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それはこどものゆめものがたり



その人を見た時、この世界にこんなに綺麗な人がいるんだって初めて知った。今まで見ていた綺麗なものは、確かに綺麗だけど、本当に美しいものっていうのは、これの事なんだって!


呆れたように有象無象を見下ろす姿も、

敵相手への容赦のない冷たい氷のような眼差しも、

優しくないのに、人を遠ざけるどころか惹きつける人。


あの人に夢中にならない人なんて居ないと思った。私も、あの人からしたら、くだらない景色の一つでしかないって、思った。


でも、違った。


だってあの人は、あんなに大勢の人の中から私を見つけた!

私に手を差し出して、転んだ私を立ち上がらせて、言ったの。


「……私の番の色と似た色ですね」


被ったフードから少し見えた私の髪の色は、お母さま譲りの、少しだけ鈍い銀色なの。帝国にいるらしい皇女の眩い銀の髪の方が綺麗だって、見たことのある大臣達は影で言うけど、綺麗な色なのよ!自慢なの!


そしてあの人は、私の髪を見てだったけど、本当に優しく笑ったわ。愛おしいというような、慈しむような、お兄様がお義姉様に向ける目と同じだった!


その時気付いたの。

おとぎ話の王子様とお姫様と同じだって。

彼は私をこんなに沢山の人の中から見つけ出せたの!きっと運命で繋がれた……そう、番よ!!




私はあの人を愛しているし、あの人も私を愛おしそうに見た。離れていてもあの人のことばかり考えちゃう。

物語の恋人たちと同じ。必ず結ばれる二人と同じ!

少し歳は離れてるけど、あんなにかっこいい人と番であることは誇りでしかないわ!


だから、あの人に会うまで避け気味だった授業にも真面目に取り組んだし、大臣や貴族たちから怖がられているみたいだから、噂と全然違う優しい人で、他の人には見せない笑顔を私に向けてくれたのよって、自慢したの。

……なぜか番って言う言葉を使ったら大臣や騎士や使用人たちが急にお茶会とかを中止にするから、仕方なく、私はあの人の事をものすごーく慕っていて、求婚までもうすぐかもって言うくらいにしてる。


え?お前は何様って?あら失礼ね!私は一国の姫よ!そしてあの人は大きな帝国の皇子様!私にはお兄様がいて、お兄様はもう少しでお義姉様と結婚して王様になるから、私はあの人に嫁げば、帝国との縁も結べてお兄様達の役にも立てる。素晴らしいでしょ?


お義姉様は由緒正しき公爵家の正式な跡取りだったのに、父親がダメ人間なせいで物凄く肩身の狭い思いをして、義妹や義母に虐められて、遂には家を乗っ取られそうになっていたのを、お兄様が救ったの!

お兄様達はお兄様達で物凄い大恋愛的だと思うんだけど、私とあの人が結ばれたらそれはそれで国どころか、大陸中に響き渡るくらいロマンチックな噂が流れるでしょうね!

氷の皇子を溶かした天使とか言われちゃうのかしら!恥ずかしいけど、可愛い私にはぴったりの呼び方よね。


可愛いといえば……昼間に見かけない馬車に乗ってた、帝国の隣国の令嬢は可哀想だったかしら?

あんな仮面付けてるなんて、絶対醜い自分を見たくも見せたくもないのよね。そんな人が暫くお義姉様の所にいる上に昼間は私も一緒にいてお茶会をして、美しいお義姉様と可愛い私と並んでいたら、きっと見劣りどころか目にも留まることは出来ないでしょうね。可哀想に。でも私たちが可愛いのは当然だもの。仕方ないわよね。

私がお父様に言って、王宮から迎えを出してそこに滞在するようになれば、まあ、冴えない見た目の給仕達も多いし、目立たないでしょう。仮面を外した姿を見て、それで化粧で誤魔化せそうなら、侍女たちにやって貰えばきっとマシになるわ。


そんな計画を立てて、私は気分が良かったのに。城に帰って部屋でゆっくりしてたら、従僕が慌てて入ってきたの。何と聞く前にノックと同時にお兄様が入ってきたわ。


「またレイシアの授業を受けなかったね?」

「あらお兄様。ご機嫌いかが?私、先程お義姉様の所から帰ってきたばかりですわ」

「寄り道先が東の領地……そこからレイシアのところに行って予定の時刻に帰ってきたのだから、授業なんて受ける時間は無かったはずだよ」

「……怒らないでくださいませ。きちんと、お兄様からのお花は届けましてよ」

「そう言う問題じゃないよ。フランベル。

寄り道までは許そう。何できちんと学ばない?ロスティーニ女公爵の授業はとても重要な歴史関連全てだ。この国の歴史、他国との関連も知らずに王族と名乗るなど恥ずかしい。12歳という年齢は区切りだ。王族として当然の知識をお前はまだ身に付けていない。

……半端者と、誹りを受けたくないのなら今までレイシアの授業から逃げていた事を反省して、学びなさい。でないとそのうち」

「うるさいです!王様でもないお兄様に何を言われても私は聞きませんから!」


お花もちゃんと届けたのに説教するなら出て行って!とお兄様に言えば、お兄様は大袈裟なため息をついて、後悔する事になる、なんて脅しのような事を言ってから出て行きました。ふん!お父様に言っちゃうんだから!お兄様は私がお義姉様と授業中ずっと一緒にいられるから嫉妬してるのよ!独占欲の強い人って余裕ないわね!あの人と大違い!あの人は私が番だと気付いても余裕を見せて、今頃私の身元を探しているでしょう。私も自分から目につくようにあの人の事を熱心に話していたらいつの間にかこの国の貴族達だけじゃなくて、隣国とかにも私があの人の事を慕ってるって噂が広まった。きっともう少しで、あの人が花束を持って求婚しにきてくれるわ!


あの人の事を考えるだけで、さっきまでお兄様に虐められてた嫌な気持ちも忘れてしまえる。番って不思議ね。でも気分がいいわ。

明日は朝食後すぐにお義姉様のところに出かけて、あの子……カティアっていったかしら?あの子に帝国の事をいっぱい話してもらわなくちゃ。


次の日の朝食後に、お父様にお兄様の事を言ったら困ったように私を見るからお父様なんて嫌いって言ってあげた。お父様は焦ったけど、お兄様の言ったことは間違っていないって言われて、ちょっと予定外だったわ。でもいいもん。

今からの事を考えて、気分良く出かけようとしていた私は、お父様が慌てて引き留めようとするのを、避けていたので気付かなかった。何か聞きたいことがあったみたいだけど、帰ってからでも大丈夫でしょ。




「フランベル王女殿下、ご機嫌よう」

「お義姉様ご機嫌よう。カティアもね!」

「……ご機嫌よう、王女殿下」


馬車が公爵家に着くと、お義姉様達は外套を着て外で待っていたわ。出かけるところだったのかしら?


「王女殿下、失礼ながら……本日は、宰相閣下直々の社会情勢の授業があったのでは?」

「え?……あー、そういえば。でも……大丈夫よ。宰相は、なんだか朝から忙しいみたいであの怖い顔をもっと怖くして走り回ってたって僕が言ってたし」

「宰相閣下が……?」

「ねえそんなことより、2人とも今からどこに行くの?」

「……カティア様は元々この国に、芸術祭を見に来たそうなので、ご案内をと」

「えー?せっかく帝国の事が聞きたかったのに……。まあいいわ。私も見に行く。祭の視察って名目にすればいいでしょ?」


お義姉様は困っていたけれど、従僕が何かを渡してそれを確認して、了承した。何か聞いてみたらお兄様からの手紙だったみたい。私の好きなようにやらせてあげなさいって書いてあったみたい。お兄様ったら。昨日の事を気にしてご機嫌取りにきたのね?簡単に許してあげないんだから。でも、今回は感謝してあげなくもないわ。


街の中心から、昨日見れなかった東の領地に向かうのだけれど、祭中は個人の馬車を使うのは、いくら貴族でも禁止になってるから、しかたないから乗り合いの馬車に乗って、移動する。護衛はちゃんとこっそりついて来てるから問題ないわ。


「芸術祭は私の国のお祭りの中でも、新年の宴の次に大きなお祭りなのよ!カティアもきっと気にいるわ!」

「……楽しみです」


カティアは仮面をつけていて、目立たないようにかフードを被って顔を隠していたわ。

……ああ、そういえば、すっかりお父様にカティアの事を言うのを忘れてた。……まあ、今日帰ってからでも聞いてみましょう。私の機嫌を損ねたから、きっとご機嫌とりのためにすぐにいいよって言ってくれるわ。



「ねえカティア。カティアに婚約者はいないの?」

「……いません。王女殿下も居ないとお聞きしました」

「ええ。でも私には番が居るのよ」


帝国の人間でもない貴女には関係のない話でしょうけど。

いくら公爵令嬢でも仮面をつけるほど顔が醜いなら婚約者なんて当然居るはずないとわかっていて質問したんだけど、思ったよりも嫌味になっちゃったかしら?でもしかたないわよね。だって、私にはあの人がいるのは事実なんですもの。

お義姉様が何か言いかけたけど、それより前にカティアが質問しても?と、声を上げた。

それをみてお義姉様は黙ったので、番と言ってしまった事へのお叱りから逃げられたお礼に答えてあげる事にしたわ。


「……番」

「ええそうよ。必ず結ばれる運命の相手。私と彼は愛し合ってるのよ。

ある国の皇子様なの」

「……私にも居ます」

「……貴女に?」


よっぽど私が不思議そうにしたのがおかしかったのか、お義姉様が私を諫めるように名前を呼んだ。わかってるわよ。王族たるもの常に冷静にでしょ!


「……だから聞いてみたいのですが、」


仮面の目の部分の奥から見えた瞳を会ってから初めてみた。


「愛とは、何でしょう」


その静かな瞳にあの人が重なった気がして、否定するために、彼女を睨みつけた。……あとから思うと、多分見抜かれた事に焦ったんだと思う。




私が番どころか、愛も何もわかっていない事を自覚していなかった。


自分がゆめものがたりに憧れててもいい子どもであってはいけないと、気付いていなかった。

それを許してくれていた生優しい私の世界を、私自身が壊したのだと、わかった時にはもう遅かった。


昨日のお兄様の言葉が頭に思い浮かんで離れない。


「……そのうち、取り返しのつかない事をしでかすよ」


読了ありがとうございます。

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