全ては愛から始まった
皆様こんにちは。一応いわせてください。
これまでもこれからも、私が書いているのは100パー趣味で書いた自己満足の作品です。
それでもお付き合いいただけるなら、よろしくお願いします。
『昔々…稀有な国がありました。
その国は、寒い寒い大陸で、唯一妖精の加護を受け、人々は幸せな日々を過ごしていました。まず大陸内ではあり得ないほどの温暖な気候。種を蒔けばどんな種でも必ず芽吹いて、人々の腹を満たし、枯れることのない水源は、人々と土地を潤し、妖精たちの気まぐれにもよりましたが鉱山を掘れば宝石の山、疫病などが流行ることもなく、寒さと無縁で、魔物と呼ばれる化物もその国にだけは近づかない。まさに豊かで恵まれた、理想郷とまで呼ばれる国がありました。
しかし、ある日を境にそれは次第に失われてゆきました。
じわじわと温暖な気候は肌に痛みを感じるほど冷え切り、
人々の喉を潤した澄んだ水は氷に閉ざされやがて枯れ、
冷え切り凍りついた土壌などでは作物など育つはずもなく、
疫病がその手足を国の全土に伸ばし、
最後に、魔物が襲来し、人々を襲う様になりました。
北の大陸と聞けば誰もが想像できる惨状の国へ変貌しました。
人々は嘆き、かつての生活を捨てられない貴族たちは王へ嘆願し、とある儀式を行いました。』
招待された訳でもないのに、その2人は並んで堂々と、長い廊下を進んでいきます。最早"半壊した"と言っても過言ではない他人の城の廊下を、まるで散歩している様な気楽さで。まあ、こんな状態の場所に他国の王族を招待する様な国があるなら正気を疑われますけどね。
城どころかその周囲の街も破壊され、瓦礫の山が所々に出来上がり、城壁も最早無いので、叫び声が彼方此方から聞こえます。
「聖女召喚の儀、ね。僕は感謝すべきだと思う?」
「理由がどうあれ、同族を蔑ろにされておきながらそんな余裕をかましてい…こほん。余裕綽々とされているだなんて、流石ゼクトおにい様ですわね」
「あれ?何で僕が詰られてるの?」
「あら?横っ面叩かれたくて敢えて趣味の悪いことを言ったのではないのですか…?」
「あっれぇ!?」
絨毯の敷かれた足元には、瓦礫どころか度々人も倒れているが、彼らは気にした様子もなく、何事もなく進んでゆきます。
『聖女召喚の儀とは、国が窮地に立たされた時のみ許された王家の秘技。その詳細はわかっていないものの、"精霊に好かれる人間をその場に連れてくる"術であると推測される。聖女召喚と言われる所以は、呼ばれる人間が大抵女性である事。そしているだけで国を救えるという、とても稀有な存在故でした』
「あはは。役割だけならカティアも聖女だよね」
何を思い出しているのか、隣を歩く従妹にそう冗談めかした本当の事を振る。…彼女は何も答えずにまた足をすすめていく。
「…」
「…え。あれ?怒ってる…?」
「…」
「カ、カティア?」
「あら。失礼いたしました。精霊に好かれる人間の特徴を考えておりましたのよ。どうしてゼクトおにい様が精霊達に好かれるのかしらって」
「それは僕が兄弟達の中で1番素直で心が綺麗だから「笑えない冗談を言っても私はトーリおにい様のように綺麗に流してさしあげられませんわ。ご自分が今まで転がしてきた令嬢方の前で言ってから出直してくださいな」…おにい様、従妹が辛辣すぎてそろそろ本当に泣くよ?」
勝手にどうぞと口には出さず、黙って背を向けて階段を上がっていくのはご令嬢です。否、令嬢というよりは現在陥落しかけているこの国の若き王の妃とされるべく誘拐されてきた皇女と言うべきでしょうか。
彼女は建物の上に行けば行くほど酷くなる建物の崩落も、今も尚続く揺れや大きくなってゆく恐怖に濡れた兵士たちの声にも動揺することなく登ってゆきます。
それに対して、もう1人、黒髪の男はそんな彼女に背を向けて、階段を降り始めました。目的地は唯一崩壊の被害に遭っていない森(正確には更にその奥ですが、まあこの話は置いておきましょう)。
「気をつけるんだよー」
ひらりと彼女に手を振ると、男の姿は次第に光を帯びていき、そのまま光の粒が弾けるかの様に消えてしまいました。
『行われた聖女召喚の儀は成功し、この国からかつて失われた"聖女"が帰還しました。王は彼女を王子の唯一の妃として迎え入れることとし、この国は精霊の祝福を得る。
人々は大喜びしました。…しかし、それは続きませんでした。
何故なら彼らは昔から、人違いをしていたのです。聖女は召喚された時に共に現れた、彼らがそうだと思っていた女性……の妹だったのです。それを知らず、彼らは"呪われた"妹を罪人を扱うが如く死の森へと追放しました。
勘違いの末、本物の聖女を虐げ追放したその国を、人々を、勿論精霊達が許すはずもありません。国はまた危機に陥りました。責任を問われた王は、すぐに対応を迫られましたがこの時、代替わりが起こり新たな王は精霊の力に頼らず国をかつての姿に戻す為、他国の侵略を開始しました。大陸内の他の国を、配下に収める為の戦争を始めたのです。理由は簡単。国内に無いのなら奪えばいい。…それだけでした。そして、それを現実に出来る手立てを彼はすでに得ていたのです』
下階から兄の気配が消えたのを感じつつ、彼女は優雅に足をすすめます。もうじき1番破損がひどい辺りに行き着くようです。その先に何が居るのか知っているからこそ、恐怖心がないのかもしれないですが。
『王は文字通り、他国を侵略し、侵略した国の富を自国の物とし、あり得ないほど国を豊かにしていきましたが、かつての豊かさを知る人々はその手腕に惜しみない賞賛を送りつつも、一方で、隠しきれない落胆を滲ませていました。
王は大陸の中で唯一難攻不落の国を除き、全ての国を手中に収めました。残るは1つ。
何としても手に入れなければなりません。大陸の覇者という称号を。そして認めさせなければ、守れません。自分しか、守れないのです。だから、何をしてでも、最後の一つを落とすのです』
屋根などとうに無くなって見晴らしの良くなった最上階から見上げる空には、怒りそのものと言っても過言では無いほどに荒れ狂う、美しい生き物がいました。それが咆哮を上げるたびに空気が振動して、余波を受けた建物のが悲鳴を上げています。剥落して、崩壊する。ゆっくりと、少しずつ、街全体の建物が削れてゆく。
しかし…歩みを進める彼女にとっては、そんな事はどうでもよかったようです。彼女にとってここは敵国。身勝手によって滅ぶのであれば、それは自業自得以外の何でもない。もう仕事も済んで、個人的な用事も終わったいま、あとは帰るだけなのですから。
「帰りましょう?」
彼女はただ1人、ただ安心した顔でその腕を伸ばします。
いつかのあの日のように。
怒りを通り越して憎悪に満ちた白銀の美しい竜へと愛しさを滲ませて、その名前を呼びました。
……一体これは何の話か。分からない人ばかりでしょうから、少し前から始めましょう。
具体的には、南大陸のとある帝国に、唯一の皇女が数年ぶりに帰還してから数ヶ月後のその日から。
読了ありがとうございます。




