、ヴァンは戻っては来ないのだと。それでも……辛くて悲しい気持ちを消す事は出来ないから。護るって言ったって、何を護ればいいのかわからないから――。

 声をあげ、銃を握り締めて戦場へと走り出す。銃弾と魔法が飛び交う嵐の中、それでも戦うと決めたのはいつの事だったか――。ヴァンはかつて、銃を握り締めて廃墟と死体の中にぽつんと一人で立っていたアクティに手を差し伸べてくれた。そうして“一緒に来るか”と聞いてくれたのだ。

 手を握り締めて泣いたあの日の事も……。それから帝国と戦ってきた事も……。全部納得なんて出来ない。出来るはずもない。世界は狂っていて、当たり前の悲劇が誰の上にも降り注ぐのだ。そんな明日を壊したくて、人の上にはもう何も立たせたくなくて、だから武器を握り締めた、でも――。

 何の為に戦っているのだろう? 理由を忘れてしまった。ただ、憎いから憎んだ。死にたくないから殺した。それはきっと悪ではないのだ。けれども目指した正義でもない……。故に少女は答えを求めて走り出す。リフルは一瞬振り返り、戦場の中で微笑んだ。アクティはそれにも気づかない。今は涙を拭き、ただ前へと走る――。


「メリーベル! 白騎士が!」


「…………。ごめん、ちょっといい?」


 バテンカイトスの奥へと進んだブラッドは肩を貸していた白騎士をそっと倉庫の片隅に下ろした。既にギルド本部としてのバテンカイトスとの連結は断ち切られている。それは、彼らがもうここに取り残されてしまっている事を意味していた。ギルド組合は体勢を立て直す為にこの街を捨てたのだ。それが、組織の決定……。それでもブラッドもリフルも、砂の海豚のメンバーもこの街に残った。無関係な人々を戦いから護る為に。

 そんな負け戦にメリーベルが付き合ったのは、何となくこんな事になるような気がしていたからである。空の上でミュレイが戦っているのを見た時から白騎士がここに来る事を何となく把握していた。最も、まさか負傷して運び込まれるとは思ってもみなかったのだが。

 木製のコンテナを背中に当て、軽く横にならせる。昴の顔からは血が流れ続けており、弾丸は側面から右目付近を深く傷つけてしまっていた。血が止まらず、汗びっしょりになった白騎士……昴は意識朦朧とした様子で、目の前にメリーベルがいる事も気づいていない様子だった。


「…………威力の高い対魔剣使い用の弾頭を食らったのね。仮面にも防御能力はあるはずなのに……これ、なんか一回砕けてるみたいで効果がなくなってる」


「じゃあ、どうやってくっつけてたのかしら……」


「…………のり?」


 一瞬二人は目を合わせて冷や汗を流した。そんな物を何故強引に装備していたのかは兎も角、昴が危険な状態である事は確かだった。メリーベルはベルトポシェットから応急処置用の器具を取り出し、そっと昴の肩を叩いた。


「…………。昴、ごめんなさい。貴方の右目、悪いけどくりぬかせて貰うわ」


「えっ!? ちょっと、メリーベル……本気!?」


「義眼なら、別に私の技術で作れるし……。それにもう眼球自体が抉れてて使い物にならないわよ。ほっといても悪化するだけだから。昴が暴れないように背中を押さえてて」


「昴ってこの子の事……!? そんな……まだこんなに若い女の子なのに……」


「それだけ因果が深くまとわりついてるって事。それじゃあ行くわよ。一応、麻酔はかけるけど……モタモタしてる場合じゃないし」


 ビニールの手袋にきゅっと指を通したメリーベルは鉄の器具を取り出し、更に片手を昴の顔に翳して術式を発動する。意識朦朧とした昴の目が麻酔にかけられさらにとろんと虚ろになっていく。それを確認し、メリーベルは目を細めた。

 血まみれの顔から髪を上げ、少々強引に施術に入る。眼球に器具が当てられる感触に昴は悲鳴を上げて暴れたが、背後からがっちりとブラッドに固定されており動く事もままならない。悲痛な声を上げる昴の様子をメリーベルは冷静に見つめ、施術を続けた。ブラッドは耐え切れずに目を瞑ってしまう。無理もない事だった。あの白騎士が――。今、こんなひどい目に遭っているのは――。

 瞳を抜かれる痛みの中、朦朧とした意識で昴は何故か遠い昔の事を思い出していた。時を巻き戻すかのように景色は流れ――。ミュレイの死も、この世界への召喚も超え。時は、あの運命の夜へと遡っていく……。




北斗(1)




「私、昔は実の兄が好きだったんですよ」


「ぶほっ!」


 ある日の夕食時――本城邸、居間。味噌汁を飲んでいた昴の前、彼女の師匠である本城夏流は盛大にお茶を噴出した。何故そうなったのか理解出来ない昴は目を白黒させていたのだが、彼の妻は何故か黒い笑顔を浮かべていた。

 昴がまだ、本城邸で世話になるようになって間もない頃の事である。貴方の話を聞かせてほしいと言った本城の妻、リリアに答えとして呟いたのが上記の発言であった。咽返っている本城の背中をさすりつつ、リリアは小首を傾げた。


「お兄さん? えーと、お名前は?」


「北条……北斗です。私とは結構歳が離れてて……。一言で表現すると、破天荒な男でした」


「そのお兄さんは、今……?」


「――――死にました。三年くらい前に……」


「ぶほっ!?」


 今度は味噌汁を噴出す本城師匠。咳をしながら退席し、そのまま台所に向かってしまう。何をドタバタしているのかと目を丸くする昴の隣、リリアは少し困ったように微笑んでいた。


「まあ、あの人の事は気にしないでね~。過去の事を振り切れない駄目な大人だから」


「は、はあ……?」


「そっか……。昴ちゃんの事は、貴方のご両親から少し聞いてはいたんだけど……そういう理由があったのね」


 昴は昔から、少し変わった子供として周囲に認識されていた。彼女が大きくなってからもその認識は変わらず、彼女の味方は兄である北斗ただ一人であった。

 学校にも馴染めず、大人たちにも馴染めず、昴はいつもどこか他人から距離を置いて生きていた。そんな彼女と世界を結び付けていたのが兄北斗であり、その兄が死んだ日から彼女の中で世界の時計は止まったままだったのだ。

 リリアは心を閉ざしてやってきた昴に精一杯の愛情を注いだ。彼女の為に様々な事をして、そして自分で考えさせた。すると、人には絶対に懐かなかった昴もあっさりとリリアには心を開き始めていた。だからこそ――。彼女は自分をバカにしないで話を聞いてくれると信じているからこそ。昴ものこの話をすることが出来たのである。


「私は……兄が居なくなって、自分がどうやって生きていけばいいのかも判らなくなって……」


「それで、引き篭もっちゃったのね~……。うんうん、判らないでもないなあ、その気持ち。前に進みたくて焦ってるばっかりで、足踏みしちゃう気持ち」


 コタツに入ったまま、リリアは優しく微笑んだ。それから人懐こく緩んだ口元にたくあんを放り込み、ぽりぽりと齧りながら話を続けた。


「こんな事を訊くのは辛いかもしれないけど、お兄さんはどうして……?」


「…………。事故……だったんです。表向きは――」


 目を閉じ、思い返す――。決して忘れられないあの日の夜の事を。その日昴は学校で友達に苛められ、家に帰ったら今度は両親に成績が下がったとこっぴどく叱られていた。成績が下がるも何も、昴は毎日学校で馴染めず他の生徒からネチネチと苛められていたし、教科書も隠されてしまってどこにいったか判らない始末で、勉強など手につくはずもなかった。その時、兄は丁度外出していてその場に居合わせず、昴は親に叱られて泣きながら街へと飛び出してしまった。

 考えてみれば馬鹿な話だ。もっと言いたい事を言って、もっと抵抗して……それで全部済んだのかもしれない。でも昴には怖くてそれが出来なかった。勇気がなかった。だから結果として逃げる事しか彼女には残されていなかったのだ。一人、この世界の中で孤独になってしまったような気がしていた。長い間降り積もっていた鬱屈とした気持ちが爆発し、昴はそのままの足でとある廃ビルの屋上へと向かっていた。

 飛び降りて、自殺をするつもりだった。死んでそれで全部楽になれたら、今度は明るくて活発で、誰からも愛されるような子になりたかった……。目を閉じ、願いと共に飛び降りようとした。だがそれが本当の悲劇の幕開けだったのだ。

 落ちていく昴の視界の中、屋上へと駆け込んできた兄の姿が見えた。兄は既に落下を始めている昴の身体を抱き、放り投げるようにして屋上へと引き戻したのである。彼がそうやって動けたのは奇跡のようなものだった。もう絶対に助からない状況にあった少女を助け、しかしその反動で北斗は空中へと投げ出されてしまった――。

 そこは、二人の秘密の場所だった。時々昴はここに逃げ込み、そして北斗はそうして隠れている彼女を見つけて慰めた。いつかはきっと強くなってやると誓ったその場所で、昴は叫びながら手を伸ばしていた。夜景の町はキラキラと輝いていて綺麗で、北斗は最後まで笑っていた。

 落ちていく兄を見下ろした。ビルの上から、豆粒みたいに小さくなった兄がアスファルトに叩きつけられ跳ねるのを見ている事しか出来なかった。すべては自分の責任――。甘ったれた考えと軽率な行動が。またそれを救おうとした彼の軽率な救済が。より状況を最悪へと近づけていく。

 兄、北条北斗は死んだ――。何故彼があの場に間に合ってしまったのかも、何故最後まで笑っていたのかも、何もかも謎のままだった。それでも現実は彼の死を突きつける。昴はそれからもう誰とも会いたくなくなり、誰とも話したくなくなり――。


「…………逃げていたんですよ、北斗の死から……」


「…………そうだったの」


「私が殺したようなものです……。でも、ここに来て思いなおしたんです。兄が、私を生かしてくれたんだから……。だから、兄がいなくても、一人で立派に生きていかなきゃ、って……」


 大学に入り、友達も作るように努力した。なれない人付き合いに苦労しながらも、なんとか着いていけるように悪戦苦闘している。親元を離れ、こうして親戚の家で厄介になるのだって彼女にしてみれば大冒険である。それは彼女が引き篭もって考えた末、何とか導き出した一つの答えだった。


「お前は立派だよ、昴」


 食卓に戻ってきた本城はコタツに入り、ぽりぽりとたくあんを食べている妻を見て冷や汗を流した。それから昴を見つめ、腕を組んで頷いた。


「そういう事なら、俺たちも協力するさ。まあそうじゃなくたってお前はもううちの家族みたいなもんだけどな」


「そうそう、大丈夫よ昴ちゃん。つらい事を話してくれて、どうもありがとうね」


「い、いえ……。なんか、変な話しちゃってすいません……」


「も~、そんな遠慮なんかしなくていいの! 昴ちゃんは、何でも私たちに相談していいんだから。ね、夏流さん?」


「…………。何でも……か? いや、何でも……お、おう。何でも相談しろ、ハハハ……」


「まあこの人はあんまり当てにならないから、私を頼ってね昴ちゃん♪」


 この人が頼りないのは、恐らく貴方の前だけです――とは口が裂けても言えなかった。言葉の代わりに乾いた笑い声が漏れる昴の前、ばつの悪そうな表情で本城も苦笑していた――。

 そうだ、色々とあったが、それでもまた何とか歩き出そうとしていたのだ。それなのに何故……またこんな目に遭っているのだろうか。時が加速し、あの日へと向かう。昴はその日、大学の中庭で花壇に囲まれていた。そこには白衣の女性が如雨露を片手に立っており、花に水を与えているのがわかった。

 女性はゆっくりと振り返り、背後に立つ昴を見つめた。長く黒い髪が揺れ、どこか浮世離れしたような幻想的な眼差しが輝く。成る程――そんな風に思っていた。とんでもない美人の教授がやってきたと聞いて呼び出されてみれば。そこには納得の美女が佇んでいたのだ。

 教授は靴音を鳴らし、昴へと歩み寄る。そうして如雨露を手にしていないあいている手で昴に握手を求めた。それが何を求められているのかさっぱりわからず、昴が握手に応えられたのは数十秒後の事であった。


「――初めまして」


「は、初めまして……? あの、ここに私の友達が居ませんでしたか……?」


「さっき、ランチに行くって学食に行ったけど」


 また友達に置いてけぼりを食らってしまった――。周囲の友人達はあまり昴に興味がないらしい。困った様子で溜息を漏らす昴。そんな少女に微笑みかけ、女は己の名を名乗った。


「私の名前は――――メリーベル。メリーベル・テオドランド……。貴方は?」


「……? えっと、北条……北条昴、です」


「そう。それじゃあ昴、また」


 優雅に歩き、立ち去っていくメリーベル……。その後姿を眺め、昴は呆然としていた。明らかに外国人である。いや、大学にはほかにも外国人の教授は居たのだが……。彼女からは他の人間からは感じない、独特の存在感があった。どこか、この世界からはぐれているかのような感触……。強いて言うならば、それは本城夫妻と良く似た雰囲気だった。

 そしてこの昴の違和感は数時間後、現実の物となる。断片的な記憶の中、昴はあのビルの階段を駆け上がっていた。既に人が立ち入る事の無い、兄北斗が死んだビル――。あの日以来近づく事はなかった場所。以前に自殺者が出たというのに相変わらず鍵がかかっていなかったのは幸運だったのか、それとも不運だったのか。あるいは破壊された鍵に昴が気づけば、何かが変わったのかもしれない。

 屋上に立ち、強い風の中昴は街を見下ろしていた。その背後、そっと忍び寄る人影があった。彼女はそっと、昴をの背中へ手を伸ばす。突き飛ばされた少女はあっさりとその身体を宙に舞わせ――。落ちながら、己を殺した人物の顔を覗き見た。

 そこに立っていたのは――昼間、花に水を上げていた教授。優しく微笑み、夜の風の中昴を見下ろす影。メリーベル・テオドランド――。世界を渡る錬金術師は、その日北条昴をビルから突き落とし笑っていたのであった――。




「目が覚めた?」


 バテンカイトスの地下倉庫、そこで昴は目を覚ました。目の前にあったのが夢の中で見た顔と同じである事に気づき、すかさず跳びかかる。メリーベルの襟首を掴み上げ、そのまま壁際まで歩いて叩き付けた。驚く様子もなく冷静なメリーベルの瞳を覗き込み――そうして気づく。自分の視界が半分になっている事。そして激しい熱のような痛みが右顔面を断続的に襲い続けているという事。

 顔に触れ、昴は己の顔に包帯が巻かれている事に漸く気づいた。当然手当てはメリーベルがしてくれたのだろう。だが……思い出してしまったからには彼女を信用する事は出来なくなっていた。冷や汗を流す昴を見下ろし、メリーベルは自分を掴み上げている昴の手首を握った。


「私は敵じゃないわ。落ち着いて」


「敵じゃない……!? くそ……ッ」


 理不尽な状況に仕方なく手を離す。メリーベルはまるで何も知らないかのように昴の様子を心配そうに伺っている。記憶をもう一度思い返す――。確かにあの日、自分を突き落としたのはメリーベルだったのだ。だが何故……どうして? 理由がまるでわからない。そもそもあれはどうしてだったのか? 何故あんな場所に向かったのか……?

 だが、考えるより早く昴は魔剣を片手に歩き出していた。その背後からメリーベルは肩を掴み、少々強引に振り返らせる。血が滲む包帯を片手で押さえ、昴は振り返った。


「まだ応急処置しか済んでいないわ」


「…………ありがとう、礼を言うよ。でもまだ、ミュレイが戦ってる。行かなきゃ……」


「改めて言うのも何だけど、貴方は重傷よ。ちゃんと手当てすれば直ぐによくなるんだから、じっとしてて」


「そういうわけには行かないよ――メリーベル」


 手を振り払い、騎士は甲冑を鳴らしながら振り返った。べっとりと血で汚れた己の手をまじまじと見つめる。そうだ……行かなければならない。他の事は全てが二の次だ。もう、その程度で揺らいでいるわけにはかないから。

 自分を頼ると言った姫がまだ戦っている。外で皆が戦っている。生きる為に、護る為に……。己の成すべき事を思い出せ。自分は戦う為にここに来た。この程度の痛み、ユウガを継承する激痛に比べればたいした事は無い。いくらでも前進出来る。前に進める。だからまた一歩前へ――。

 そんな昴をもうメリーベルは止め様としなかった。ただその隣に付いて歩き、共に地下から脱出する。崩れかけたバテンカイトスのエントランス、昴はユウガをきつく握り締めた。


「ついてくるつもり?」


「一応、主治医なので」


「そう……。他人を護っていられるほど余裕はないけど……」


「大丈夫。こう見えても、戦いも少しは齧ってるから」


「――――好きにして」


 昴は館から飛び出し、戦場へと突き進んでいく。夜の街を白騎士が駆ける――。過去の事はすべて過ぎ去った事だ。与えられた命で、己に出来るだけの事をしよう。護ってくれた彼女を護る為に。己の罪を、裁く為に。煉獄の炎に包まれた街こそ自分には相応しい。少女は己を押し殺し、滴る血と共に剣を揮い続ける――。


~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*どうしてこうなった*


アクティ「おかしいでしょーーーーッ!!!!」


ホクト「何となく、お前の叫びから始まると安心するな」


昴「わかるわかる」


アクティ「じゃ、なくってっ!!!! 白騎士……本編だけならずこっちでも喧嘩を売ってくるとはーっ!!」


昴「私別に喧嘩は売ってないんだけど……むしろ撃たれたっていうか」


アクティ「ホクトが一番、夏流が二番……。はい、これなんのことでしょう?」


ホクト「戦闘力か?」


ロゼ「アンケート投票の結果でしょ?」


アクティ「はい、ロゼ正解!! なにこれ! どういうことなのーっ!!!!」


ホクト「まあ待て。アンケートの事は良く判らんが、別に俺は主人公だからいいだろ」


シェルシ「それにしたって貴方……票を全体的にかっさらいすぎですよ……」


ミュレイ「まあ……ホクトが一位なのは百歩譲って許すとしても……。二位が本城夏流というのはどういう事なんじゃ」


夏流「俺何かしたか……? ただ居るだけのような気がするんだが」


メリーベル「いるだけで票を持っていくなんて……なんというNEET」


夏流「やめろ!! 俺の前でその言葉を使うなっ!!」


ロゼ「(ていうか、ディアノイア読んでない人は本当にちんぷんかんぷんだろうなあ……)」


うさ子「うさはね、三番目なのーっ!! はうはうっ!! はううっ!!」


シェルシ「それ、前から気になってたんですが――鳴き声なんですか――?」


アクティ「四番目はリフル、昴、それからリリアさんが並んでるね」


リフル「わ、私か? 照れるな……」


昴「ホクトと同じ主人公のはずなんだけどなあ……出番の割合のせいかな」


リリア「わーい♪ 全くメインでもなんでもない作品になっても投票してくれる人が居るって事は、リリア・ライトフィールドの人気は確固たる物なのね♪」


夏流「……いや、それはどうなんだ……? というか、それだけロクエンティアがディアノイアより人気がないって事だろ」


ホクト「あ、そういう事言っちゃうんだ――」


昴「師匠!! 空気読んでくださいよ!!」


夏流「す、すまん。そういえばうさ子、お前はステラでも票が入ってるからそれもあわせれば俺を抜くんじゃないか?」


うさ子「!? そ、そうだったの……!?」


ロゼ「無意味に票を割るからそういうことになるんだよ」


うさ子「ねえねえ、ホクト君ホクト君? うさが一番になったら、何かもらえるのかなぁ?」


ホクト「アルティメットジャンボパフェ贈呈」


うさ子「うさ、人気の為ならなんでもするのっ!!」


リリア「だったら私と組むのが一番よ、うさ子ちゃん……ふふふふ」


夏流「やめろ! 闇リリアと組んだら大変な事になるぞ!! 北斗!!」


ホクト「ああ――って、漢字で呼ばないでくれます!? 新旧主人公――!! 必殺!!」


夏流「神討つ一枝のなんとか――!」


ホクト「剣いっぱい出す攻撃――!!」


リリア「あらあらまあまあ、駄目ですよそんな乱暴しちゃあ」


ロゼ「…………あしらわれてるぞ」


うさ子「というわけで、アンケート継続中なのっ♪ うさにいっぱい投票してほしいのっ! はうはうっ!!」


シェルシ「なんだかふと思ったんですけど、劇場でも空気ですよね……私」


ミュレイ「まあ、わらわも五十歩百歩じゃがな――」


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