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The truth(3)

 白騎士のスピードは、実はそんなに速いわけではないという事に既にヴァンは気づいていた――。

 一瞬一瞬、白騎士は猛スピード……否、知覚出来ないほどの速度で動く。所謂瞬間移動というヤツである。が、そんな速度で動く為には必ず何かの仕掛けがある事は判っていた。そしてその仕掛けが今、何となく判り始めていたのである。

 白騎士が意識を超えた超速でホクトに攻撃を仕掛けても、ホクトの鎧――ガリュウが自動認識でそれを防御する。つまりホクトには認識出来ずとも、ガリュウには認識出来るという何らかの仕組みがあるのだ。四方八方から残像を残し襲い掛かる白騎士の刃にホクトはガリュウで応じていく。二人の戦いは加速し、最早一般騎士からは何が起きているのか判らないような戦いに突入しつつあった。


『厄介な剣だな、ガリュウ』


「……瞬間移動……じゃないな。お前――時間操作系能力者か……?」


『流石だな。ご名答――褒めてやろう』


 次の瞬間、ホクトの動きが完全に停止する。瞬きさえも、呼吸さえも、心臓の音でさえも止まっている。それだけではない、白騎士を除く全ての存在が完全に停止しているのである。時の停止――。それは本人の体感時間からして僅か一秒にも満たない世界の侵食である。だが、その一秒未満の時間だけでも“ホクトは目で追っていたはずの気配を一度見失う”のである。これは相手の防御を極限まで困難にする、白騎士の特殊な歩法の一つであった。しかし時が停止した世界の中でもガリュウの目だけは常に白騎士を捉えている。魔剣の力で作り出したこの現象を、同じく魔剣であるガリュウは受け付けなかったのだ。

 故に、時が動き出した刹那の瞬間ガリュウは猛然と襲い掛かる。白騎士をまだ見失っている主よりも早く、それを迎撃する――。仮に相手がホクトではなかったとしたら、この瞬間移動による連撃だけで大抵の魔剣使いは何が起きたのかわからずに倒れている事だろう。改めて白騎士の恐ろしさを認識し、ホクトは剣を握り締める。


「瞬間移動じゃないとわかればそんなに怖くはないさ。速力は変わってないんだからな」


 それでも時間を操作する能力を持つ魔剣というものは、恐らくこの世にそう多く存在していないだろう。ホクトが収集した魔剣の中にさえ、時間操作の剣は混じっていなかった。そう、ユウガはこの世で非常に貴重な能力を持つ、“停止”の属性を持つ魔剣である。能力において貴重なホクトのガリュウと肩を並べられる、カテゴリーSの力――。

 ネタがばれてしまい、白騎士はそれでも太刀を構える。当然それだけが白騎士の力というわけではなく、そのたかが一秒未満時間を止めるという行動がどれだけのアドバンテージを白騎士に与えているのか、それをホクトはきちんと理解している。ガリュウがなかったら既に首が飛んでいて当然の状況なのだから。


「しょうがねえな……。先を急いでるから――今日は特別だ」


 溜息を漏らし、ホクトはガリュウを装甲版の上に突き刺し両手を開ける。そうして術式の刻まれた鎧の腕を掲げ、静かに視線を伏せる。


「手加減は出来ないから、そのつもりでな……? ガリュウ、捕食情報インストールデータより能力検索……! これより限定戦闘時間内の封印術式を開放する――!」


 ホクトの足元に漆黒の魔法陣が浮かび上がり、突き刺されたガリュウから莫大な魔力が一斉にあふれ出す。それは暴風となって周囲の騎士団を弾き飛ばすが、白騎士はその風の中を一人走り出した。

 連続で時を止め、左右に身体を振り猛然と突き進む騎士――。しかし術式の封印は解き放たれ、ホクトの周囲の足場を黒い影が飲み込んでいく――。影により作られた領域の中、白騎士はホクトの首を狙い斬撃を繰り出した。しかし、それが黒騎士に届く事はない。ホクトの首元には、小さな剣を模した盾が浮かび攻撃を防いでいたのである。


「どうして俺が、“魔剣狩り”と呼ばれているか……知ってるか?」


 首をかしげるホクト。その足元から突然槍が三本、同時に出現し白騎士へと襲い掛かった。慌てて回避し、後方に跳ぶ白騎士。ホクトは足元から生えた槍を引き抜き両手で回転させ二対構える。


「“魔剣狩り”ってのは、俺の能力名だ。まあ、見れば判るだろ? 倒した相手の魔剣が使えるようになるっつー、わりとショボい能力なんだけどよ……。つまり、元々ガリュウが持ってる能力は一つもないんだよなあ」


 低く笑い、ホクトは槍を投げつける。それを太刀と鞘で左右弾き飛ばし、白騎士は前進する。ホクトは影の大地から同じく太刀を取り出し、白騎士の数倍のスピードで前へ――。明らかな速力強化の能力に白騎士は戸惑いつつ、時間停止を駆使してそれを受け止める。

 そう、魔剣狩りとはホクトの力を文字通り表現した通り名である。ガリュウはカテゴリーSと呼ばれているが、その魔剣そのものの能力は最低ランクのDと同等……。決してそれは最強ではない。むしろそれとは程遠い能力の剣である。だが、男はこれまで戦ってきた。何故戦ってきたのか? 単純な話である。“ガリュウを強くする為”である。

 ホクトは最初から強かったわけではない。最初は弱い、カテゴリーDの魔剣使いと戦った。その力を取り込んでカテゴリーCの魔剣使いを倒した。同じ手順でB、Aと登りつめ、そして剣誓隊を百人斬り倒し――世界各地を渡り、世直しと称して悪の魔剣を喰らい続けてきた。

 そう、その剣は悪の力に染まっている。悪の力を奪い、喰らい、そして全てを自分の物にしてきた――人造なるカテゴリーSの魔剣。本来魔剣が生まれ持ち、そして絶対に変わらないカテゴリーに反逆した魔剣。それが蝕魔剣ガリュウなのである。

 ガリュウの攻撃力は高くない――。だから、攻撃力の高い魔剣のデータを使って攻撃力を強化する。ガリュウの防御力は高くない――。だから、防御力の高い魔剣のデータを使って防御力を強化する。ガリュウに時間を止める能力がないのは、別段悲観的になるような事ではない。むしろ僥倖――。それが足りないというのであれば。最強と呼ばれるものでないのであれば。


「――お前の魔剣、俺がもらってやるよ」


 黒い魔力を帯び、魔剣狩りは腕を翳す。振り払うようなその動きに従い、飛び出した魔剣のその数実に百――。ずらりと、ぎっしりと、一列にならぶ魔剣の障壁――。男の周囲三百六十度を囲み、周囲目掛けて容赦なく放出される。降り注ぐ、魔法をも越える魔剣の雨――。包囲していた帝国騎士団は全身を魔剣で串刺しにされ、そして死体は広がった大地の影に喰らわれていく。ガリュウは消費魔力さえ、外部から捕食する事で補う事が出来る。更に光と力を増し、ホクトの身体から放たれるオーラは加速していく。


『おぞましい剣だ、ガリュウ……。実に、凶悪極まる』


 しかし、その剣の雨の中でたった一人白騎士だけは無傷で佇んでいた。死んで当然、当たり前という名の絶望が降り注いだその戦場の中、彼女の存在は尚も無垢である。騎士は刃を鞘に収め、再び構えを取った。


『だが――その邪悪尽く討ち払おう。我は神をも切り裂く一振りの刃――。邪神ならば僥倖、我が剣本領を発揮するに不足無し』


「…………。やっぱ、時間停止だけじゃねえな……その剣」


『貴様のやり方に倣い、教えてやろう。我が剣の持つ能力は三つ――。“停止”、“氷結”、そして三つ目は――“破魔”、だ』


 答えを最後まで聞く前にホクトは魔剣を再びいつつ闇から引きずり出し、それを射出する。突っ込んでくる死の剣を前に白騎士は実に優雅、刃を一振り横に一閃――。すれ違う瞬間、ホクトが構築した魔剣は木っ端微塵に砕け散る。いや、それは砕け散るというよりは――そう。存在を否定され、消滅したかのような――。


『もっと判りやすく説明してやろうか……? 我が剣ユウガは、“魔”と呼ばれる存在を一刀両断する。“魔物”、“魔法”、“魔剣”――。同じ事だ。尽く闇は闇に、光は光に……。触れる全ての一撃必殺、それが我が剣の力――。運が無かったな、魔剣狩り。何度でも繰り返し貴様に告げよう』


 白刃を煌かせ、騎士は舞うように前へ。そして刃を真っ直ぐにホクトへと突きつける。白き光の剣士と黒き闇の剣士――。二人の様相は、能力は、正に対極――。


『貴様との縁、ここで断ち切る……! 行くぞ“魔剣狩り”……! 剣の“禍祓い”がお相手致す――ッ!!』


「…………。人には言われ慣れてるが、自分で言うのは初めてだ。“反則”だよ、お前――」


 対極が動き出す。闇の刃の嵐の中へ、光を片手に騎士が飛び込んでいく。光と闇の決戦、それは今二人の騎士の手の中に――。




The truth(3)




「俺に何かあった時は、ロゼを頼むぞ――」


 ある日、砂の海豚の団長である男……ロイ・ヴァンシュタールはリフルに言った。それはまだ、息子であるロゼが十三歳の時の事である。

 当時の砂の海豚は反帝国組織の中でも中心的な組織の一つであり、特に団長のロイは指導者としても魔剣使いとしても一流であり、反帝国組織の中で高いカリスマを誇っていた。

 当時、まだバテンカイトスが存在しなかった時代、拠点は当然カンタイルの町であった。故にリフルはロイと共にカンタイルで暮らし、そしてそこが彼女の第二の故郷となった。

 元々リフルにとって故郷など存在しないも同然――。彼女は戦災孤児であり、そしてそれからずっと貧民街で人には決して言えないような悪事をしでかして何とか生きてきたのである。その日の糧を得る事だけを目的とし、獣のような生活を繰り返した。そんな幼い少女だったリフルを拾い、剣士にしてくれたのがロイだったのである。

 親の居ないリフルにとって、ロイはたった一人の家族になった。そして気づけば砂の海豚の仲間たちは皆家族となった。彼らは殆どが戦災孤児であり、ロイは巨大なファミリーの父親でもあったのだ。そんなロイに憧れ、リフルはいつも強くなろうと努力してきた。賢くなろうと尽力してきた。ロイの役に立つ事、それが彼女の生き甲斐だった。

 そんなロイには一人の息子が居た。リフルが組織に入ったばかりの頃、息子はまだ赤ん坊だった。リフルはその子供の世話を多忙なロイに変わり、幼いながらに一生懸命補佐していた。

 子供は見る見る大きくなり、リフルの身体も大きくなった。子供だったリフルが大人になり、そして赤ん坊は少年になり、リフルの仕事も増えていった。戦場での剣士としての仕事、そして息子……ロゼの面倒を見る仕事。

 ロイに妻はいなかった。妻はロゼを産んだ時に死んでしまったという。リフルは親の居ない寂しさと悲しさを知っていた。だからロゼにはそんな思いを味わわせてはいけないと、出来る限り彼のいう事をなんでも聞き、なんでも従い、彼の自由にさせる事にした。しかし、それはもしかしたら間違いだったのかもしれない。

 未熟な人間なりに彼女はロゼを護り、愛そうとした。だが父親であるロイは戦場で散る事となる。作戦行動中、帝国騎士団の襲撃に遭ったのである。それだけならばロイは倒される事はなかっただろう。だが――砂の海豚には、裏切り者が居たのだ。

 背後から剣を刺され、倒れるロイの姿をリフルは大人になった今でも夢の中で繰り返し見る。血を流し倒れる愛しい人の姿……。だからこそ、それを覚えているからこそ、忘れてはいけない事が二つ。“仇を討つ事”、そして“ロゼを護る事”――。

 その二つはそして今、果たされようとしている。砂の海豚を裏切った魔剣使い――。ロイの親友だった男。組織のナンバー2……シグマール・ヴァンシュタール。ヴァンシュタールとは、元々はロイのファミリーネームである。ロイはそれを苗字を持たない、家族を持たない仲間たちに分け与えた。故に砂の海豚の構成員は全員がヴァンシュタールなのである。そしてこのシグマールという男も、その名を受け入れ名乗った男……。


「――相変わらず、乱暴だねぇ……」


 弾き飛ばされたシグマールはゆっくりと起き上がった。リフルは殺意を湛えた瞳でシグマールを見つめている。彼女にとってシグマールは全ての元凶――そして、ロゼを苦しめる事になった原因たちの根源なのだ。

 この男が裏切りさえしなければ、ロゼは組織のリーダーになどなる必要はなかった。この男が裏切りさえしなければ、ロゼは父親を失わなかった。この男さえ、この男さえいなければ――。


「シグマアアアアアルッ!!!!」


 響魔剣グラシアを両手に対に構え、雄叫びと共にリフルは駆け出す。それに応え、シグマールもまた構築した魔剣を構えた。“透魔剣センティア”――それがシグマールの魔剣の名前である。大きな所謂両手剣と呼ばれる物で、そのデザインはかなり奇抜でごつごつしている――のだが、それをリフルは知らない。なぜならば彼女はそれを見た事が一度もなかったから――。

 グラシアで襲い掛かるリフルをシグマールはセンティアで迎撃する。だが、男の手の中に魔剣など影も形も存在しない。しかし切り上げる一撃からは重みのある風斬り音が伴い、リフルへと襲い掛かる。リフルは慌てて防御を行い、後方に弾き飛ばされた。

 そう、センティアの能力――それは“不可視”である。手にしているシグマールでさえ、センティアがどんな形なのか目で見た事は一度もない。何故ならその剣は絶対に目には見えないのである。シグマールは生まれ持ったこの剣の形状を把握する為に、毎日毎日それに手で触れて確認する事を余儀なくされた。それほど全く目に見えず、しかも魔力で感じられない剣――それがセンティアである。


「おじさんの能力を忘れたわけじゃないんだろう、リフル? 迂闊に飛び込むのは感心しないな……減点だ」


「貴様……ッ」


「懐かしいねえ。思い出さないかい? 君に剣の稽古をつけてあげていた頃を……」


「黙れ――ッ!!」


 そう、リフルは子供の頃シグマールに剣の稽古をつけてもらっていた。“一度も見た事が無い剣”と、何度も戦ってきた。何度も打ち合ってきた。シグマールの言葉でその事実を思い出したのだ。焦る事は無い。剣は絶対に形状を変えない。ならば、あの頃を思い出せば――。

 二人は同時に刃を揮う。目には見えない剣、それをリフルは確かに感じていた。子供の頃との感覚のズレでセンティアの刃の突起がリフルの頬を切り裂く。だが、それでまた正確になる。把握していく――。

 二撃、三撃――。打ち合いの中でリフルは学習する。心を冷静にしていく。そう、激情型のリフルは直ぐに熱くなり、冷静さを失ってしまう。だが一度心を穏やかにすれば、その状況把握能力は一級の魔剣使いをも凌ぐのである。

 繰り出される見えない剣の攻撃、それを遂にリフルは完全に把握し回避する。轟音が首の真横をすり抜ける――。しかし掻い潜り、恐れる事無く前へ――。繰り出す斬撃、それはシグマールの鋼鉄の鎧を薙いだ。


「ほう、大分成長したね……リフル」


「貴様の言葉は右から左だ。黙っていた方がお互いの為だぞ」


「つれないねえ」


「私はお前を殺す……。そして――ロゼが安心して生きていける世界を作る。ただ、それだけだ――」


 そう、例え嫌われようとも――。ここまで貫いてきた。ロゼを騙し通してきた。回りがとやかく言う事の意味も判っている。自分が間違っているということもわかっている。

 それでも、ロゼが大事だから。絶対に絶対に、今度こそ手放したく無いから――。あの子だけはと、どうにか守り抜きたくて。だからもう、危険な全ては遠ざけ切り払うのみ――。それが嘘と偽りで塗りたくられた、邪道だったとしても。

 ロゼを護り、ロゼと共に生きる……。彼がどんなに自分を恨んでも、それでも構わない。自分に彼の父がしてくれたように。愛を施してくれたように。それ以上の愛で決意に応えよう。彼女は剣士であり、そして一人の子である。ロイの意思は、絶対に貫き通す――それが彼女の信念である。


「奏でろ、響魔剣グラシア――。シグマール、貴様にも聞かせてやろう。死のレクイエムという奴をな……!」


 二対の魔剣、それが同時に形状変化していく。そう、元々それは剣ではない。剣として有効な形はしていないのだ。変化したグラシアを手先でくるりと回し、それをリフルは異様な構えで迎え入れた。肩に乗せ、耳を傾けるようなその仕草……。そう、まるで弦楽器――。

 手にした細い剣を並んだ刃へを合わせ、音色を奏でる。目を瞑り、音を感じる――。視覚は邪魔にしかならない。グラシアから流れ込んでくる環境情報を、全て音として捉えるのだ。そして触れた剣と剣は美しい音色を奏で、それは離れた場所にいるシグマールへと襲い掛かる。

 何の防御も出来ず、吹っ飛ぶシグマール――。当然である。攻撃は“音”に乗っているのだ。空気の中を廻り、振動し、そして息つく間も無く標的に襲い掛かる。民家の壁に叩きつけられるシグマール……その音を聞き、演奏は加速していく。

 連続して衝撃がシグマールを襲い、民家を叩き壊した。その瓦礫の中から飛び出したシグマールは見えない剣を引きずり真っ直ぐにグラシアでの演奏を続けるリフルへと襲い掛かる。しかしその動きは全て目には見えずとも感じ取れている。近づいてくるシグマールを迎撃するように次々に音の弾丸を射出する。座標を認識し、照準を固定し、その領域で音を爆ぜさせるのだ。連続して起こる爆発の中、シグマールは左右にそれを回避しながら猛然と突き進んでいく。

 繰り出される無色の切っ先――しかしそれをリフルは目を閉じたまま屈んで回避していた。カウンターで衝撃がシグマールの顎を打ち上げる。屈んだ姿勢から立ち上がりながら衝撃を三発シグマールの胴体に叩き込み、起き上がると同時に飛び上がり、回転しながら騎士を蹴り飛ばす――。目には見えずとも、リフルには全てが感じられている。この能力こそ響魔剣グラシアが反帝国組織の中で英雄視されていた由来――。踊るように戦い、謳う様に奏でる。勇壮かつ荘厳なる美しき剣士の楽曲――。蹴りでよろめいたシグマール目掛け、演奏の音色が放たれる。今度は先ほどとは違うメロディライン、文字通りのフィニッシュブロー……!


「ぐっ!?」


 巨大な空気の弾丸を受け、シグマールは派手に吹っ飛んでいく。鎧が砕け、血を流しながら男は慌てて立ち上がった。演奏は続いているのだ。その間はいくらでも攻撃が跳んでくる――。止まったら殺される、それがグラシアを相手にする時の心構えである。


「シグマール隊長――ッ!! ご無事ですかっ!?」


「エ、エレット君……!? なんでここに……ぐおっ!?」


 エレットに視線を向けている間に追撃をもらい、倒れるシグマール。目の前で何故かぶっ倒れたシグマールを見てエレットは仰天、戦場に鳴り響いている戦には不釣り合いな高らかな音色に目を向けた。


「なんですかこの音楽……? そ、それより大佐! 急に持ち場を離れて走り出したと思ったら倒れてるなんて……大佐、しっかりしてください!!」


「いやエレット君、おじさんいま戦って……おふうっ!? リフル君、待った! 今ちょっと取り込んでるから!!」


「私が貴様を殺すのに躊躇するとでも思うのか……?」


「思わないけど……。ええい、エレット君撤退だ! 戦略的撤退!!」


「はっ!? はい、了解です!! 覚えていなさい、そこの魔剣使い! 次に会う時は必ず……ふぎゅうっ!?」


 顔面を音の衝撃が襲い、エレットはばったりと倒れてしまう。何が起きたのかもまったく判らず、予想していなかった攻撃にただ頭の中が疑問で支配される。リフルは当然逃がすつもりはないし、次に会う時は……なんて悠長な話をするつもりはない。猛然と駆け寄りながら二人を見つめ、鋭い殺気を放っている。


「隊長、あの人なんかすごいんですけどっ!?」


「逃げろエレット君! 建造物の陰に隠れながら移動すれば攻撃は受けないはずだ!」


「りょ、了解ですっ!! 次に会う時は必ず……きゃああっ!?」


「エレット君早く走りなさい!!」


 再び追撃を受けたエレットの手を引いて走り出すシグマール。リフルはその後を追いかける為グラシアを演奏モードから刀剣モードに切り替える。そして二人が逃げ込んだインフェル・ノアへと自らも転移するのであった……。


~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*ヴァンではないホクト君だ*


うさ子「ホクト君、ホクト君!」


ホクト「おう?」


ミュレイ「ヴァン!」


ホクト「ヴァンではないホクト君だ」


ロゼ「ホクト」


ホクト「おう?」


アクティ「ヴァン! ヴァンったら!」


ホクト「ヴァンではないホクト君だ……」


ブラッド「ヴァンったら……」


ホクト「だから俺はヴァンではないホクト君だ」


リフル「ホクト」


ホクト「なんだ?」


うさ子「ホクト君、ホクト君ホクト君ホクト君っ!」


ホクト「うるせえな……なんだ?」


アクティ「ヴァーーーーン!!」


ホクト「俺はヴァンではないホクト君だ」


白騎士『見つけたぞ、魔剣狩り……』


ホクト「魔剣狩りだ」


昴「ヴァン……」


ホクト「ヴァンではないホクト君だっつの」


ウサク「ヴァン殿!」


ホクト「ヴァン殿!? 新しいがホクト君だ」


イスルギ「ヴァン……」


ホクト「ヴァンではないホクト君だ」


シェルシ「ホクト!」


ホクト「ああ、ホクト君だ」


ゲオルク「魔剣狩り……」


ホクト「魔剣狩りだ」


うさ子「ヴァン君ヴァン君!!」


ホクト「ああ……あ?」


ロゼ「ホクト」


ホクト「おう」


アクティ「ホクト!!」


ホクト「だから俺はホクトではないヴァン君だ……?」


うさ子「ヴァン君! ヴァン君!」


ホクト「ヴァン君ではないホクトだ」


アクティ「ヴァン! ヴァン! ヴァン!!」


ホクト「だから、俺はホクトではないヴァン君だ…………んっ!?」


全員「「「「「「 じぃ~~~~…… 」」」」」」」


ホクト「……いや、何が……?」

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