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破魔ノ剣(3)

 太陽の国ククラカン、月の国ザルヴァトーレ――。二つの国は、長い間戦乱の歴史の渦中にあった――。

 帝国による支配が始まる以前の、数百年前のプリミドールではククラカンが天下統一の為に世界中に兵を派遣していたという。ククラカンは各地の勢力を侵略合併し、唯一の抵抗勢力であるザルヴァトーレとの戦いになった。

 ククラカン優勢の戦争は何年も続き、しかし決着がつく事はなかった。ザルヴァトーレは上位界層である第三階層ヨツンヘイム……ハロルド帝国に救援を求めたのである。ヨツンヘイム勢力と結託したザルヴァトーレはククラカンを圧倒――。ククラカンはハロルド帝国に屈服したのである。

 その動きを契機に、ハロルド帝国は全ての界層を支配に置く動きを見せ始めた。結果、ハロルド皇帝による支配は全世界に及び――。絶対的な軍事力を持っていた大国ククラカンはハロルド帝国に与する物となり、世界統一に貢献したザルヴァトーレもそれと対等な立場となったのである。

 かくして二国の争いは一旦の幕引きを見るが、しかしそれで全てが平和になったわけではない。帝国による支配が行われる一方、ククラカンとザルヴァトーレの戦争は水面下で継続されてきた。国境沿いでは小競り合いが絶えず、どちらの国がより強力な権力を持つかで常に争ってきたというわけだ。


「つまり、二つの国は元々仲が悪かったのじゃ。国家同士の正面衝突……戦にはならないものの、いつそうなってもおかしな状況ではなかった」


 帝国は、それぞれの国に対して帝国への忠誠を強制している――が、国同士が争う事は基本的に禁止はしていない。特にハロルド皇帝は俗世の事は興味が薄く、弱肉強食という言葉を己の主義にしている人物だという。強い者が生き残り、敗者は死ねばいい――。そんな考えのハロルド皇帝が二国の戦争を仲裁するはずもない。元々、ハロルド皇帝の方針としては世界中で適度に戦争が起こるべきだ、というくらいなのである。そう言われると、随分な狂王っぷりだ。


「きっかけさえあれば、いつでも戦争が勃発するじゃろう。そして、そのきっかけがお互いに出来てしまっている状況にある……」


 娼館、バテンカイトスの最上階……。メリーベルの部屋で机を囲み、私達はそこに広げられた地図を見つめていた。こんな会議になる前は私も修行をしていたのだが……その修行に本腰を入れようとした矢先、知らせは飛び込んできたのである。

 伝えてくれたのはメリーベルだった。彼女はこのあたりの情報に詳しい人物らしく、配下に情報通を何人も抱えているらしい。確かな筋からの情報によると、現在ザルヴァトーレ軍がククラカンとの国境沿いに展開しつつあるとの事であった。

 何故そんな事になってしまっているのか? それはザルヴァトーレ現女王であるシルヴィア・ルナリア・ザルヴァトーレの性格的な問題だろうと溜息混じりにミュレイは言っていた。二人は幼い頃からのライバルであり、同じく女王を目指す立場として常に競ってきたという。国同士では非常に険悪な関係の二国であったが、ミュレイとシルヴィアはお互いを認め合う関係なんだとか。

 そんなミュレイから見たシルヴィア女王の性格は――“実力行使”の一言に尽きるという。非常に好戦的で荒々しく、女王という立場にありながら常に最前線で兵を率いて戦う“戦乙女”……。そこまで話を聞くと、なんかミュレイと似ているような気がしないでもないが、兎に角シルヴィアは何かあれば直ぐにでも行動を開始する、熱血さんらしい。

 ザルヴァトーレの進軍の理由は明白だった。失踪した、ザルヴァトーレ第三王女、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ……それがククラカン軍に囚われた、という情報が流れたからである。シェルシ姫はミュレイ同様、婚姻の儀に参加する花嫁候補だった。それが居なくなったとなっては国の一大事である。


「そんな……。そのシェルシ姫って言うのは、本当にククラカンに囚われているの?」


「いや、それはないじゃろうな」


 ミュレイは本当にあっけらかんと即答する。彼女は国の代表も同義である……。彼女の耳に届かない情報など、あってはならないのだ。ミュレイは正々堂々とした天下統一を望んでいるのであって、卑怯な手でザルヴァトーレを陥れるような事は望んでいない。

 彼女が望んでいない以上、それはありえない――そう語る彼女は、よほど己の国を信頼しているのだろう。勿論、私だってククラカンがそんな事をする国だとは思えない。だとすれば、訳の判らない理由をテキトーにふっかけて喧嘩を売ってくるザルヴァトーレが悪いに決まっているとしか思えなかった。


「恐らく、シルヴィアもわらわが本当にそんな事をしたのか、直接問いただしたかったのじゃろう……。じゃが、今わらわはこの様じゃ」


「それだってザルヴァトーレのせいじゃない……? ミュレイは悪くないよ」


「じゃが、事実としてわらわは結局やつの対談要求を飲むことが出来ない。更に、ラクヨウ城には既に先の作戦で行動を共にした兵士たちが戻っている」


「あ……。じゃ、じゃあミュレイがザルヴァトーレに呪いを受けたって事も……?」


「恐らく伝わっておるじゃろうな……。互いに事実を否認すれば、ラチをあける為にシルヴィアは単身でも城に突っ込んでくるじゃろうな……。馬鹿じゃからのう、あいつ……」


 腕を組みながらミュレイはそう語り、冷や汗を流した。なんというか……シルヴィア王は随分と荒っぽい性格の王らしい。ミュレイの“馬鹿”という表現もどうかと思うが……。


「でもちょっと待ってよ……! 悪いのはザルヴァトーレでしょ? その、シェルシ姫とかいうのが勝手に居なくなったのが悪いんだから……!」


「それを言い出してもキリはないじゃろう。国によってその主張と主義は異なる物じゃからな……。ただ兎に角、今はどうにかして両国の矛を収めるようにせねばならぬ――」


 それが、国同士の付き合いというものなのだろうか……。私には良く判らなかった。だって、悪いのはどう考えたってザルヴァトーレなのだ。なのに言いがかりをつけて勝手に兵を出兵して……それで、ミュレイを困らせるなんて。

 腰から下げた刀の鞘を強く握り締めた。こうなったのは私の責任でもある。私は自分がしてしまった事がどういう事だったのか……ようやくそれを認識した。私のせいで、ミュレイが小さくされ……そして、そのせいで戦争が起こるかもしれない……。


「その、シルヴィア王とか言うのを何とか出来ないのかな? いくら王だからって、単身乗り込んでこれるようなものかな……」


「うーむ、単純な戦闘能力ならばわらわよりも上じゃぞ、やつは」


「ミュレイより上!? 人間なのそれ!?」


「……失礼なやつじゃな……。兎も角、動くならば急がねばならぬ。シルヴィアに城を落とされては敵わん……。わらわもゲオルクもここに居るとなると、通常兵力での戦闘になるからのう……」


「噂に名高い“破壊王”シルヴィアが相手か……。城は長く持たないだろうな」


 ラクヨウは元々、商業の街だという。戦闘や防衛に向いているような地形ではない……。いざ戦闘が開始されてしまうと、主戦力であるミュリアを除く戦力では苦戦必死らしい。改めてミュレイがどれだけ国にとって重大な立場にあったのか、それを認識した。


「何はともあれ、急いでプリミドールに戻らねばならんようじゃな……」


「送ろうか?」


 話を聞いていたメリーベルの申し出。しかしミュレイは首を横に振り、困ったような笑みを作った。


「そこまでお主に頼るわけには行かぬ。わらわとお主はあくまでも対等な友――。国同士の煩いに巻き込むわけにはいかんじゃろう?」


「…………そう。なら、ターミナルまでで」


 なんというか……ミュレイは本当にサッパリした性格の人物だ。メリーベルとも仲が良さそうだし……やっぱりミュレイが悪い事をする人だとは思えない。ザルヴァトーレの主張は、やはり間違いなのだろう。言いがかりだと思うと余計に腹が立ってきた。何も出来ない自分に、苛立ちを覚える……。

 こうして私達はミュレイを元に戻す方法はメリーベルに調べて貰うとして、そのままターミナルへ向かい第四界層プリミドールへ帰還、そこから国境沿いを移動する事になった。そして、それが私にとって忘れられない日々の始まりでもあったのだ――。




破魔ノ剣(3)




「むむむ……っ! 列車に丁度乗り遅れるとは、なんと運のない……」


 シャフトにあるターミナルへと向かう列車を待つ間、ミュレイは苛立った様子で腕を組んで線路を眺めていた。丁度私達がターミナルに向かう途中、列車が出て行ってしまったのである。次の列車が来るまで、余裕で二十分の待ち時間がある。有楽都市ローティスのホームは上位界層の貴族階級で溢れ返り、人でごったがえしているのもミュレイの苛立ちを加速させていたのだろう。

 二十分に一本しか列車が来ないのはこの世界では当たり前……むしろ待ち時間としては短いくらいらしい。ウサクも先ほどから落ち着きなく周囲をキョロキョロしており……ゲオルクは落ち着いた様子でどっしりと構えていた。

 さて私はというと、やはり気持ちは落ち着かなかった。大変な事が起きてしまうかもしれないというのもあるが、これから向かうのが戦場になるかもしれない場所――というのも緊張を増す要因となっている。刀をしっかりと抱きかかえ、溜息をついた。どうしてこんなことになってしまうのだろう……。

 ミュレイは何も悪いことなんてしていない。ただ世界を平和にしたくて、民を救いたくて戦っているだけだ。なのに彼女には次から次へと問題が降りかかってくる……。余りにも理不尽な世界の仕組み。だが、それが世界というものなのかもしれない。

 一人でそんな物思いにふけっていた時である。ふと、顔を上げたホームの対岸、そこに見覚えのあるシルエットが見えた。人ごみの中、白い髪の少女がじっとこちらを見つめていたのである。それは、エル・ギルスに来る前にシャフトで出会った少女だった。

 白い、雪のように白いふわふわとした髪の毛の合間、優しく向けられた紅い瞳が私を捉えている。何故ここにいるのだろうかと一瞬考えたが、そういえば彼女もエル・ギルスに向かうといっていたような気がする。


「あれ?」


 一瞬、瞬きをした刹那に彼女の姿は消えてしまっていた。背後の人込みの中にまぎれてしまったのか……それとも何かと見間違えたのか。小首を傾げつつ振り返った――その瞬間、私は絶句した。


「――昴殿ッ!! 危険が危ないでござる!」


「えっ?」


 ビタリ――という効果音が似合うような、そんな一瞬だった。振り返った私の目の前にはギラリと輝くナイフが停止していた。見れば、ウサクが横から手を伸ばしそれをキャッチ――つまり背後から何者かに投擲された物だったらしい。余りにビックリしてへたりこむ私の隣、駆け寄るミュレイの姿があった。


「……どうやら意地でも戦争がしたい連中がいるようじゃの」


「ミュ、ミュレイ……?」


 気づくと人込みの中、周囲にはぽっかりと空白が完成していた。私達を取り囲んでいるのは――以前、夜襲を仕掛けてきたザルヴァトーレの甲冑を装備した騎士たちであった。全員一斉に剣を抜き、それを私達に向ける。どう考えたって狙いはミュレイだった。


「囲まれたでござる……。姫様、魔法の方は?」


「……うーむ、駄目じゃ。魔剣ソレイユも出せそうにない。これではマッチよりマシと言ったところかのう……」


 指先から小さな火を出し、それを吹いて消して見せるミュレイ。あの驚異的戦闘力のミュレイが子供サイズになってしまい、しかもバッチリ魔法は使えなくなっている……こんなに暗殺に適した状況もないだろう。

 今まで暗殺者達が襲ってこなかった理由がなんだったのか考えてみたが、もしかしたらガルガンチュアの中に閉じこもっていたからなのかもしれない。いや、素人の私には何も判らないのだが……。

 ミュレイに支えられ、立ち上がる。私達を守るようにクナイを両手に構えたウサクとゲオルクが周囲を睨みつつ、私とミュレイをはさみこむようにして覆う。本物の武器に本物の殺意、本物の暗殺……。考えると駄目だった。やはり、怖い。怖くないわけがない……。


「参ったでござるな……。こんな所では派手に戦う事も出来ぬでござるよ」


「相手がザコだけなら問題はない。やるぞ、ウサク」


「うむむ……御意に! しかし、手加減してくだされよ? ゲオルク殿」


「そいつは保障できねえな」


 そう笑い、ゲオルクは片手を空に翳した。腕に紋章が輝き――これは何度かミュレイがやっているのを見た事がある。“魔剣”の構築――。ゲオルクの手の中に巨大なシルエットが浮かび上がり、幻想が具現化する……。取り出したのは巨大な槌だった。これも魔剣なのだろうか……? ミュレイのもそうだけど、剣っていうほど剣じゃないような……。

 ゲオルクは取り出した槌で何故か大地を思い切り叩いた。すると、鋼鉄の足場に亀裂が走り、轟音が鳴り響く。野次馬たちはそれで慌てて逃げて行き――それで、ゲオルクが何故そんなことをしたのかを理解した。

 怯まず迫ってくる騎士達の中へとウサクが飛び込んで行く。甲冑を着けていないウサクの動きは驚くほど軽やかで、振り下ろされた刃を左右にかわし、すれ違う一瞬でクナイで切りつけていく。足を切られた騎士たちはばたばたと倒れ、ウサクはそのクナイをミュレイに迫っていた騎士へと投げつけた。


「姫様、もっと後ろへ!」


「昴、こっちじゃ……!」


「う、うん……」


 壁際に沿って移動するミュレイに手を引かれ、ウサクとゲオルクが戦うのを後ろから見ていることしか出来なかった。刀をじっと見つめてみる……。確かに訓練はした。扱いは教わっている。でもたった一週間程度の訓練で実戦に通用するわけがないじゃないか。

 駄目だ、やっぱり出来ない。私は戦えない……。決意を固めても、いざこうして戦いの中に放り出されたら何も出来ないんだ。そんな自分がひどく情けなく、本当に嫌になった。泣き出しそうになりながら刀を強く抱きしめる……。もっと、私に勇気があればよかったのに……。

 ゲオルクが槌を振り回し、騎士たちを吹っ飛ばす。それを見てウサクが後方に跳んで私達の目の前に下りてきた。壁際を移動するように誘導しつつ、ウサクはゲオルクをその場に残して撤退を開始する。


「ゲオルクはいいの!?」


「彼は武士団団長でござる。あのくらいの腕の敵であれば一人で事足りるのでござるよ」


「そ、そっか……そう、だよね」


 それでホっとしている自分がいた。仲間を置き去りにしちゃ駄目だって思いながらも、早くそこから離れたいと……そう思っている自分がいたのである。しかし、ホームから離れようと移動を開始した私達の前、ウサクに向かって走ってくる人影があった。

 白いマントで全身を覆った謎の人影は大きく跳躍し、そのまま空中で魔剣を構築する。その姿に私は見覚えが合った。見たことのある魔剣、動き……。瞬時、何か嫌な記憶が脳裏を過ぎった。

 血まみれの誰かの姿を思い出し、それだけはもう勘弁だと思った。ウサクが新手に気づきクナイを投げつけるが、取り出した巨大な魔剣で刺客はそれを弾いてしまう。そのまま飛び込むと同時にウサクを蹴り飛ばし、大地に剣を擦り付け火花を散らしながら前へ――!


 ――――その時、カキンと。どこかで何かがかみ合うような音が聞こえた――。


「――――のぉっ!!!!」


 鞘に入れたままの刀を片手で逆手に構え、刺客が放った剣の一撃を防ぐ――。いや、防いだつもりはなかった。何故身体が動いたのか、全く検討もつかない……。だけどこんな感覚は、確か二度目だ。

 以前同じ敵に襲われた時の事……。あの時、こいつが放った強力な一撃に私は成す術なく死ぬはずだった。だけど、何故か私は身体が勝手に動いてミュレイを抱えて跳んでいたのである。

 今のは、それと全く同じことだった。自分の身体で自分の意思で、確かに動いている。動かしているはずだ。なのに何故か勝手に、勝手に身体が――動いてミュレイを守った。

 何故か? 刀を握り締めている指先の震えはピタリと止まっていた。自分でも驚くほど、思考が纏まっている。次に相手が何をしてくるのか、手に取るように――判る。

 弾いた一撃――。敵の獲物は魔剣とは名ばかりの機械の塊――。いわばそれは、チェーンソーだ。弾かれた勢いそのままに壁に当たり、鋼鉄の壁をガリガリと抉りながらそのまま回転――。倒れているウサクの頭上をすっ飛ぶように、横薙ぎに刃が繰り出される。


「ミュレイ、後ろにッ!!」


「す、昴……!?」


「ミュレイは……! ミュレイは殺させない!! 絶対に――ッ!!」


 それは、誰の言葉だったのだろうか。私はそんな事を言うつもりはなかった。でも本心ではそう思っていたのかもしれない。繰り出された刃を鞘で受け止める。白く、儚く、とても脆い幻想を顕現したかのような刀の鞘はガリガリと削られ、罅割れて砕け散ってしまった。その破片が散る中、私は相手の蒼く輝く瞳を確かに見た。

 足元、倒れたままだったウサクが刺客の足元を蹴り払う。刺客は後方に跳躍し、それを回避……。新たにクナイを構えなおしたウサクは驚いた様子で一瞬こちらを顧みて、それから強く頷いた。


「かたじけない……! 助かったでござる、昴殿!!」


「え……? あ、うん……」


 きょとんとしたまま頷くと、背後からゲオルクが走ってきてウサクの隣に並んだ。槌を肩に乗せ、ゲオルクは一瞬私の事を見た。しかし、何も言わずに前を向く。


「お前らは下がってな。魔剣使い相手じゃ、手に余るだろ」


「う、うん……」


「嬢ちゃん」


「は、はい!?」


「良くやったな。あとは任せろ」


 それが自分に向けられた言葉である事が信じられず、思わず泣きたくなった……。それにしても、この刀……あんな化け物みたいな威力のチェーンソーで叩かれたのにそれを弾いて無傷……無傷? あれ、さっき壊れていたような気がしたのだが――。


「中々の腕前の敵でござるよ、ゲオルク殿」


「問題ねえ。さっさと片付けるぞ。姫を小さくしてんのがアイツなら、アイツをぶっ殺せばそれで万事解決だ」


「で、ござるな……! いざ、尋常にッ!!」


 ウサクがいつの間にか両手に無数のクナイを構え、それを一息に投擲する――。壁や地面に当たって反射したクナイたちを刺客は踊るようにチェーンソーを振り回して弾き飛ばした。それが、戦闘開始の合図である。

 槌を振り上げたゲオルクが思い切りそれを敵へと叩きつける。退路を断つためのクナイの攻撃――敵は防御の一択だ。真上から隕石のような勢いで叩きつけられた槌は刺客の身体ごと大地へと響き渡り、足元に巨大な亀裂が走る。完全にダメージを相殺し切れなかったのか、敵の足元にポタポタと紅い血が零れ落ちた。


「さっさと姫を元に戻しな――ッ!! 死にたくなかったらな!!」


 思い切り再び振り上げられた槌――。しかし次の瞬間敵は予想外の動きを行った。防御に使用していたチェーンソーはその手の中で変形し、折りたたまれ、大型のガトリング砲になったのである。この世界にガトリング砲というのがあるのかどうかはわからないが、とにかくそうだとしか思えなかった。

 一瞬でゲオルクは攻撃を中断し、槌を構えながら背後にとんだ。敵が片手で構えるガトリングは明らかにミュレイを狙っていたからである。あのまま攻撃が続けられればゲオルクは敵を倒しただろうが、それと同時にミュレイも銃弾で撃ちぬかれていた事になる。

 正に捨て身の攻撃だった……しかしそれが状況を好転させる。刺客の手の中、魔剣と呼ばれていたものが火を噴き荒れ狂う銃弾を放ち続ける。龍の咆哮を思わせる尋常ではない連射速度にゲオルクは暫く耐えたものの――耐えた!? 私達の手を引き、ホームの支柱の裏に隠れたのである。


「っつう……! やってくれる、遠距離攻撃とはな……」


「な、なんで銃で撃たれて平気なの!?」


「あ~、これは魔力障壁というやつで……説明すると長くなるのじゃが……」


「バリアって事!?」


「ばりあ? まあ……そうじゃ」


 ミュレイはわかっていない様子だったが……兎に角魔剣を装備していると防御能力が上がるのだろうか。しかしさすがに完全に防げなかったのか、ゲオルクの身体には無数の傷が残されていた。


「あの魔剣、形状変化をするのでござるか……」


「そういう能力らしいな……っと、来るぞ!」


「え? えっ!?」


 何を察知したのか、ゲオルクが私達を抱えて走り出す。背後、先ほどまで身を隠していた柱が行き成り派手に爆発したではないか。砂塵の向こう、更に敵の剣は形状変化し、巨大なバズーカ砲のような状態になっていた。

 先ほどのような連射性能はないようだったが、放たれる光の弾丸が大爆発を起すことは想像に難しくない……。あんな常識外れの能力者相手に、どう立ち振る舞えというのか……。


「ていうか、あいつの能力って相手を子供にすることじゃなかったの!?」


「うーむ……どう見てもそうじゃなさそうじゃな」


「ミュレイ、昴! 列車が来たぞ!!」


 見れば列車がホームへと向かってくる途中だった。わけもわからぬまま、私とミュレイを両脇に抱えてゲオルクは列車へと飛び乗る。ウサクもそれに続いて列車に移動――。刺客は追跡してきたが、資格がバカスカ砲弾をぶっぱなしているのを見てか、列車は減速はしたものの停車はせずそのままホームを通り過ぎていく。


「間一髪でござる……」


「うう、こ、こわかった……」


「よしよし、頑張ったのう昴」


 ミュレイが頭を撫でてくれる中、私達は列車の上に座ったまま遠ざかっていくホームを見送っていた。さすがにもう追いつけないと思ったのか、刺客は途中で足を止める。なんとかそこで、ようやく一息つく事が出来た。


「このままシャフトまで向かうかのう……。外にいるのは寒いが、中に入って騒ぎになっても困るしのう……」


「え……マジ?」


 高スピードで流れてていく景色を見送りつつ、私はくしゃみを一つ……。列車がシャフトに着くまで、何時間かかるんだっけ……。どうやらこの旅は、非常に辛いものになりそうだった。

 それにしても先ほどはどうして攻撃を防ぐ事が出来たのだろう。それに壊れたと思った鞘はいつの間にか元に戻っている……。何となく、この刀が不思議な力を私に授けてくれたような気がした。ミュレイの妹が手にしていたという刀……それが、ミュレイを守ってくれたのだろうか。

 どちらにせよ覚悟は決めねばならないだろう。こんなことがこれからも続くなら、ビビってばかりはいられない。ふと、決意を固める私の手をミュレイの小さな手が握り締めてくれた。私は、彼女を守らねばならない。なんとしても……。

 恐怖と、己と戦うこと……それが私に与えられた試練なのかもしれない。まだ遠い夜の荒野の中立ち上がり、風を浴びた。列車の歩みは現実世界のものと比べると随分と遅い。この道がどこまで続いているのか……風の中、私は見えない未来を案じ続けていた。

~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*昴編のバトル率の低さは異常*


うさ子「メリーベルさん、メリーベルさんっ!」


メリーベル「何?」


うさ子「メリーベルさんは、なんでここにいるの~?」


メリーベル「…………唐突ね」


ホクト「そうだそうだー!! おっぱいがない女キャラはいらないぞー!! 昴編は廃止しろー!!」


シェルシ「……貴方、本当に死んだらどうですか?」


メリーベル「まあ、なんでいるのかは……秘密」


うさ子「え~? なんで? なんでなんで~? うさ子はね、気になって夜も眠れないのですよ!」


メリーベル「それは、物語後半で明かされていく予定」


うさ子「そ、そうだったんだ……。うさ子はじゃあ、頑張って後半まで待ちます……!」


昴「そういえば、次からホクト編だけど……この後の展開、考えてあるの?」


ホクト「ない」


昴「……だと思ったよ」


うさ子「でも、うさ子とホクト君が頑張るから大丈夫なの!」


シェルシ「……私は……?」


うさ子「うさ子はね、大人気なの~。だからね、そのうちメインヒロインになるの~!」


メリーベル「……へこたれキャラが人気なのは序盤だけだよ」


シェルシ「そうですよ、ツンデレの根強い人気にへこたれキャラは後半空気化していくに決まってます!」


うさ子「そ、そうなの……? うさ子の出番が……うぅ……ホクト君、なんとかして~!」


ホクト「そうだな。おっぱいを出せばメインヒロインになれるかもしれない」


シェルシ「だから貴方、早く死ねよ」

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