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白騎士(1)

「これはまた……ずいぶんごついのを召喚してしまったのう……」


 とても懐かしい声が聞こえた――。なんだかとても長い間、その声を聞いていなかったような気がする。そういえばそうか、彼女はすぐ小さくなってしまったから、こんな大人びた声で喋る事はなかったっけ。

 光を潜り抜けた先、私はあの始まりの場所に立っていた。ミュレイが式神の召喚を行っている部屋である。ミュレイの自室の隣にあるその部屋の中、私は光を背に彼女を見つめている。ミュレイ・ヨシノ……。私を護って死んだ彼女が今、私の目の前に五体満足で立っていた。

 それが本物なのか確かめたくて私はミュレイに手を伸ばした。ミュレイは確かに生きていた……。私を見て怪訝そうに眉を潜めている。そりゃあそうか、今の私は……なるほど、なんとも式神らしい外見だ。


『ミュレイ・ヨシノ……』


「まだわらわは名乗っておらぬはずじゃが……。勝手に名前を知っていると言う事は結構高位な式神なんじゃろうか。お主、名はなんという?」


『…………』


 周囲をきょろきょろと見渡した。いや待て、そもそもここはいつの時間軸なんだ? わからない……。ミュレイが大人に戻っているという事は、私がこの世界にやってくるタイミングと同じかそれより前になるはずだが……。

 ミュレイの言葉は無視して窓辺に立つ。懐かしいラクヨウの街の姿がそこにはあった。暫く腕を組んで考え込んだ。さていざ時空跳躍をしたはいいが、何から始めるべきか……。振り返り再びミュレイを見やる。ミュレイは私の姿をまじまじと見つめ、首をかしげていた。


「お主……なんなんじゃ? なんでヨシノの家紋を背負っておる……? なんだか普段の式神とは随分違うのう……。手順でも間違えたか……?」


『確かに私は普通の式神とは異なるが、その召喚の責は貴方には無い。すべては私が望み、選んだ事だ』


「はっ?」


『……いや、何でもない。それよりミュレイ、婚姻の儀は……?』


「ぬ? お主……本当にどういう式神なんじゃ? まあ、婚姻の儀はまだ一年後じゃが……」


 ということは大体十ヶ月ちょっとは時空跳躍に成功した、ということか。想定していたよりもずっとしょぼくて悲しいが、まあ仕方ない。出来ればミラの死んだ瞬間まで戻りたかったのだが……。念のため、確認する。


『ミラ・ヨシノは?』


「…………」


 その一言でミュレイの顔つきが変わった。流石に不審すぎたかと思ったが、ミュレイは呆れるように溜息を漏らして首を横に振った。なるほど、既にミラは死んだ後、という事か……。となればやる事は決まってくる。彼女を護り、そして彼女が死ぬ要因となったと考えられる要素はすべて退けるのみ。

 ミュレイの前まで歩み寄り、そこで私は跪いた。胸に手を当て、彼女の為に目を閉じ願う。ミュレイ・ヨシノ――私のとても大切な人。本当の姉のような、私の心を癒してくれる人……。今度こそ護らねばならない。だからここに誓いを立てよう。


『ミュレイ・ヨシノ……。私は貴方を守る為に召喚された救世主。貴方に忠誠を誓い、我が身は貴方の盾となり剣となり、あらゆる困難から貴方を救うと誓おう』


「救世主……? 自称……というだけの事はあるみたいじゃのう。物凄い魔力を感じるし……これは本当に強い式神を引き当てたか。して、名は?」


『白騎士――』


「白騎士……? ところでお主、さっきから戻そうとしておるのじゃが戻せないのは何でじゃ?」


『私は通常の式神とは異なり、貴方の意思では出し入れが出来ない。説明すると長くなるが……』


「……本当に特異な式神のようじゃな……。まあ、良い。なんだかよくわからぬが、わらわの事は既に知っておるようじゃし……これからよろしく頼むぞ、白騎士」


 立ち上がり、彼女の手を取る。優しく、暖かく、美しいミュレイの手……。もうこの手が血に染まる所は見たくない。何としても彼女を護り――そしてこの世界を変えてみせる。救世主と呼ばれるに相応しい存在として、君臨してみせる――。


『早速で申し訳ないが、行動に移りたい。時間は余り残されていないからな……』


「行動? 何をするつもりじゃ?」


『魔剣狩り、ヴァン・ノーレッジを倒す』


 きっぱりと断言すると彼女は目を丸くして頭上にクエスチョンマークを乱立させた。まあ、わけがわからないだろう。だがミュレイに全部説明してやるつもりはない。彼女が何もわかっていなくとも、私一人でどうにかすればいいだけのことだ。颯爽と歩き出し、ミュレイの部屋を出る。やるべき事は山積みだ。その全てを、効率的に片付けねばならない――。




白騎士(1)




 時は遡り、一年前――。過去の世界に戻った昴が真っ先に行ったのは情報収集であった。忍であるウサクを頼り、更には自らの足で各地を練り歩き情報を収集した。

 ミュレイが死んだのは婚姻の儀である。逆に言えば、それまではある程度の猶予があると考えられた。何しろ昴がこちらの世界にやってきたのが彼女の死という因果を引き寄せたのだとすれば、昴が本来やってくるべき地点までこの世界の因果は彼女を死に導かないはずだからである。

 当然それらは昴の憶測に過ぎなかったが、実際この時期ミュレイの周囲に危険は無く、彼女が行く魔物討伐でもミュレイの身に危険が及ぶ事はなかった。昴はミュレイに変わって戦場に向かい、そこで魔物を討伐し続けた。

 そうして戦の渦中に身を置く事こそ最も効率的に情報を得る手段だと彼女は考えていた。戦乱ある所に魔剣狩りの姿あり――というくらいである。当時のヴァン・ノーレッジは最も暴れていて手がつけられない時期であり、街から街へ片っ端から魔剣使いを倒しながら渡り歩いていた。そんな魔剣狩りと昴が接触するのはそう難しい話ではなく、二人の戦いの機会は直ぐにやってきた。

 戦場はククラカン国内にあるとある山岳地帯の村――。その付近の荒野で二人は刃を交えていた。白騎士としての昴、そして魔剣狩りとしてのヴァン・ノーレッジ……二人の最初の邂逅であった。

 次々に魔剣を繰り出し昴へと襲い掛かるヴァンであったが、昴はその攻撃を尽くユウガを使って無力化してしまう。そう、昴はヴァンの能力を知っているがヴァンは昴の能力を知らない――。初戦では昴に圧倒的なアドバンテージがある。昴は長期戦に持ち込むつもりも、婚姻の儀まで戦いを長引かせるつもりもなかった。

 メリーベルの作った鎧は魔剣狩りヴァンに対抗するだけの力を昴に与え、二人は対等に刃を交える事に成功した。何度と無く繰り広げられる剣と剣のぶつかり合い……。荒野に衝撃が轟き、刃の音が響き渡る。状況は昴に有利――だがしかし、そこで予想し得なかった横槍を彼女は受ける事となった。

 天に浮かび上がった魔法陣から出現したのは、機械の装甲を身にまとったステラであった。ステラは二人が剣をぶつけ合うその間に割って入り、同時に二つの魔剣の攻撃を受け止めてしまったのである。


「チ――ッ!? またお前か……ステラ」


「魔剣狩り、ヴァン・ノーレッジ……。やはり貴方でしたか。ところで、貴方は……?」


『そこを退け、ステラ……。私の邪魔をするな』


 ヴァンと昴は同時に刃を構えたまま蹴りを放つ。しかしそれをステラは剣から手を離し、両手で受け止める。そのまま手の甲で二人を打ちつけると、大気が軋むような衝撃が走り白と黒の影は左右に大きく吹き飛ばされた。意識が吹っ飛ぶような打撃に昴は舌打ちし、頭を振って剣を構えなおす。そう、彼女の予想外の問題――それは、下層で起こる戦闘に武力介入するこの治安維持システムガーディアン、通称ステラであった。

 ステラは全身に電撃を纏い、黄金に輝きながらヴァンと昴をにらみつけた。それから二人を交互に見やり、静かに溜息を漏らす。


「例え貴方達が二人同時に挑んできたとしても、私に勝利する事は不可能です。ヴァン・ノーレッジ、貴方の持つ魔剣ガリュウはカテゴリーS……。ハロルドの計画に必要な物です。暴れないで下さい、私は貴方を殺せないのですから」


「そいつは無理な相談だ……。ケンカを吹っかけてきたのはそっちの白いのだからな」


『私も同感、それは無理な話だ。私はヴァンを殺す為にここに存在している』


「……貴方の魔剣もカテゴリーSですか。困りました――。以前カテゴリーSの魔剣使いを誤認で殺してから、私は厳重注意を受けています。Sの魔剣使いは殺してはならないと……。どうか手を引いてはもらえませんか?」


 それがミラの事を言っているのだというのは昴もヴァンも直ぐに理解出来た。そう、元はといえばこいつがミラを殺したからこんな取り返しのつかない事に――。恨みを抱えるヴァンだけではなく昴もやりきれない気持ちになっていた。自然と昴とホクトの刃は同じ方向へと向けられる。


「あくまで私とやり合いますか」


「いずれ必ず殺そうとは思っていた。それが遅いか早いか……それだけの話だ」


『邪魔をするなら斬る――。相手が誰であろうと、な』


「そうですか。残念です。知っていますか? 人間は手足の一本二本ちぎれたところで生存し続ける事が出来るという事を――」


 空から雷撃が降り注ぎ、昴がそれをユウガで無力化する。その影からヴァンが飛び出し、ステラへとガリュウを振り下ろした。ステラは片腕でそれを受け止め、反撃に蹴りを放つ。高々と跳ね飛ばされたヴァンが頭上から魔剣を降り注がせるが、それごとステラは片手で雷撃を放ち、ヴァンの身体は黒焦げになり魔剣は一瞬で消滅してしまう。

 魔力の量がそもそも違いすぎるのだ――。カテゴリーSと呼ばれる世界最強クラスの魔剣使いが二人手を組んで立ち向かってもまるで相手にならない。再び連続して放たれる天空からの落雷を昴は鞘で受け弾く。魔法系の攻撃ならばすべて無力化出来るのが昴の剣の強みである。鞘に収めた状態のままユウガを構えて跳躍し、空中から時を止めて居合いを放つ――。

 首を一発で跳ね飛ばすような一撃のはずだった。しかし気づけばステラは昴の真後ろに浮いている。何が起きたのか――。理解するよりも早く、ステラの蹴りを昴を大地へと減り込ませていた。真実は簡単である。昴は停止した時間の中を動く事が出来るが、超スピードで動けるわけではない。ステラは時を止められはしないが、意識の中に空白が出来たとしてもそれを冷静に処理する思考能力、そして咄嗟に“瞬間移動”する事が出来るというだけの話である。


「無駄な事です。貴方の能力――ミラ・ヨシノの剣のデータはすべて認識しています。大人しく諦めてください」


『く……っ』


 大地に減り込んだ昴の頭を踏みつけ、ぎりぎりと圧力をかけるステラ。その背後、龍のような形状に変化したガリュウを構えるヴァンの姿があった。倒れている昴ごと吹き飛ばすように龍の顎から放たれた魔力の炎は一瞬で二つの影を飲み込んだが、ステラは一瞬で消え、ホクトの背後に立っている。そのまま首を掴んでヴァンの巨体を振り上げ、細腕一つで大地へと叩き付けた。一気に大地に亀裂が走り、

 炎を浴び、全身に黒い炎を纏いながらも昴はゆっくりと身体を起す。鎧のお陰で魔法攻撃のダメージはたいした事は無かったが、自分ごと攻撃を放ったヴァンを忌々しげに睨み付けた。そうして剣を揮い、大地を凍りつかせながらヴァンごと攻撃を放つ。一気に凍結する大地に巻き込まれたのはやはりヴァンだけで、ステラは余裕の様子で氷山の上に佇んでいた。


『化け物が……!』


「…………。貴方達、真面目に戦うつもりはあるんですか? さっきから足を引っ張り合ってますが」


「余計なお世話だ……」


『元々別に協力しているわけではない』


「敵の敵は味方、では?」


「『 そんなわけねえだろ 』」


 二人が同時に睨みあいながら唸った。それを見てステラは頷き、納得した様子である。氷山からふわりと浮き上がり、大地に着地する。ヴァンが氷の中を突き進み、再びガリュウを構える。昴も同様、大地の亀裂を飛び越えてユウガを片手に着地。二人は再びステラへと対峙した。


「……意地でも戦い続けるつもりですか。理解に苦しみますね」


「生憎、意地だけで生き延びてるようなもんでね」


『貴様はやはり危険だ。私にとっても、私の主にとっても』


「そうですか。では、続きと行きましょう。私も少々面倒になってきましたので、それなりに本気を出させてもらいますが――」


 ステラが黄金に輝きを増し、一気に攻撃を仕掛けた――。昴とヴァンは必死にステラへと立ち向かった……のだが――。

 

「で……。結局、やられて帰ってきた、と」


 ラクヨウ城、城内ミュレイの部屋――。ぼろぼろの姿で現れた白騎士は疲れた様子で一部始終を語り、ミュレイの傍に座り込んでいた。あれからヴァンと共にステラに挑み続けたが、結局傷一つつける事も出来ず二人とも撃退されてしまったのである。そのどさくさでヴァンには逃げられ、結局何もかもが無駄足になってしまった。次にヴァンを捉えられるのはいつかと考えると非常に頭が痛い。

 そんな落ち込んだ様子の昴にミュレイは歩み寄り、その肩を叩く。差し出されたお茶を手に昴は仮面をずらし、それを口にして溜息を漏らした。


「まあ、そう落ち込むな。お主の目的がヴァンなのはわかっておるが、いくらなんでも焦りすぎじゃ」


『……そうだろうか』


「というか、どうしてお主そんなにヴァンを目の仇にしておるのじゃ……?」


『……それは』


 流石に言えるわけがない。“貴方はこれからヴァンに殺されるから”などとは……。まだその可能性があるだけであり、自分が護ればいいだけの事なのかもしれない。だが全てを確実に済ませる為には、不安要素はすべて排除しなければならないと昴は考えていた。ボロボロの姿のまま、お茶を飲んで一服……。ミュレイは困ったように笑い、昴の頭を撫でた。


「全く、変な式神と契約してしまったもんじゃ」


 頭を撫でられている間、白騎士は大人しく座布団の上で正座していた。客観的に見るとすごい光景であるが、元々昴にしてみれば当たり前の景色である。ふとそこに突然窓からウサクが飛び込んできて、巻物を片手に白騎士を呼びつけた。


「白騎士殿~! 新しい情報が入ったでござるよ~! って何をしてるのでござるか?」


『な、なんでもない……』


 昴は立ち上がり、直ぐに腕を組んで堂々とした態度をとる。つい先ほどまではミュレイに甘えていたのだが、流石にそれをウサクに悟られては大問題である。ミュレイは口に手を当てて笑っていたが、昴は無視して窓から出て城の中庭へと飛び降りた。ウサクも同じようにかろやかに着地し、巻物を昴に手渡す。


『しかし毎回思っていたんだが……巻物って読みにくくないか……?』


「やや!? 白騎士殿、巻物が苦手でござるか!?」


『そんな寿司みたいな言い方しなくても……。まあ、別に私は読めれば何でも構わないが』


 しぶしぶ巻物を左右に開き、中身を読み進める。ヴァン・ノーレッジのその後の行動と思しき各地での戦闘履歴や帝国、ザルヴァトーレの動きなど、様々な事が事細かに記されていた。昴としてはウサクをこきつかってあちこちに行かせるのは心苦しかったのだが、実際の所ミュレイの小間使いのような扱いを受けているよりは全然生き生きと仕事をしているのは言うまでも無い。


『…………それにしても、各地での帝国の横暴な態度は目に余るな。国境沿いはいつ戦争になってもおかしくない緊張感でピリピリしているし、反帝国組織の無謀な戦闘行為は無関係な下層都市を巻き込んでいるし、一向に治安がよくなる気配もない……』


 昴が時を巻き戻し、世界を冷静に見直した結果わかった事がある。それはこの世界は数え切れない問題を抱え、その全てが相互作用してそれぞれに悪影響を与えているという事である。悪循環は延々と繰り返され、そこから脱する事は誰にとっても容易ではない。

 そもそもすべての立場の人間にはそれぞれの立場があり、主張があり、理由がある……。それを一概に善悪で片付ける事は不可能だし、長い間続いてきたその循環の輪から抜け出すのは容易ではない。巻物を閉じ、それをウサクに返して昴は空を見上げた。

 この街だけを知り、この国だけを想い、ただミュレイの傍に居る事だけを考えていた昔とは違う。今はこの世界全体の動きを見て考え、そして行動しなければならない。ヴァンの行くところには横暴な帝国軍があり、悪人のギルドがあり、それらを叩き潰しヴァンは活動していた。そうやってヴァンの事を知れば知るほど、少しずつ心苦しい気持ちが湧き上がってくるのだ。

 ヴァンを倒す事ですべてが解決するわけではない。だがヴァンは深く憎しみに囚われ、既に他人の言葉に耳を貸すような状態ではないのだ。だからこそあの日、説得に失敗してヴァンはミュレイを殺す事となった。武力でしか止める事が出来ないのならばそうする事になんの迷いもない。だが、本当に戦う以外に道はないのだろうか……。


『いつもすまない、ウサク。感謝している』


「いやぁ、拙者どうせ暇な忍なので問題ないでござるよ。姫様は拙者に忍の仕事なんて全然させてくれないでござるし……」


『それは、ウサクに危険な事をやらせたくないからだろう。ミュレイが君を大事に想っている証拠だ』


 当たり前のように口から出たその言葉にウサクは驚いていたし、私も驚いていた。そうだ、ミュレイは何でも自分で抱え込み、失う事を恐れている。私と彼女は良く似ているのかもしれない。ふとそんな事を考えた。


「白騎士殿は、姫様の事をよく見ているのでござる」


『そうだろうか……?』


「白騎士殿の行動からは、姫様に対する思いやりが強く感じ取れるのでござるよ。だからこそ、拙者もこうして手を貸しているのでござる」


 ウサクは胸に手を当てそう語った。一瞬かつて彼と共に過ごした頃の事を思い出した。ウサクは過去の世界に行ったら自分を頼れと言っていたのだが、昴は事情を語ることはしなかった。ウサクには当然手を貸してもらっているが、この歪んだ事情に巻き込んでしまうのは気が引けたのである。

 何はともあれ、また振り出しに戻ってしまった。溜息を漏らし、肩を落とす昴。鎧を着て仮面をつけていれば気持ちを強く持てるのだが、それでも落ち込むときは落ち込んでしまう。ミュレイの言うとおり、焦りすぎなのだろうか……そんな考えが脳裏を過ぎった。

 ククラカンの国土は雄大で、荒野は果てしなく山々は雄雄しく聳え立つ――。空は青く、その頭上には上の界層が彼方に見えている。この上には帝国――第三階層ヨツンヘイムがあり、それが本当の意味での空を消してしまっているのだ。それがなんだか、とてももったいないことのような気がした。

 世界は美しく、そして残酷だ。良くも悪くもこの世は移ろい続けている。甲冑に包まれたその手をじっと見つめ、昴は目を細めた。自分に出来る事……それを考えねばならない。闘う事だけがすべてだとは、やはり考えたくはなかったから。


「そういえば白騎士殿は、その仮面は普段外さないのでござるか?」


『え? いや、これは……外すと色々と問題があるからな』


「そ、そうなのでござるか……。何となく見ていて食事の時なんかに不便そうだったのでちょっと気になっただけでござるが」


『確かに不便だな…………。うーん…………。まあ、いいか、別に』


 一人で納得した様子で頷き、昴は徐に仮面を外した、黒髪を振り、久しぶりに息苦しさから開放される――。長く伸びた前髪の向こう、除く優しく凛とした瞳がウサクを見つめていた。


「ぬおおうッ!? 白騎士殿、女性だったのでござるか!?」


「…………。いや、声でわかるだろ流石に……」


 仮面そのものに視力矯正の能力がついている為仮面をつけているときは不便しないのだが、それを外すと視界がぼやける。昴は徐に眼鏡を取り出し、それをかけてウサクをもう一度見つめた。


「なんだか久しぶりにウサクの顔を見た気がするな……」


「ござる?」


「いや、こっちの話――っと、とりあえず暇な間は少しでも腕を上げないとな……。ゲオルクに組み手を頼みに行くか……」


 腕を組んで今後の予定を考える昴。ふとウサクを見やると、少年は顔を紅くしてまじまじと昴を見つめていた。小首をかしげ、昴は振り返る。


「どうかした?」


「い、いや……。まさかあの仮面の中身がこんなお美しいお方だとは思わなかったので、拙者ビックリしてるでござるよ……」


「お美しいって……ウサクそんな事一言も言ってなかったぞ……」


「?」


「いや、なんでもない……。まあ、城内くらいでは仮面は外してようかな……。これ息苦しいし、ウサクの言うとおり食事の時不便だし。それじゃ、またよろしくね」


「了解でござる!!」


 何故か敬礼するウサク。昴は苦笑し、中庭を歩いていく。風の中、黒髪を靡かせふと桜の木へと目を向ける昴。その美しい様子にウサクは見惚れ、暫くの間立ち尽くしていた。それから自分の頭を壁に叩きつけ、血を流しながら拳を握り締める。


「心頭滅却でござる! ぬおおおおっ!!!!」


 何故か絶叫しているウサクを窓辺に座り、ミュレイは見下ろしていた。仮面の下が少女である事はミュレイは気づいていたのだが……その横顔を見て思う事があった。強く気高く、しかし寂しげな瞳。その理由を気にするなというほうが難しい話だろう。姫は一人扇子を片手に桜の咲き誇る中庭を見下ろす。空は今日も、雄大に広がっている。彼方をふさがれ、最果てを有したままで……。


~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*いや、マジでごめんね……*


アクティ「ばかあーっ!!」


ホクト「おっふ!? なんで殴られたんだ俺は……」


アクティ「キャラ紹介の所見てよ!! なんかおかしくない!?」


ホクト「……キャラ紹介だあ? そんなもん読み飛ばしたが……」


シェルシ「……どうしようもないですね。えーと、おかしい所ですか? 私の紹介がおかしいですけど……ふふ、ふふふふふっ」


昴「あ……判った」


ホクト「何だ?」


昴「アクティの紹介、なくない?」


全員「「「 あ 」」」


アクティ「なんでボクだけないの!? おかしくないっ!?」


昴「作者が忘れたんでしょ、素で……」


ホクト「皇帝とかいらんものを紹介しているからだろ……」


ハロルド『いらんものとは失礼な……。この小説の貴重なロボ要素であるぞ』


ホクト「お前……言っとくけどここに登場するようになったら急に本編でのシリアスさ激減すっからな……」


アクティ「皇帝なんかどーでもいいよっ!! どういうことなのこれ! どういうことなのこれっ!!」


シェルシ「(完全に忘れ去られているよりは大分マシでしょうか……)」


アクティ「うわーん、最悪だよーっ!! 次のキャラ紹介までまた二十部くらいあるんじゃないのっ!?」


ホクト「…………。まあ、気にするなよアクティ。世の中大事なのは紹介されてるかどうかじゃない。覚えて貰えるかどうかだ」


アクティ「……だから、忘れられてんじゃんっ!?」


昴「というわけで、作者が本気で忘れていたのです。あれ? と思った方々……すいませんでした」


アクティ「今から追加すればいいだけなんじゃないの……?」


ホクト「ははは、そんなめんどくせえこと今更すると思うか?」


アクティ「最悪だよおおおおおおっ!! ああああああっ!!」

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