9 岩のように末長く
あれから数ヶ月が経ち、わたしたちはさらに仲を深めていく。
剣の稽古をたくさんした。彼と一緒にデートを重ねた。とはいえ『岩の貴公子』様の態度は硬いままだが、わたしはむしろそれを好ましく思っている。だって心の奥底から愛してくれているのなら、言葉なんていらないのだから。
結婚式はひっそりとした形で行われることになった。
貧乏男爵家の娘と、名門公爵家の長男でありながら傷物になった『岩の貴公子』。
二人の結婚式には参加したがる者はほとんどいなかった。でもわたしはそんなことはちっとも気にしない。それどころか、フェルス様の悪く言う人物がおらずにホッとしているくらいだ。
薄青のドレスに身を包んだわたしは、壇上へと上がる。
その先ではフェルス様が待ってくれていて、わたしの胸は高鳴った。
「……。マリア、よく似合っているな」
短く、不器用な賞賛の言葉。
わたしはそれを受けてにっこり微笑み、ドレスの裾を摘んでお辞儀してみせた。
「ありがとうございます。フェルス様もとっても、とーってもお似合いですよ」
彼の大きな体を包むのは、金色のタキシードだ。
その色はまるであのデートの時の岩を思わせ、わたしを幸せな気分にしてくれる。真っ二つに割れ砕けてしまった愛の岩だけれど、あれはわたしと彼の思い出の一つなのだ。
そうしてまもなく式が始まり、わたしたちは愛の言葉を交わす。
それからわたしは、『岩の貴公子』様のゴツゴツした岩のような体にぎゅっと力いっぱい抱きしめられた。その感触を全身で味わいながらわたしは思う。
――ああ、倒れてしまいそう。
嬉しすぎて、頭がくらくらした。
わたしの英雄が側にいる。わたしの目の前でわたしを抱きしめてくれている。
なんて素敵なんだろう。まるで夢みたいだ。夢なら覚めないでほしいと願った。
「フェルス様。これから二人で、朽ちることなき愛を育んでいきましょう」
「ああ。……岩のように末長く」
フェルス様は頷き、マグマみたいに真っ赤な顔でわたしに囁いた。
こんな夫をもててわたしは幸せ者だ。きっとこのマリア・ホットンというちっぽけな人間にはもったいないくらいの幸せに違いない。
かくして、わたしは『岩の貴公子』フェルス様と結ばれた。
この後にピンクブロンドのエリーが式場に乱入してきて騒動を起こした結果捕まったりしたのだけれど、そんなことはどうでもいい。
わたしはただフェルス様の隣にさえいられれば充分なのだ。これから過ごす彼との日々を楽しみに思うのだった。