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邂逅、リターン(2)

 “現実”と“非現実”との境界線は何処にある――?

 目の前で繰り広げられる光景の中、私はただ尻餅をついて唖然とする事しか出来なかった。いざという時、私は酷く無力だった。だがそれも致し方のない事だと思う。だって、そうだろう――?

 私の前に立ちふさがったのは白い装束の何者か――。その人物は白い仮面で顔を覆い、その手にした剣を輝かせている。だがそれは私に向けられているものではない。むしろそれは私を傷つけるのではなく、守る為に意味を成そうとしている。

 彼の目の前には一人の男の姿があった。対照的な黒い装束に黒い仮面……。どこのファンタジーだ? 幻想にも程があるだろう。そんな格好――常識的に考えて在り得ない。

 二人は剣を持っていた。所謂西洋剣である。あの、ゲームとかでよく見る、両刃の――。二人は刃と刃を押し付け合い、ぎりぎりとそれを震わせている。いや、まて。そんなことよりももっと気になる事がある。今こいつ――何て言った?


「逃げろ、昴……!」


「あ……? えっ?」


 白い影が動いた。黒い影を押し返し、剣を揮う。二つのシルエットは何度か交差し、刃を打ち鳴らす。白い影は私の方へと一瞬振り返り、その視線を捕らえる事が出来た。瞳の中に移りこむ自分の姿が何故かハッキリと見て取れて――。私ははっとする。脳裏を過ぎる様々な景色。声――。

 在り得ない。あるはずがない。けれどもそう思ってしまう。ビルの屋上、私は立ち尽くしていた。最悪の想い出が蘇る。落ちていくあの人の姿――落下と同時に悲鳴があがり、世界が変わってしまうような音が聞こえた。

 立ち上がり、追いかける。黒白の影は何度も刃を交えながら移動していく。一息の跳躍で民家の屋根の上に飛び移り、そのまま走り抜けていく。気づけば私は走り出し、それを追いかけていた。

 足がもつれ、転びそうになる。ただ上だけを見て走り続けた。月の綺麗な、静かな夜の事だった。何故こうなった? 何が原因で――? 思考は時を遡る。何度でも、何度でも――。

 非日常の足音が聞こえる。現実が壊れていく。私の世界が侵されて行く――。それは恐らく、たったの七時間の間に起きた幻想。意識を遡り、原因を究明する。辿り着いたのは昼過ぎの大学、友人と共に見た一人の女だった――。




「…………」


 思わず欠伸が出そうになるお昼時――。私は大学には行かずに家の掃除を手伝っていた。

 正直、先ほどまで寝ていた所為でとても眠かった。自分で言うのもあれだが、私はシャキっと目覚めた事が一度としてない。起きてから二、三時間はぼーっとしているのだ。まあ別に困らないからいいのだけれども。

 庭先を竹箒で掃き掃除している奥さんと、それを手伝う自分……。これも別段珍しくない普段の光景だ。暇な時は家の手伝いをする。それくらいしか暇を潰す方法もないし、それに夫妻には毎日世話になっているのだから。


「ふうっ♪ 大体お掃除終わったかな~……? 昴ちゃん、お手伝いご苦労様」


 そう言って額の汗を拭いながら彼女が私に手渡したのは小銭だった。所謂お小遣いというヤツであるが……別にこんなものをもらう為に手伝っているわけではないのだが。

 彼女は私が手伝いをすると必ずお小遣いを渡したがるのだ。理由はなんだか良く判らないが……。兎に角こんなものは受け取れないのでいつもどおり突っ返す。するといつもどおり、彼女は私の頭を撫でて微笑んだ。


「えらい、えらい」


「うぅ……」


「う~ん、昴ちゃんは可愛いわねぇ……。ずっとなでなでしていたいくらいよ」


「かっ、勘弁してください……!」


 自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる……。慌てて退くと、彼女は“恥ずかしがることなんかないのに”とか言いながら笑っている。いや、恥ずかしいに決まっているだろう。十九歳にもなって頭なでなでは流石に恥ずかしいって。そうだろう。


「師匠はまだ寝てるんですか?」


 苦し紛れに話題を変更する。夫のこととなれば彼女も饒舌になるし、思考がそちらに傾く事を私は知っているのだ。まあその結果、師匠が大変な事になる可能性もあるのだが……許してください、弟子の為です。


「あの人ったら、半ばNEET状態だから。困っちゃうわ、もう」


「…………。NEET、ですか」


 まああながちはずれではない気もする。一体どうやってこの家は生計を立てているのかが本当に謎である。二年近くこの家でお世話になっているのだが、あの師匠がまともに働いている所を見たことは今の所一度もない。大学にいっている間に働いている可能性もあるが……。


「でも、昴ちゃんがいてくれると本当に楽しいわ。娘みたいで」


「むす……っ!? え、貴方たちそんなに歳いってないでしょう……」


「ふふふ、これでも十五になる娘がいるのよ~。今は遠くで暮らしてるけどね」


 マジで? と思わず口走りそうになって言葉を慌てて引っ込めた。いやいや、十五歳の娘って……。ん? この人何歳なんだ? 二十代前半くらいかと思っていたのだけれど……。

 まあ、彼女たちの事情については余り口出ししない主義だ。そもそも娘なんて一度も見ていない。つまり二年は彼女たちも会っていないということなのだろう。どんな娘だかは知らないが、留学でもしているのだろうか。奥さんは外国人みたいだし。

 そんな事を考えつつ、奥さんの旦那に対する愚痴を一頻り聞いた頃だった。滅多に鳴らない携帯電話が鳴り、メールの着信を告げた。


「あら、お友達かしら?」


「…………どうでしょうね」


 携帯電話を取り出し内容を確認する。それから少しの間考え込み、私は竹箒を片付けて奥さんに告げた。


「ちょっと大学に行って来ます」


「今日はお休みじゃなかったの?」


「の、はずだったんですが……呼ばれてしまったので」


「お昼ご飯はどうするの?」


「途中で何か食べていきます」


 本当の母親より母親らしい言葉を投げかけてくる奥さんの優しい気持ちを感じる。我が家には会話なんてなかったし、私は両親には嫌われているのでこういう会話は久しく経験していない。だからここにいると居心地がいいのかもしれない。本当の家族のように感じることが出来るから……。

 部屋に一度戻り、上着を羽織って外に出る。駅までは徒歩で十分くらいかかるが、まあ別段気にはしない。この田舎町を歩くのが私はそれなりに気に入っているのだから。

 駅に到着、電車に乗り込む……。それは日々のルーチンワークであり、特に意識せずとも行う事が出来る。その傍ら私は送られてきたメールの文面を特に興味もなく眺めていた。

 “すごく美人の先生が学校に来ている”――。超をつけてもいい。下らない内容だった。故にそれに興味があったのではなく、ただどこかに出かけたかっただけなのかもしれない。

 友達と呼べる人間は私の周りにも居るし、それを維持するには最低限の付き合いが必要になる。その為には大学にこうして休みの日だろうが赴かねばならないし、そうしなければ私は大学の中で孤立してしまうだろう。

 孤立してしまう事を恐れているわけではない。元々こっちに来るまではどこに居たって孤立していたのだから。友達が居た方がいいと思うのは、あの奥さんに心配をかけなくて済むからだ。彼女は私がいつも家の中にいると、時々心配そうにこっちを見ている。私の事情を聞いているのかもしれない。だから、私は正常である素振りをする。

 本当の家族のようだと思う反面、そう思うからこそ心配をかけたくないと余所余所しく思考する自分がいる。それは矛盾だ。だが、それでいいと思っている。友達を失う事よりも、今の環境を失う事よりも、奥さんや師匠に心配をかけるほうが私はよほど嫌なのだから――。




邂逅、リターン(2)




 “砂の海豚”の移動拠点である、潜水艦ガルガンチュア――。その牢獄の中でホクトは肩を落としていた。


「なんでいきなり投獄なんスか……パネェっす」


 見張りはいるが、先ほどから声をかけても何の反応も示さない。魔剣と呼ばれていた力を使えば脱走も簡単なのだろうが、それはそれで問題が大きくなりすぎる。

 ホクトの脳内にある思考は、如何に面倒くさくなくこの問題を解決出来るか――ただそれだけであった。結局力ずくというのが一番楽な気がしないでもないが、この砂上ではガルガンチュアから逃げ出したところで行くアテもないのだ。

 仕方がなく腕を組み、溜息を漏らす。牢獄の中はお世辞にも綺麗とは言えなかった。が、あまり使われていないのかそう汚れているわけでもない。鉄の壁が露出した四角い箱の中、ベッドとトイレだけが設置されている。ホクトはベッドの上に座り込み、壁に背を預けた。

 暫くぼんやりと時を過ごしていたのだが、ふと振り返る、薄そうな壁の向こうから声が聞こえてきたのである。それも暢気な鼻歌……。ホクトは背を預けたまま壁を拳で何度かノックする。


「よお、楽しそうだな」


『うん~?』


 声は壁から、というよりは隣の牢獄から聞こえてきた。狭い空間である所為か、やけに二人の声は反響している。


『うん、楽しいよ~。えっとね? でも、君はどこにいるの~?』


 暢気に間延びした声だった。しかし、愛らしい少女の声である。それだけでホクトは何故かテンションが上がり、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。


「俺は記憶喪失の魔剣使い……ホクト様だ」


『…………? シンの使い手なの?』


「ああ。お前、どうしてここにブチこまれてるんだ?」


『…………。うさね、何も悪い事してないの……なんで捕まったのかわかんないの』


 ホクトは一瞬、眉を潜めた。“うさ”……? それが一人称なのだろうか。というか何も悪い事をしていないのにつかまったとなると、自分と境遇は同じという事になる。


「俺も何もしてないのに捕まったんだよ。怪しいとか言われてな……」


『そうだったの~? かわいそうだね……。かわいそうだよう』


「ああ、かわいそうだ……」


『うさもね、かわいそうなの……。ちょっとね、おなかがすいてね……この船にもぐりこんでね? ご飯を分けてもらってただけなんだよう』


「…………。それは泥棒じゃねえの?」


 ホクトの指摘の直後、壁が揺れた。ガツンという音が響き渡り、向こうで誰かが暴れているのが判る。どうやら驚いて振り返り、壁に頭をぶつけたらしい。


「だ、大丈夫か……? 今結構いい音がしたぞ」


『う、うさはね! 泥棒さんじゃね! ないのですよっ!! はむはむ!』


「何か食ってんじゃねえかよ!? つか、ここは飯出るのか……?」


『出るよ~♪ これがねぇ、結構おいしいの~っ! はむはむっ♪』


「…………。まあなんでもいいけどな」


 溜息を漏らし、硬いベッドの上に横になる。硬いというか、最早鉄の箱そのもののようである。寝心地は絶対によくなかったが、ホクトは横になったまま時間を過ごす事にした。

 ガルガンチュアはもう発進したのだろうか。重苦しく響く駆動機関の音だけが船内に響き渡っている……。暫くの間ホクトは黙り込んでいたが、その間隣の部屋からも声は聞こえてこなかった。


「なあ、おい」


 声をかけてみるが返事がない。仕方がないので壁を軽く叩いてみたが、やはり返事はない。そして返答の変わりに――、


『むにゃむにゃ……。もう、おなかいっぱいだよう……。そんなに、食べられないよう……えへへぇ』


 という、幸せそうな寝言が聞こえてきた。


「寝てるのかよ! そしてなんだそのお約束の塊みたいな寝言はっ!?」


 飛び起きて一人でツッコむホクト。しかし直ぐに空しさが押し寄せてくる。溜息を漏らし、再びベッドの上に座り込む。時間が経過するのがとても遅く感じる……。

 もしかしたらもう何時間も経過しているのかもしれないし、まだ数分しか経っていないのかもしれない。隣人が眠ってしまったので会話も出来ず、暇をもてあますにも程があった。仕方がなくホクトは自分の身体を調べる事にした。

 彼の記憶の連続性は罪人の輸送列車の時点で途切れ、本来続いているはずの記憶のレールは過去へは延びていない。彼は自分が何故あの場に居たのか、あんな格好をしていたのか、何一つ判らないのである。

 記憶喪失である事を特に不便だとは思って居なかったが、暇があるのだから調べてみるに限る。ホクトは自分の服装、装備などを立ち上がって確認する事にした。

 砂漠で暮らしていたのか、非常に軽装である。鎧の類は一切見られず、ただ皮の防具が要所にだけ施されているだけの服装……。魔剣使いというのものが戦士であるというのならば、些か頼りなくも見える。

 腕には巨大な刺青……。魔剣を出し入れするのに必要な物らしいことはわかるが、それ以外は一切不明。鏡がないので自分の顔までは確認出来ないが、特に何か問題がある顔とは思えない。


「むしろイケメンに違いない……」


 牢に入れられる際、腰のベルトに下げていたナイフを奪われたが、それを含めればホクトの所持品は全てとなるだろう。ベッドの上に諦めて座り込み、そこでふと気づく。そういえば服の下に何か違和感がある、と。

 首から提げて服の中に入っていたのはネックレスだった。その先端部にはなにやら細長い円形の物体がついている。手に取ってみると、それはいくつかの種類の絵柄のプレートがはめ込まれたパズルであった。


「…………? 小型のパズル、だよな」


 筒のようなパーツを回転させ、同じ絵柄を縦にそろえる……恐らくそんな遊びに使うのだろう。ためしに少し動かしてみたものの、それが纏まる気配はなく直ぐに飽きてしまった。とりあえず服の中に戻し、溜息を漏らす。


「ヒントはこれだけかよ……。駄目だ、お手上げだな」


 諦めて頷く。どうせ明確な手がかりが出現するとは思って居なかったのだ、落胆はない。ベッドの上に寝転がり、鉄の天井を見上げながらホクトは静かに目を閉じた。

 しかし、まどろみの中に落ちて行きそうな意識は扉が開く音で妨げられる。立っていたのは一人の女剣士――。ホクトは身体を起し、立ち上がる。


「やっと出してもらえるのか?」


「……ああ。直に港に到着する……。その前に貴様の処分を決めておかねばならない」


「処分ねえ……。だから、俺は何にもしてないだろうに」


「魔剣はそれだけ危険なのだ。お前も使い手ならば理解しているはずだ」


 後頭部を掻きながらホクトは小さく息をつく。魔物を両断するだけの力を持つ魔剣……確かに凄まじい力を持つのだろう。だがその所有者としての自覚はホクトにはない。

 そもそも、自分が何故ここに居るのかそれさえもわからないのだ。魔剣を悪用するとかその責任とかそんな事は正直な所思考の範囲にはない。しかし、納得は行かずとも従うのが良作なのだ。何せ何もわからないのだから。

 目の前の女剣士――リフルに従えばそれでとりあえず問題は無い。腕を組み、少しの間思案する。ここで暴れたところで何のメリットもないだろう。暴れるにしても、最低限の情報を入手してからの方が得策――。

 ふと、隣の牢獄へ視線を向けるが中に誰が居るのかは確認出来なかった。リフルに手錠をはめられ、ホクトは大人しく歩き始めた。金網の張られた床の上を軋ませながら歩き、前をホクト、背後をリフルが歩く。


「この船大丈夫か? 見てくれは頑丈そうだが、中身ボロボロじゃねえか」


「貴様は黙って歩けばいい。今は船ではなく己の身の心配をする事だな」


「つれないねぇ……」


 剣の柄で背中を叩き、急かすリフル。二人がそうして辿り着いたのは砂の海豚の団長、ロゼの待つ部屋であった。

 壁には学術書の詰まった本棚……。奥まった所には古ぼけた執務机がある。リフルは中にホクトを押し込むと、自分も中に入り扉を背にするようにして剣に手を伸ばした。


「よおロゼ……。俺を自由にする気になったのか?」


「それはない。これは尋問だよ、ホクト……。君は一体何者なんだ? その魔剣は?」


「何度も言わせるなよ、記憶喪失なんだ。さっきも少し自分で思い出そうとしてみたが何も判らん」


「…………まあ、その辺も含めてこいつを用意しておいた」


 それは水晶球に手形を掘り込んだような奇妙な道具だった。古ぼけたケースの中から取り出したそれを机の上に置き、ロゼは椅子の上にふんぞり返る。


「それに手を載せて過去の事を思い出すんだ」


「ん? 嘘発見器みたいなもんか?」


「厳密には記憶を遡る魔道具だよ。それであんたが記憶喪失なのかどうか、そして記憶喪失なのだとしてもあんたが何者なのかが思いだせるはずだ」


 なるほど、とホクトは頷いた。全くこれを拒否する意味はない。正に願ったり叶ったりなのだ。己の手を水晶球の上に翳し、何の躊躇もなく乗せる。そうして目を瞑り、己の存在に対して尋問を開始した。

 何者で、何故あの場に居て。何故こんな事になっているのか……。眉間に皺を寄せて考え込む。しかし、ホクトの脳裏には何の記憶も蘇る気配はなかった。


「……? おい、何も思い出さないぞ」


「何……? さっき僕が試した時は動いたはず……」


「壊れてんじゃねえのか?」


「いや、そんなはずはない……だが触れている限り術式からは逃れられないはずだ。お、おかしいな……?」


 ロゼは立ち上がり、小首をかしげながら水晶球を眺めている。手に取り、あらゆる方向から見つめてみる。しかし特に以上は見られないし、水晶球に刻まれた術式の紋章にも異常はなかった。

 その後も何度かホクトに道具を使わせたりロゼ本人やリフルに試させたのだが、結果としてホクトだけは魔道具の効果が現れなかった。リフルとロゼは互いに顔を合わせ、首を傾げる。


「どうなってる……? ホクトには魔道具の効果を受け付けない術式でも刻んであるのか?」


「それらしい装備は見当たりませんが……」


「……アテになんねーだろ、そんなわけわかんねぇ道具」


「何ぃっ!? うちの財宝に向かってなんて口の利き方だ! 撤回しろ馬鹿!」


「はいはい、すいませ~ん」


「こ、この男……ッ!!」


「落ち着いてくださいロゼ」


 ホクトに殴りかかろうとするロゼを羽交い絞めにし、リフルが呟く。ホクトは耳の中に小指を突っ込んで明後日の方向へと視線を向けていた。

 冷静さを取り戻したロゼはリフルを振り払い、眼鏡を中指で押し上げる。深く溜息をついて椅子の上に座り込み、ホクトをにらみつけた。


「あんたが普通じゃないって事だけは判ったよ。魔道具が効かないとなると、いよいよ帝国のスパイの可能性がある」


「おいおい、なんでだよ? つーか帝国ってなんだ」


「何!? 帝国の事も忘れたのか!?」


「だーかーらー! なんもわかんねえっつってんだろが! 記憶喪失なめんなよコラァ!」


「何でそんなに生意気なのかわからないけど……まあいいさ。だったら一から説明してやる。どうやら、お前の記憶は魔道具か何かで厳重に封印されているようだからな。そうでなければおかしい」


「その魔道具ってのもよくわかんねーんだが」


「だから説明すると言ってるだろ! さて、何から説明したものか……。まず、結論から説明しておくか」


 ロゼは腕を組み、思案しつつ頷いた。そうしてロゼに視線を向け、眼鏡を輝かせて拳を強く握り締める。


「我々ギルド、“砂の海豚”の目的は一つ。驕る帝国から下層住民の利権を取り戻し、この世界の秩序を正常化する事だ――」


 何を言っているのかは全く判らなかった。だが、こうしてホクトは知る事になる。この世界に起きている事。この世界そのものの事。そして――魔剣とは何なのかを。

 ロゼは椅子に座り、ホクトも座るように促された。二人は机を挟んで向かい合い、見詰め合う。語るロゼの口調は真剣そのものであり、ホクトはそれを真面目に聞かざるを得なかった……。

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