邂逅、リターン(3)
闇に染まり始めた世界の中を走る走る――。理由は単純明快。危険を察知し、そこから逃れる為に……。
何故私は走っているのだろう? どこへ向かっているのだろう? どこに向かえばいいのだろう……。逃れたいと願っているのか、それとも非現実が自分を捕らえに来てくれる事を待っていたのだろうか。どちらにせよ息が上がる。
肩で呼吸を繰り返し、白い息を吐き出して仰ぎ見る――。何故、ここに来てしまったのだろうか? 都市開発の夢の跡、高層ビルの中にまぎれる暗闇の城――。あの日以来、私がずっと避けてきた場所。
今や誰にも使われていない曰く着きのビルの中へと飛び込んでいく。エレベータは停止している。階段を上がるしかない。ずらりと上へと伸びる螺旋階段――。モダンな雰囲気のその空へと私は駆け上がっていく。
早く早く、急がなければ――。何に急いでいるの? 追いかけられているから? それとも追いかけているから――? 私に逃げろと言ったあの人の声を覚えている。あの人の後姿を覚えている。もしもこれが私の妄想でないのならば……彼は。あの人は――。
足が痺れ、突き刺すような寒さは体温を奪い痛みにも似た感触で全身の神経を侵食する。屋上へと続く重苦しい扉を開け放ち、風に迎えられて私は記憶の迷宮へと辿り着いていた。
そこはあの日、大切な人を失った場所。そして私が世界の終焉を本気で祈った場所。こんな世界なくなってしまえばいいのにと思い、結果失ったのは彼だった。振り返る。周囲には誰も居ない。何度でもきょろきょろと見回す。あの人の影を探して――。
「逃げろって……! どこに逃げればいいっ!?」
ここまで走ってきて漸く気づく。私はとんでもない愚か者だ。屋上に走りこめばそこは袋小路、当然の行き当たり。逃げ場はなく、退路は一つ……。
額の汗もそのままに携帯電話を取り出した。時刻はもう直ぐ十八時――。なんでこんな事になっているのか。まだまだ人通りも多いこんな場所で。街のど真ん中で。何から逃げて何を恐れる。
思い出す。記憶の糸を手繰り寄せる。剣と剣をぶつけ合う二つの影。周囲の訝しげな視線も、世界の常識も、何一つ気にもかけず私の目の前で起こった出来事……。ただ、大学にいって。ただ、それだけのはずだったのに……。
風が吹き、私の髪を靡かせていく。屋上から身を乗り出して見下ろすのはビルからビルへと飛び移りながら戦いを続ける二つの影である。気づいていない人もいるし、気づいている人もいる。非日常が現実の中に浸透してくる。せめて、もっと夜になってからやればいいのに――。
二人の剣士は壁を蹴り、空中で何度も刃を交える……。その攻防は素人目には完全な互角であるように見えた。身を切るような冷たい風……祈るように私は携帯電話を握り締めた。
と、その時である。身体に異常が起きた。咄嗟に私は振り返った。全身に重力の力が付加される。いや、元々それはあったものだ。だが今はそれを強く感じる。何故――?
「あ……?」
背後、誰かが立っていた。私の方に、手を伸ばしていた。いや、違う――突き落とされたんだ。あの時と同じように。私がそうしたように。誰かが私を――突き落とした。
振り返りつつ、落ちていく。空が、一気に遠のいていく。死ぬ――。空に投げ出された薄気味悪い感触と共に血の気が引いていく。絶叫はなかった。叫び出したい程怖かったけれど。それは決して声にはならなかった。
私は確かに見たのだ。その、私を突き落とした人物の顔を。暗闇の中、街の灯りに下から照らされ、彼女は無感情に私を見下ろしていた。長い黒髪が風に揺れ――スーツ姿の女は無言で私に死を押し付ける。
そうだ。大学の。大学で、会った。見たんだ。美人教師――友達に呼ばれて、誘われて。確かあの時何かを言われた。何だった? 思い出せ。思い出せよ。思い出せって――!!
死ぬのか。あの人にやっと会えたのに。やっとここまで辿り着いたのに……。いや、違うのか? 呼ばれているような気がしたのだ。この場所に来なければならないような気がしたのだ。それは、私の本能が死を望んでいたという事に他ならない。
私の魂は何年経ってもここに括られたままなのだ。そう、だから――堕ちていくのは必然。予め決まっていたこと。そう考えれば何も不思議なことはない。
堕ちていく。堕ちていく。堕ちていく――。突き落とされて死ぬ。何も判らないまま死ぬ。強制的に押し付けられた死、そのなんと後味の悪い事か。
嫌だ、死にたくない――。命は現金だ。自意識は死を恐れている。私はきつく目を瞑った。堕ちていく。体がアスファルトに砕かれるまで何秒もかからない。だとすればこの永遠にも等しい思考の時間は――――?
「嫌だ……! 嫌だよっ! 死にたくないよ…………! 兄さん――っ!!!!」
叫んだ。誰にも届かない。でも、叫ばずにはいられなかった。
時が止まるような気配がした。身体はアスファルトに叩きつけられる瞬間その硬い大地をすり抜け、更に堕ちていく。どこまでもどこまでも。周囲に広がっていたのは完全なる闇だった。私は落ちていく。何処までも、落ちていく――。
眼下、何かが見えた気がした。誰かの声が聞こえた気がした。私は思わずその声の主へと手を伸ばす。必至に掴もうと何度ももがいた。そうして手繰り寄せた光の向こう――私は、確かに彼女の手を取っていた。
「…………眼が覚めたか?」
目の前には綺麗な真紅の瞳があった。燃えるように紅い髪……時代錯誤の和装。ああ、なんだ。全部夢だったんだ。ふと私は安堵する。握り締めていたのは、彼女の白くて柔らかい手だった。綺麗な手だ、と呆然と考えた。待て。そうじゃないだろう。
周囲を眺める。どこだ、ここは? 見覚えがない。何故か、布団の中に寝かされている。全身汗びっしょりだ。何故? 何が? どうなって――?
「ようこそ、“ロクエンティア”へ。歓迎するぞ、救世主よ――」
だめだ、思考が上手くまとまらない。過去の事も今の事も理解が追いつかない。顔に手を当てると、眼鏡がなくなっていた。きつく眼を瞑り、思い出そうと努力する。私は何故――ここにいるんだ――?
邂逅、リターン(3)
ごしごしと、モップを片手にホクトはガルガンチュアの船内を掃除していた。掃除が開始してから既に数時間……額に汗して働く爽やかさに男は微笑を浮かべていた。
「な、わけねーだろ」
ガルガンチュアの階段を上り、船体の上に身を乗り出す。作られた夜の闇の中に浮かぶ暗闇に居城……。砂の海の上に聳え立つ人工島、“カンタイル”は微かな灯りをちらほらと灯し、闇の中にその全体像をぼんやりと浮かべている。
胸ポケットに突っ込んだ湿気た煙草の包み紙に手を伸ばし、ホクトは指先を弾いて小気味いい音と共に手の中に小さな炎を召喚する。魔術と呼ばれる力に限りなく近い、しかしそれを超越した“魔剣”の恩恵……。両腕にびっしりと刻み込まれた漆黒の炎の術式を使いこなすのは、既にホクトにとって何の問題にもならなくなっていた。
乾いた砂漠の冷たい夜風の中に煙を吐き出し、ホクトはモップを片手に世界を見下ろす。世界と呼べる全ては限りなく広がり、砂と風と黒だけが広がっている。寂しくあり、しかしそれを美しいとも感じる。恐ろしい物は得てして奇妙な魅力を帯びる。先入観に囚われずに物を見据えればその眼に映る物は全て美しい。
強めの風に神を流せばロマンティックな気分に浸る事が出来る。ここで音楽でも流れて、酒があってついでに美女でも居てくれれば最高なのに――。言葉に出さず、口元に失笑を浮かべる。そんな彼の願いは一つだけ叶えられた。
背後には黒い装束を纏った一人の剣士の姿があった。額から頬にかけて裂かれた大きな傷跡を隠すように顔を眼帯で半分覆っている。女剣士、リフルは男の背後に立ち言葉もなくその背中を見据えていた。片手は常に、腰から下げた剣から離れる事はない。
「…………なんだよ、掃除サボったくらいで後ろから叩ッ斬るのか? 物騒だな、おい」
「そうする必要性があるのならばそうする。だが、今はそうしない」
「今は、ね……。可愛げねえなぁ、リフル。もうちょい笑ってみせろよ、美人なんだからよ」
「必要の無い事だ。あまり軽口を叩くなよ魔剣士……。お前のさえずりは癇に障る」
リフルの言葉は抑揚のない、限りなく冷淡な声だった。表情にも一切の変化はなく、ただ唇だけが言葉を刻んでいるかのように見える。それはとても客観的には奇妙であった。
剣士の見せる表情、吐き出す言葉は守るべき主君の傍に居る時とはまるで異なっている。“砂の海豚”の団長にして“少年”、ロゼ……。彼の決定に従うことこそ彼女の使命であり、ホクトの処分に関しても同じ事である。
結論として、ホクトはこの砂の海豚で暫く行動を共にすることになった。立場としては、外部から参戦した“傭兵”である。長話が終わった後に契約の書類に血印を求められ、ホクトはそれに応じた。それは魔術的な強制力を持った魔道の書のひとつである。その契約書がある限り、ロゼの命を奪うことは出来ず、契約からそれた行動を取る事も出来ない。
その魔道的束縛によってようやくホクトは身の潔白を一応証明され、同時に雇われの剣士となった。巨大な魔剣を扱い、魔物を駆逐する程の力を持つ剣士――。戦闘能力が高い人間は何人居ても多すぎるという事はないのだ。特に、世界に反旗を翻すようなこの組織にとっては。
「私は貴様の監視を命じられている。ロゼはああ言っていたが、私は貴様を信用していない。少しでも組織に不利益な行動を取ったその時は――」
「――――俺を殺すのか、人形?」
まるでからかうような口調で笑みを浮かべるホクト。次の瞬間二人は同時に腕に刻まれた紋章を輝かせる。瞬きと同義の時を超え、鮮明な彩と形を構築した剣が二人の手の中に納まり、互いのシルエットへと突きつけられる。
魔剣士二人――。それは、リフルがホクトの監視を命じられた理由。リフル以外には誰にもホクトを阻止する事は出来ない。“魔剣は魔剣でなければ拮抗出来ない”――当然の理であった。
組織の中でたった一人だけの魔剣所有者であるリフルがホクトを倒す可能性を持つ唯一の存在なのである。ロゼはリフルの実力をよく理解している。彼女はたった一人でこの組織の切り込み隊長を務め、組織の守護者として何年も戦ってきた歴戦の魔剣使いなのである。リフルは強い――。魔剣使い同士の戦いでもロゼはリフルが敗北する所を見たことがなかった。
ロゼから絶対の信頼を得ているリフルであるからこそ、ホクトの監視が務まるのである。ホクトの能力は未知数であったが、リフルが手にした細長く美しい装飾の剣はきっとホクトの無骨な刃を凌駕するだろう――。だが、リフル本人は不安を抱えていた。ホクトの魔剣は得体が知れないのだ。展開速度も素早く、身のこなしも賞賛に値する。一体何者で、どんな魂胆があるのか……それは絶対に彼女が突き止めねばならない謎の一つだった。
「おいおいおっかねぇなぁ……? 女の子とイチャイチャできるのは大歓迎だけどよ、ベッドの上でも剣突きつけあうのは御免だぜ?」
どちらともなく、剣を消失させる。もとよりお互いに斬りあうつもりはないのだ。ホクトにそんなことをするメリットは皆無だったし、リフルはロゼの命令に逆らう事は出来ない。結局なんともいえない空気の気まずさだけが残り、ホクトは紫煙を吐き出して空を見上げる。
一瞬だけ見たあの黒い剣――。巨大で、無骨で、邪悪で、血を喰らい、肉を喰らい、光を飲み干すような歪な剣――。希少な存在である魔剣の中で、それは更に一線を画すかのような独特の存在感を放っていた。
「……貴様、その剣の名は?」
「は? 剣の名?」
「“継承名”だ。それほどの術式、貴様が単独で生み出したものではないのだろう?」
「いや、ぜんぜんわからん。俺は記憶喪失なんだ、教える時は――手取り足取り、教えてくれないとな」
ホクトはゆっくりとリフルに歩み寄り、肩に腕を回す。顔と顔とが近づき、互いの吐息を感じるほどの距離になった瞬間、リフルは視線を逸らし肩にまわされたホクトの腕をひねり上げた。
「……寄るな、阿呆」
「いでででっ!? っとに可愛げねえなあっ!! ちくしょー、この組織女の子が少なすぎだぜ……」
目尻に涙を浮かべているのは腕の痛みの所為だろうか? それとも組織に女の子が居ない発言の所為なのか……。リフルにとってはどうでもいいことだ。思考は意味を持たない。忠義は命令を意味し。それを遂行することに意義があり。ならばそれを正さねばならない。
「いいから黙って働け。働かざる者食うべからず、だ」
「おりゃ傭兵よ? 振り回すのはモップじゃなくて剣なの」
「いいから黙って働け。働かざる者食うべからず、だ」
「……大事なことだから二回言ったんですね、わかります」
ホクトは冷や汗を流し、モップを片手にすごすごと階段を降り船内へと姿を消した。風の中、リフルは腕を組んだままそれを見送る。一際強く吹いた風はリフルの長い髪を靡かせていく――。
“この世界”は――。“ロクエンティア”は――。決して公平な世界などではない。世界には差別と区別と分別が蔓延し、人々はありとあらゆる意味で別けられ、その生まれ、人種、素性に依存する――。
リフルは思い返していた。ホクトは本当に記憶喪失なのだろうか? だとしたら――彼は理解出来ただろうか? 複雑怪奇という言葉がぴったりと当て嵌まる、この世界の歪みに歪んだ熱病にも似た構造を……。
「――――この世界は、一つの巨大な縦社会なんだ。文字通りのな」
執務机をロゼが指先で叩き、忌々しげに呟いた。ホクトはそれを座ったまま小首をかしげながら聞いていた。話はとても長くなる。とてもとても、長い話だった。
ロクエンティアと呼ばれるこの世界は、縦に六つの層を成し、世界と呼ばれる構造が構築されているのだ。それぞれが“界層”と呼ばれる国家、あるいは土地、或いは群集――定義はない。あくまでも界層と呼ばれるもの――で構築され、それを縦に六つ重ねるようにして世界は在る。
誰がそうしたのかは判らない。誰かが気づいた時にはそう在り、そう在るが故に人々はそう生きるしかなかった。かねての時代、世界には無限に広がる大地があった。この星の上に、大地は確かにあったのだ。
「だが、今はないんだ。どうしてかはわからない。ロクエンティアは……世界は。虚無の海の上に浮かぶ最後の地なんだ」
「……浮いてんのか?」
「そ、浮いてんのさ。縦に一本伸びたシャフトと呼ばれる巨大な竪穴の周囲にプレートがくっついて、それが六つ縦に存在してる。それぞれが国であり、大地であり、そのプレートに住む人間によって人種、風習、所属国家が違う。勿論これは一定じゃない。定義がないんだ、世界に」
人種も。人権も。定められては居ない。地続きではないから。上と下に隣人がある。隣り合わせの大地はシャフトを中心に顕現された円の世界……。歩き出せばやがて旅立った土地に辿り着く、そんな世界。
「ただ、界層は一つ一つが馬鹿げた巨大さで、一体どれほどの大きさがあるのかもまだ判らない事が多い。この世界で人類の歴史が始まって何百年も経つけど、その世界の全様を知る人間はまだ何処にもいないんだ」
しかし、それでも世界が存在する為にはルールが必要となる。かつて世界はその無秩序さから全ての界層を巻き込む巨大な大戦に飲み込まれていた。その戦がいつから続いていたのか、誰が始めたのか……そもそもその戦より前には大地があったのか、それも誰にもわからない。ただ人は滅びかけ、その時に強制的なルールを生み出し人々を縛る事により滅びを免れたのである。
秩序とは、混沌とは正反対に位置する事柄である。人々は混沌とした状態から強制された秩序の中へと落ちていった。時の流れ、時代の動きがそうであったのだと言えばそれまでだ。だが、それだけで世界は終わらない。
「何故なら世界は続く――。人々はもう大戦の事なんちゃ覚えていないのさ。残ったのは強力な上下社会と支配体制……。下の者は上の者に文句一つ言えない社会だ。僕たちはその世界のルールをぶち壊す為に戦っている」
「革命家気取りか?」
「今は犯罪者でも後世で英雄と語られればいいじゃないか」
「成る程ね……。で、具体的には何と戦ってんだ?」
「“帝国”さ。第三階層の全てを支配する独裁国家、ハロルド帝国……。そっから下のプレート、つまり第四、第五、第六界層は全部帝国の支配下……そこに生きる人間は秩序という名の支配に繋がれた奴隷なんだ」
ロゼの口調は正に忌々しそうにという表現がぴったりと似合う。歯軋りし、机の上で組んだ指と指をぎゅっときつく絡ませる。ホクトはそんな怒りの様子とは裏腹に飄々と話を聞き流していた。
「で、俺がそのハロルド帝国のスパイじゃないかって疑ってたわけだ」
「帝国には反乱分子を抹殺する為の闇の部隊があるって専らの噂でね。そこに所属しているのは、全員魔剣使い……そういう話だ」
「でも俺はただの記憶喪失ちゃん」
「連中は目的の為なら手段は厭わないんだ。どんな馬鹿げた方法でも、どんな在り得ない状況でも、秩序を抹殺しようとする人間を消しに来る。犯罪者なんだ、疑うのは当然だろ? 僕らは所詮追われる立場だからね」
「…………成る程、ねぇ」
ホクトは深く椅子に腰を落とし、溜息を漏らした。“砂の海豚”の状況は理解出来た。帝国云々世界云々の事は正直半分以上聞き流していたが。
そもそもホクトにとっては明日生きる事さえ困難なのだ。記憶というものは生活の全てに関与してくるものである。記憶は人が命を依存させる部位である。眼に見えて切り離されるようなものでもないが、だからこそなくしてしまったら取り戻すのは容易くない。
なんだかんだいいつつ、ロゼの長話の途中でホクトの答えは見えていた。そうして立ち上がり、話が終わった頃合にロゼへと歩み寄る。直ぐにリフルが反応し腰から下げたサーベルを突きつけたが、ホクトは意に介さなかった。
「なら、俺をここに置いてくれよ」
「何――?」
「あんたらの秘密を知っちまった。街に降ろしたら言いふらすかもしれないぜ?」
「貴様……!」
背後、リフルの殺気が強まりホクトは冷や汗を流した。まったく冗談の通じる気配が無い……。飄々とした性格のホクトと生真面目なリフル、どうやら相性は最悪らしい。
しかし、ロゼの方はそうでもなかった。ホクトの話を聞き、確かにと納得する部分がある。当然降ろすわけにはいかないのだ。残されている道は必然限られてくる。
「口封じは必要だろ?」
「その通りだね」
「だが俺は死にたくない」
「だからここで働く……僕らの仲間になるって事?」
「ロゼ!」
「リフルは黙っててくれ。団長は僕だ。僕が決める」
ロゼにそう凄まれてしまってはリフルは何もいえなくなる。歯痒い気持ちのまま剣を鞘に収め、一歩後退――。それを視界の端で認識し、ロゼは改めてホクトをしげしげと眺めた。
「僕らと来れば犯罪者だよ」
「他に行く所がねーんだ、しょうがねえ」
「君には魔剣使いの力がある。それなりに危ない橋も渡って貰うよ」
「危ない橋ねえ……。危ない列車なら経験したぜ?」
「…………成る程、判った。まあどっちにしろ最初から僕はこうするつもりだったしね。君がそういってくれると手っ取り早くて助かるよ」
頷き、ロゼは予め用意していた魔道具を引っ張り出した。それを机の上に広げ、ホクトに突きつける。笑みと共に、契約の言葉を吐き出しながら――。
「おーい、リフル」
はっと、リフルは意識を現在に回帰させた。気づけば風の中に身を投げ出し、立ち尽くしていた。背後、先ほど船内に戻ったはずのホクトが階段を上がり顔をのぞかせている。
「何だ?」
「そんな所でぼーっとしてたら風邪引くぜ。なんだ、恋煩いか?」
「……私はその手の下らない冗談が好きではない」
「そーですか。ま、しってますけどねー」
「…………ッ」
「そんな睨むなよ。こえーねーちゃんだな……ったく」
横顔に笑みを湛え、ホクトは階段を下りていく。正直、判断には迷っていた。ホクトの様子、記憶喪失にしては随分と余裕の在る態度。高度な思考と鍛錬が要求される魔剣を使いこなす技術……。
胸騒ぎがあった。なにか、とんでもないものを組織の中に引き込んでしまったのではないか――? 冗談を言ったり笑っている彼の姿を見るとその馬鹿げた妄想を一蹴したくもなる。だが、心の中にしこりはのこる。
見極めればいい。ただそれだけのこと――。リフルは頷いて歩き出した。何もやることはかわってなどいない。ただ組織の為に。ロゼの為に。出来る事を、命令を、忠実に遂行するだけなのだから――。
~はじけろ! ロクエンティア劇場~
*第一回*
スバル「どうも、初めまして。主人公の昴です……」
ホクト「ちーす。主人公のホクトです」
スバル「主人公は二人です……」
ホクト「だなぁ」
スバル「…………。更新速度、異様に遅くなってしまったな」
ホクト「まあ、リアルでゲームばっかしてちゃしょうがねえな」
スバル「今回も、ちょっと変わった小説にしたいと頑張ります……」
ホクト「おう、がんばれがんばれ」
スバル「えと……がんばります!」
ホクト「おう!」
スバル「……えと、他にいう事はないから……」
ホクト「おう」
スバル「お願いだから、何か喋ってくれ――」




