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魔剣狩り(2)

「あれ~? ロゼ君ロゼ君、駅がー」


「…………戦闘?」


 ロゼとうさ子が身を乗り出し、窓を開いて列車の進行方向を覗き込んだ。それでようやく口元の血を拭い、ホクトは行動不能状態から復帰する。

 第五階層エル・ギルス……。ロゼたちが目指していた街、遊楽都市ローティスは既に目と鼻の先まで近づいていた。しかし、駅のホームでは連続して爆発が起こり夜の空を何度も明るく照らし上げていた。

 砂の海豚の代表として彼らがローティスに向かっていた理由……それは、迫る帝国の記念式典を阻止する、反帝国勢力による大規模な反乱作戦の為である。ローティスに秘密裏に集結し、そして帝国の式典を攻撃する作戦を練るはずであった。

 ローティスには現在、そうした理由で反帝国勢力が集結しているのである。本来は遊楽都市の名が示すように、争いごととは程遠いはずのその町で起きている戦闘に誰もが嫌な想像をせずには居られなかった。


「まずいな……。この列車、減速してる。ローティスまで行かずに引き返すつもりか……?」


「そりゃ困る。ロゼ、飛び降りるぞ」


「え!? あ、おいホクト……!? ああもう、なんであいつはいつもああなんだ!? 人の話を聞きゃしないっ!!」


「ロゼ君、急いで急いでっ! うさも先にいくねっ!!」


 ホクトが荷物を纏めて窓を蹴破り、まだ移動を続けている列車から荒野へと飛び降りる。それに続き、ロゼの話を聞かずにうさ子が列車から飛び降りた。二人は既に走り出し、停車しようとしている列車へと追いつこうとしている。


「ああもう、魔剣使いは周りの事考えられないんだな……! 僕は生身なんだぞ!?」


「大丈夫ですロゼ。さ、私の手を取って」


「最初からそうするつもりだよっ!!」


 半ばやけくそにリフルの手を取り、頷くロゼ。その身体を抱え、剣士は二人と同じように窓から飛び降りた。列車は案の定停車し、戦闘中のローティスには近づかないようにする方針らしい。着地したリフルはロゼを降ろし、そんな二人をホクトとうさ子は追い抜いていく。


「先行って様子見てくるわ! リフルとロゼはちょっと待ってろ!」


「あ、おい!?」


「うさとホクト君がね、ちょっと見てくるからね~っ!」


 ロゼの話は聞かず、二人は魔剣を装備して一気に加速していく。そうなってしまうと魔剣による身体強化が出来ないロゼは置いてけぼりを食らうしかなかった。リフルは腕を組み、呆れた様子で溜息を漏らす。


「まあ、二人なら問題ないでしょう。私達はゆっくり追いつきましょう」


「……はあ~……。団長の話を聞く気配が全く無いのはどうしてなんだろうな……」


 それは、二人なりにロゼの身を案じているからなのだが……その気持ちがロゼに伝わる事は当分なさそうである。二人は線路沿いに夜の荒野を走り続け、ローティスのターミナルへと侵入する。すると、そこでは既に大規模な戦闘が開始されていた。

 帝国のエンブレムを刻んで金色の甲冑を着用した騎士たちはが駅を包囲しており、一般利用客たちは帝国騎士たちに動きを制限されている状態だった。駅のホームでは騎士たちと戦う数名の人物の姿があり、帝国騎士団対反帝国勢力の様相は一目瞭然である。

 駅まで駆け寄り。うさ子はホクトの一歩先を行き、帝国騎士たちの包囲を飛び越えてホームへと進入する。それを止める暇もなく、ホクトはただ唖然としたままうさ子の行動を見つめていた。


「何だ貴様は!? ローティスのターミナルは現在帝国騎士団により封鎖中である! 即刻立ち去れ!」


「うさたちはローティスに入りたいのっ! ローティスに入れてください!」


「人の話を聞いていないのか……? ローティスは封鎖中だ! 貴様、界層ナンバーは!?」


「なんばー……? なんばーってなに?」


「烙印を見せろと言っている! 貴様……ちょっとこっちに来い!」


「すいません、ちょっといいッスかねぇ……」


 ようやくうさ子に追いついたホクトが間に割って入り、へらへらと笑ったままうさ子の頭を掴んで引っ込める。金色の甲冑の騎士たちは腰から提げていた剣を抜き、ホクトに突きつけた。


「貴様ら、魔剣使いか……? 烙印を見せろ」


「烙印……? いや、それが何なのか判らんけど、こいつ引き取りますんで……」


「烙印を見せられないだと……? 貴様、烙印逃れか!?」


「だから、らくい……うおっ!?」


 剣を構えた騎士達が一斉にホクトへと襲い掛かり、剣を振り下ろす。瞬間、ホクトはガリュウを片手で揮い、騎士達を一撃で薙ぎ払った。手加減をしたので吹き飛ばされただけであったが、それで騒ぎの中の一員に加わる事となってしまうのであった。


「烙印なんて知らんと言っとろうに……。めんどくさいなお前ら……」


「帝国に対する反逆行為と見なす! 皇帝陛下の定めた逆徒抹殺の法により、貴様らを処分する!」


 騎士たちがぞろぞろと集まる中、ホクトは魔剣を肩にのせ面倒くさそうに煙草をふかしていた。その背後、うさ子がきょろきょろと周囲を見渡しホクトの上着の裾をちょいちょいと引っ張る。


「……ホクト君、ホクト君。うさはね、この人たちが何を言っているのか全く理解出来ないの……」


「俺もわからん……」


「どうしよう?」


「とりあえずぶっとばすか……」


 ホクトがそう気だるそうに呟くとうさ子は拳を構え、両の剣を拳の前で打ち鳴らし、耳をぱたぱたと上下させた。剣を持った騎士たちが一斉に襲い掛かる中、ホクトは魔剣を大きく振りかぶり、横薙ぎに振り下ろす。魔剣から放たれた黒い衝撃が騎士をばたばたと吹き飛ばし、それを跳び越えうさ子がホームに進入する。

 一般利用客たちは間近で戦闘が起きた事に怯え、我先にとホームからの脱出を図っている。ターミナル内はひどい乱戦状態に陥っており、うさ子は人込みにもみくちゃにされながらそのままホームの外へと流されていく……。


「ホ、ホクトくん! はわわ……な、流されちゃう~!?」


「え~……!? う、うさ子ーっ! カムバーック!!」


 うさ子の声が遠ざかっていくのを確認し、後を追いかけてホームに潜入するホクト。と、線路からホームに飛び乗った次の瞬間、一般利用客が去っていった方向から走ってくる異形の一団が見えた。

 金色の甲冑なのは一般の帝国兵と同じなのだが、その兜のデザインが異なっている。剣を装備した騎士の中に大型のライフルを装備した騎士が混じり、それがずらりと隊列を組みホクトを一気に包囲しつつあった。そしてその中、明らかにデザインの異なる色違いの鎧――漆黒を纏った騎士が一人。


「ま、魔剣使い……!? どうしてこんな辺境に……? そこの黒い魔剣使い! 大人しく武装解除し、投降して下さい!」


「何で?」


「何で、って……!? 我々は、貴方の命を奪う為に行動しているのではありません! 作戦の邪魔さえしなければ、一般の魔剣使いには手厚い保護の用意があります! 現在このローティスは反帝国勢力の一斉排除の為、“剣誓隊キャバリエ”が作戦行動中です! 速やかに武装解除し……」


「キャバ……? キャバクラ?」


「はいっ!?」


 どこかで同じようなやり取りをしたような気がしつつもホクトはそれを自重出来なかった。一人で勝手に苦笑を浮かべ、それから漆黒の魔剣を構える。


「悪いな、キャバクラだかキャンキャンだか知らないが、俺は誰の指図も受けねえ。つか、さっきそこの帝国兵倒しちゃったんだけど、放置でいいのか?」


「えっ!? あ……反帝国主義者!? く……っ! なんて狡猾な……! 剣誓隊として、貴方を拘束します!」


 騎士たちが一斉にホクトへと襲い掛かる中、ホクトは片手で魔剣を振り回しそれをいなしてしまう。まるで余力だらけのホクト相手にライフルを構えた兵たちが一斉に銃弾を放つのだが、ガリュウが生み出す魔力結界が弾丸を軽々と弾き飛ばしてしまう。

 一般兵では埒が明かないと判断したのか、黒い甲冑の騎士が剣を抜いて前に出る。他の騎士たちと比べると小柄なその騎士は明らかに女性であり、襲い掛かってくるのを確認したホクトは眉を潜め、攻撃を回避しつつ魔剣を肩に乗せ下がってしまう。


「この、このおっ!!」


「待て待て! ちょっと待った!」


「なんですか?」


「お前………………女だろ?」


「……はい、そうですけど?」


 騎士は兜を被っている為顔は見えなかった。しかし既に会話のやり取りがあった為、女性である事は明らかである。すると、つい先ほどまで余裕の様子で騎士たちをいなしていたあのホクトが、冷や汗を流しながらたじろいでいるではないか。


「お前が…………剣誓隊……だと……?」


「そうです。剣誓隊第七小隊所属、エレット・ノヴァク少佐……それが私の名です! 剣誓隊の名に恐れを成しましたか……!?」


「う、うう……っ!?」


 首を横に振り、嫌がるように後退するホクト。しめたと思ったのか、エレット少佐は剣を振り上げホクトへと襲い掛かる。するとホクトは魔剣を何故か手放し、素手で振り下ろされた剣を白刃取りして防いだのである。


「あ、貴方……ブシドーですか!?」


「お、俺は……お前とは戦わない!」


「な、何故ですか……? これほどの力を持ちながら、一体何故……」


「俺はッ!!!! 女の子に、剣を向けない主義だからだッ!!!!」



 一瞬の、間……。



 ホクトの怒号が響き渡り、戦場下にある遊楽都市ローティスのターミナルは一瞬で静まり返った。騎士達は動きを止め、何が起きたのか理解出来ないという様子でお互いに顔を見合わせている。

 一番きょとんとしているのは剣を振り下ろした剣誓隊所属、エレット少佐である。少佐はすっかり固まってしまい、その間にホクトは剣を素手で圧し折り、それを奪って放り投げてしまう。


「女がこんなもの持ち歩くな! 危ないだろっ!?」


「……あ、あ、貴方……馬鹿にしているんですかっ!?」


「俺は至って真面目だ……!」


 徐にエレット少佐の兜に両手を伸ばし、スポンと引っこ抜いてみせる。するとふわりとエレットの栗毛色の髪があふれ出し、驚愕に打ち震える緑色の瞳がキラキラと輝いていた。


「ごめん……マジ無理……」


「な、な!?」


「女の子を斬ったら、俺は……俺は死ぬ――!」


「はあっ!?」


「なのですかさず当身ッ!!」


「はうぐっ!?」


 戦場には絶対に似合わない異様な雰囲気の中、ホクトはエレット少佐の首を小突き、気絶させる。ばったりと倒れるエレットをその場にそ~っと丁重に寝かせ、それから魔剣を再構築して振り返った。


「またつまらぬ物を気絶させてしまった……。さぁ、戦闘再開だ! かかって来いやぁっ!!」


 魔剣を構えてすごむホクトであったが、騎士たちはまだ戸惑ったままである。お互い、攻撃していいのかどうか、そもそもホクトが悪人なのかどうか、踏み切れずにいる様子だった。そんな最中、ホクトたちが居るのとは向かい側にあるホームから突如として銃声が聞こえてきたのである。

 銃弾はホクトへ向けられた物ではなく、戸惑っていた騎士たちに襲い掛かった。倒れていく騎士たちの中、向かいのホームから人影が跳んだ。空中で手にしたライフルを連射しつつ、シルエットはホクトの隣に着地する。


「ふぎゅう――っ!?」


 その際、足元に転がっていたエレット少佐が踏みつけられてしまうが、襲撃者は気にする気配も無かった。跳躍してきたのは――エレット同様、女性であった。しかもかなり身なりの小さい、少女と呼べる年代の、である。ホクトは戦場にまた少女が出ている事に憤慨しつつ、その様子を下から上までじっくりと眺めた。

 小さい背に長い黒髪のツインテール、顔は黒いゴーグルで隠され、身体は漆黒のマントで覆われている。手にしているのはライフルのようだったが、通常の騎士達が装備しているライフルとは出で立ちが異なるように見えた。少女はふと顔を挙げ、ホクトの手を握り締める。


「こっち!」


「ほい? こっちって……?」


「いいから、こっち!! 早くしてっ!!」


「お、おぉ……?」


 意外な流され体質が露見したホクトは少女に手を引かれ、反対側のホームに走っていく。騎士たちは銃撃でホクトたちを追撃したが、銃弾はホクトが魔剣で防いでしまう。

 一連の奇妙な流れにより、二人は無事にホームを突破する事に成功する。そのまま少女はホクトの手を引き、夜のローティスの裏路地へと駆け込んでいくのであった……。




魔剣狩り(2)




「ふう……ここまでくれば、もう大丈夫かな……?」


 少女が足を止め、周囲を見渡したのはローティスでも滅多に貴族たちは訪れないスラムであった。周囲の人の気配は無く、照明さえもない。暗闇の中、ただ遠い歓楽街の明かりだけが微かに二人を照らしていた。

 既に魔剣を解除していたホクトは少女に相変わらず手を取られたまま、ただひたすらに走ってきた。とりあえず敵ではなさそうだという認識だけが頼りだったのだが……。少女は振り返りゴーグルを外し首からそれを掛けたまま、背伸びをしてホクトの顔を覗き込んだ。


「ヴァン……? ヴァン、だよね……?」


「え……?」


「ヴァン! ヴァーンッ!! 会いたかった! 会いたかったよ~っ!!」


「ぬおう!?」


 少女に力いっぱい抱きつかれ、ホクトはただ戸惑う事しか出来なかった。少女はホクトの身体に何度も顔を擦り付け、勝気そうな目に涙を溜めてその場で足をばたつかせて喜びを表していた。


「ヴァン! ヴァンのにおいだ……っ!! ボク、ずっとヴァンの事探してたんだからね……? どこに行ってたの? ボク、死んじゃったんじゃないかって……!」


「…………見知らぬ少女よ……」


 ホクトは両手でがしりと少女の両肩を掴み、自分の身体から引っぺがした。少女は目を丸くしてホクトを見つめ続けている。なんとなく心苦しかったのだが、ホクトは正直に真実を告げる事にした。


「悪いが俺の名前はヴァンではない。ホクト君だ」


「…………? ヴァン?」


「だから、俺はヴァンじゃない。お前の人違いだ」


「でも、ヴァン……。ヴァンだよ?」


「だから、ヴァンではないのよおいらは……。俺は――砂の海豚所属、さすらいの傭兵ホクト隊長だ」


「でも、ジョニーライデン……」


「それは俺が好きな煙草の名前だが、俺はヴァンではない」


「でも……でも……」


「いや待て、話が全く進まないぞ……。少し落ち着こう」


 冷や汗を流しつつ、頭を掻き壁に背を預けるホクト。レンガが敷き詰められた細い路地の中、少女は胸の前で指と指とを突き合わせ、上目遣いにじっとホクトを見つめていた。


「ヴァン……ボクの事……忘れちゃったの……?」


「…………いや、だから俺はヴァンじゃない。そういうお前は?」


「……アクティ。アクティ・ノーレッジ」


「アクティ……アクティねえ……。駄目だ、全く記憶にない。それに俺の名前はホクト君であってヴァンではない。つまり、人違いだ」


「でもっ!! ヴァンはヴァンだよ!! ねえ……何があったの!? 剣誓隊に何かされちゃったの!? それとも、まさか“あいつ”が……」


 まるで話が進む気配がないのでヴァン……ではなくホクトは身体を起し、少女を無視して周囲を見渡した。ローティス貧民街に潜入出来たは良いのだが、ロゼたちと合流しなければならないし、人込みに流されていったうさ子を回収するという役目もある。いつまでもこんなところで油を売っているわけには行かず、ホクトは少女の頭を撫でて歩き出した。


「悪いな、俺は行くぞ」


「ま……っ!? 待ってよ! ねえ待ってったら、ヴァンッ!! ボクも一緒に行く! 一緒に行くようっ!!」


「だから俺はヴァンではない……おい、この会話だけで一話終わっちまうだろうが!」


「何が……?」


 少女は長く揺れるツインテールをふわふわと上下させ、ホクトの後を着いてくる。特に害はないので気にしない事にしたホクトであったが、少女はずっとホクトの上着の裾をがっちりと掴み、更に空いている手でホクトのベルトにも捕まっている。身動きが自由に取れない中、溜息を漏らしつつホクトは歩き続けた。

 そうして移動する事数分、貧民街から出たホクトの前、夜の歓楽街が姿を現した。毒々しい色のネオンがチカチカと眩く点滅を続け、酒に酔った人々がふらふらと通りを歩いている。楽しそうな雰囲気にホクトは目を輝かせ、きょろきょろと周囲を見渡した。


「これがローティスかあ……! 若いねーちゃんと酒がいっぱいだ……うへ、うへへぇ……!」


「……ヴァン……? ヴァンが……ヴァンが、変態になっちゃった……」


「だから俺はヴァンではない。変態というところは否定しないが、変態は決して悪いことではない。変態は変態だが、俺は変態と言う名の紳士なのだ」


「意味わかんない……キモッ」


「…………ちょっとそういう素っぽい発言はお兄さん傷つくかもしれんなぁ……」


 額に手を当て、項垂れるホクト。しかし歩みを止める事はない。今は仲間達と一刻も早く合流しなければならないのである。キリリと表情を引き締めるホクト、しかしそこに女性の甘い声がかけられた。


「ねぇ、お兄さ~ん! ちょとだけ、寄って行かない……?」


 声をかけてきたのは所謂バニーガール姿の金髪美女であった。店の前で客引きをしていたらしく、やたらとキツイ色合いの看板を持っている。ホクトは足を止め、それから真顔で自分のズボンのポケットに手を突っ込んだ。


「……ヴァン? まさかとは思うけど、行かないよね?」


「すごくいきた~~いっ!! けどお金がないっ!!」


 絶句するアクティ……。するとホクトにバニーガールが歩み寄り、挑発的に胸元を強調しつつ投げキッスを飛ばす。


「今なら……特別に、サービス……し・て・あ・げ・る♪」


「…………ヴァン、行かないよね……?」


「……アクティ、俺は思い出したぞ。どうやら俺は、ヴァンだったらしい……」


「えっ!? ホントッ!? ヴァン……! 思い出したの!?」


 ホクトは振り返り、片膝を突いてアクティに迫った。凛々しい顔つきに輝く瞳、ホクトの真顔にアクティはどきりとしつつ、ホクトに涙を浮かべて近づいた。


「だから……金を貸してくれ」


「ヴァン……はあっ!?」


「お金をっ!! 貸してくださぁぁああああいぃぃいっ!!」


 大声で絶叫したホクトの顎にアクティは跳び蹴りを放ち、見事にそれがクリティカルヒットする。一瞬気が遠のき倒れたホクトの襟首を掴み、アクティは無言でずるずると男を引きずり歩き始めた。


「……なんか、自信なくなってきた……。これ、ほんとにヴァンなのかな……」


 項垂れながらもトボトボと歩き続けるアクティ。その背後、レンガ敷きの歩道でガリガリと引きずられながら、ホクトはうわごとのように“おっぱい”と繰り返し漏らしていたのであった……。



~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*その頃、メインヒロインは*


シェルシ「…………」


うさ子「あれ? あれれ? シェルシちゃん、どうしたの? お膝なんか抱えちゃって……」


シェルシ「私……メインヒロインなんですよね? ホクト編の……」


うさ子「うん。作者によると、だけど」


シェルシ「なんで別れちゃうんですか!? ただでさえ空気とか言われてるのに、余計に出番が減ってしまうではないですか!」


うさ子「うさーん……」


シェルシ「なんか、新キャラとかが徐々に増えてくると、私の存在がどんどん薄く……。どうして女の子ばっかり出てくるんですか……」


うさ子「男も段々増えていく予定なの~」


シェルシ「うう……。私、ヒロインとしてやっていく自信がないです……」


うさ子「だい! じょう! ぶっ!!!! うさ子がね、なんとかしてあげるの!!「」


シェルシ「うさ子……」


うさ子「だってシェルシちゃんとうさ子は、友達なんだから……」


シェルシ「私、間違っていたのかもしれません……。メインヒロインであるかどうかより、大切な事は……すぐ傍にあったんですね」


うさ子「シェルシちゃん……」


シェルシ「そうですよね、メインヒロインじゃなくなったとしても……私は私なりに、一生懸命にやっていけばいいんですよね……」


アクティ「ただの現実逃避じゃない、それ?」


シェルシ「…………」


うさ子「大丈夫だよう! シェルシちゃんには、おっぱいがあるんだもんっ!!」


シェルシ「……………」


うさ子「あれ!? な、なんで落ち込むのー!? シェルシちゃん!? シェルシちゃーん!!!!」

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