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終焉の鐘(5)

「この世界に、“神”など居はしない――。この世界には罪と罰が満ち溢れている。在るのは人……ただそれだけだ」


 オデッセイは剣を片手にふわりと空へ舞い上がる。それに呼応するかのように大地は隆起し、白い砂を巻き上げて空を濁していく。雲は光を遮り世界からホクトたちを遠ざけようとしているかのようだった。

 渦巻く膨大な魔力は大罪を持つ者の証――。そう、それは原初から続く七つの滞在が一つ、最後の究極魔剣“幻魔剣ペルソナ”であった。紫色の光は周囲を照らし、空はその色を変える。ホクトたちが立っていた大地も剣の脈動に誘われるかのように競りあがり、変貌を遂げたその大地が彼らの最後の戦場だった。


「私はただこの散漫としている世界の中に一つの方向性を打ち立てたいだけだよ。ただこの永遠に等しい時間に娯楽が欲しいだけだ。“世界”の一つや二つ、なくなってしまったところで問題はない。重要なのは抗う人の美しさだ」


「オデッセイ……テメエは正真正銘、最悪の敵だな……。ラスボスには上出来だよ。この世界を裏から操って、神様にでもなったつもりか?」


「神はいない。だが、造る事は出来る。そもそも神とはなんだ? 全知全能なれば神なのか? 命を操る術を持てば神なのか? ならば私は答えよう。“我、ここに到達せり”――!」


 オデッセイがペルソナを空に掲げると、無限に湧き出す天使たちがホクトたちへと一斉に襲い掛かってきた。ホクト、ハロルド、うさ子の三人は魔剣を展開してそれを迎撃する。だが世界をも飲み干すかのようなその悪意の濁流に吹き飛ばされ、三人は苦悶の表情を浮かべた。


「見たまえ、これが命の力だ。人間の力だよホクト君……。ハロルドが作った、“人造人間ホムンクルス”の研究データ……。そしてケルヴィーが解析した蝕魔剣ガリュウのデータを手中に収めた私は、最早命を自在に組み替える事も容易いのだ」


「余の研究を……!? まさか、貴様……ッ!!!!」


「そう、彼らは人間でありながらホムンクルスでもある……。尤も、君が作ったホムンクルスのように中途半端ではないがね。ガリュウからくみ上げた“世界の根本”……命の記憶から彼らにはそれぞれの完成を求めてある。素晴らしいだろう? これが君のネイキッドから奪った、本物のエクスカリバーだよ」


「ふざけやがって……ッ!! ハロルド! うさ子ォッ!! 細かい事は抜きだ……! アイツを――ぶっ殺すぞぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 ホクトの周囲に数え切れぬ剣が召喚され、それが空を多い尽くす天使を次々に射殺していく。ハロルドは鎧化したネイキッドの腹部の装甲を開放し、そこから黄金の光を放つ。うさ子がそれに続き射出した無数のミストラルの輪が雷撃を迸らせ、空に次々と爆発が起こった。舞い散る光の羽と阿鼻叫喚の中、光源を背にオデッセイは笑う。


「面白い……やはり並の天使では相手にもならぬか。では、これならばどうかね?」


 更にペルソナが輝き、空に無数の魔法陣が浮かび上がる。そこから現れたのは十二体の天使の姿だった。だがそれは先ほどまでの量産型とは違う――。それぞれが見覚えのある魔剣を持った、白銀の騎士である。ホクトもうさ子もハロルドも、当然その意味には気づいた。気づいたからこそ……それを赦す事は出来ない。


「どうだ、素晴らしいだろう? 私が数万年の時をかけて解析した七つの大罪……その模造品だ。ガリュウの中に記憶されている魂のデータが私に最後の素材を提供してくれたのさ。礼を言わせてくれ、ホクト君……そしてこの実験に付き合ってもらおうか」


「Sランク魔剣使いが……十二人も……? うさたち、そんなの……勝てるの……?」


「勝てるかどうかじゃねえ。数の問題じゃねえ。偽者なんかに負けてやれるほど……俺たちが背負ってる物は軽くねえんだよ……!」


 改めてガリュウを構え、黒き鎧を全身に纏うホクト。彼が空へと跳躍したのを合図にうさ子とハロルドも天使へと攻撃を開始した。十二体の影はぐるぐると頭上を一定のコースで規則正しく回転していたが、ホクトが接近したのを確認するや否や一斉に襲い掛かってくる。まず空から雷が落ち、爆発が起こり、巨大な剣を担いだ騎士が何人もホクトの身体を斬りつける。それをガリュウで何とか裁こうとするものの、余りにも数が違いすぎた。

 

「くそっ!? こいつら……!! 邪魔だ……退けぇええええええええええッ!!」


「ホクト! うさ子、ホクトを援護するぞ! いくらガリュウがあるとは言え、あれでは――くっ!?」


「ハロルドちゃんっ!!」


 銀翼の騎士が二人、ハロルドへと襲い掛かった。巨大な剣が叩き込まれ、ハロルドは大地へと叩きつけられる。そちらに気をとられたうさ子の頭上から雷が降り注ぎ、光の槍が次から次へと飛来する。ミストラルの力で飛翔し、それを回避するうさ子。それに追いついてきた同じくミストラルを持つ騎士が左右から同時にうさ子へと襲い掛かった。

 空中を疾走しながら戦いは続く――。うさ子は左右から繰り出される挟撃に必死で絶えていたが、一発の蹴りが脇腹に減り込むとペースは一気に飲み込まれてしまう。左右から滅茶苦茶に殴られ、うさ子は結晶の樹林に墜落していった。


「それはエクスカリバーのような出来損ないの模造品ではないよ。一つ一つが限り無く大罪に近い力を持った武装だ。そして彼らは自我を持たず、剣の持つ欲望に忠実だ……。君たちのように理性を持たないから、力を無意識に抑制する事もない」


「うさ子! ハロルド……くそっ!? 死ぬんじゃねえぞ……! 死ぬなよォッ!!!!」


 次々と襲いかかる天使をガリュウで弾きながら前進する。その体中を剣が貫いたとしても男は死ななかった。腕を切り落とされ、首を刎ねられ、足を縊られ、それでも男は前進する。腕をくれてやる代わりに足を、足をくれてやる代わりに腕を切り落としながら……。想像を絶する戦いがそこにはあった。不死身の怪物とそれに群がる翼を持つ怪物……どちらも既に人間ではなかった。血や肉をばら啄ばまれながらも男は闘い続ける。その視線の先、常に頭上の“神”を睨んで――。


「……驚異的な戦闘力だな。歴代のガリュウを持つ人間の中でも君は最強だよホクト君。まあ、あまりあっさりやられてしまっても面白みがないのだがね」


「そこから動くんじゃねえぞクソ野郎……! 今直ぐこいつらを皆殺しにして――ッ!!!!」


 ガリュウを片手で大きく振り上げ、闇の炎を纏った一撃で周囲を一気に薙ぎ払う。天使たちが一斉に怯み、悲鳴を上げる中その返り血を浴びてホクトは瞳を紅く輝かせた。


「――――次はテメエをぶっ殺す!!」


「自惚れないほうがいい。彼らはまだ死んだわけではないのだから」


 ガリュウの直撃を受けて仰け反った天使たちも、直ぐに戦闘可能な状態に復帰する。そして次々に剣を構えてホクトへ突撃していった。四方八方から次々と剣が男の身体を貫き、ホクトは全身から大量の血を噴出し、気の遠くなりそうな激痛の中で歯を食いしばっていた。

 これまでも死にそうな戦いなんていくらでもあった。そう、別にこれが初めてじゃない――。長い長い間、ただただ戦いだけを繰り返してきた。生まれてから今まで……いいや、きっと死ぬまでずっと……。

 ブガイにこの剣を継承され、そして一人でこの世界の中に放り出された。そこで数々の悲劇を経験し、沢山の人と出会った。失っては手に入れ、また失う日々……。それは彼の物で、そして彼の物ではない。他人の住む世界――自分には何の関係も無い世界。そう思っていた。

 けれど、この踏み出す一歩は確かに自分の物。この痛みも苦しみも、自分の物だ。誰かを愛し、守り、共に戦い、共に歩く事……それは他の誰のものでもない、彼の得た財産なのだ。空虚な人生などそこにはない。仮にこの物語が全て誰かに仕組まれたものだったとしても――それは彼が得たたった一つの誇りだから。

 退かず、負けず、決して諦めず……。振り返ることなどもう必要はないのだ。きっと、還るべき場所を護ってくれる人がいる。自分を信じてくれる仲間達が居る。だから……負けるわけにはいかない。どんなに苦しい場面でも。どんなに絶望的なシチュエーションでも――笑って剣を握るのだ。

 そう、その一振りが希望を繋ぐ軌跡――。彼の心の闇こそが、この世界にとっての光――。吼える声は、喉を枯らして絞り出す声は、この世界に恐怖と絶望をばら撒く悪意……。だが、それこそが彼の得た力なのだ。

 ありとあらゆる命を貪り食らいつくすその闇の剣を引っさげ、男はついにようやくここまで辿り着いた。神を気取った愚か者に裁きを下す為に――。ならば、剣を。ならば――ただ剣を。剣だけが存在の全て。世界に自分を示す事が出来る言葉。醜き争いの中に居てこそ、その力はより輝きを増していく。

 ホクトの剣が天使を弾き飛ばす。切り払う。大罪を持つ剣士を相手にホクトは単身で恐るべき戦闘力を発揮していた。まだまだ本気ではない。ただ本気の出し方を忘れてしまっていただけ。もっと早く剣を振れる。もっと強く剣を振れる。もっともっと反応出来る。もっと。もっと。もっと――。


「…………どういうことだ? どうなっている?」


 思わずオデッセイが呟いた言葉……。それは眼下での戦いを意味している。能力的には劣るはずのホクトが、たった一人で十人近い大罪を持つ魔剣士を相手に立ち振る舞っているのである。いくらガリュウが強くとも、あそこまで強力なわけではない。現に同じガリュウを持つタケルはミュレイに敗れたではないか――。

 否、そうである。そうだったのである。“あれでもまだ”――半分なのである。その可能性に気づいた時オデッセイは背筋がゾクゾクするのをハッキリと感じた。あの男はまだ全力ではない。なのにあれほどまでに強い。まるで付け入る隙のようなものがないのだ。絶対強固なその意志は、完全にガリュウを制御しきっている。故に――剣はその限界を超え、男の要求に応えるのだ。

 火花散る、闇の乱舞――。左右から、上下から、天使は次々にホクトへ襲い掛かる。だがそれをホクトは剣一つで薙ぎ払う。打ちのめす。叩き返す――。轟音が、嵐のような剣戟の音が響き渡っていた。楽園の上に紛れ込んだ悪魔……あの男こそ、最強の魔剣使い――。

 その時、結晶樹林から光が立ち上った。舞い上がってきたのは白い翼を広げたうさ子である。その両手には片方ずつに天使の首を握りつぶすかのようにぶら下げ、冷酷な瞳でオデッセイを見つめている。それはうさ子ではなく――戦闘用の人格、ステラである事は明らかだった。鋭く無機質な視線がオデッセイへと突き刺さる。ステラは二体の天使の頭をぐりゃしと握り潰し、トマトのように飛び散った脳を指先から払って羽ばたいた。


「オデッセイ……貴方には判らないかもしれない。長い年月を生き……この世界の中で無限の命を持つ貴方には見えないかもしれない」


『でもね……うさたちは知ってる。この世界の人間は日々成長し続けている。それはこの世界の人間が持つ大いなる可能性なの』


「彼はその体現者……。人の罪を一新に背負い、それすらも放り投げてしまうような、そんな雄雄しい剣の断罪者」


『うさたちは、一つになれるよ』


「私たちは、同じ世界を見つめる事が出来る」


『おまえには、それが出来ない! おまえは――誰かと手を取り合う事で生まれる力の強さをしらない!』


「ホクトは一人ではないのです。貴方にも見えますか――? 彼の傍に居る……彼と共に在るものの力が――!」


 ガリュウは命を汲み上げる剣。死者の剣――記憶の剣。そこには彼が今日まで闘ってきたあらゆる魔剣使いの、関わってきたあらゆる人々の記憶が記録されている。彼は常に学習し、成長し、進歩を続けているのだ。ガリュウは進化を続ける剣――だからこそ最強。

 無限に等しい命を生きる者にとって、一日一日のなんと些細な事か――。しかし、ガリュウはこの何万という時の中で。果てしない人の世界の争いの中で。それを学び、成長し、そして持ち主から持ち主へと継承されながらそのカタチを進化させてきた。ホクトの手の中にあるのはただの剣ではない。いわば――世界の生と死の歴史なのだ。

 ステラは空中からホクトの傍に落下し、同時に天使を蹴り飛ばす。ホクトと背中合わせに二人は武器を構え、どちらからともなく頷き微笑みあった。こんな地獄のような戦場でも彼らは笑う事が出来る――。追いついてきたハロルドの重い一撃が天使を頭から両断し、三人は並んで敵と対峙した。


「ステラか……!? お前ら、自由にチェンジできるようになったのか!?」


「私がうさ子を認め、うさ子が私を認めた時点でそれは自在です。うさ子は貴方を助ける為に肉体の所有権を引き渡しました。私は彼女の想いに応えるまでです」


「……フン、見せてやれ魔剣狩り。貴様の強さを……。あらゆる者の心を救う、お前のその力を」


「ああ、言われなくてもやってやるさ。気にいらねえから叩き斬る……! 赦せねえからぶっ殺す!! かかってこいよ、森羅万象ッ!! 俺と、俺の“死神ガリュウ”が相手をしてやる――ッ!!」


 ずらりと並ぶ天使の向こう、オデッセイは目を細め静かに佇んでいた。言葉無き、無情の笑み――。世界の敵は、予想しえぬ“異常”の登場を喜ぶかのように、ただ天の上より人を見下ろしていた……。




終焉の鐘(5)




「あれ! ホクトたちが何かと闘ってる!!」


 空を舞うガルガンチュアの甲板の上、アクティが遠くを指差した。その視線を辿り、近づいてくる天使を薙ぎ払いながらゲオルクが振り返った。


「……これはまた、すごい事になっているな!」


「こちらも、余所見をしている余裕はないでござるが……ロゼ殿、何とかならないのでござるか!?」


「どうせあれを倒せば終わるんだろ……!? ブリッジ! 障壁展開能力を抑えてもいい……! 主砲でホクトを援護するッ!!」


「主砲って……マジ?」


「マジだああああああああああああッ!!!! 全エーテルキャノン発射準備!! 目標――“あのへん”――ッ!!!!」


 ロゼの絶叫を合図に結界が消滅し、天使の攻撃が次々とガルガンチュアに降り注いだ。各部で火の手が上がり、それでも光の船は空を舞う。襲い掛かる天使をアクティが撃ち落し、ロゼは切り払う。船は真っ直ぐにオデッセイ目掛けて突き進んでいく――。

 ガルガンチュアに搭載された四つの主砲が同時に火を噴いた。放たれた巨大な光の矢は空を焦がし、全てを蒸発させながら世界に明確なラインを敷いていく――。横槍を食らった上空の天使たちは一斉に消滅し、その攻撃はホクトたちをも巻き込みかねない勢いで降り注ぐ。


「うおおおおおおっ!? 俺たちまで殺すつもりか――ッ!?」


 走るホクトとハロルドの首根っこを掴み、ステラが翼を広げて空へ舞い上がる――。四門の主砲は大罪を持つ天使達を業火で焼いてく……。続いて爆発が起こり、白い大陸は大きく燃え上がった。その頭上をボロボロになりながら墜落していくガルガンチュアを見送り、ホクトは苦笑して剣を構えなおす。


「サンキュー、ロゼ……! お前はやっぱり最高だ! 誰もお前を弱虫なんて言ったりしない……。お前は……砂の海豚の指導者だよ――!」


「ガルガンチュアの露払いです――。さあ、行きましょう魔剣狩り」


「ああ、行こうぜステラ……! これが俺たちの……!! 最強の共同戦線だッ!!」


 走り出したステラは両手を黄金に輝かせ、雷を纏ったその拳で天使の身体を射抜く。砲撃で脆くなったその身体は一撃で崩壊し、ステラは次々に天使を叩き割っていく。ホクトはそれに続いて魔剣を一斉に放ち、逃げようとする天使の動きを封じた。


「行くぞ、ネイキッド……!! 我が敵を薙ぎ払えッ!!」


 黄金の鎧の瞳が輝き、変形を始める。それは巨大な剣となり、ハロルドを乗せてバーニアを吹かした。猛然と天使へと突っ込む巨大な刃――それは敵を貫き、粉砕していく。

 ばたばたと倒れていく天使を脇目にオデッセイは風に吹かれて微笑んでいた。その男の前に三人の大罪の使い手が迫る――。それぞれがそれぞれの目的の為に。そしてそれぞれが一つの目的の為に。


「素晴らしい力だ。賞賛に値するよ」


「貴方は私たちを少しばかり怒らせすぎました。覚悟はよろしいですか、偽りの神王よ」


「余の欺き、余の神聖な研究を悪用し……それは余と神に対する最高の侮辱だ。徹底して貴様をなぶり殺す」


「まあ言いたい事は色々あるが……さっさと死ね、くそったれ」


「そういうわけにはいかない。私は――まだまだ死ねないからね。我が最後の大罪の力を以って、君たちをお相手しよう。これが……私の万年の月日が作り上げた力だ」


 ペルソナを掲げたオデッセイの周囲に紫色の光が広がっていく……。それは空間を歪め、空を虹色に染め上げていく。不気味で、見ているだけで吐き気がするおうなおぞましい景色……その光が降り注ぐ場所でオデッセイは変貌を遂げようとしていた。


「私は全ての滞在を研究しつくし、その力をペルソナに取り込んだのだ……。これが――世界を食い尽くす化け物、“アニマ”の力だ……!」


 両腕を広げたオデッセイの背中に六つの剣が突き刺さり、それが光の翼へと変貌していく――。無数の魔法陣が浮かび上がり、その光の中でオデッセイは純白の衣装に包まれた。まるで天使……いや、それこそ伝説の神のように。


「この力はまだ未完成でね……。君たちの持つオリジナルの大罪を得る事によって完成となるだろう。誇るがいい、人間よ……。君たちは新たな神の秩序の誕生の礎となれるのだよ」


「うっせえこのオカルト野郎ッ!! 偉そうにいつまでも上から目線で喋ってんじゃねえ! クソありがてえ話どうも……! でもなぁ、そんなのはカルト教団でも設立してからやってな!! 俺たちには……ありがた迷惑なんだよォッ!!」


 ホクトがガリュウを片手に走り出す。一斉に放たれた剣の雨は天から降り注ぐ光によって弾き飛ばされてしまう。オデッセイは翼を羽ばたかせ、光の像を残しながらホクトへと迫る。その剣の一振りはガリュウのガードを貫通し、ホクトの上半身を一撃で蒸発させた。

 続けてその背後で唖然としているステラへと剣が迫る。ハロルドが鎧の騎士でそれを庇うが、それもまた一撃で破壊……。木っ端微塵に消滅してしまう。衝撃の余波はハロルドさえも切り刻み、王もまた驚愕と血の中へ沈んだ。そして剣はステラの胸を貫き、血飛沫が高々と空に舞った。


「ん……もう終わりか? あっけなかったな……」


 血を流し、ステラはその場に両膝を着いて前のめりに倒れた。血は止まらない……。ナノマシンの再生能力を持つはずのステラの身体が再生しないほど、その一刺しで体組織の隅々に至るまで死が充満していたのである。横に倒れたハロルドもピクリとも動かず、ホクトは下半身だけを残して立ち尽くしていた。


「信じられない物を見た……という所か。それも無理はないな。だがこれが神の力……世界を終焉に導くアニマの力だよ」


「そん、な……。大罪所有者が、三人がかりで何も出来ない……? そんな事、あるはずが……」


 そんなステラの頭を踏みつけ、オデッセイは楽しげに笑っていた。圧倒的な力の差……絶望的な戦況。“勝てない”……そんな言葉がステラの脳裏を過ぎった。戦場にようやくシェルシが現れたのは正にそんな時で、信じられない驚愕の光景に姫はただ打ち震えていた。


「少しばかり遅かったね、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ……。既に君の希望は潰えた後だよ。夢の残骸が散る景色の色合いはどうだい? 中々どうしてオツなものだろう?」


「ゼダン……! オデッセイ……!!」


「残念ながら君には私に逆らうほどの力もないだろう? 全ての大罪は私の中へと還り、真のアニマが復活する……。私は七つの大罪を操り、アニマを意のままに操るだろう。君にも見せてあげたいね。この世界が絶望的な力によって蹂躙され滅ぶ姿を……」


 しかし、シェルシは既にオデッセイなど見ては居なかった。それが気に入らずオデッセイは眉を潜める。シェルシへと歩み寄り、足を引きずってやっと立っているシェルシを見下ろした。姫の目に……恐怖はなかった。真っ直ぐに睨み返してくる。それがとても不思議だった。


「……君は何故私を恐れない? 君はまだこの状況において、何か奇跡が起こるとでも想っているのかい? 残念だが、全ては終わったんだ。後は――」


「――――立ちなさい」


 またもやガン無視である。オデッセイは無言でシェルシを睨んだ。シェルシはオデッセイなど眼中に無いと言わんばかりである。その腕を掴み、強く捻り上げた。シェルシの腕など棒切れよりも脆く、容易く圧し折れてしまう、その激痛に表情を歪め、それでもシェルシはオデッセイを意に介さなかった。


「立ち上がりなさい……」


「私を見ろ、シェルシ・ルナリア・ザルヴァトーレ」


「闘いなさい……」


「…………君はどうやら非常に愚かだったらしい。この状況が一切理解できないとは。一体誰に語りかけている? この場に立ち上がれる者がいるとでも――」




「――――いるんだな、これが」




 シェルシの腕を掴み上げるオデッセイの腕、それを背後から掴む男の姿があった。上半身が完全に吹っ飛び、ナノマシンすら破壊するほどの強力な“死”を与えた……。だというのにこの数回の会話のやり取りの間に完全復活を果たし、ニヤリと笑う男が一人。

 振り上げた拳がオデッセイの顔面に減り込み、神を名乗るペテン師は大きく吹き飛ばされた。その男をシェルシはただただじっと見つめていた。男は風の中髪を靡かせ、倒れたオデッセイを見下ろしている。


「……馬鹿な。完全に破壊をし尽くしたはずだ。仮にガリュウの力を使っても、こんなに早く復活するなど……」


「ごちゃごちゃうるせえよ。まだ何も終わってねえ。それより……良くも人の女に傷つけてくれたな。死んで詫びろよ――パチもん野郎」


 ガリュウを再構築し、片腕で構えるホクト。もう片方の腕でしっかりとシェルシを抱きしめ男は真っ直ぐな眼差しでオデッセイを見つめていた。男は立ち上がり、蘇った男を睨む。そして問いかけた。


「貴様……貴様ら……一体何者なのだ……?」


 二人は少しだけ呆気にとられたような顔をし、それから互いの目を見詰め合ってからオデッセイを見やった。そして笑いながら――二人声を重ねていった。


「「 世界最強のバカップル 」」


 風が吹き、終焉の鐘を鳴らす。物語の決着は――もうすぐ目の前まで迫っていた。


~はじけろ! ロクエンティア劇場~


*祝、百部達成*


うさ子「百部達成なのーっ!!!! はぁうはうぅうううっ!!」


ホクト「いやーめでたいめでたい」


昴「すごいすごい」


うさ子「すごい棒読みなの!?」


ホクト「いやまあ……長く続きすぎだろ。そろそろ読者も飽きてくる頃だぜ」


うさ子「そ、そんな事ないのっ! 読者のみんなはもう中盤くらいから常時ダレ続けているのに諦めずに読み続けてくれているのっ!! みんな心優しい読者様なのっ!!」


昴「それより作者が飽きてくる方が問題でしょ――」


ホクト「しかし百部もあるとホント色々あったな……。どんなオチになるかで全ては決まるが、とりあえず皆ここまでご苦労さん」


昴「こんな長い小説に付き合ってくれてありがとう」


うさ子「うさはねー! みんなみんな大好きなのーっ! はうはう! はうはうっ!!」


ホクト「さて、ロクエンティアもいよいよラストスパートだ。こっから溜めに溜めたフラグを回収しつつ、怒涛の勢いでエンディングまで突っ走るぜ!」


うさ子「うさもがんばるのー!」


昴「…………で、百部記念に何かやらないの?」


ホクト「そんなもんやってる暇ねえよ」


うさ子「じゃあねえ、うさが皆の為に何かするの~」


ホクト「いや……いい」


昴「いいよそういうの」


うさ子「最近みんなが冷たい気がするの……!?」


二人とも「「 ここでやるっていったらめんどくさい事になるだろ 」」


うさ子「…………みんな、心がすさんじゃってるの……。うさはねえ……悲しいの……」


ホクト「まあそんなわけで、あと十部くらいの付き合いだ。みんな、ロクエンティアを最後までヨロシク」


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