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閉鎖的空間の中で  作者: めい
1/8

暴走


「ああああーっー!!!!!」


ベランダに手を伸ばし飛び降りようとしたのが、最後の記憶だった。腕をつかまれたような、救急車とパトカーのサイレンが入り交じったような、断片的な記憶。私はいったい誰なのだろうか?




「めぐみさんわかりますか?」

「高橋さん。ここどこかわかりますか?」

本当のことを答える前に私は小さな子になってみせた。

「ここ…どこ?」

できるだけロリボイスと幼い動きをしてみせる。汚くて狭い部屋に私はいた。ここはどこだ。思いつく限り記憶を振り絞ってみる。確か、沢山の薬を服用したあと、あの人気アニメのロボットみたいに暴走してベランダへ走り出したのだったと思い出した。


そうだ。私は死にたかったのだ。


「今はだれかな?」

目のつり上がった看護師が医者かわからない人が言った。私が解離性同一性障害を演じ、医者も周りも信じ込んでいるのがこの救急で運ばれた病院にも伝わっているらしかった。解離性同一性障害とは、わかりやすく言えば多重人格だ。私自身こんなに上手く人を騙せるもんだと思ってはいなかった。が、案外簡単なものだった。数年前から都合の悪い時はこの病気になりきった。


なおき 男27歳

めい 女小3(9歳)

レイ 女23歳

レン 男24歳


おもにこの4人だ。今はその中でもめいになることが多かった。矛盾しても大人でないなら誤魔化しやすいからだ。


「めぃなんでこんなとこにいるの?おかあさんは?」

慌てた顔で聞き返す。暴走していた時の記憶は曖昧だから、本当にここがどこかもわからない状態でもあり、それがしりたかった。確か救急車に乗せられて、病院の個室に入れられた気がする。

「ここは病院。めぃちゃんはここにくるのは初めてだね。」

初めての病院。なら、かかりつけの個人病院の本院ではなさそうだ。

「注射するの?」

子供らしく聞いてみる。あぁ、こんな時にでも頭は回るものだなーと、ふと思った。

「しないよ?落ち着くまでこの病院に入院することにはなったけどね。入院ってわかる?」

優しそうな気味悪そうな顔でこちらをのぞいてくる。汚れた白い壁にそっくりな、無機質に得体のしれない何かを覗く顔。

「いやだよ!おうちにかえらせてよ!!」

私は叫んでみた。実際こんな部屋に居たくはない。

「だめなんだよ。かえれないんだ。」


(なら殺せよ!)


心の中の私が叫ぶ。

(ころせや!死ぬつもりだったんだ!誰が助けろといった?ってか、お前らも死ね!みんな死んでいなくなれ!今この瞬間に地球でもなんでも爆発しろよ!!!!)

ふーふー、と息があらくなる。過呼吸をおこしかけているみたいだ。

「今は夜中だからずっとはここにいられないの。あの天井についてるマイクに話しかけてくれたら、すぐ誰がくるからね。」

周りをみわたす。普通ならあるはずのケーブル関係が一切ない。ナースコールももちろん無い。なるほど、自殺させないためか。

「めぃちゃんわかったかな?」

(わかんねーよ)

心の悪態とは別にいい子のめぃちゃんが答える。

「わかった。痛いことしないならちゃんとする。」

ヌメヌメと気持ち悪い感情に巻き込まれないよう、あくまで返事をする。嫌。返事じゃない演技だ。

「じゃあゆっくりねむってね」


看護師が医者かわからない人が出ていく。


ガシャンと音が鳴って、鍵をかけられたことにきづく。そうか、保護室にいれられたのか。


私は何がなんでもこの閉鎖された空間で自殺してやろうと思った。



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