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白騎士(3)

「ヴァンと直接対決するのは、私と貴方の二名になります。他の剣誓隊は周囲の包囲と援護が主な任務です」


『あの四天王……将軍たちは戦わないのか?』


「貴方と私でヴァンの再生能力を無力化した後、四名投入で彼を抹殺します」


 第四界層プリミドール上空、ステラと白騎士を乗せた飛空艇が空を待っていた。荒野に移りこんだその影を見下ろし、昴は仮面の下でずっと冷や汗を流し続けていた。昴は過去の出来事がトラウマとなり、高所からの景色が本当に苦手だったのである。しかしステラはそんな事に気づく気配すらない。

 ステラは既に戦闘形態デストロイモードを展開し、機械の翼と鎧を纏っている。一方隣で白騎士は必死に格納庫の手すりにしがみ付いていた。怪訝そうに首をかしげるステラを恨めしく思いながらも昴は心を落ち着かせようと必死に声も無く祈り続けていた。

 魔剣狩り討伐作戦が開始されたのは昴がインフェル・ノアに入ってから数日後の事である。ヴァンは相変わらずプリミドール内を移動していたのだが、その情報をキャッチし剣誓隊は昨日から既に包囲と攻撃を続けており、廃村が一つ戦場となっていた。上空からステラはそれを見下ろし、静かに目を細める。昴は泣き出しそうになりながらステラにすがり付いてそっと下を見下ろした。


『転送魔法であそこまで行けないのか……?』


「いけないことはないですが、私以外は登録されていないので不可能です。先行しましょうか?」


『いや、居てくれここにっ!!』


「はあ……。ところで何故先ほどから私にくっついているのでしょうか」


『……細かい事は気にするな。それでこれからどうするんだ?』


「ここから降下し、魔剣狩りを襲撃します。準備はいいですか?」


『へ?』


 きょとんと聞き返す昴の背後、ハッチが開き暴風がなだれ込んでくる。風の中髪を靡かせ昴は青い顔をして微笑んでいた。もう何がどうなっているのかわからない――。


「ではお先に」


 一人、先に飛空艇から飛び降りるステラ。それを見送り昴は眼下に広がる荒野を見つめた。高所恐怖症――だがそんな事は言っていられない。ごくりと生唾を飲み込み、その手の中にユウガを召喚する。

 己に言い聞かせる――。今の自分は北条昴ではない。ミュレイを護る為にだけ存在する白騎士なのだと――。荒く呼吸を繰り返し、その三度目の吐息の後に騎士は空へと踏み出した。長い髪が風で舞い上がる中、足場を失い直撃する重力の中にさらされ、昴は回転し、鞘に、柄に、手を伸ばし握り締める。高鳴る鼓動の音は風を切る音に紛らせてしまえばいい――。深く息を着き、音にならない声で呟く。

 今は亡き一人の姫の願いを背負い、紅き焔の魂を継承する――。白き甲冑は光を弾いて眩く輝く。堕ちて行く――光の中で。荒野は見る見る近づいてくる。その最中、戦っている男の姿が一つ。黒い剣士は空を見やり、猛スピードで落下している昴に反応した。

 闇の騎士は足元の影より魔剣を無数に召喚――。まるでミサイルを迎撃するかのように一斉に射出する。空中から飛来する白騎士は刃を抜き、次々と突っ込んでくる魔剣を切り裂いて堕ちて行く。足場に氷の道を尽くり、ブーツの先を安定させる。氷の道は見る見る内に構築され、その上をぐんぐん加速しながら白騎士は突っ込んでいく。


『ヴァン・ノーレッジ……ッ!!』


 強風の中、氷のレーンを滑り跳ね、空中を猛スピードで吹っ飛びながら刃を揮う。ヴァンと交差したその刹那、二人は互いの魔剣を衝突させた。そのまま吹っ飛んでいく昴は空中で制動し、荒野の上に靴を擦り付け着地する。猛然と突っ込んできた昴の一撃でヴァンの持っていた剣は砕け、男はそれを放り捨てて振り返る。


「……またお前か。登場が派手すぎだろ」


『それは私の意志ではない……ッ! 不可抗力だ!』


「そ、そうか……。で? ケリをつけにきたってわけか? すっかり帝国の一員じゃねえか」


 ヴァンは両手に剣を構築し、二対の刃を打ち鳴らし構えた。白騎士は刀を鞘に収め、静かに呼吸を正す。魔剣狩りヴァン――。不死身の男、百人斬り、黒騎士、人類最強――。あらゆる無敵の称号を掌握する人の形をした怪物。それを前に昴は精神を研ぎ澄ます。

 今回は昴一人で挑むわけではない。当然それを卑怯だと考えない事もない。だが目的はすべての手段を凌駕する――。鞘に収めたままのユウガに魔力を込める。ヴァンを挟んで昴の反対側、そこには武装状態のステラが待機していた。


「二対一、か……。まあいい、多勢に無勢は普段通り――。いつも俺は一人だからな。一人で十分だ」


「魔剣狩りヴァン・ノーレッジ……貴方の存在を抹殺します」


『……これで最後だ、魔剣狩り。我が剣に誓って貴様を――討つ!』


 左右から同時に白いシルエットが襲い掛かる。ヴァンは一瞬で全身をガリュウの影で包み込み、鎧を構築して完全武装化する。ステラの蹴りがヴァンの持つ魔剣と衝突し、ヴァンはそれを防御すると同時にその場で横回転――。ステラの脇腹を打ったのはヴァンの腰から伸びている剣で出来た尻尾であった。それがステラの身体に減り込み、脇腹を切り裂いている。

 吹っ飛ばされたステラを追い魔剣が影から剣山のように無数に出現する。それを全身から放出する魔力のバーストで弾き飛ばし、ステラは両手のミストラルを回転させる。指先一つで落雷を起し、その雷の雨の中ヴァンは大地に魔法陣を浮かべて防御の姿勢を取った。


「無駄だ。魔法攻撃で俺に勝てると思わないほうがいい」


 片腕を空に翳すと雷全てがそこに収束していく――否、吸い込まれているのである。奪った落雷のデータを再構成し、そのまま反対側の掌から漆黒の波動として再放出する。穿たれた雷の嵐は何十倍もの威力に増幅され束ねられている――。ステラは直感的に危険を感じ、瞬間移動でそれを回避した。背後、荒野を貫き山岳地帯に直撃した黒雷は山々を吹き飛ばし、荒野全てを真っ白に染め上げてしまう。

 尋常ではない威力の攻撃に荒野に砂塵が吹き抜けた。ステラは近距離戦闘に思考を切り替え、ヴァンへと襲い掛かる。放たれる高速の手足――それはヴァンの意識を完全に凌駕している。だがガリュウは全身の各所から剣を出現させ、その猛攻に対応していた。攻め切れず一瞬間を開くステラ。その足元から黒い鎖が無数に出現し、ステラの身体を大地に括りつけた。

 魔力封じの結界――。更に先ほど使った黒い雷を放つ為片手を翳す。ステラが目を見開き、耐え切れない大きなダメージを覚悟した時である。割って間に入った昴が鞘から居合いで抜いたユウガが眩く輝き、黒い雷を真っ二つに両断した。


『――――魔を断て禍祓い……! 抜刀――奥義ッ!!』


 それは昴が学んだ事でも考えた事でもない。それでも腕から伝わってくる“彼女”の力がそれを可能にする。幻想を現実へすり替えていく。死者の技を生者に伝える。それは、ククラカン王家に伝わる魔剣の力――。

 祓った雷が白く染め上げられ、ユウガの刀身に憑依する。居合い抜きから更にその剣を振り上げ、身体を捻って虚空に剣を放つ。空間に音が響き渡り、美しい硝子のような音色と共にそれは弾き返された。


『――祓え、“鳴神”ッ!!』


 魔法攻撃を無力化し、その威力を刃に乗せて放つカウンター技……“鳴神”。当然元々の持ち主であったミラと親しかったヴァンはそれを知っていた。だからこそ、動きが一瞬固まってしまう。遅れた防御の犠牲は構えた魔剣の消失――そして破魔の波動はヴァンの鎧も一撃で粉砕し、男の身体をずたずたに引き裂いた。

 荒野を駆け抜ける白い衝撃――。巨大な亀裂の前、昴は静かに刃を手に風を纏っていた。白騎士に護られたステラは鎖を引きちぎり、頭を振って前に出る。


「すみません、助けられました」


『…………。それより……あれか』


「ええ、あれが――ヴァン・ノーレッジの恐ろしさです」


 破魔の力で砕かれた鎧――。防御も貫き、ヴァンの身体は高熱の中にさらされたはずだった。当然その身体は黒く焦げ付き、肉は削げ落ち両腕が捥げ、首から上は既に原型をとどめていなかった。既に死んでいると表現して何の問題もないその死体の足元に黒い魔法陣が浮かび上がり、悲鳴のような音と共にその肉体が復活していく。まるで逆再生の映像を見ているかのように、ヴァンの身体は元通りに修復され、身体だけではなく服装までがきっちりと元に戻っていた。


「…………。死んだか」


 そんな風にあっけなくヴァンは呟き、それから殺意の篭った瞳で昴を射抜いた。“死んだか”――? 人の終焉である死をまるで日常茶飯事であるかのように吐き捨てるヴァン。昴の背筋を悪寒が駆け抜けた。やはり相手は遥か怪物――。


「気圧されないで下さい。貴方は別に彼を倒さなくとも良いのです。ただ、術式を破壊する事だけが私たちの仕事です」


『判っている……!』


 二人は気を取り直し、武器を構えなおす。走り出した白騎士の背後、両腕を広げステラは目を閉じる。


「ミストラル、封印解除――。デストロイモード、発動……!」


 円の刃は陰と共に分裂していく。構築された雷の天輪その数十二――。分裂した刃を一斉に放つと、それはまるで自立した思考を持つかのように物理法則を無視した奇妙な軌道でヴァンへと迫っていく。昴は自分を追い越していく刃の群れを見つめ、駆けていく。風を切って。刃を握り締めて――。

 何故、ヴァンはこんな風になってしまったのだろうか。何故、自分達はこうして戦っているのだろうか。何故ミラは死なねばならなかったのだろうか。何故ミュレイは……。何故、何故……。

 疑問が心の中に疼いていた。これで世界は本当に平和になるのだろうか――? だが、すべては昴には理解出来ない事だった。大きな運命という名のうねりは二人の戦いを絶対に避けてはくれないだろう。

 ヴァンの悲しみも苦悩も、大切な人を護れなかった絶望も理解出来る――。だが倒さねばならない。なぜならば敵だから。殺されたから殺していいなんて言い訳になるはずがない。でも、それでも――。

 じりじりと脳裏を焦がすような記憶がまだ燃えているのだ。ミュレイの血が、この両手を染めていたのだ。殺してやりたいと、殺さなければならないと、心の奥底から願ったのだ。そして全てをかなぐり捨てて戻ってきた――。


『ぉおおおおおおおおッ!!』


 ミストラルが十二方向から同時にヴァンへと襲い掛かる。同時に頭上に転移してきたステラが蹴りを放った。しかしヴァンの身体からは無数の剣が突き出し、ステラの腹を刺す。血を流すステラ。しかし腹に刺さったままの剣を更に深々と押し込み、ヴァンの頭を片手で掴む。

 至近距離からの高圧電流放出――。ステラの腕が黄金に輝き、一瞬目が眩む程の大規模な雷撃が放たれた。吹き飛ぶヴァンの首から上――。肉のこげる臭いの中へ突っ込んでいく昴。首のない魔剣狩りはその片腕を伸ばし、そこにガリュウを構築した。頭がないのに反応する――それがどれだけ不気味な事なのか昴は理解した。首のない男はガリュウの口を大きく開き、近づく昴を丸呑みしようと腕を繰り出す、慌てて停止しようとする昴の前、ガリュウの顎を手足で引き上げ固定するステラの姿があった。


「構いません、斬りなさい白騎士!!」


『ステラ――!?』


「大丈夫です、私は死にませんから……。さあ、早くっ!!」


 迷っている暇は無かった。ステラの手足に食い込んだガリュウは今もぎりぎりとステラの肉を侵しているのだ。昴は歯軋りし、刃を構えた。鞘を投げ捨て、太刀を下段に構える。

 脳裏に描くイメージ。術式だけを破壊し、人を傷つけない破魔の刃――。実体は無い。物理的威力も無い。だが明確に意識した魔だけを切り裂く、そんな刃の力――。

 何もかもを切り裂くのでは刃としては不十分。本当に願う力は斬りたい物だけを切り裂く力――。放つ刃は白く幻想的に輝き、ステラの身体へと食い込んでいく。時が停止し、そして全てが加速する――。

 下段からの斬撃――それはステラごと魔剣狩りの身体を切り裂いた。“しん”と静まり返った世界の中、昴の揮った刃の音さえも世界には響かない。冷たい沈黙の中、魔剣狩りの身体に浮かんでいた術式が停止する――。


『――――終わりだ』


 魔剣狩りの烙印がスパークと同時に消滅した。ガリュウは大きく空に吼え、男の身体の全身を食い破るように内側から魔剣という魔剣が溢れ返った。既にヴァンの肉体は原型を留めておらず、魔剣で編みこまれたそれはぶくぶくと膨れ上がり、どこまでも肥大化していく。

 空を見上げる昴――。その眼前、刃で構築された巨大な龍が座していた。何が起きたのか全く判らなかった。言われたとおり、ホクトの烙印を破壊した――ソレだけのはずだったのに。

 闇の龍は吼え、翼を広げた。その巨体の下に構築される同じく巨大な影の全てが魔剣――。剣の化身――。愕然とする白騎士の身体を魔剣の群れが襲った。吹き飛ばされ巻き込まれ、引き裂かれていく。黒き闇の泥沼の中、昴は悲鳴を上げた。そしてそれが恐らくは、すべての悲劇の始まりだったのだ――。




白騎士(3)




 長い……。長い、夢を見ていたような気がした。そう、私がこの世界に関わるようになってからの夢……。

 ミュレイと出会い、様々な戦いを超えてきた。嫌な事もあれば楽しい事もあったっけ……。ああ、どうしてこんな事思い出してるんだ? もしかして私……死んだのだろうか?

 そうだ。魔剣狩り……。ヴァンとまた戦ったんだ。ヴァン……。皇帝の前で戦って……。インフェル・ノアから……落ちた。それで――それでもまだ私は考えていられる。どうしてだろう? 身体を動かす。激しい痛みが全身を駆け巡った。


「まだ無理はするな。あんな所から落ちて無事じゃったのは本当に奇跡じゃぞ」


「…………う……」


「今回復魔法をかけておる。少しゆっくりしておれ。お主は焦りすぎじゃ」


 優しい声が聞こえた。とても懐かしい声だった。嬉しくて嬉しくて、何故だか泣きたくなった。声が震える。体が震える。私は心底思っているんだ。生きていてよかったって――。

 二度目のインフェル・ノアでの戦い……。繰り返した婚姻の儀。白騎士として戦った私は、再びヴァンを倒す事が出来なかった。インフェル・ノアから落ちて……それで、死んだと思ってた。でも、この鎧がきっと私を護ってくれたんだ。

 そっと目を開くと、光を背に微笑むミュレイの姿があった。子供なんかじゃない、ちゃんとした本来の姿のミュレイ……。花嫁衣裳のミュレイ。そう、二度目のミュレイ……。彼女は婚姻の儀をちゃんと受けたはずだったのに。なのにどうして……。


「お主が戦っているのを見て、ここまで駆けつけたのじゃよ。感謝するが良い……」


「ミュ、レイ……。どう、して……」


「…………。お主が落ちていくのを見て、居てもたっても居られずに引き返してしまった。結局、婚姻の儀でいいところは全部シェルシにとられてしまったな」


 冗談交じりに笑うミュレイ。その笑顔がとても眩しかった。また、負けたんだ……。そう考えると全身から言葉に出来ない悔しさと悲しさが湧き上がってきた。また、負けた……。私は勝てなかったのだ。

 震える手で血に染まったユウガを見つめる。それだけは手放してはいけないと、ぎゅっと握り締めていた私の最後の権利……。刀は優しく輝きを放っている。まるでミラが自分に微笑みかけてくれているのではないかと思う程に……。

 身体に力を込め、必死で起き上がる。肩で息をする私を支え、ミュレイは抱きしめてくれた。遠くに仮面が落ちているのが見える。砕けたそれは、もう私を白騎士に戻してはくれない。


「もう、良い……。お主は良く頑張った。もう、戦わずとも良いのじゃ――」


「ミュレイ……」


 太陽のような、優しいミュレイのにおい……。その腕の中で私は目を閉じた。どうして負けたんだろう。わかんないよ、ミュレイ……。私、ずっと戦ってきたのに……。強くなろうって、必死にやってきたのに……。

 ヴァンに勝てなかった。婚姻の儀は邪魔されてしまった。なんでミュレイはここに来ちゃうんだよ。ミュレイは幸せにならなきゃダメじゃないか。ミュレイは皇帝の妻になって、世界を変えたいって言ってたじゃないか。なのに引き返してくるなんて……。馬鹿だ。大馬鹿だ――。


「まだ、上で馬鹿が戦っておる……。今の内にここから離れよう。さあ、白騎士――」


「離してよっ!! 私は……ッ!! 私はまだ、負けてないぃいいいっ」


 歯を食いしばり、立ち上がる。まだ間に合う。まだ婚姻の儀は終わってない。まだミュレイの夢だって終わってない。まだ私の戦いも終わってない。まだミラの願いも終わってない。早くヴァンを倒さなきゃいけない。早くヴァンを。早くあいつを――。

 身体から力が抜け、ミュレイの胸に飛び込んでしまう。彼女は私を強く抱きしめた。どこにも逃がさないとでも言うかのように……。血に染まった手で彼女の衣装を穢す。嘘と欺瞞に満ちた身体で彼女の優しさを穢す。どうして私は――結局何も護れないんだろう。


「嫌だ……。こんなの嫌だよう……っ」


「…………もう、良い……。行くな、白騎士……」


「ミュレイ……ッ! う……くそお……っ! くそおおおっ!!!! うわああああああああああああああああ――――っ!!!!」


 叫んでも身体は動かなかった。冗談じゃない。なんでこんなんなんだよ。ここまでやってきて――やっとあいつを見つけたのに殺せなかった。また、また同じ事を繰り返した……。

 ちくしょう……。ちくしょう――。心の中で何度も叫んだ。涙が溢れて止まらなかった。ヴァンに勝てなかった。ミュレイの夢をかなえてあげられなかった。なのになんでだ。一番腹が立つこと、それは――。


「ミュレイ……ごめんね……。ごめん……。生きててくれて……ありがとう……」


 彼女がまだ生きてる。一度目ではヴァンに殺されてしまったミュレイ……。でもミュレイはちゃんとここに居る。私の手の届く所に居る。皇帝の所にもいかなかった。ちゃんと私のところに居る。それが心の底から嬉しくて。思い切り安心してしまっていて。この優しいにおいの中で甘えていたくて。そんな自分が何より嫌いだった。

 なのにどうしてこんなにも彼女の傍に居られる事が嬉しいのか。幸せと感じるのか……。私は未来を変えられなかったのだろうか。それとも変えられた……? 判らない。ただ、戦いはまだ続いている。そしてしかし、私の戦いの一つがここで終わったのだ。


「ご苦労じゃったな、白騎士……。ありがとう……わらわの為に頑張ってくれて……」


「うう……っ! うわあああっ! ミュレイ、ミュレイ……っ!」


「おぉ、よしよし……。なんじゃお主、甘えん坊じゃなあ……ふふふ」


「うわあああんっ! わーん!! わぁあああんっ!!!!」


 そうして暫く私は彼女の温もりを感じていた。身体中で記憶したかったんだ、彼女の事を。今はただそれだけで満たされている。今はただそれだけで……立ち上がる事が出来る。

 頭上のインフェル・ノアではまだヴァンが戦っているのだろうか。私は直ぐにそこに戻らなければならないのに。身体は動かなかった。ずっとこうしたかったから。我慢していただけ、いいよね……ミュレイ。もう少しだけ……貴方の傍にいても――。

 歴史の鐘が鳴る音が聞こえる。砕けた仮面を踏みにじり、私はミュレイの背に強く指を伸ばした。それが私の本当の、物語の始まりの合図だった――。



~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*まあ……そういう小説だから*


ホクト「お前ばっかりずるいぞっ!!」


昴「急にどうしたの?」


ホクト「お前ばっかりお姉さんキャラたちの胸にうずもれやがって!! 俺がそのポジだろ常識的に考えてっ!!!!」


昴「…………。あんたがやったら気持ち悪くないか……?」


ホクト「あーあーまったくなにもきこえなーい」


昴「でもまあ、確かに……。だっこしすぎかもしれない……うう……これでいいのか私は……」


奥さん「順調に百合の道を歩んでいるようね~」


ホクト「急に忘れられた頃に出てくるの止めてくれないか読者がみんな混乱するから……」


奥さん「大丈夫よ昴ちゃん! 百合は正義よ♪」


昴「全然意味わかんないですけど……」


奥さん「私にも昔、ゲルトちゃんというメインヒロインがいて……」


ホクト「その話長くなりますか?」

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