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王者、降臨(1)

「しっかし、皇帝襲撃なんてよく考えるよな……」


 溜息混じりに呟くホクトの傍ら、そこには煙草を咥えたブラッドの姿がある。二人が立つバテンカイトスの広場では、各ギルドごとに協議が行われており、迫る記念式典、そして婚姻の儀に乗じて皇帝ハロルドを討つ準備が進められていた。

 作戦参加ギルド数三十二、魔剣使い総数二十五名の大規模攻撃作戦である。ここまで大きな動きをすれば今後ギルド全体が帝国の標的となる事は避けられないだろう。そうした意味もあり、ギルド組合内部ではこの作戦は賛否両論そのものであった。

 ギルドに与しているからと言ってイコール反帝国思想と結び付けられるわけではない。現在各地の魔物討伐、治安維持、物資流通に技術支援……ギルドがまかなっているこの世界の安全、必需性の割合は決して低くはない。むしろ下層の人間にとって、ギルド組合は無くてはならないものだ。

 だが反帝国ギルドが一斉に反旗を翻せば、これまで通り仮初とは言え平和が続く事はなくなるだろう。この世界全体が大変な戦の時代に突入するのである。バテンカイトスも今までは見逃されてきたが、作戦が始まれば放置というわけにはいかなくなる。

 全てが変わる節目と呼べる瞬間が目前にまで迫っている……。ホクトは煙草を片手にその人々のざわめきを眺めていた。止めろと言って止まるものではないし、では止めれば平和になるのかと言われればそれも違う。結局、本当に正しいことなど何一つなかった。


「ブラッド、あんたはどうするつもりだ?」


「そうねえ……。まあ、様子見かしら。少なくともサーペントヴァイトそのものは参加しない事に決定しているわ」


「反帝国組織なのに、か?」


「うーん、やり方がスマートじゃないっていうか……。そりゃ、ハロルドが第三界層から降りてくるのは珍しいし、千載一遇のチャンスなのは判るわよ? でも勝算って言ったらそれだけ……。実際にどうやってハロルドを倒すっていうのかしらね」


 ブラッドは反帝国思想の人間ではあったが、部下を無闇に死に追いやるような決断をするつもりはなかった。それに実際問題として、ハロルドを倒すのにはいくつもの生涯が存在する。

 当然、帝国側も馬鹿ではないのだ。ククラカン、ザルヴァトーレを中心とした混成の護衛部隊を配備し、当然身の回りは帝国騎士団、そして剣誓隊によって固めている事だろう。十分な準備期間があるのはあちらも同じであり、世界中からハロルドを護る為の戦力が結集するのである。

 ハロルドに辿り着く前に騎士団、剣誓隊の魔剣使い、そして更には治安維持の名目で武力介入を繰り返すステラという存在までいるのである。戦いになればステラの介入は避けられないだろう。考えれば考えるほど障害は多いのだ。

 広場で演説やら何やらを繰り広げる各ギルドの団長も、そのことは理解しているはずだ。勿論彼らも戦闘経験は並の帝国騎士よりも優れているし、より過酷な状況を生き抜いてきたという自負はある。反帝国組織が持ち得る腕利きの魔剣使いたちも出し惜しみ無くつぎ込むのだ。勝ち目は全くのゼロではない。だが勝算はどちらかといえば薄く、そして敗北は色濃いものである。


「ここで倒せなければギルドに後はないわね……。帝国も今まで放置してきたギルドの動きを制限……最悪、全面戦争になるかもしれない」


「あんただって腕利きの魔剣使いなんだろ? 手伝ってやりゃいいのによ」


「うーん、そういうわけにも行かないのよねえ……。まあ、止めろって言って止まる連中じゃないし。組合なんて言ってるけどそれは名ばかりで、皆自分勝手だもの、ギルドって。まともに相手をするんじゃ疲れちゃうわ」


 肩を竦め、笑うブラッド。ホクトは煙草を踏み消し喧騒をじっと眺めていた。そんな二人にアクティが駆け寄ってくる。ツインテールを揺らし、ブラッドの前に立ったアクティは怒った様子でブラッドに言い放つ。


「ボス! どうしてサーペントヴァイトは参加しないのっ!? みんなあんなに帝国をやっつけようって盛り上がってるじゃんっ!!」


「…………。あのね、アクティ。これはお祭りじゃないのよ?」


「そんなの判ってるよ! ボクだって遊びでこんなところにいるわけじゃない! 帝国を倒さなきゃ、エル・ギルスはいつまでも解き放たれないままなんだ……」


 拳を強く握り締め、アクティは視線を落とした。それから顔を挙げ、ホクトに駆け寄る。その手を握り締めてアクティは懇願した。


「ホクトは……ホクトは、参加するよね?」


「あ? ああ、そりゃな」


「ほんとっ!? 嘘じゃないよねっ!?」


「ああ。そりゃ、俺らはその為にここまで来たんだからな」


「ボス、ホクトだってこう言ってるんだよっ!!」


 しかしブラッドの表情は険しい。直ぐに呆れたように溜息を漏らし、アクティへと歩み寄る。少女の額を小突き、ブラッドは首を横に振った。


「あんたが行ってどうするってのよ? 魔剣も使えないくせに」


「ボクだって戦士だよ!! 銃だって使える!」


「あのねえ、そんなに甘くないわよ剣誓隊は……? 白騎士みたいなのがうじゃうじゃいるんだから」


 その言葉にげんなりしたのはむしろホクトの方であった。眉を潜め、黙って次の煙草に火を点けている。アクティはむくれた様子でホクトの腕にすがりついた。もう意地でも離れないといったその様子に冷や汗を流すホクト。どちらにせよ少女の決意もやはり固かった。


「まあ……じゃあ、アクティの面倒は俺たちで見るってのはどうだ?」


「ヴァン……本気かしら?」


「ヴァンじゃないホクト君だ。まあ、どうせうちも大した戦力はないからな。後方支援がいい所だろうし……。アクティも無茶しないよな?」


「するよっ!! ハロルドを殺さなきゃ、この世界は良くならない!!」


「そこは嘘でも大人しくしてるって言えよ……ったく……。まあ兎に角、ほっといたってアクティは一人でも参加しちまうんだろうし……俺と一緒の方が安心だろ?」


「…………そうねえ。ま、貴方がいいっていうならいいんだけど」


 溜息まじりに折れたブラッドを見てアクティはホクトに縋り付き、バタバタと足を振り回して喜びを表現した。猫のようにはしゃぐアクティの頭を掴んでひっぺがし、ホクトは煙草の灰を落として首を捻る。


「まあ、実際うちも参加するか怪しくなってきたんだけどな」


「えっ!? なんでっ!?」


「うちの団長がやる気なくしちまったみたいだからな……。アクティもよければ励ましてやってくれよ。でなきゃ参加出来ないし」


「も~~っ!! ほんっと迷惑! 判ったよ、ボクが何とかしてみる! ボス、もうボクは参加するって決めたからね! 止めたって無駄だからっ!!」


 元気良く走り去っていくアクティを見送りブラッドは長い前髪を指先でくるくるとねじり、溜息を一つ。ホクトも同じように溜息を漏らしアクティが去っていった人込みを見つめた。


「ありゃあ随分とおてんばだな」


「そうねえ……。まあ、あの子の世界を平和にしたいっていう気持ちは判らないでもないから、なんとも言えないわ。そりゃ、安全にしていてほしいけど、大人の都合で子供を縛り付けるのもどうかと思うし」


「まるで親みたいな台詞だな、ブラッド」


「あら、そんなようなものよ? 私のかわいいかわいい娘だもの。まあ、後はロゼとリフル次第って所かしら」


 二人の関係が複雑である事をブラッドは理解している。だがこれしきの事を乗り越えられないようならば、このまま離れ離れになったほうがいいのかもしれない……とも考えていた。どちらにせよこれからはもう生半可な気持ちでは戦えない時代になる。この決断が吉と出るか、凶と出るか……それは誰にも判らない。

 問題といえば、ホクトもそうである。何にせよ様々な問題が密集しているのだ。特にホクトの周辺には……。ホクト自身、その答えは出ていないのかもしれない。だが時は止まらない。待ってはくれないのだ。人は急かされ、決断を焦らされる。結局は迫り来るその瞬間にどれだけ後悔しない道を選べるかどうか……ただその一点にっかっているのだろう。

 決して完全なる正解もなければ絶対の正義も存在しない。ならばここで憂うだけ全てが無意味なのだろう。行動し、前に進み、戦った人間の後ろにのみ結果は生まれる。今はその出でる存在が希望なのか絶望なのか、座して待つくらいのことしか出来ない。


「さてと……。俺はうさ子を拾って部屋に戻るとするか」


「そういえばあの子、最近見てないわね? どうかしたの?」


「……いや、ここの飲食店で二週間くらいバイトしてたんだよ。小遣い稼ぎにもならないだろうに」


「というか、よくあの子を雇ってくれるところがあったわね……」


「それは俺も仰天だが、まあほうっておけば美少女だからな、あれも……」


 二人して深く考えないように気をつけつつ、その場を後にする。決戦の日は既に、三日後にまで迫りつつあった――――。




王者、降臨(1)




「ホクト君、ホクト君~っ♪ こっち、こっちなのーっ」


 数々のショップが並ぶ商店街エリアの一角、うさ子が両手をぶんぶん振り回してホクトを呼んでいた。バテンカイトス内部はいくつかのエリアに分かれており、この商店エリアは明るく不思議な照明で照らされた、文字通り魔法の町である。黄色い壁、黄色いレンガの町……。イメージ的にはローティスと似ていたが、そこを利用する人種が決定的に異なる。


「うーっす。真面目に働いてるか、バイト君」


「真面目に働いたの! うさはね、がんばったのっ!! お金の大切さもね、よ~くわかりましたっ!!」


「そりゃめでたい。で、何で俺は呼び出されたんだ? お前バイト今日までだったんだろ?」


 うさ子がバイトをしたいと言い出した背景にはホクトの金を使い込み、こっぴどく叱られた件があるのは間違いない。うさ子はそこでお金の大切さ、お金を稼ぐ大変さを勉強する為……そしてホクト君からもらったお財布をいっぱいにする為に働く事を決意したのである。

 バイトしていたのは飲食店で、若干通常の飲食店とは異なる飲食店であった。店員は全員可愛い女性であり、来客は“ご主人様”とか“お嬢様”呼ばわりされる店である。ホクトは客としてそこに入りたがっていたが、うさ子がそれを拒否し続けていた為中がどうなっているのかは未だに不明である。

 何はともあれ、うさ子は本日給料日であった。封筒を取り出し、そこからお金を引っ張り出す。当然たかがバイト、しかも二週間だけなので金額は大したことない……と思いきや、意外と入っていてその理由が逆にホクトは怖かった。


「お前、何させられたんだこの金額……」


「えっ? ちょっとね、えっちな服を着て歌って踊ったり、おじさんやお兄さんとおしゃべりしたり……」


「そのお話後日詳しく聞かせてください是非」


「う? 別にいいけど……ホクト君、そんなことはどーでもいいのっ!! うさはね、ホクト君の為に何かを買ってあげたいの!!」


「…………また偉く唐突だな。まあ大体理由は想像つくが、一応説明してみろ」


「ホクト君はね、出会ってからずーっとうさの面倒を見てくれてね、一緒のお部屋で生活して、身の回りのお世話もしてくれて、ご飯も食べさせてくれたの! でも全部ホクト君は自分のお金でうさを養ってくれてたの。でも安心してください! うさは、これからはいいうさになりますっ!! うさはホクト君のお荷物ではなく、働けるうさになるのですっ!!」


 両手をぶんぶん振り回し、うさは目をきらきらさせて語った。その途中給料が入った封筒を放り投げてしまったが、予測していたホクトが即座にキャッチしてうさ子の服の中にそれを捻じ込んだ。


「つまり、いつものお礼って事か?」


「そうなの! ホクト君ホクト君、何がほしいの? うさがね、買ってあげるの~っ♪」


「いや、別に何もいらんし」


 手をぱたぱたと横にふりながらキッパリと断言するホクト。うさ子は打ちひしがれた表情を浮かべ、それからホクトにすがりついた。


「な、なんでなのーっ!? うさ、泥棒してないよ? ちゃんと自分で稼いだのーっ! うさはもう、いいうさになったのです!!」


「そりゃ判ってるけどな、お前そもそもそんなに金持ってないだろ? そのお金は自分で使えよ。ほら、そこの食堂のアルティメットジャンボパフェとか自分へのご褒美に食えばいいんじゃねえのか?」


「あるてぃめっと……っ!? じゃんぼ……ごくり……っ」


 生唾を飲み込み、口から涎をダラダラ垂れ流すうさ子。しかしそれを予測していたホクトがハンカチを押し当て涎が落ちるのを阻止する。うさ子は直ぐに首を横にふり、目をつぶってホクトにすがりついた。


「だめだめ、だめなの……! 今日はホクト君にお礼をする日なの……っ!」


「何ッ!? うさ子が食欲に耐えるとは……成長したな、うさ子……」


 しかしうさ子のおなかは物凄い勢いで鳴っていた。正直、心の中ではアルティメットジャンボとありがとうホクト君が激しくせめぎあっていたのである。唸るアルティメットジャンボパフェの威光に心の中でホクト君が小さくなっていく……。うさは泣きそうになりながら自分の頭をポカポカと何度も叩いていた。


「はうっ!! 消えろ煩悩なのっ!! はう! はうはうっ!!」


「…………そこまで食いたいなら食えばいいんじゃねえのか……?」


「駄目なのっ! 駄目なの駄目なのっ!! うさは……ごくりっ! うさは、ホクト君に……っ!! はうううっ!! はうううううっ!!!!」


 見かねたホクトが溜息混じりにうさ子の耳を鷲掴み、強制的に話を聞かせる。ホクトはうさ子に何かを買ってもらい、代わりにホクトはお礼としてアルティメットジャンボパフェを驕ると、そういう事になった。一瞬うさ子は何がどうなっているのかわからないという顔をしたが、ホクトのゴリ押しで一先ず納得するのであった。


「それで、ホクト君は何がほしいの?」


「そうだなあ……。俺はあんまり物持たないし、愛着も持たないタイプだからな……。服でもいいが、しょっちゅうボロボロになるからすぐ捨てるぞ」


「そ、それはなんかちょっと切ないの……。出来ればホクト君がいつも使ってるもので……あっ!! ホクト君、ライター買って上げるのっ!!」


「あ~、ライターか。そりゃ確かにありがたい」


「ほんとっ? じゃあ、うさはライター買って上げます! えへへ、ホクト君、早く早く買いにいくのーっ」


 うさ子に連れられ、ホクトはあちこちの店を見て周った。正直ただ火が出ればどうでもいいのがライターというものだったが、うさ子は選ぶのに慎重である。ホクトに似合っているかどうかとか、ホクトが長く使ってくれそうかとか、荒っぽい扱い方のホクトが壊さないようにとか、様々な事を気にしていた。目の前でそうしてプレゼントを選ばれるのも複雑な心境だったが、ホクトは黙って見守る事にした。

 一つ一つ手にとってはホクトへと振り返り、にっこりと微笑んでそれを見せる。ホクトは一つ一つ別にそれでいいと言うのだが、うさ子は中々気に入らなかった。中々きわどいデザインのものもあり、流石にそれはホクトは首を横に振った。

 たかが買い物一つで時間をかける事は本来ホクトにとってはありえないことだ。彼は買い物は目当ての物は即購入し、一発で帰ってしまうタイプである。うさ子は楽しそうにホクトと共にあちこち駆けずり回り、ようやく一つ定める頃には何時間も経過しているのであった。


「決めたの! ホクト君、これを買ってあげるの~っ♪」


「ああ、それでいいって」


「じゃあ買ってくるの! 待っててなのーっ」


 リボンをつけてもらい、うさ子はお金を支払う。その際これはちゃんと自分で稼いだお金ですと宣言したのだが、逆にそんな事を言うと胡散臭く見えてくる……。何はともあれうさ子は嬉しそうにライターを持って駆け寄ってくるのだが、途中で盛大にすっ転びライターはホクトの手の中に飛び込んできた。

 それは金色のジッポライターだった。側面にはうさぎを模したデザインがあしらわれており、何となくうさ子を彷彿とさせた。ホクトは早速それで煙草に火をつけ、煙を吐き出す。別に味に変わりはなかったが、それは少しくらいは大事にしてやろうと思うのであった。


「ホクト君、いつもいつも、ありがとうなの~。これからもね、うさはホクト君とずうっと一緒なのっ」


「……お前、記憶が戻ったらどうするつもりだそれ」


「別に戻んなくてもいいの。うさはね、今の生活が楽しくて幸せなの~。ロゼ君にリフルちゃんに、ホクト君……アクティちゃんも大好き大好きなのっ! このままずっと、みんな一緒に楽しくしていられたらそれでいいの」


「なるほどね。ま、ありがたくもらっておくぜ。うさ子隊員、ミッションコンプリートだ!」


「えへへっ! らじゃ~なのっ♪」


 その後くるりとターンし、急にあれもこれもと購入し始めるうさ子。冷や汗を流しながら何をしているのかと訊いてみると、うさ子は言った。“これはロゼ君の分。これはリフルちゃんの分。これはアクティちゃんの分……。あと、後で渡すシェルシちゃんの分――”。案の定金は足りなくなり、ホクトは無言で自分の財布から金を取り出し、足してやるのであった……。

 両手いっぱいにプレゼントを抱え、うさ子は意気揚々と帰り道を歩いていた。ホクトは半分持ってやると言ったのだが、うさ子は自分で皆に渡したいからとそれを断った。二人は肩を並べ、とことこと商店を歩いていく。


「ホクト君にはね、いっぱいいっぱい感謝してるの」


「そうかい。そりゃよかった」


「ホクト君は……うさたちと会えて、良かったかな……?」


 突然の質問だった。ホクトは紫煙を吐き出しうさ子へと視線を向ける。うさ子は真ん丸い目でじーっとホクトを見上げていた。その頭を撫で、ホクトは微笑む。


「当たり前だろ。こんなにスリリングな生活はそうそう味わえないぜ?」


「ほんと~? ホクト君、聞いたの……。ホクト君の魔剣、使うと痛い痛いってなるんでしょ……?」


 思わず黙り込んでしまう。誰にも言っていないはずだったのだが……知っているとすればメリーベルくらいか。口の軽いメリーベルを忌々しく思いつつ、ホクトは足を止めて溜息を一つ。


「うさ、全然気づかなかったの……。ホクト君、いっつも痛くて苦しくって、でもにこにこしててくれたんだよね……」


「気にするような事じゃねえさ。それにメリーベルのお陰で大分楽になったしな」


「…………。ホクト君、今度はうさが一生懸命ホクト君の事助けるからねっ! ホクト君が辛いの我慢してると、うさは悲しいです……。うさは……うさはーっ!!」


 急に泣き出しそうになるうさ子に慌てるホクト。そのまま道の端まで連れて行き、頭を撫でてあやす。なんだかもう小さい子供を相手にしている気分だったが、実際問題大差ない。


「うさは、やだよう……。ホクト君がね、苦しいの辛いの我慢してるとね、うさはとってもとっても悲しくて……」


「ああ、わかったわかった……! 頼むから泣くなっ! 俺が泣かしてるみたいだろ……っ」


「ホクト君……ごめんなさいなの……。これからは、うさがもっとしっかりするの……」


 それで、バイトを始めたり急にプレゼントなんて言い出したのだろうか……。ふとそう考えホクトも少々申し訳ない気持ちになった。戦っているのはうさ子の為でも誰の為でもない、自分の為である。他人に同情されるような謂れは無い。だが、ここまで純粋に心配されてしまうとどうにもばつが悪かった。


「ありがとうな、うさ子。隊長もそろそろ歳じゃからのう……。うさ子隊員にそろそろお任せするかのう」


「えへへ、ホクト君……おもしろいのっ」


「…………。ほれ、持ってやるから早く帰ろう。そんで、アルティメットジャンボパフェ食いに来ような」


 片方荷物を受け取り、ホクトは空いている手をうさ子に差し伸べた。うさ子は満面の笑みでその手を強く握り締め、二人は歩いていく。束の間の平和、そして家族としての関係の中を。三日後には消えてしまう、優しい時間の中を……。



~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*アンケート開始しました*


ホクト「というわけで、俺が今の所一位だ」


昴「……なんで? 男でしょ?」


ホクト「まあ、毎回アンケート上位はヒロインというのがお決まりなんだけどな~……。不思議と人気だ」


シェルシ「……まだ、始まったばかりですよ。一日目ですからね……」


ミュレイ「そうじゃそうじゃ! まだ何が起こるかわからんぞ!!」


うさ子「うさはね、二番なのーっ!! うれしいのーっ!!」


シェルシ「ふ、ふふふ……。大丈夫です、まだ私は戦えますよ……メインヒロインですから……」


ホクト「俺別に人気なくていいんだけどな」


ミュレイ「この男の発言は時々マジにイラっとくるのう……」


昴「だね……」


ホクト「そんなわけで、アンケート投票よろしくおねがいします」


うさ子「なのーっ!!」


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