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狩場

 翌日の朝早く、オレとギースは例の荷馬車で出発した。

 馬は脚の遅い在来種。おまけに車軸がガタついているせいで揺れがひどい。それでも、これを買っておいたのは正解だった。


「なあ、カイル。聞いてるか」


 手綱を握っているギースが、前を向いたまま俺に話しかけてきた。

 その時、オレは藁の上に布を敷いただけの即席のベッドで、ウトウトと眠りかけているところだった。体が縮んでからやけに眠い。どうやら子どもには、大人よりもずっと多くの睡眠時間が必要らしい。

 ようやく重いまぶたを開けたが、角度のせいでギースの後頭部しか見えなかった。


「ん、どうしたんだ?」


「いや、あんたと少し話がしたくなってな。構わないか」


「いいぜ。旅の道連れの話を聞くのは、冒険者のエチケットだ」


 他人はどうか知らないが、オレは自分のことをまだ冒険者だと思っている。

 一度はあきらめかけたが、今回のことでかなり自信を取り戻した。回復術師ヒーラーはまだ、冒険者として十分に通用する。


「実は、前から気になっていることがあるんだ。俺は、エリクサー欲しさにルナを人質にした男だ。あの時、あんたに殺されても文句は言えなかった。

 それなのにどうして、ここまでしてくれるんだ。俺の娘たちのことは、あんたには関係のない話だろう」


「関係あるさ。あの子は、ルナを友達にしてくれた。それに今回の件は、オレにとっても他人事じゃない」


「どういう意味だ?」


「話しただろう。オレはあのポーションのせいで職を失い、殺されかけたんだぜ。万能ポーションは回復術師ヒーラーの仇みたいなもんだ。オレはそれに負けたくないのさ」


「ふうん、そんなものかね……おっと、悪い。石を踏んじまった」


 馬車が大きく揺れた。ギースが手綱を操り、それかけた進路を元に戻す。


「おいおい、しっかり前を見てくれよ。そんな余計なことを気にするくらいなら、これから戦うモンスターのことを考えた方がいいんじゃないか」


 オレたちは村から半日ほど行った場所にある森林地帯を目指していた。

 ギースの話だと、そこにはゴブリンの群れがいくつも生息しているらしい。ゴブリンは繁殖力が強い。数が増えると人里に攻めてくることもあるから、討伐対象として常に賞金がかけられている。


 ゴブリンの肉はすぐに腐るから、持ち帰るのは耳だけだ。相場は両耳で一シルク。街の居酒屋なんかでは、検査の済んだ耳を唐揚げにして出してくれるところもある。

 だが、オレたちの目標は最低でも千シルクだ。本命はゴブリンなんかじゃない。


「サーベルタイガーか……」


「相手は強敵だぞ。剣みたいに長い牙で有名だが、それだけじゃない。とにかく素早いし、力が強い。鎧の上からでも平気で人間を噛み砕く。

 なにせ危険度Aランクのモンスターだからな。おまえは見たことがあるか。体長は成獣だと四ステールを軽く超える。性質は獰猛どうもうで虎に似ているが、全く別の生き物だと思った方がいい。たった一頭のサーベルタイガーのせいで、A級パーティーが全滅したこともある」


「おい、脅かすなよ」


「脅しじゃない。『双頭の銀鷲』でも討伐できたのは三回だけだ。何日も慎重に準備して、追いこんでから倒したんだが、そのうち二回は負傷者が出た」


「それを二人でやるのかよ」


「怖いなら、やめるか」


 馬がいなないた。荷馬車が止まる。

 ギースが振り返ってオレを睨みつけた。


「バカ言え! 怖くなんてあるもんか。俺の娘の命がかかってるんだぞ」


「下手をすると、死ぬかも知れないぜ」


「相手がドラゴンでも、サーベルタイガーでも。やるしかないだろう。ゴブリンの耳なんか集めて持って行っても、せいぜい二十シルクかそこらだ。サーベルタイガーなら討伐の報酬だけで二百シルク。それに今はちょうど真っ白な冬毛に抜け替わったばかりの季節だ。上手くすれば、一枚の毛皮で千シルクの値段がつく。一日で一年分を稼ごうっていうんだ。無理は承知さ」


「いい覚悟だ。実はオレにも勝算がある。たぶん、ああいう頑丈なモンスターはオレと相性がいいはずだ。むしろ今のオレなら、おまえのような剣士を相手にした方が苦戦すると思う」


「たぶん、たぶんね。心強いお言葉だ。わかったよ。あんたに命を預けた。こうなったら極上の毛皮を持って帰ろうぜ。その金で娘たちとルナにも、たっぷりと土産を買ってやろう」


「そうと決まったら、もう少しだけ眠らせてくれ。悪いな。この体はどうも燃費が悪いみたいなんだ。森に着いたら起こしてくれ」


 オレはまた、藁の布団の上に大の字になった。

 こんなに揺れているのによく眠れるもんだ。自分でも呆れるほどに、睡魔はすぐにやって来た。

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