番外編1
本編で出てこなかった大おじ様登場です。
いつも通り、頭の中は真っ白に。深く考えず読んでいただけたら嬉しいです。
「カティアのね」
「「ねえさまのー?」」
先程までの欠片も興味を示さない様子はどこへやら、暇だ暇だと彼が創り出した魔道具を解体していた双子は、魔道具を放り出して漸く彼を見た。
寝そべって自分の発明品が解体されるのをなんとも言えない表情で見届けていた彼はバラバラになったそれらを集める。その姿は何となく哀愁まみれである。
「……カティアの両親はね、番じゃないんだよ」
「「ねえさまのパパとママー?」」
「その呼び方、そろそろ矯正されるから気をつけた方がいいよぉ〜」
首を傾げて可愛らしい仕草などの言動をしているが、この双子が計算していることなど彼には良くわかっていた。
「「ヘマしないよ。ゼクトにいさまじゃあるまいし」」
「あ、そう……。で、カティのね、パパとママ「流石に貴方がその呼び方はいかがなものかと」…爆笑しながら言われても」
「「ゼクトにいさまー!」」
「やあ。おじさまはしっかり君たちと遊んでくれたかい?」
双子に合わせただけなのに。僕の扱い酷く無い?と、彼は嘆いてみせるが、その場の誰も聞いていない。
1人で拗ねていても仕方がないので、突然部屋に現れた甥の息子に恨めしそうな目を向けて、諦めてまた席に着いた。
「ゼクトはいい加減不法侵入やめたらぁ?」
「大おじさんが弟子を撒いてサボるのをやめたら考えまーす」
「別にサボって無いよ。双子の両親が出かけてる間の世話を押し付けられたんだから」
「サボってたからでしょ。それにしても、新婚当時から全くお変わりない様で」
「あの2人は番だからね」
この国…というか、この国の皇帝の直系で番ではない夫婦はかなり珍しい。今のところすでに決まった相手がいる皇族の中で番では無いのは、カティアの両親くらいだろう。
「カティアの父親は珍しく"因子"を持っていないし、本人も婚姻相手はどうでもいいっていうから、カティアの母親と結婚になったんだよねぇ」
「此方は"北"へのルート開通の為にツテが欲しく、彼方は戦力増強の意味を含めて魔術師…魔法を手に入れたかった。両国にとって悪く無い話。…これぞ政略結婚というやつだよね」
政略結婚とゼクトが言った時、一瞬不快そうに大おじ…レオンの眉間に皺が寄ったが、その事には誰も気づかなかった。
「甥っ子のことはともかくとして、カティのママ…。シュリーヌの話をしようか。ゼクトはともかく、双子は会った事ないだろう?」
「僕も会ったことないけど?」
「あれ?カティが産まれてすぐ、会わなかった?」
「…何故か顔が見えなかったんですよねー」
「……ああ、そういえばあの日僕の発明品が彼女に幻覚を纏わせてたから、そのせいかなあ」
「何故そこまでして…?」
「見せたくなかったからじゃないかな?今の僕の心境としては見せびらかしたいだけど」
「……」
「シュリーヌは恥ずかしがり屋さんだからねぇ」
双子がカティアの母親の話を催促する。レオンは分かったと言いながら、懐にしまっていた懐中時計を取り出す。無くさないようにだろうか、懐中時計についたチェーンには、他にも何かの鍵やら、一粒で一生貴族として豪遊出来る価値のある宝石やら真珠やら、薄氷石という大変珍しい宝石を埋め込んだ指輪などが繋がっていた。
レオンが懐中時計を開いて見せると、内側には時計と、鏡があった。レオンが鏡を叩くと、その部分がくるりとひっくり返って、写真が出てきた。写っているのは4人、レオンも勿論写っている。その他のうち1人はとても良く見覚えがある顔立ちをしている。
「「ねーさまだー!」」
「カティアそっくり…いやカティアがそっくりというべき?」
「ねー!ここまで似るとは思わなかったよ!僕もびっくりさ」
従妹そっくり…いや、瓜二つといってもいい女性がいて、ゼクトは驚いた。強いて言うなら写真の中の女性の方が凛としているか。為政者の風格というか、もしカティアが一国を治めていたらこんな感じなのかもしれない。
「名前はシュリーヌ。ティアーゼの女帝。海を越えた北大陸の北部、白い宝石の原産国で、国の至宝と言われるほどに麗しい。ほら、カティアが付けてる宝飾品類や城の装飾の石も全部この国の貴重な宝石なんだよ。とても可愛い娘のために、惜しみなく輸入路とかを開拓したんだ。目に入れても痛くない。正に溺愛してるんだよ」
「…その懐中時計と一緒に留めてある指輪の飾りもそうなの?」
そうだよとレオンは笑う。
突然部屋がノックされた。どうやら双子のお迎えが来たらしい。レオンは素早く懐中時計を双子から回収した。それを見送り、レオンは双子にバラされた魔道具を直していく。
「僕が北大陸から帰る時に撮った写真で大事なものなんだよ。指輪もね。あの時は思わぬ長期滞在になって、随分入り浸ったなぁ。楽しかったよ」
「……以前父から聞いた大おじさんの2年間失踪ってまさか」
「そうそう。それだね。で、ついにジジイに場所特定されて、迎えが来ちゃって、で、うちの甥っ子お勧めする事になったんだよねぇ。で、結果結婚。僕の知り合いに超絶似てる可愛い可愛い女の子、カティアも産まれてめでたしめでたし。ってね」
じゃあ僕も、弟子に見つかる前に行くよと言ってレオンは大きく伸びをした。魔道具の修正はもう終わってしまったらしい。相変わらずの手先の器用さに感心しつつ、ゼクトは見送った。
1人残ったゼクトはレオンの話を思い返して、あの指輪とカティアを思い出した。以前、あの指輪と全く同じものを見たことがある気がする。いつ見たのか思い出せないくらい前に、薄氷石が輝いていた気がする。
…カティアを安心したように抱いていた女性の薬指に。
「……まさか、ね」
ゼクトもその後何も言わずに、来た時と同じように部屋から急に消え、魔道具だけがそこに残った。
大おじ様ことレオン・ジルベルトとカティアの母親の出会い話を書いた『退屈嫌いな女帝様』をこの間投稿しました。気になる方はどうぞ。
蛇足かもしれませんが、登場人物自身が幸せだと感じるのなら、それはハッピーエンドだと思います。
読了ありがとうございました!
追伸(12日更新)
ちょっとした告知です(本当に少しだけ)。
大変ありがたいことに、コミカライズしていただける事になりました!作画は小鳩ねねこ様です。よろしくお願いします。




