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報われないから愛おしい

番外編その2です。

サブタイにサブタイを付けるとしたら、ゼクトがトーリの1番の理解者になれない理由…ですかね。





「……ねえ、トーリ。もし仮に、カティがトーリを愛したら、どうした?」


ほら、一応カティが冤罪かけられそうになった時に、颯爽と現れたカティの絶対的な味方なわけじゃない?とゼクトが軽い口調で聞いた。


トーリは呆れた様相でゼクトを見た。恐らく、兄弟で無ければ目線すら寄越さなかったであろう。


「セイン兄上に聞かれたら目玉の一つくらい刺されそうな問いかけですね。相変わらず頭が軽い上に趣味が悪い」


……兄弟でなければ、こんな辛辣な応答をされなかったかもしれないが。

しかしゼクトはあんまりな返事にも慣れていた。この程度で沈むようでは兄弟としてやっていけない。つまり、気にしなかった。


「カティは年頃の女の子だし、可能性が無くはないでしょ?女の子は自分を卒なく守ってくれるヒーローにときめく生き物らしいから。

そんなもしもがあったら、弟は嬉しかったんじゃないかなって思っただけだよ」


ゼクトが仕事の書類で遊びながらそう続ければ、トーリは作業中の手を止めて、兄が散々折り目をつけて鳥形に折り込み、飛ばして遊び出した書類を手に取った。


「そんなもしもがあるとするなら、私はティアをここまで愛してはいないでしょう」


トーリの言葉は意外だった。

てっきりセインと再度争い、カティを勝ち取るとでも言い出すと思っていたから。


「振り向かないと分かっているから、愛おしいのですよ」

「えー?僕は好きな子を追いかけるより、追いかけられたいよ?」

「当たり前です。趣味悪(ゼクト)と一緒にしないでください」

「……今物凄く酷い呼び方された気がする」

「気のせいでは?」

「………」


それより、汚したこの紙はやり直しです。と、トーリが用紙を撫でると、インクでびっしり書き連ねられていた内容が消えた。紙は白紙になってしまった。


「その返答状、午後には飛ばすので急いでくださいね」

「午後!?もうあと少ししかないじゃないか!」

「午後には、と私は言ったので、実質あと1時間もありません」

「トーリ!?」

「口を動かす分手を動かしてください兄上。届ける際にはお得意の方法で書状だけ寄越してくれて結構ですよ」


トーリがベルを鳴らすと、ゼクトの姿が消えた。先程までゼクトが寝そべっていたソファを中心にして、淡く輝いていた幾何学模様の光が消える。大おじとの取引で手に入れた対ゼクト用魔法逆発動魔法……簡単に言えば、魔法で自分の部屋から抜け出てくるゼクトを彼の自室に逆戻りさせる魔法、それを簡単に、素早く発動させる為の魔法陣であった。ただし、一回限り。


「…少々、高くつきましたかね」


何がとは言わないが、一度見逃すことを条件に得た魔道具をこの場で使ってしまうのは非常に勿体なかったかもしれない。


それもこれも、あの阿呆(ゼクト)がデリカシーの欠片もない質問をしてきたせいだと思うと余計に腹立たしい。


セインが愛していいと分かっているからカティアを愛せる事と同様に、

トーリは報われないと分かっているからカティアを愛している。


不毛だと誰もが言うし、建設的かつ合理的なトーリがそんなスマートではない事をしているから、早く従妹離れしろと言われているのだ。


……然しながら、そう言う者は大抵トーリを理解しているように見えて根本を忘れているのである。

トーリは完璧な物を壊して再構築する事を好む。そういう"ゲーム"が大好きだ。

壊すものは完璧であれば何でもいい。

それこそ、"番同士の愛"は完璧の典型。


「カティアは決してこちらを見ない。兄という物差し以外で私を定義することはない。それが分かっているからこそ、私は彼女を"愛して"いられる。私が崩すに値する完璧が現れるその時まで、私を動かさせない為の私の中の唯一の完璧…」


穏やかな貴公子然とした姿の根底にある化け物じみた破壊衝動。物理では満たせないそれを満たしているのはカティア。だからこそ、愛おしい。


「これをゼクト兄上は理解できないから、兄上は私の1番の理解者にはなれないんですよ」


さて仕事の続きだと席に戻ったトーリを見ている人影があった。話の一部始終、ゼクトが質問をしたあたりからずっと、彼らの側でそのやりとりを見ていた。誰にも気付かれずに。

その人は、満足気に笑ってその場を後にした。


「……刺されなくてよかったです」


ため息と共に、窓枠に置き去りになっていたアイスピックを引き抜いて、トーリは漸く、仕事に手を付けたのだった。

読了ありがとうございました。




以下、まったくもって上手くない、作者のお知らせです。

つい先日この作品のコミカライズ第3話目が配信になりました!読んでくれている皆様、作画を担当してくださっている小鳩ねねこ様、関係各所の皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。


たまにこんな小話をちょこちょこ更新していく予定です。見捨てないでください。よろしくお願いします。

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