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古着屋

 追手がかかるのは想定内だった。

 地元のチンピラとはいえ、子どもに反撃されて逃げ帰ったとなれば裏の世界の秩序に関わる。何度か撃退したとしても、簡単に諦めてはくれないだろう。それにオレは誰かに狙われている。


 だからオレは、なるべく短時間で準備をしてこの都市を出ていくつもりだった。

 普通の子どもなら自殺行為だが、オレには長年培ってきた冒険者としてのスキルがある。討伐するモンスターのすぐ近くで野営した経験も一度や二度じゃない。まず、どこか別の町か小さな村にでも生活の拠点を作る。全てはそれからだ。


「おいこらっ、これは売り物なんだ。汚い手で触るな」


「そんなのわかってるよ。金ならあるんだ」


 オレはなるべく子どもっぽく聞こえるように言った。その方が有利だと思ったからだ。生き延びるためなら、くだらない大人のプライドなんかに構ってはいられない。

 だが古着屋のオヤジは、ハナから信用しちゃくれなかった。


「嘘を言うんじゃない。そんな汚いなりのガキが金なんか持ってるもんか」


「嘘なもんか。ほら……」

 オレは握っていた手のひらを開いて銀貨を見せた。一枚だけだが、それでも見る目が変わる。


「そいつは本物か? そんな物、どこで盗んだ」


「盗んだんじゃない。親切な旦那様が恵んでくれたんだ。寒そうだなって、声もかけてくれたぜ。それに姉ちゃんにも何か着せてやれって。ほら、あそこにいるだろう。でも、オレの分だけ買えばいいからって一緒に来ないんだ。頼むよ、おじさん。売っておくれ。オレは本当は、姉ちゃんに着せてやりたいんだ」


 オレは離れた場所に立っているルナを指さした。

 あの男が持っていた金は思ったよりも少なかった。これからの交渉を考えると、なるべく憐れみを誘っておいた方がいい。


「でもなあ、信じろったって無理だぜ。今どき物乞いのガキが銀貨なんて……」


「いいじゃないか。私は信じるよ」

 店の奥から中年女性が出てきた。店主の妻だろう。


「ほうら、ボサッとしてるんじゃないよ。お金を持っているからには、小さい子どもでもお客様だよ。坊ちゃんも坊ちゃんだ。早くお姉ちゃんを呼んできな。予算は銀貨一枚だったね。それで十分さ、私の目利きで出来るだけいい物を探してあげるよ」


「でもな、盗んだ金だったらどうする。金を取り返されたら丸損だぜ」


「そりゃあ、あたしらに目がなかったってことさ。商売をやってれば、そういうこともあるよ。なあ、あんた。前に妙に色気のある女に引っかかったのは誰だったかね。私はあの時、あんたを責めたかい」


 店のおかみさんは、オレとルナのためにぴったりの古着をあつらえてくれた。どうやら相場よりもサービスしてくれたらしい。店主の微妙な表情でそれがわかる。


「おまえな、それでいいのか」


「なんだい。私のやり方に文句があるのかい」


「そうじゃない。こいつらは裸足だ。靴もいるだろう。だがそうは言っても、もうとっくに予算オーバーだ。

 確かどこかに、うちのガキの履き古しが何足かあったはずだ。合うのがあったら、くれてやっちゃあどうだ」


 オレたちはここで思わぬ好意に触れることになった。

 おかみさんは店の奥にある井戸も貸してくれた。ルナの体を拭いた布はホコリと垢で真っ黒になり、その代わりに真珠のような白い肌が顕れた。


「ごめんなさい」


「なんだい。何を謝っているんだい」


「本当は、もう少しだけお金を持っているの。でも、食べる物も買いたかったから……」


「隠してたのかい」


 ルナは小さくうなずいた。

 馬鹿正直に言わなくてもいいのに。でも、それがルナだ。オレもそれで救われた。


「そうかい。あんたには商売人の素質があるね。商売ってのは、売り手と買い手が納得する値段を付け合えばいいんだ。それがいくらかなんて、本当は関係がないのさ。

 さあ、商売の話は終わりだよ。体を拭いたらそのタオルも持っていきな。穴が空いたんで、そろそろ捨てようかと思っていたんだ。こんなボロ布でも、まだまだ使えるよ。使い古しの方がかえって水をよく吸うものさ」


 オレたちは別人みたいにサッパリとした姿になった。ついさっきまで物乞いをしていたとは思えないくらいだ。

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