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烙印(3)


 世界は、無慈悲で残酷だ――。

 帝国の支配、世界の秩序……。シェルシは知らなかった。知っているつもりだった。だが、知らなかった。何も。何一つ……。

 何故、帝国の支配がここまで強固なもので。それを知っているのにロゼたちのような、反帝国勢力がいくつもいくつも帝国に立ち向かおうとしているのか。その理由も、考えようとはしなかった。

 目の前に広がる現実が、彼女の知らなかった世界であり。そして突きつけられたその現実はナイフのように鈍く輝きシェルシの喉元に深く深く捻じ込まれるのだ。痛みにも似た、噎せ返るようなにおいと共に。

 何もかもが順調のはずだった。楽観的な考えは砕け散り、順調の意味を見失った。シェルシは堪えきれず膝を付き、両手で口を抑えた。身体の震えは何から来るものだろうか? 恐怖? 絶望? 嫌悪――? どれも正解でありどれも不正解だった。それは、魂の芯から来る震えだったのだから。


「どう、して……? これは……これは、どういう事ですか中佐ッ!?」


 嘆きの叫びが響き渡り、その答えとして退路とも呼べる扉が閉ざされた。恐怖に青ざめるシェルシの背後、ブラムはニヤニヤと笑みを浮かべている。立ち上がり、ゆっくりと後退するシェルシ。その足元に何かが引っかかり、その何かに気づいたシェルシは小さく悲鳴を上げた。

 足元に転がっていたのは、女性の死体だった。ボロボロの布キレを一枚だけ纏った女は生きているのか死んでいるのかも判らない。うつ伏せに倒れるようにして転がっているその姿に動揺し、シェルシは尻餅をついてしまった。


「シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ……。第四界層、ザルヴァトーレ王国の第三王女……。お前の目的地がここだ。お前が望み……お前が開いた扉だ」


 シェルシは震えながら背後を見渡した。そこは、基地の内部にある一室……。奥まった場所、地下室のひとつである。そこには目を覆いたくなるような凄惨な光景が広がっていた。傷だらけの、ボロボロの女性達……。部屋の壁際に座り込み、誰一人口を開こうとはしない。だが、視線だけがシェルシに向けられていた。闇の中に無数の獣が潜んでいるかのように感じる。恐怖――ただ、それに駆られてシェルシは立ち上がった。

 慌てて背後に駆け出すと、そこには退路を塞ぐようにブラムの姿がある。男はシェルシの両肩を掴み――しかしそれを拒むようにシェルシは手を払いのけ、後退した。どこにも逃げられない……混乱し、恐怖に怯えるシェルシの表情はブラムにとっては極上だった。


「中佐、どういう事ですかこれは……!」


「見ての通りだ。罪人の部屋の一つですよ、姫……。貴方が探していた、貴方の母親もここに居たのさ」


「お母様が……?」


 シェルシは目を見開き、口元に手を当て悲痛な表情を浮かべた。そう、ブラムの発言は決して間違いなどではない。この場所こそ彼女の旅の終着点……。失った母を求めて旅をした少女の、目的地である。

 彼女が国を出てUGを目指した理由……。それは、かつてUGに送られ戻ってくる事の無かった彼女の母親に会う為だった。彼女は直に、どこにも出かけることの出来ない身分になる。故に、これが残された最後のチャンスだった。

 ザルヴァトーレを出て、ここまで必死でなんとか辿り着いた。母は……母は無事なのだと、楽観的に信じていた。だが、目の前に現実がある。どうしようもない、無慈悲な世界の象徴のような現実が。

 彼女の母はザルヴァトーレの女王だった。しかし、反帝国思想に染まっているとの嫌疑を受け、そのまま帝国に連衡――。裁判の後、封印を受けこの地へと送り込まれたのである。そしてそれが、幼少のシェルシの心の中に在る母の最期の記憶であった。

 母にもう一度会いたい……。子供染みた、甘えた考えである。反帝国思想に染まっているとされている母親に、国がシェルシを会わせるはずもない。彼女が母に会う為には一人、ここまで何とかして自力で辿り着かねばならなかったのだ。

 そして今ようやく辿り着き――この様だ。自分自身を嘲笑したくなった。シェルシの目の前にいる大量の罪人たち……。ブラムは一つしかない出入り口の扉を背に、腕を組んで笑っている。


「UG送りになった人間は例外なく強制労働だ。男は寝る間も惜しみ、食うものもロクに与えられず一日中遺跡の発掘……。体力が尽きたら、死体は同じ罪人に処理させる。その繰り返しだ」


「…………酷い」


「酷い? 当然の事だ。下層出身の罪人なんざ生きてる価値もねぇ、帝国に飼われるだけの家畜なんだよ。この部屋はな、騎士たちの慰安所なんだよ」


「慰安所……?」


「――――いいツラの女が揃ってるだろ? こんな辺境に派遣されてきた騎士たちの、“お楽しみ”だよ姫様」


 言葉の意味は、一瞬理解出来なかった。というより、理解したくなかった……というのが正解だろうか。この場所に、母親がいたという事実……その事実にシェルシの心は一瞬で暗い絶望に突き落とされた。

 UGに送り込まれ、こんな牢獄当然の場所に閉じ込められ、来る日も来る日も騎士達の慰み物になる……ただそれだけの、何の価値も無い、文字通り家畜のような日々……。そんな地獄に母が突き落とされ、ここで生きたというのか。

 振り返り、母親の姿を探した。しかしどれが母親なのかももうわからなかった。シェルシは歯を食いしばり、決死の覚悟で振り返った。平然と笑っているこの男……ブラム中佐が許せなかった。


「お母様はどこですか! 答えなさい中佐!!」


「さぁ、どうでしょうねぇ」


「ふざけるのもいい加減に――んっ!?」


 屈強なブラムの腕が伸び、シェルシの口を塞いだ。余りの腕力差にシェルシの細腕でどんなに必死に引き剥がそうとしてもそれは叶わない。顔を抑えられ、シェルシは泣きながらブラムをにらみつけた。


「命令するのはこっちの方だ、たかだ第四界層程度の生まれで偉そうに……。お前も帝国の人形に過ぎないんだよ、シェルシ姫」


 必死で暴れるが、拘束を解く事は出来ない。ブラムは笑みを浮かべ、シェルシを乱暴に放り投げた。背中を大地に打ち、噎せ返るシェルシ……。その背中を踏みつけ、ブラムは眉を潜める。


「お前の母親なんぞ知るか。だが、その様子じゃ母親も美人だったんだろ? だったら俺の部下は喜んだだろうな……んっ? まあ、ここに来た女の殆どは何らかの方法で自殺するか、精神的におかしくなるか……そのどっちかだからな。何年も持たないんだよ、ここに来たら。だからもう、死んでるだろ?」


「う……っ! うぅぅうううぅぅうううう~~っ!!!!」


 自分でも驚いた。シェルシはわけのわからない、うめき声のような、鳴き声のような声を上げていた。母親を侮辱され、陵辱され、恥辱されたのだ。かつ、彼女は殺されたという。死んだという。よりによって、自らの手で死んだかもしれないという。

 あの、誰も憎む事もなく。民のための明日を祈り。帝国にも果敢に立ち向かい。結果、UGに送り込まれ。国から裏切り者扱いされ。連衡されながらも、それでも娘に優しく強く微笑んだあの人が。死んだ。殺された。心をずたずたにされて、死んだ。そんなことって、あるのだろうか――?

 悔しくて悲しくて、シェルシは石造りの床に爪を立てていた。綺麗に整えられた爪がひび割れ、血がにじむ。生まれてこの方こんなにも怒ったのは初めてだった。頭の中が沸騰し煮えくり返る――それほどまでにこの男を殺したいと願った。

 しかし、その怒りは一瞬で恐怖に変わる。ブラムは足を退け、その足でシェルシの脇腹を蹴り飛ばしたのである。床を転がり、痛みに悶絶するシェルシ。綺麗な純白の装束が泥だらけになり、汚れた頬でシェルシは泣きじゃくった。怒りは一瞬で、容易く恐怖に摩り替わってしまう。

 もういやだと叫び出したかった。逃げ出したかった。怒りで消えていた恐怖が蘇り、体がいう事を聞かなくなった。ここにいる、生きているのか死んでいるのかもわからないような女達と一緒になる――。毎日毎日何処の誰かもわからない男に襲われ、踏みにじられ……そんな未来を想像してしまう。その瞬間、ぐちゃぐちゃになった心は彼女の身体に素直に反映され、抑えていた口元から胃の中の物を全て吐き出させた。


「おいおい、もうおかしくなってきたのか? まぁ、いい所育ちのお姫様にはきついかもしれねぇなあ……。でもな、姫様。こんなのはこの世界じゃ当たり前なんだよ」


 上の界層の人間が下の界層の人間を好きにする事を、帝国は了承しているのだ。上の者は下の者を道具のように扱い、奴隷のように扱い、それで当然なのだ。それに逆らう事が出来ず、下の人間は毎日道具としての人生を送っている。


「それを知りませんでしたってか? いいや、知ってたはずなんだよ姫様!! お前は目をそむけてきただけだ。この世界は、帝国のためだけに存在しているんだよ!」


 シェルシの腕を掴み、強引に引っ張り起すブラム。シェルシは泣きじゃくり、嗚咽を漏らしながら目を逸らしていた。その身体を玩具のように放り投げ、また壁に叩きつけるブラム。シェルシは痛いのか怖いのか悲しいのか、もうわけが判らなくなっていた。


「ひ……っ! ひ……いっ!」


 壁際に座り込み、頭を抱えるシェルシ……。ブラムはその前に立ち、シェルシの服に手を伸ばした。腕力任せに強引に衣服を剥ぎ取られ、露になった下着を隠すようにシェルシは腕で胸を隠す。ブラムはそれを滑稽そうに一笑した。


「幸い、お前はとんでもない上玉だ。あそこにいるどうでもいい女達とは違う扱いをしてやるさ。お前は司令官である俺専用の奴隷になればいい。服も着飾ってやる。風呂にも入らせてやるし、エサも与えてやる。どうだ、幸せな人生だろ?」


「…………んな……! こんな、ことを、して……! 許される、わけ、がっ!」


 その言葉を遮るようにシェルシの頬をブラムの平手が打った。頬を叩かれるのなど生まれてこの方一度も経験していないシェルシは目を丸くし、頬を片手で押さえた。


「許されるんだよ。UGにお前みたいなお姫様が来るなんて誰が思う? 誰もここには入れないし、確認も出来ないんだよ。誰も助けになんてくるか! お前の事は誰にもわからない。お前はこのまま、ここで道具として一生を終えるんだよ!」


 ブラムの高笑いが部屋に響き渡った。シェルシの心はその声により、一層深い絶望へと叩き落された。誰も、助けに来てくれない……。それは当然の事なのかもしれない。

 自分は砂の海豚を騙し、利用した。裏切り者と呼ばれた母に会う為に、国の人間からも逃れてきた。誰も、ここにいる事を知らない。誰も、シェルシを助けには来てくれない。くるはずがない――。

 もう、だめだと思った。心の底から失望した。もう何もない。何も……。母がここで死んだように、自分もこんな浅ましい、醜い心の男に蹂躙されて死んでしまうのだ。そう考え、きつく目を閉じ項垂れたその時だった。


「――――目を閉じるな。顔を上げろ。希望を見失うな、抗え。自分の運命に――背を向けるな」


 誰かの声が聞こえた――。少女は言われるとおりに顔を上げた。次の瞬間、ブラムの身体が横に吹っ飛び、派手に床の上を転がっていったではないか。

 気づけば封鎖されていた出入り口の扉は解き放たれている。薄暗闇の中、その男はシェルシを見下ろしていた。黒髪を靡かせ、男は手を差し伸べる。大きく、力強く、優しい手を――。

 剣は、余りにも巨大で。それは、剣と呼ぶには相応しくない。戦いに向かず、そして男は決して高貴などではない。だが、優しく――そして何より途方も無い力を感じさせた。シェルシは伸ばされた手を握り締め、立ち上がる。そして彼の名前を呼んだ。


「ホクト…………」


「よう、姫さん。助けに来たぜ」


 あっけらかんと、まるで当たり前のようにそう言って笑うから――。心の中で潰れかけていた沢山の気持ちが一気に息を吹き返し、その感情はせき止められず涙となって零れ落ちた。

 ホクトはシェルシの頭をわしわしと撫で回し、それから頭を抱いて自分の身体に押し当てた。ブラムは直ぐに立ち上がり、その様子を睨みつけている。ホクトは剣を肩に乗せ、ブラムを睨み返した。


「うさ子、シェルシを頼む」


 部屋にぴょこんと、うさ子が飛び込んでくる。そのまま泣きじゃくっているシェルシに駆け寄りその身体を優しく抱きしめた。うさ子は痛ましい状態のシェルシを見て眉を潜めた。


「りょうかい! シェルシちゃんは、うさが責任持って脱出させますっ!」


「心強いぜ! よし、うさ子隊員! 脱出せよ!」


「ホクト君も、きっと無事で脱出してね。うさ、待ってるからね」


 ホクトは何も言わず剣を掲げた。立ち去ろうとするうさ子の手を離れ、シェルシが振り返る。男は背中を向け、振り返る事はしない。だが、わかった。彼は聞いている。彼女の話を聞いている。彼女の心を聞いている――。


「……おねがい……」


 だから、心の底から願った。搾り出すようなその声はみっともなく情けない。だが――きっと彼には届いていたから。


「――――こんなの……壊して……っ!!」


 黒き剣を振り下ろし、構える。男は顔を上げた。その表情は――彼が振り返れない意味をあっさりと体現していた。ホクトは怒っていた。当たり前のように激怒していた。この状況に。傷だらけのシェルシに。いたいけな少女をいたぶり、笑っているあの男に――。

 いつになく真剣な表情は鋭利な殺気を放ち、普段のホクトとは打って変わった様子である。仲間には見せたくない、本気で誰かを殺す時に見せる男の顔だった。


「――――任せときな、シェルシ。俺は――仲間を裏切ったりしない。見捨てたり――しない」


 うさ子がシェルシの手を引き、部屋を出て行く。それを感じ取り、ホクトはその力を一気に振り絞った。黒い炎に全身が包み込まれ、魔剣が唸りを上げる。大気を伝い、部屋全体が軋み悲鳴を上げるような膨大な魔力――。圧倒的な力を前にブラムは息を呑んだ。


「なんだ、てめえ……!? 魔剣使い……どうやってあの牢屋から脱出した!?」


「そう焦らずとも教えてやるよ……。じっくり楽しもうぜ? お前の趣味に合わせてやる。じっくりたっぷり、痛めつけてから喰らってやる」


 魔剣の刀身に術式が現れ、それはやがて巨大な眼球へと姿を変えた。不気味なそれはぎょろりとブラムを睨み、刀身は変形し、剣は二本に別たれた。それが本来持つ、彼の魔剣の姿なのである。


「切り裂き屠り、喰らい尽くす――!  食事の時間だ……起きろ、ガリュウッ!!」


 剣が吼えた――としか表現のしようがなかった。ぎょろりと浮かんだ眼球が血走り、ブラムを見つめている。獲物を寄こせと。食らわせろと。まるで催促するかのように――。




烙印(3)




「――ホクトは、何者なんだろうな」


 呟くようなロゼの言葉、それを受けリフルは手にしていた魔剣を降ろした。基地内通路、そこは既に退路として確保されていた。所詮駐留している騎士団はUGという外敵の存在しない世界に駐留しているだけであり、相手をするのは大方奴隷……。そんな場所の騎士団にリフルが遅れをとるはずもなく。迅速に行動し、目に付く敵は片っ端から排除してしまうのにそう時間はかからなかった。

 ロゼは基地内の監視システムを操作し、隠匿を済ませてある。別行動し、シェルシを助けに行ったホクトとうさ子、二人が戻ってきた時に直ぐに脱出出来るようにルートを確保するのが二人の役目であった。

 既にロゼはオケアノスへの脱出ルートも確保し、後はホクトが戻るのを待つだけとなっている。こうなると二人は暇をもてあましてしまう。ホクトの加勢に行ってもいいのだが、ここを死守するのが役割なのだから出過ぎた真似は自重しておこうと判断したのだ。


「あいつ、いとも容易く鉄格子を突破したんだよな……」


 ほんの十数分前の事である。ホクトは突然、部屋の中で魔剣を取り出し、鉄格子を両断したのである。余りにも突然の事でロゼもリフルもただ呆然とするだけだった。

 何故、封印されているはずの魔剣が使えたのか? その理由をロゼは瞬時に把握していた。先ほどまでホクトがいじっていた鉄格子のうちの一本、そこに刻まれていたはずの術式がすっぽりと丸ごと消え去っていたのである。

 それはどういう事なのか? 部屋全体にかけられた封印の術式は、壁に刻み込まれた術式と鉄格子の術式、それらが取り囲むあの部屋の中だけに限定的に発動している。ホクトはその中の一つ、鉄格子の術式を消し去り、魔剣を封印する術式を破壊したのである。

 後は剣さえ出せれば脱出は容易い。脱出されるとは考えてもいない騎士団は内側からズタズタ。脱出ルートはアッサリ確保。そしてホクトはまるで予定調和であったかのように、うさ子と共にシェルシを探しにいってしまった。

 何もかもが出来すぎている気がする。まさかとは思うのだが、ホクトは最初から内部に潜入し、脱出する事を考えていたのではないだろうか? そんな邪推までしたくなってしまう。リフルはホクトの裏切り行為を許してはいなかったが、ロゼはこれらの出来事がただの偶然だとは思えず、必然ホクトの作戦だと考えた。となれば、裏切り行為の理由も納得出来る。

 あのまま大量の騎士団を相手に正面突破するより、一度捕まって内部から戦った方が確かにリスクは少ない。この基地はそう広くはなく、通路での戦いとなれば数の威力は十分に発揮されず、騎士もリフルたちを取り囲めない。結果、リフルは各個撃破の要領であっさりと脱出ルートを確保したのである。


「術式を消し去る能力か……。何をやったのかわからないけど、相当特別な能力者だな、あいつ」


「…………勝算があったとしても、こんな危険なやり方は到底受け入れられません。ロゼの身に何かあったら、私は……」


「そんな過保護に心配するなよ……恥ずかしいな。まあ、今頃あいつならシェルシを助け出してる頃だろう」


 うさ子を一緒に連れて行ったのは、うさ子の嗅覚が非常に優れていたからである。においでシェルシの場所がわかるうさ子の能力を使い、ホクトは真っ直ぐに進んでいったのである。本当に何もかもが良く出来すぎている気がする。それはロゼにとっては少々気持ちの悪い事だった。


「ま、僕たちはシェルシが帝国下にあるザルヴァトーレの姫だとしって行動を共にしていたんだ。彼女が何か、帝国にとって大事な秘密に関わってると思ってね」


 それこそがロゼたちがシェルシについてきた理由である。記憶喪失のホクトはともかく、反帝国組織の人間にとってザルヴァトーレの姫は有名な存在である。帝国の力と恩恵を大きく受け、下層の人間を虐げるザルヴァトーレの姫なのだ、当然攻撃の対象である。忘れるはずもない。

 シェルシは更に、本名を名乗ったのである。そこまでされれば流石に馬鹿でも気づくというもの。何も知らないホクトとうさ子以外の人間は、砂の海豚のメンバーは全員シェルシの素性に気づいていたのだ。


「僕らは彼女を利用した。でも、ホクトは利用するのではなく、本当に助けようとした……。僕らだって、裏切りだなんだと人の事は言えないのかもね……」


「……ロゼ」


「ま、戻ってきたら確かめるさ。あいつの力の正体も……考えも、ね――」


 通路を振り返るロゼ。それとほぼ同時に基地全体に揺れが走った。リフルが顔を顰め、ロゼが呆れたように溜息を漏らす。噂の剣士は――どうやら派手に戦いを開始した様子だった。


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