旧友の思い出
『う〜ん。それにしても、どうしようかなあ』
この巨大な体で姿を表したら、獣も森人も相当な阿呆でなければ立ち向かって来ないだろう。
ただし森人から、空の民が目覚めた。という情報が緑の民へ伝わり、付近にいたのなら駆け寄ってくるかもしれない。
今は、あのバウバウ煩いやつに構っている気分ではないのだ。彼らは大きな森を渡り歩き、森人達をメインに森に住む小さき物達と頻繁に交流している。マメなやつだ。
こちらが寝てから起きるまでに体験したことや起きた出来事を、あの黒い鼻を空に向けて自慢げに語り続けるに違いない。
ドラゴンよりも小さいくせに、自慢するときの無理に見下そうするような態度は時々腹が立つのだ。
さてと、愚痴のようになってしまった思考を端に寄せ直面の問題に対してどうするか考えよう。
何か便利な魔法でもあれば良いのだが、姿を見せないで攻撃魔法を使うと両者から敵対関係と捉えられてしまうかもしれないし、なによりも祭壇にある物も巻き込まれてしまう。
攻撃魔法だなんて久しぶりすぎて、加減が上手くいくかわからない。
三度前くらいに目覚めた時だろうか。祭壇を物色していると、物好きな角の生えたヒュームが突如として目の前に現れた。あれは気配もせずに急に目の前に現れたものだから、すごく刺激的な出会いで今でも覚えている。
彼は獣人とヒュームのハーフだっただろうか。内に秘める魔素がヒュームよりも膨大で、知識も豊富なようだった。彼は蓄えた知識を対価に、と闘いを挑んできた。彼の人生を彼自身そして周りに認めてもらうために闘うと言って。いやー、あれは驚いたな。小さき物の魔法によって鱗の数枚に擦り傷のようなものができたのだから。感動して、古くなって抜け落ちた鱗を土産として渡してしまったくらいだ。
ドラゴンの素材は下位のドラゴンでも小さき者たちにとっては、貴重な武器や防具・魔法の素材となるらしい。原初の神が生み出した空の民の鱗だ、とてつもなく良い素材になるだろう。
角を生やした小さな民は歳をとり次第に足が動かなくなっても、馬車などを使い祭壇へ自身の書き止めた羊皮紙や本を届けに通ってくれた。
おっと、今度は思い出に浸ってしまった。彼のくれた多くの書物の中には魔導書なるものがあり小さき者たちは中々に面白いものを考える。う〜ん。記憶を手繰りいくつか思いつく魔法を組み合わせられないものか。。。
角の生えた彼は条件はあるが気配を消すことも、差別を受ける地域では角を消すことも魔法で使ったと言っていた。
いくつかの魔法を行使し、体を小さくしてヒュームのように変化すれば、とりあえずは緑の民にはバレないだろう。
『よし。こんな感じでどうだろう。 トランスディセプション』
別に言葉に出す必要もないのだが、つい唱えてしまう。いま作ってみた魔法だ。イメージを音に乗せることは重要だ。うん。
上下に魔法陣が光を発して出現し、頭の中に描いたイメージを音に乗せ魔法陣へと書き込まれていく。ドラゴンの体が上下の魔法陣から発せられる光に包み込まれ、やがて光が落ち着くと2足歩行の生物に姿を変えた。