烙印(1)
シャフトの中へと飛び込んだロゼの眼下、巨大な縦穴がぽっかりと口を空けて彼らを待ち受けていた。巨大な筒の内側を這う蛇のように、下へと向かう階段が続いている。中央部には無数のケーブルが密集しており、更に破裂した水脈ダクトから漏れた水が滝のように溢れ、階段は水浸し状態になっていた。
水が流れる階段の上は良く滑る――。ロゼは注意しつつ、階段を下り始めた。その背後にはうさ子とシェルシが続き、三人はひたすらに続く地下への階段を駆け下りていく。
「ロゼ、ここは……!?」
「おそらくシャフトの中のいくつかに分かれたエリアの一つだね……! この縦穴がどこまで続いているのかも、どこまで行けばUGなのかもわからない!」
「はわわ……前途多難だよう~」
しかし、前人未到の地下への道である。しかも正規ルートではなく、古代遺跡を利用して進入したのだ。道などあるはずもなく、判るはずもない。一寸先は暗闇……しかし立ち止まる事は出来ない。
古びた階段の上を流れる水を踏みしめ、一歩一歩を下っていく。全てが轟音に押し流されてしまいそうだった。ふと、シェルシは振り返り頭上を見上げた。彼らは――ホクトとリフルは無事だろうか?
シェルシは見ている。ホクトは、驚異的な戦闘力を持つ龍種を単独で撃破しているのである。それがどんな手段を用いたのかは判らないが、龍種は帝国騎士団でさえ複数の部隊で相手をする危険な魔物である。それを単独で撃退したホクトなのだ、彼ならば問題は無い――と思う。
確信は無い。彼がいかにして龍種を退け、そしてそれはこの状況でも再現し得る可能性なのか――それをシェルシに判断する方法はない。頭上では滝の音にかき消されるようにして戦闘の音が聞こえてくる。しかし、立ち止まるわけには行かない。ここで止まるわけには、いかないのだ。
目的があった。勿論、こんな物騒な場所にまで忍び込むからにはそれなりの。だからそれを果たす為には犠牲も止むを得ないと覚悟した。自分は大切な目的の為にここに居る……だから、仮にホクトたちが戻ってこなかったとしても――歩みを止めるわけにはいかない。
一方、上のエリアでは剣戟の音が鳴り響いていた。ホクトの繰り出す魔剣は漆黒の波動を纏い、魔物の鱗に叩きつけられていく。先ほどまでは一方的に弾かれるだけだった刃は命中する毎に鱗を砕き、確実に手傷を負わせる事に成功している。
「しっかし硬いな……! リフル、あんたの剣じゃどうにもならないんじゃないか!?」
「馬鹿を言え。この程度、どうということはない」
「強がっちゃってまあ……」
剣を引きずるような姿勢から駆け出す。ホクトの魔剣、その切っ先が大地を擦り火花を上げた。身体を旋回し、剣を繰り出す。魔物が伸ばした触手に対するカウンターである。
振り上げられた刃は触手を打ち返すと同時にその身体に巨大な傷を負わせる。切っ先の軌跡をなぞるように、鱗が爆ぜ、遅れて血飛沫が舞う。魔物の甲高い悲鳴にも似た鳴き声が響き渡り、ホクトは後方へと跳躍し、剣についた血を払った。
「めんどくせぇな……」
「本気を出したらどうだ?」
「あんたこそ、出し惜しみしてるんだろ? それとも部外者の前じゃ本気は出せないってか?」
ホクトの指摘は正に図星であり、リフルは無言で眉を潜めた。リフルは魔物の討伐は馴れたものであり、最早生活の一部であると言える。本気を出せばこの程度の魔物に遅れをとるはずもないのだ。
響魔剣グラシアは、本来二対の剣として扱うものではない。その正しい扱い方は彼女にとっての必殺であり、そしてその奥の手は出来れば伏せて置きたい切り札の一つである。グラシアを降ろし、リフルはホクトにその場を譲るように一歩後退した。
「出し惜しみはお互い様だろう? 龍種を退けた男の戦いではないと思うが」
「…………ま、それもそうだな。でも本気でやるの疲れるから嫌なんだよなぁ……ま、しょうがねえ――やるか」
頭上、片手で剣をぐるりと回し上段の構えを取る。ホクトの目つきが変わり、腕の紋章が漆黒の輝きを増し始めた。黒い波動が大地に魔方陣を構築し、魔剣が秘めた力が徐々に開放されていく。
「見せてやるぜ……! これが俺の――うほうっ!?」
決め台詞を言おうとしたその時、隙だらけのホクトの身体を触手が襲った。吹っ飛ばされ、遥か彼方に飛んでいくホクト。それを追うように魔物は巨体を触手で持ち上げ、大きく跳躍し宙を舞った。
迫る巨大な影にホクトは目を見開き、驚きながら魔剣を構える。防御には成功したが、そのままシャフトの壁を破壊し、巨体はホクトもろとも瓦礫にまみれて縦穴へと落ちていく。
「ロゼ君ロゼ君、上! 上っ!!」
「な、なにぃいいいいいっ!?」
轟音に三人が頭上を見上げると、そこには落ちてくる瓦礫と魔物、そしてホクトの姿があった。ロゼは二人を庇うように壁際に伏せる。落下していくホクトは空中で触手と魔剣で打ち合い、何度も火花を散らしていた。
「足止めするんじゃなかったのか!? あの馬鹿ッ!!」
巨体を支えるという役割を放棄し、全てが攻撃に回され触手は四方八方からホクトへと襲い掛かる。空中で自由に身動きが取れず、思わず舌打ちする。剣で攻撃を防ぐのにも限界がある。触手の一撃を防ぎきれず、側面からの直撃――。身体が吹き飛び、魔剣は手から離れてしまう。
吹っ飛ばされ壁にブーツを擦り付け減速する。靴底が燃え上がりそうな摩擦の中、何度か足を放し、身体を回転させて壁に両足を着く。そのまま減速した勢いを取り戻すように壁を落下と同時に走り始めた。
魔剣は空中をクルクルと舞っている。それを睨み、ホクトは溜息を一つ。両腕の術式が光を帯び、走り続ける足取りを追うように魔力の炎が付随し始める。
炎を帯びた靴で壁を蹴り、一気に魔物へと迫っていく。同時にそれを迎撃する触手が放たれた。それは何の武装もしていない物理攻撃だが、体表にはびっしりと鉄をも切り裂くような鱗が敷かれているのである。まともに接触すれば、文字通り“すりおろし”になってしまうだろう。
壁を蹴った勢いそのままに正面から迫り挟み込むような二本の触手を両足で蹴り、減速する。それを交互に蹴り、更に跳躍――。いくつかの瓦礫を蹴り、魔剣を手に取ると同時にそれを揮う。黒き炎が軌跡を辿り、斬撃は広がって魔物の触手の一つを一撃で両断した。
「なんだ、あの威力……!?」
「はわわ、落ちてっちゃうよう!?」
ロゼたちの目の前で魔物の足が宙を舞い、同時に彼らを追い抜き魔物とホクトは落下していく。ホクトの両腕に刻まれた術は熱量を上げ、魔剣の刀身に紋章が浮かび上がる。同時にホクトの目つきが変わり、両手で握り締めた大剣を魔物目掛けて真下に構えた。
「ったく……俺だってな、たまにはちゃんと真面目に働かなきゃあな……! クビになるのは、嫌なんでよ――!!」
魔剣の全体が黒い炎で覆われる。一気に落下速度が上がり――否、ホクトは虚空を蹴って真下に向かって飛んだのである。そして迫る触手の一つを回転しながら縦に叩き割り、更に追撃で繰り出された触手を両断――。潜水艦のバリアにも匹敵する装甲をいとも容易く両断し、黒い炎を撒き散らしながら落ちていく。
剣を虚空に投げ、それを魔物目掛けて蹴り飛ばす。柄の部分に炎が灯り、ぐんぐん加速した魔剣は最高の硬度を誇る魔物の胴体に深々と突き刺さった。血飛沫は零れ落ちる事はなく、頭上へと吸い込まれていく。ホクトは更に虚空を蹴り、右の拳を大きく振り上げた。
「必殺――! ただの……パンチッ!!」
突き刺さった魔剣目掛け、炎を灯した拳を叩き込む。衝撃が周囲の瓦礫を全て吹き飛ばし破砕する――。魔物の体内で衝撃が爆ぜ、鱗の中身がぐしゃぐしゃにひしゃげ、細かく刻まれた血液が飛び出した。
「おぉおおおおおおおおおおおおお――――ッ!! らあああああっ!!」
剣を掴み、脆くなった鱗の“継ぎ目”を縫うように縦に一閃――! 文字通り、駄目押しの追撃であった。魔物は断末魔の声をあげ、落ちていく。それとほぼ同時に縦穴の最下層――行き止まりへと巨体は落下。それに伴い、巻き込まれるようにしてホクトの姿も崩れた瓦礫の中へと消え去っていった――。
烙印(1)
「いや~、死ぬかと思った」
階段を駆け下り、ロゼたちが見たのは瓦礫の山に埋もれた魔物、そしてその上に座ったホクトであった。あまりにものほほんとしたその物言いにロゼはあんぐりと口をあけたまま固まり、シェルシは凄惨な光景に若干引いていた。
遅れてリフルが階段を下りてくると、ようやく全員集合となる腰でも打ったのか、ホクトはよろよろと魔物の上から降りてきた。その全身は返り血と埃で酷い事になっている。
「……よ、寄らないで下さい!」
「えぇ~……。俺、折角倒したのに……なあ、うさ子?」
「ホクト君、くさい……きちゃない……」
うさ子は鼻をつまみ、イヤイヤと首を振りながら後退する。ホクトは魔物の返り血を浴びてしまっている。落下する魔物の上にいたのだから、まあ当然の事である。荒事に慣れているリフルは兎も角、他の三人にはちょっとばかし近寄りづらい状態であった。
「俺、頑張ったのに……ひどくね……」
一人、シャフトの中を落ちてくる滝の中に入り、身体を洗うホクト……その間ロゼたちは魔物の状態を確かめていた。何が起きたのか、堅牢な鱗はズタズタに引き裂かれ、更にその下は滅茶苦茶に砕けてしまっている。内蔵や肉片が飛び散り、これまた酷い状態だった。吐き気がしてきたのではシェルシはその場を立ち去り、隅の方で座り込み、膝を抱えている。うさ子は魔物の肉を齧ってみたが、まずくて食えた物ではなく泣き出しそうな顔をしていた。
「……リフル」
「…………」
リフルは無言で頷いた。この魔物は一般的な戦闘力の魔剣使いではこう簡単には対処できない相手だった。しかもホクトはどうにも本気で戦っているようには見えない。底が知れないと言えば聞こえはいいが、戦いに対して不真面目で危機感が無いとも言える。何より正確な実力が測れないのでは、仲間としてどれだけ頼りに出来るのかもわからない。
その辺りも考慮し、わざわざ残ってホクトの様子を見ていたリフルであったが結局ホクトの真の実力は不明なままだった。しかし、ロゼは確かに見ている。強力な防御でさえ切り裂いた黒い炎の刃……。
「……魔法の一種か……?」
「ぷはーっ!! あ~、サッパリしたぁ~……」
ホクトが頭から水を滴らせながら戻ってくる。流石に全身水を浴びるわけには行かなかったのでまだ血の匂いは取れないが、随分と先程よりはすっきりした様子である。ロゼがタオルを投げると、ホクトは礼を言って頭をわしわしと拭き始めた。
「しかし、なんか妙じゃないか?」
「妙……?」
「ここは前人未到の遺跡なんだろ? なのに帝国の番犬がいるってのはどういうことなんだろうな?」
それもそうである。しかし、確かに帝国の烙印が捺された魔物であったように見えた……が、それが事実だったかどうかはもう確かめる事が出来ない。魔物はホクトがズタズタにしてしまったのだから。
ロゼは遺跡に入る時、封印の術式を解除する暗号を使用したが、それは帝国のコードではなく、古代遺跡などでよく用いられている旧式の封印式であった。封印を施したのは帝国ではない……が、出入り口があそこ一つだけとは限らない。
「ま、いるもんはいるんだからしょうがないだろ」
「そりゃごもっともで」
ホクトはタオルを首からかけたままうさ子を見やる。うさ子は魔物の肉片を吐き出し、滝で口をゆすいでいる所であった。シェルシはグロテスクなものから目を逸らしたい一心なのか、ひたすら無機質な機械の壁を見つめている。
「このパーティー大丈夫なのか……?」
「それを守るのがあんたの仕事」
「ですよね~」
「二人とも、いつまでやってるんだ……。先を急ぐよ」
ロゼの声にうさ子とシェルシは相変わらず顔色が悪く、うさ子はずぶぬれの顔をロゼのマントで拭いていた。
頭の上にたんこぶを作ったうさ子を最後尾にロゼたちは移動を開始する。階段で行ける場所はここまでであり、あとは横に続いている道を行くしかない。鋼鉄で出来た扉はロゼが手を翳すと紋章が浮かび上がり、自動的に開いていく。構造としてはシャフトは遺跡の中身と良く似ていた。
ドアを潜ると広大な空間が広がっていた。無数のワイヤーやケーブルが天井から垂れ下がり、瓦礫や機械部品が山を作り視界を遮っているが、道は間違いなく続いている。灯りを片手に歩き出し、ロゼは周囲を眺めつつ言った。
「ここがUGなのか……?」
「ゴミ捨て場にしか見えねーぞ」
「遺跡からは、大分歩いたと思うんだけどな……」
ロゼとリフルが先を進み、うさ子はその後をちょろちょろとついてまわっている。一方、シェルシはやはりまだ気分が優れないようで、口元に手を当てたままうんざりした表情を浮かべていた。
「魔物は苦手かい、お嬢さん?」
「…………魔物が好きな人なんて居ませんよ」
ロゼたちとは少し離れた場所を歩くシェルシにホクトは歩幅を合わせて声をかけた。シェルシは内心、少しだけほっとしていた。不安や不気味さに押しつぶされそうな気持ちが、ホクトの軽々しい口調で少しだけ和らぐような気がしたからだ。
しかし実際は何の解決にもなっていない。久しぶりに出した声は喉に張り付くようで、気分が悪い。飛び散ったグロテスクな魔物の内臓を思い出し、シェルシはまた顔を蒼くした。
「貴方は……魔物の討伐に慣れているんですね」
「そんな事はないと思うぜ? まあ、記憶喪失だから判らないんだけどよ」
「記憶……喪失?」
シェルシは目を真ん丸くし、興味深そうに小首をかしげた。そういえば、記憶喪失については話していなかったかもしれない……そんな事を急に思い出した。ホクトにとって記憶が無いのは既に当たり前であり、ロゼたちにとっても共通の認識となっている。わざわざ道行く人々に自分は記憶喪失ですと伝えて歩くわけもなし……シェルシがそれを知らないのは当たり前とも言えた。
「まあ、色々あってな。今は、ロゼたちのところで世話になってるんだ」
「…………そう、だったんですか」
彼が記憶喪失だと聞き、シェルシは余計に彼の事が判らなくなったような気がした。別に理解したいわけではないが、あれだけの力を持った魔剣使いなのだ。さぞ名のある賞金首が、或いは騎士なのだと考えていたのだが……。
「貴方は……“剣誓隊”という物を知っていますか?」
「……キャバ……キャバクラ?」
「キャバリエです! なんでわざとそうやって間違えるんですか!?」
「そんなマジギレせんでも……。剣誓隊ねえ……いや、見た事も聞いた事もないな」
「そうですか……? 貴方ほどの腕前の剣士なら、剣誓隊の一人だと言われても信じてしまいそうですが」
剣誓隊とは、帝国に所属する魔剣使い集団の名である。帝国権力の象徴とも言われ、皇帝を守護し、帝国にとって仇為す者を切り払う最強の騎士団……それが剣誓隊なのだ。
この世界で最も高い戦闘力を持つのは、魔物を除けば魔剣使いである。魔剣使いの数はとても少なく、そこら辺に転がっているというわけではない。その魔剣使いの存在に対抗し、帝国の権力を維持する剣の象徴……。反帝国勢力にとっては最大の脅威であり、絶望と同義でもある剣士たち。その中の一人にホクトを数えてもいい……シェルシはそう見立てていた。
最も、帝国騎士団から独立した組織とは言え彼らはそれなりの地位にある貴族である。ホクトのように無礼ではないし、見た目もきちんと気を使っている事だろう。剣誓隊など実物は見た事もないが、想像の中でシェルシはそう考えていた。
「貴方は実の所、何者なんですか?」
「正義の味方――とか?」
「…………はぁ」
「なんで溜息つくかねぇ」
「貴方と話すのは、徒労な気がしてきました。とても疲れます」
「もう少し肩の力を抜きなさいよ。リラックス、リラックス」
ホクトが瞬時にシェルシの背後に回り、露出した肩を両手でもみしだく。突然の事に小さく悲鳴を上げるシェルシ――そしてその所為で前を歩く三人が振り返ってしまった。
戻ってきたリフルが剣の鞘でホクトの頭を強打し、男はバタンとその場に倒れこんだ。シェルシは怯え、逃げるようにしてリフルの背後に隠れてしまっている。
「……本気で殴ったろ、今……」
「貴様にはこれくらいしないと効かんだろう?」
「…………おい、血が出てる! 頭から血が出てんぞ!? いーけないんだーいーけないんだー! やーいやーい、暴力女ー……ふおっ!?」
再び傷口を叩かれ、ホクトは無言でその場に膝を着いた。背後で漫才が繰り広げられている中ロゼは辿り着いた扉に手を翳し、ロックを解除する。
開かれた道の向こう、そこに広がる景色にロゼは思わず息を呑んだ。果てしなく広がる空間――ここは本当に地下であり、シャフトの中なのだろうか? あまりの広大さにまるで本当に別世界へやってきたかのような錯覚に囚われてしまう。
生い茂る木々があった。そこには樹林があった。しかその木々の全ては結晶で構築され、青白く輝く光が乱反射した眩い世界が広がっている。大地も、木々も、壁も、天井も――全てが結晶に覆われている。
命を感じない、鉱物の世界……。一歩恐る恐る足を踏み入れると、硝子でも踏みしめているかのように足元は軽くひび割れ、陥没した。しかし歩けないほどではない。ロゼは振り返り、ホクトたちを呼びつけた。
「うお、すっげえな……。なんじゃこりゃ……?」
「これが……UG……」
シェルシとホクトが周囲を眺め感嘆の声を漏らす中、うさ子はザクザクとそこらじゅうを走り回り、楽しそうにきゃあきゃあと声を上げていた。砕けたのは大地の表層だけであり、いくつもいくつも折り重なった硝子の層は暴れれば暴れるだけ砕け、陥没していく。
メンバーがぐるりとUGの世界を見渡す中、うさ子は既に陥没を始めていた。懸命に両手を振って助けを求めるが、誰も気づいていない。そんな中、シェルシは前に出て結晶の木の葉に手を伸ばした。繊細な少女の指先ですら、触れるだけで葉は砕け、散ってしまう。
「……綺麗」
「――だな。聞いてた話とは、随分ちがくねえか? なあ、ロゼ」
「地獄であることには変わりないだろう? 命の無い世界だ。しかし、まさかオケアノスの地下にこんな場所があったなんて……」
驚いているメンバーの背後、埋まっていたうさ子をリフルが引っ張り上げる。このまま放置されてしまうのかと思っていたうさ子は泣きながらリフルの胸に飛び込んだ。そんな事が行われているとは知らず、シェルシは前に歩き出す。
「行きましょう……! きっと、この道がUGに続いているはずです!」
「あらま……お嬢さんやる気だよ。おーい、あんまり先に行くと迷子になって泣いちゃうぜー」
「仕方の無いクライアントだ……。追うよ、ホクト」
「あいよ」
二人が走り出すのを見てリフルもうさ子を抱えたまま走り出す。純粋なる結晶の大地、そこに彼らは足跡を刻み、しっかりと歩き出したのであった。




