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パーティー

 サーベルタイガーの毛皮と牙は合わせて五千シルクで売れた。相場の二倍以上だ。毛皮にほとんど傷がないのが評価された。これで卸値だから、最終的にいくらの値段がつくのかオレにも想像がつかない。

 オレたちはそのうち千シルクをジェニイの遺族に渡すようギルドに頼むと、残った金の一部で幌のついた二頭建の馬車を買った。


 今まで使っていたオンボロ荷馬車とは馬力が違う。車軸もしっかりしているから揺れも少ない。ルナやギースの家族への土産もたっぷりと積んだ。子どもたちの喜ぶ顔を想像して、思わず頬がゆるむ。


「ところでおまえ、どこまでついて来る気なんだ」

 馬に水を飲ませながら、ギースがリディに文句を言った。

 行程から考えると、この休憩がたぶん最後だ。このまま行けば、まだ日のあるうちにギースの村に着く。


「前にも言ったでしょう。私はもう、元のパーティーに戻る気はないわ。あなたたちと一緒に新しいパーティーを作りたいの」


「それに関しては、俺も賛成だ。でも、まずはこのちっちゃな大将がその気にならないとな」


 二人はオレをじっと見た。

 パーティーか……。『双頭の銀鷲』を首になって一度は引退するつもりだったが、オレにはまだ冒険者への未練があった。また、そういうのに関わるのも悪くない。パーティーの上限は五人だが、ギルドには二人から登録できる。


「でも、ルナを放っておくわけにはいかない」


「それなら俺の家があるじゃないか。あの子は俺の娘たちとも仲がいい。カミさんも気に入ってる。同じ年頃の子どもと一緒に暮らすのが幸せってもんだぜ」


「いいのか」


「いいも悪いもあるか。あんたは娘の命の恩人だ。それに覚えてるか。あの子は俺の命の恩人でもあるんだぜ。あの時、ルナが止めてくれなかったら俺のこと殺してただろう」


「あれは……悪かった。正気じゃなかった」


「いいんだよ。俺が悪いんだ。でも今は仲間だ。なあ、カイン。仲間ってことでいいんだろう。俺はもう、勝手にそう思ってるぜ」


「ありがとう。戻ったらルナと相談する」


「決まりね。どうせやるならSランクを目指しましょう。見ていなさい。ベリオスを思いっきり悔しがらせてやるわ」



 村に入ると、ギースが一番先に馬車を降りた。

「悪い、リディ。馬車をつないでおいてくれ」


「仕方ないわね。さあ、お先にどうぞ」


「おおーい。戻ったぞぅ」


 例によって、ギースが家の前で大声を出した。

 笑顔の子供たちが飛び出して来る。その中にはルナもいる。そしてお腹の大きいギースの奥さん。幸せな家族がそこにいる……そのはずだった。


 でも、出てきたのは一人だけだった。目に涙を一杯にためている。


「リズ、母さんはどうした。みんなは」


 もちろん顔は覚えている。つい最近まで、不治の病で寝ていた子だ。

 確か五才だったはずだ。しっかりと自分の足で立っている。それは嬉しい。だが、その小さな体は小刻みに震えている。


「お、おいっ。しっかり話せ」


「悪い人が来て。お姉ちゃんたちが連れて行かれて。お母さんが、お母さんが……」


「ギース、先に行くぞ」

 オレは最後まで聞かずに走り出した。入口のドアは開いている。

 ギースの家族のいる場所は、すすり泣く声でわかった。夫婦の寝室だ。ベッドに寝ているのはギースの妻だろう。一番下の娘がベッドにしがみついている。


「ここは遊び場じゃないんだ。子どもが勝手に入って来るんじゃないよ」


 知らない老婆がオレを叱り飛ばした。

 タライに張られた湯には湯気がたっている。積み上げられたボロ布。膝を曲げて脚を開いている女性。オレは状況をだいたい理解した。


「難産なんでしょう。ポーションは使ったの?」


「な、なにを言うのさ。子どもが、何もわからないくせに」


 聞くよりも探した方が早い。

 オレはすぐにポーションの空き瓶を見つけた。

 この老婆はたぶん産婆だ。ポーションを使うくらいの知識はあるだろう。それでもこの状態なら、事態はかなり深刻だ。


「ちょと、おい。何をするつもりなんだい」


 オレは胸のポケットからナイフを出して、手の甲を浅く切った。その上に瓶の底に残っていた雫を垂らす。皮膚が少し突っ張るような感覚があったが、傷口はそのままだ。嗅いでみるとわずかに酸っぱい臭いがする。


「たぶん期限切れだよ。万能ポーションは三年も経つと水と同じになるんだ。ここにはまだ、まともなのが何本かあったはずだけど……」


「知らないよ。向こうの部屋に積んであったのを取ってきたんだ。もう昼過ぎから陣痛が始まってる。意識がはっきりしているうちにポーションを飲ませようとしたんだが、すぐに吐いちまった。さっきまで話ができたけど、今はこの通りさ。赤ん坊も動いてない。悪いけどあたしにはもう、お手上げなんだ。坊や、誰か男の人を連れてきてくれないかい。なんとか力づくでも引っ張り出さなきゃ、母親まで死んじまう」


「ありがとう、お婆さん。後は任せて」


 不良品のポーションのことは、とりあえず頭から消そう。妊婦と胎児を助ける。今はそれだけに集中すればいい。


 オレはギースの末娘の横からベッドによじ登った。


「カイル。お母さん、元気になるの」


「大丈夫、向こうで待っているんだ」


「うん、うん」

 ギースの末娘は涙を落としながら必死にうなずいた。


 足の間から胎児の頭が出かかっていた。妊婦にもう力はない。皮膚からは血の気が引いている。


 仮死状態なら、まだ間に合う。

 俺は胎児とその母親に触れると、細胞の声を聞きながら慎重に魔力を注ぎこんだ。


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