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6.5

お久しぶりです。待っていてくれた方がいましたらお待たせして申し訳ございません。ありがとうございます。消失データを復元は出来ませんでしたが、記憶を頼りに文字に起こした甲斐がありました。

あとがきにお知らせも載せておきます。結末まで、あと少し、お付き合いくださいませ。

(のろい)は、(まじな)いだとなにかマンガの影響なのか、クラスメイトがそんな話をしているのを聞いた気がする。まさにそうだなと、急に膝が痛み始めて私は思った。転んだわけじゃない。私は教室の自分の席で椅子に座って本を読んでいるだけ。怪我する要素がどこにもない。原因があるとするなら、それは全く別のところにある。

保健室の一角を借りて、案の定擦り傷になった箇所を手当てする。常に脚を覆っている黒タイツのお陰で、誰も急に出てきた傷に気付いていないだろう。そして何もなかったかのように教室に戻る。不審に思わせてはいけない。思わせたら、気味悪がられるだけ。せめてと願うことは、今日はもうこれ以上余計な事をしないでほしいということだけ。

放課の鐘を聞いたらすぐに買い物に行って帰宅する。洗濯物を取り込んだりするのは後でもいい。それより、怪我する危険度の高い料理や足を滑らせる可能性がある風呂掃除を終えてしまいたい。一人暮らしなのかと質問されたら答えはいいえだ。正解は二人暮らし。正確には多分3人暮らし。家事が当番制なのかと問われれてもノーと答えるけど、私は必要に駆られてやってるだけ。やる必要があるだけ。


「ただいまー!きえちゃん早いね!今手伝ぅっ…!」


声が途切れたと思ったら鈍い音と、同時に私の傷口のある当たりに痛みが。あっちは怪我しないとはいえ不注意が過ぎないだろうか。


「転んだぁ…。家でよかったよぉ〜。痛くないけど恥ずかしいし…。今日2回目だぁ…」


言われなくても知っている。1回目に関してはどうせ体育のランニング中に転んだんだろう。しかも、半ズボンで。あれ程外走る時は長ジャージ着ろと言っているのに。


「おかえりハル。キッチンで転ばれても迷惑だから、テスト勉強してて。赤点とるのは自由だけど、せめて卒業してもらわないと私が困る。姉と同学年とか御免なんだけど」

「あ…えっと、ご、ごめんね。頑張るね…」


多少強めに(ただしかなり不機嫌に)言えば手伝うのを諦めた。

昔からうちの姉妹はこんな感じだ。姉が寄って来れば私が追い払う。割と本心から嫌悪8割迷惑被りたくないのが2割でさっきみたいなことを言ってるのに、姉からは心配100%の照れ隠しでキツめに言っていると思われているらしい。近所のおばさんとかが言ってた。もう少しお姉ちゃんに優しくしなきゃ嫌われちゃうわと。あの時は留意しますと笑顔で流したが、内心は苛立ちが過ぎて吐き気までした。


他人から見れば朗らかで天真爛漫な姉と過保護なのを隠して姉に辛辣な妹に見えているらしい。実際、友人たちにもシスコンだと思われてる。そんなことあるはず無い。…まあ事実としてそう見えても仕方がないのかもしれないけど、過保護に見えているならそれはそいつらが常に眼球に善人フィルターっていう偏見を貼り付けてるからだ。私は物心ついた頃から、一度だって姉が危険なことをした時に、姉の身を心配したことはない。全ては私の為だ。私が傷つかないため。だって、私のこの原因のない怪我は、紛れもなく姉のせいなのだから。



少し昔話をしようか。

あるところに不思議な存在に愛された女性がいました。彼女には子供がいました。とても愛らしい子供でしたが、その子供は彼女と違って不思議な存在に愛されていませんでした。

けれど不思議な存在は、彼女の2番目の子供のことは彼女と同じく、もしくはそれ以上に愛していて、生まれてくるのを心待ちにしていることを感じ取りました。

彼女は2番目の子供を宿しながら、1番目の子供の身を案じ、そして願ってしまいました。


2番目の子が、1番目の子を守ってくれますようにと。


それは本人が意図していたかは分かりません。しかし事実として、2番目の子供の人生を縛り付けました。

本来2番目の子が受けるはずだった賞賛や慈しみは1番目の子にのみ向けられ、1番目の子が怪我をするとそれは2番目の子に転移する形で消えるようになったのです。


恩恵を奪い、不幸を押し付ける。


呪いと呼ぶに相応しい状況を作り出してしまいました。

気付いたときには時遅く、彼女は少しでもその理不尽な繋がりの強度を弱める為に子供たちを連れて世界…次元を超えました。…その代償でしょうか、彼女の身体はゆっくり弱っていきました。生まれた子供が5歳になった頃、自身が行ってしまったことを本人に告げ、亡くなりました。その時点で、呪いは解けるはずでした。しかし、結局のところその兆しもなく今日に至るのです。


…1番目の子供が姉、そして2番目の子供というのが私。最初は信じなかったけど、話を聞いた直後に姉が怪我をして、それが私に移った時にその事実を認識した。それ以降は毎日神経を尖らせてた。病気も移るなんて思わなかった。誰だって痛いのも苦しいのも嫌でしょ?しかもそれが自分のせいじゃない。

そんな理不尽、ある?


……それから10年くらい、荒れたりキレたり。こんなこと誰にも話せないし…。そして今に至るわけ。書ききれない恨み辛みは勿論あるし世間への憎しみもある。けど、それは私が悪いの?そうじゃないでしょ?…だからこうして、私は生きてる。繋がりを消す方法を探しながら。


「ただいま戻りましたよ〜」

「…おかえりなさい」


…5歳と6歳の子供が2人だけで生きていける訳がなく、母の死の間際に母の知り合いだという男性がやってきて、私たちの面倒をみてくれることになった。以降この3人で暮らしている。名前はユラン。中性的な顔立ちで、優しい綺麗なお兄さんという風貌なんだけど、どういう訳か、背中に半透明の羽がある。私以外見えてないみたいだから知らないふりをして過ごしてる。


「…おや。またやらかしてくれたようですね。まだ痛みますか?」


膝の怪我に気付いてユランさんが心配してくれる。それがこの味方のいない環境においては、嬉しいものだった。


「…平気です」

「我慢できて偉いですね。そんなキエラには私の分のシュークリームもあげましょう。同僚の方がくれたんですよ〜」

「…子供扱いしないで」


美味しいと評判のケーキ屋の箱を冷蔵庫に入れながらユランさんが笑う。…この人は、唯一私のこの呪いのような状況を、私以上に理解してくれている。理解者がいるお陰で私はこの10年を何とか耐えられたと言ってもいいかもしれない。誰も彼もが姉にだけ無条件に好印象を持つ中で、この人だけは違っていたから。


ハルの不注意な行動に怒り、細心の注意を払って、神経を擦り減らしつつ生きていたある日、私達は知らない世界へと呼び出された。


聖女と奉られる姉と違って酷い扱いを受けたあの当時のことを思い出したくもないけど、母の話が本当だったということをもう一段深く実感した。

彼方にいるときは感じられなかったハルの気配が強く感じられるようになった。私がどこに居ても、ハルが何処にいるかは分かったし、どんな状況なのかもわかった。ああ、繋がっているって、こういうことなのかと。何処に居てもどんなに離れていても、まるで常に隣にいるかのように鮮明に、その存在を感じる。厄介で不快なことこの上ない。煩わしいだけじゃない。私が恐怖を、不幸を感じているとき、ハルは常に守られて、幸せで…満ち足りているのだということがダイレクトに伝わってくる。こんな苦しみがある?マッチ売りの少女の気分だ。きっと彼女の性格はこんなに歪んでないからマッチの中の景色に憧憬はあっても憎悪を浮かべたりしないけど。でも、それも当然だと思わない?私の歪みは、私のせいじゃない。


勝手な呪いで生まれた時から姉の為の身代わり人形。

勝手な都合で異世界に誘拐されて価値がないからと見下され罪人のような扱いをされた。

生家だという場所に引き取られ、どんなに姉より優れていても常に日陰者。

姉の不注意で怪我が出たその瞬間を見られて呪われていると気味悪がられて挙句追放。


暗い夜の森の中を進む。不思議と怖くないのはつながりが切れていない事は残念だけど、姉から離れられたからだろうか。驚く程に身体が軽い。どの方向へ進めばいいのか、何故かわかる。こちらへ行けば、私は救われると勘がいってる。

辿り着いたのは今にも崩れそうな山小屋。

扉がひとりでに開いていった。

私は"みんな"に手を引かれて、足を踏み入れた。


ずっと昔に見た夢の中に出てきた少年の姿をなぜか今鮮明に思い出す。もしあれが夢ではないのなら、彼にもう一度、会えるだろうか。彼なら私を救ってくれるだろうか。

姉との繋がりがどこか薄らいでいくのを感じると同時に、私の中に、もう一つ別の繋がりがあることに気付く。

この繋がりが私にとって呪い(のろい)なら、誰かにとっては呪い(まじない)なのだろうか。

どうせなら、私と姉じゃない誰かとのこの繋がりは、互いに祝福であればいいのにと望む。切実な思いでその糸をなぞりながら。

読んでいただきありがとうございました!


2024年12月24日にコミカライズの4巻目(最終巻)が発売されます!(小鳩先生頑張ってくれてありがとうございます…!)

書き下ろし小説と、なんと、小鳩先生が私の書かいた番外編話を描いてくださいましたので、ぜひお手に取って読んでいただけたら嬉しいです。


次回更新日:2024/12/20

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