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3 *ゼクト視点

皆様こんにちは、こんばんは。更新忘れるところでした。よろしくお願いします。



"首を合わせるのは、命を差し出すのと同義だから。"


そういえば、大おじはそう言って笑ってたな。


カティアがセインに抱きつくという珍しい様子を見て思い出した。


"私の命はあなたのもの。

あなたの命は私のもの。


人の幾つかある急所の内、もっとも無防備な首。

内臓や筋肉で隠された心臓のある胸より、頭骨で覆われた脳のある頭より、守りの薄い……ただ皮一枚の下にある、生命線。

それを預けるのは、全てを委ねるということ。それで安心を得ているのは、心を預けているということさ。"


初めは言ってる意味がわからなかったよね。だって頸動脈が1番防御手薄な所にあるのは当たり前じゃん?だから全身鎧着た奴らに一撃必殺の技かけるなら首なわけだし。


「行ってらっしゃいませ、セインおにー様」


でもこれがびっくり。カティアを見て納得したよね。仮面の件もそうだけど、あの子は、唯一セインにしかあれをしない。…ん?ハグじゃなくて、ハグした時に頭を預けないってこと。正確には、首を預けないって事。


カティアがセインに抱きついてる時だけ、たまに見る光景。首の肌が触れ合うような抱擁は、昔見た御伽噺の挿絵にそっくりだった。


「おや、珍しい」

「あ。トーリ。どこ行ってたの?」

「ダイルの仕事の手伝いです。見送りの時間だと思ったので連れてきました」


よくよく見てみれば、その手で何か引き摺ってる。割とボロボロで超不機嫌そうな従弟だ。……仕事の手伝い、だよね?


僕の不審な目に気付いたのかトーリは自業自得だと言った。そして不貞腐れてるっぽいダイルに容赦なく言葉をかける。


「荒事には1番向かない癖に、正義感で動くからだ。もう少しゼクトを見習え。挑発も悪戯も無傷で逃げる手段を確立しない限り一切しない所だけは、ゼクトの方が賢いぞ」


…トーリって、同い年だからダイルにだけ少し高圧的な口調に変えるんだよね。ところで、


「僕褒められてる?」

「ええ勿論」


…トーリは、清々しいほどの笑顔だった。

我が弟は、相変わらず、カティア以外の身内に厳しいなぁ。

ダイルが何をしたのか知らないけど、一応危ないところを助けたんだとは思う。というか、そうだと信じてる。断じて弟が従弟を物理的にボロボロにした訳じゃ無い事を願ってる。


「私では無いですよ」

「だよね!」


精神的なボロボロについては何も言わない。だっていつものことだもんね。


「それよりも、アレはいつから?」


おっと、我が危ない弟の興味が従妹に移ったみたいだ。視線の先には未だ離れる事のないカティアとセイン。羨ましいのかな?と思って両腕開いてウェルカムと行動で示してみたら、非常に冷たい目をいただいた。弟の為を思ってついでの冗談だったのに……!


…はぁ。



そもそも何で珍しくカティアがそんな事をしていたのかと言うと、国外への仕事でセインが暫く帝国を離れることになったから。といっても、僕を買収済みのセインはいつでも瞬時に帰還可能であるため、カティアを含めて皆、然程(というか全然?)別れを惜しむ空気は無い。


カティアは多分、セインが心配なんじゃなくて、単に自分の不安を取り除くためにアレをしてるんだろうし。

なんだっけ。ほら、願掛け?文字を飲み込んだり、人形つるすやつ。……あ、そうそう。


「カティアのアレは、おまじないだよね」


言うなれば漠然とした不安解消のおまじない。


ちょっと言葉の響きが可愛らしいそれを思い出した僕の努力をぶった斬るように、


「いや、呪ってんじゃねえの?」


自分以外の誰も、近づけないように。自分以外の誰かを、見ないように。

…と、ダイルが即答した。やめてよ。いくらカティアの事を可愛いい従妹だと思ってないとしても。


おまじないと主張する僕と呪いだと主張するダイルの間に入ったのは勿論トーリ。


「どちらでも良いじゃありませんか。呪い(まじない)も呪い(のろい)も、強く想っている事に変わりはないのですから。可愛い独占欲ですよ。羨ましい限りです」


笑顔でそう締めくくったトーリの羨望の眼差しの先で、ちょうどカティアがセインから離れた。

僕らも手を軽く上げて見送って、しっかり馬車が見えなくなってからカティアが振り返って笑う。


トーリの側に寄ってきて、皆でお茶にしようと誘ってくる。直様回れ右しようとしたダイルを腕一本で止めたトーリが勿論とカティアに応える。僕も異論ないでーす。


「"外"にしましょう。今日の天気はよかったので」

「…ウサギは?」

「暫くお母様の所です」


残念そうに嘆息するカティア。


やったあ。

心の底から大喜びしているのがバレないようにそっかー、と残念そうな顔をしておいた。弟達から感じる微妙に冷たい視線は無視。…トーリは兎も角ダイルまでそんな目で見なくてもいいのに。


トーリのエスコートでカティアが歩き出す。ダイルも渋々その横についた。


僕も後を追って進み、カティアの部屋から外へ出て既に用意された席へと座った。


トーリは羨ましいと言ったけど、カティアは"可愛らしい独占欲"をトーリにも持ってるだろうに。兄に対するそれは、ある意味セインよりも距離が近い。

番い同士の筈のあの2人はまだぎこちないせいかもしれないけど、ゼロか2かしか距離がない。対してトーリとの距離は常に1。隣にいる。

僕ら3人の中で、カティアが自分から寄って行くのはトーリだけ。多分トーリが居ない時の方がカティアは寂しがる。ある種の依存。執着。その事に、この賢い弟は残念ながら気付いてはいないだろうけど。近すぎるからだよね。


昔からそうなんだよ。トーリが何かに集中し始めてカティアの側を離れる事が多くなると、カティアは拗ねる。実際箱庭遊びにトーリが夢中になった時は、わざわざ"潮時"を作り出して、賢いトーリが自然と離れるように細工をした事もあったっけ。あの時は手伝ったなぁ。カティアもまだ小さかったから、自分1人で全部やれなくてね。

まあ何で手伝ったのかと言えば、トーリがいない間、何故かカティアが僕に引っ付いて離れなくて、僕が大変胃を痛めながら突き刺さる冷たい目に耐える日々からおさらばしたかったからなんだけどね。超大型の魔獣に踏まれて潰れるか、氷に生き埋めにされるかと思ったよ。


…さて、それはさておき。そんなカティアだからね。あの時はよく耐えたよね。…ほら、隣の国の例の婚約破棄騒動の時。アレはぶっちゃけ偶然じゃなくて、多分トーリの仕込みなんだけど、その仕込みのために少し前から暫く忙しかった筈なんだ。トーリから僕に頻繁に連絡があったし。皇帝の顔色どう?って話が大半だけど。

その時は多分カティアの事を殆ど放置だったと思うから、よく寂しがりやのカティアが我慢できたなって。


出されたカップに口を付ける。適温適温。ミルクたっぷり入れ直してもう一口。あーおいし。


そういえばこの茶葉もあの頃カティアが美味しかったーって手紙に書いてたなー。随分穏やかに過ごしてるなって思って、従妹の成長を感じたものだよ。その落ち着きぶりは、いつぞやの聖女騒動の時の計画進行中の経過観察してる時や、例の王女にわざとついて行ったりした時と同じくらい堂々としたものだった。立てた計画通り事が運んでるから下手に手を出さずに傍観を決め込んでる感じの。


……ん?


何か引っかかる。トーリの人形遊びが親達にバレたのは、ご存知の通り前より国が良くなり過ぎたからなんだけど、…その国に目をつけた理由は、確か…確か、カティアが…


「ゼクトおにい様」

「な、…にかな、カティア」

「何、ではないですよ。おかわりはどうかとカティアが先ほどから聞いていました」

「ごめんごめん。ちょーっと考え事してただけだから」


考える事は放棄しよう。それは僕の役目じゃないし。楽しい事を考えよう。


「おかわりちょーだい」

「はい」


カティアが満足そうに笑うと、トーリがダイルの説教に戻った。そろそろやめてあげればいいのに。


「ゼクトおにい様」

「ん、ありがとカティ…」


あ?


深い意味は無いのかもしれない。単にトーリを嗜めようとした僕に待ったをかけたいだけかもしれない。

…けど、僕から視線を逸らさずに、静かにと仕草で示す彼女の意図は、きっと…。


「わ、わかったよ。黙ってるよ…」


カティアはにこりと笑った。


「お願いしますね。…私、トーリおにい様が大好きなので」


嫌われたくありませんの。とカティアは続けるけど、大丈夫だよ。知ったところで喜ぶだけだよ。…言わないけど。


ともあれ良かったな弟よ。カティアはちゃんとおにい様が好きだとさ。言わなくても知ってるねー。伝わらない。残念!



僕は正直気がつかなかった。

数年前までと同じようなこの景色が、嵐の前の静けさだとは。


カティアのあのおまじないは、安心であると同時に覚悟である事にも。



「姫様が攫われました。北大陸に」


その報告を、受けるまでは。


読了ありがとうございます。

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