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妖精の国の惨事(後編) 〜この世で私が恐ろしいと思うもの?……今の私を作った、呪いにも似たものでしょうか〜


「第二王子に、公候伯爵子息、吟遊詩人に宮廷画家、果てには異民族の暗殺者……なんつー強欲さ。そんなに男を侍らせるのが楽しいか」


ここは帝国と関わりのあまり無い国。その王城の広間です。しかしその広間で、この空間の中において、絶対的な王は私のにい様ですわ。


広間の中心では、5人の貴族が後ろ手に拘束され跪いて、それと対面するように、ダイルにい様が、燃える炎に似た色の瞳を凶悪なまでに冷たくして、彼らを見下げて言いました。


「侍らせるだなんて……!皆私のお友達です!それにそこの変な仮面の人だって、同じようなものでしょう⁉︎」


あら。思わぬ飛び火。来賓席に大人しく座っていた私に、その令嬢は、変な仮面だの、同じだのと、剰え私に指をさしてそう言いました。


「……どこかの無礼千万、マナーを学び直せと思わず言ってしまうくらい酷かった方より酷いですわね。死んだら元も子もないので、産まれるところからやり直して頂きたいですわ」

「カティア。口出しするな」


せっかくの令嬢の言い訳にすらならない言い訳(と言う名の遊びのお誘い)だったのに。


「口ぐらい出したくなるよ。見るにも聞くにも耐えない醜悪さだ。……君のやる気はそんなものかいダイル。私たちは今必死に、私たちの大切なカティアを愚弄したそこの痴女に、生きている事を後悔させるくらいの事をするのを待ってあげているのに」

「お友達って……同性の友達がいないから異性の友達ばかりなの?いや、異性を誑かしまくってるから、同性の友達がいないのか。ティアはあんな爛れた女になっちゃダメだよ?」

「私、お友達は女性ばかりですわ。異性に話しかけられると、その数刻後には何故かその方、国外に仕事で出かけるか移住するので」

「「わあ、なんでだろうね?」」


「お前ら喋るな、煩い」


私を除く来賓席の3名が余りの物言いに目を光らせましたが、にい様ときたらそれに気づかずに、話に戻ります。……お気の毒に。


「カティアへの暴言については、後ほど国として抗議させてもらう。

それはさておき、そんな頭のたりない奴らを侍らせて喜んでいるだけの馬鹿に、躍らされるような愚息たちを何故、貴族どもはそのままにしていた?」


……それはさておきっていいました?ねえ。にい様。さておきって……。


……ああ、皆さま御機嫌よう。今何してるかですって?……そうですわねぇ。帝国の皇子達の訪問を歓迎するパーティーという名の、帝国の皇子による一方的な裁きの時間……で、……ついでに言うと、"番"を傷付けられた平凡の殻を破った化物の観察でしょうか。


ええっと、ここまで来るのに物凄く長かったので、簡単に言いますと、


●ここに来る前にいた国で保護した令嬢が、とても可哀想な事に冤罪で国を追い出された事を我々は知る。

●そして何とも驚いた事に、その令嬢は、ダイルにい様の番だった(番って、会えばすぐにわかるそうです。足りないものが満たされる感覚で)。

●境遇を聞いて驚くにい様。その数秒後、復讐を誓う。

●馬車馬の如く働く羽目になった私たち従兄妹組(ちなみに今回は面白がって様子を見にきたおにい様がもう1人いらっしゃいます)。

●パーティーに顔を出すと、礼儀のなっていない令嬢にデレデレの高位貴族子息達が登場。しかもその令嬢こそ、にい様の番を傷つけたご本人だった(出てきた彼らを第一王子はすぐに追い出そうとしていたので、私が止めました。どうやら帝国の一団がいる間はどこかに隠しておきたかったらしいです)

●にい様の身分と容姿を見て、いい獲物キター!とばかりに寄っていく令嬢。無作法極まりない振る舞いの上、にい様に触れてしまい(そもそも逆鱗には番の件で触れていたので、遅かれ早かれそうなっていたでしょうが)、近寄るなと突き放されて、そんなに柔な筈がないのですけれど座り込むという演技をしてみせた令嬢。


……そして、冒頭に至る。


……ああ、何で途中私たちが馬車馬の如く、雨を降らせたり食料を配ったり水源を復活させたのかと言えば、国民にこの国の王家よりも強い感謝と信頼を向けてもらうためです。

自国の王や貴族は助けてくれないうえに見返りを求めるのに、突然現れたひとが助けてくれて何も言わずに去り、後日帝国の貴族としてこの国を訪れたら?しかもやった事に対する礼を言っても何のこと?と口では言いながら、兵士から見えないところでお茶目にウィンクなんてして去って行ったら?……もちろん、やってくれたのは帝国から来てくれた方々と理解しますわよねぇ。


まあ、それはさておいて……。


食い下がる令嬢。それに対して淡々と彼女のやった事に関する事実を述べていくにい様。

周囲の令息達が顔を青くして令嬢を見ているのに気付いた令嬢は、デタラメだと言い放ち、それに対して証人と証拠を突きつけるにい様。

それだけならば、まあ自国の事で貴方には関係ないと令嬢を庇うわけではありませんが、にい様に場所を変えようと提案する王様。……ですが、それは被害にあったのがただの他国の令嬢だった場合のお話。


「貴国が行った冤罪の黙認、それは我が番を傷つけた」


にい様が言い放った"番"という言葉に、この国の貴族達は顔面蒼白でした。


……ああ、皆様はご存知ありませんよね。

"番"と聞くと、多くの女性達は夢見がちに素敵だなんて言いますけれど、……実体験として知る人間からすれば、あれは祝福などではなく、最早呪いに近いのですよ。顔を青白くしてらっしゃる方々は、"番"に関する話を知っているのでしょう。


"番"を持つ人間の愛は、その番にのみ注がれ、一途で永遠の愛を向け合う。……まあ御伽噺の運命の恋(笑)なんていうのは……けほん、こほん……失礼いたしました。御伽噺のように甘くてふわふわしたお菓子のような恋がこれに当てはまるでしょうか。


けれどそれは、本当にカケラでしかないのです。


傾国の美女や悪女の話は聞いたことがありますか?その美しさゆえに人々が争い始めて国が滅んだとか、そういうお話。あら怖い。なんて話ではないのですよ。本当に恐るるべきは、その裏側。

だって、美女がいくら貢がれたからといって、本当は国など滅ぶわけがないのです。一国が滅べば周辺諸国も影響を受けるので、大抵は近隣の国が助けに入ります。……そして、大体どこかの大きな国が何故か介入して、終わりを迎えます。そう、騒ぎの始まりの国1つが、国民も建物も含めて全て焦土と化して……とか。

……大きな国が何故介入するのかといえば、……まあ、その介入してくる国の窓口にあたる人間が、その美女によって泣かされた人間の番だったりするからです。


……ええっと、ここまで言ってしまったので、あとはご推察ください。とりあえず、"番"への愛は凄まじく、一国を一夜どころか一刻で灰にすることもあれば、枯れた砂漠をジャングルにすることも、その気になれば、世界地図を書き換えることすら出来るのです。方法も手段も問いませんが、……一先ず、番が酷い目に遭ったことが前提の場合、優しい手段が取られたことがないという事だけ言っておきますね。


1人の為に、そこまでの事を仕出かし、尚且つ完遂する程の熱意と実行力。その動力源は番への愛。……狂ってると思いません?だから私はいいましたのよ。呪いに近いと。


「ダイル殿下、貴方が怒っている理由は理解した。速やかに罪人たちは厳罰に処す。だからここらでこの話は終わりにしては貰えないだろうか。なんなら、貴国が以前から協力を求めているという隣国の研究者にも口利きをすると約束もしよう」

「そんな事はどうでもいい」


"隣国の研究者"……。その情報でにい様が止まる、又は私たちの誰かが止めに入るとでも思っていたのでしょう。にい様がどうでもいいと言うと、王子も王も唖然としてらっしゃいます。


「アイツが協力しねえのは、ただの腹いせだ。カティアに頼まれれば直ぐに手を貸すのは分かってる」


アイツ、とにい様が目線を送った先では、広間の中心で起きている騒動など目にも入らずに、恍惚とした表情で私を膝の上に乗せて私の手の甲に唇を落としている男性がいます。そう!何を隠そう王子のいう隣国の研究者です。注目を浴びているのに気付いたのか、なんの悪びれもせずに、


「ああ失礼。きちんと自己紹介したことはありませんでしたね。

私は隣国で帝国の外交官をしています。セイン・ステファノスです。外交のせいで我が愛しの姫君に会えないようにされて腹立たしく思ったので、あまり問題のない程度に突っぱねていたんですよ。誤解させたようなら申し訳ありませんでしたね」


にこりと人当たりのいい笑みを浮かべてそう自己紹介しました。

兄王子達は逃げ場も打てる手も無いことに漸く気付いたらしいです。……そうですね、国の原型が残る事を願っていた方がよろしいかと。


「……ああ、それから、このカティアは帝国の皇女で私の番です。両隣の2人も皇子です。謂わばダイルも含めて、従兄弟又は再従兄弟同士という間がらなんですよ。……それをそこの令嬢の爛れた関係と同一視されたことに関して、2、3物申したい所ではありますが、……ダイルの仕事中ですし、やめておきますね」


再び、ダイルにい様が令嬢とその取り巻きに成り下がった令息達に追撃です。

彼らのご家族からは、彼らを家から切り離すとの書類にご署名までもらってある見事な手腕(……まあ、それらも私とおにい様達が、後から登場するにい様の為に貰って来させられたんですけどね)。


その後、すぐさま捕らえられて彼らは退室させられました。どなどな……?トーリおにい様達はこれからあの場でお仕事があるので残り、ダイルにい様は気が済んでいないようで番を傷つけた彼らに同行。私と、……セインにー様も面白そうなので、少し遅れてこちらに合流したものの……。すぐに来たはずですが、既に令息達は心まで折れてました。


「私のような容姿も身分も良くて、それに頭もまわる令嬢は、帝国にだっていないでしょう⁉︎貴方になら尽くします!だから……!」


……侯爵令嬢だけはまだ威勢が宜しかったので、これは少々、面白いかなと思いました。にい様が心をバッキバキに折った後の使い道としてシエスタ様の侍女にしてもいいかもと提案しましょう。まあ、十分に躾け直した上で、勿論帝国の土など踏ませませんが。

一先ずにい様がお仕事終わるまでは待機でしょうか?……にしても、悪事がバレて、取り巻きが使えず、家からも見放され、あとは罰の執行を待つだけだというのに、なおもにい様に食い下がるその姿は、どこから見ても……


「……醜いお姿」

「っ、仮面に隠してるのは醜いかおではありま……っ⁉︎」

「私のティアに、目を向けないでいただけますか?腐る」


心底穢らわしいという目をにー様が令嬢に向けました。どうやら恐怖で黙ってくださったようです。……にい様、無理です。恐怖で萎縮されては潰し甲斐が半減するのは分かりますけれど、私ににー様が止められる訳ないです。


「……確かに、私は綺麗では無いですが……。少なくとも、貴女のような方よりは、見た目は綺麗な自信はございましてよ?」


仮面をとってご挨拶。唖然とした令嬢の末路はもうどうでもいいかもしれません。にー様と一緒に先にパーティーにもどりましよう。……ああそれと、


「仮面の下が醜いなんて、一体誰がいいましたの?……って、私この言葉は何度目かしら?」


少なくとも、あの令嬢のような女性はこの世にたっくさんいるようですね、と、にー様が笑った。つまり言外に、


「貴様程度の女狐、何処の国にでもいるそうだ」


と、言ったのですが、ダイルにい様が口に出してしまったので、言外でもありませんわね。



その後、ダイルにい様は元々の担当国である神国とこの国の両方の外交官を兼ねることになりました。シエスタ様は幸せそうなので、それはそれで良かったです。妖精の恵みもこの国に戻り、国民も大満足。王とまともな方の王子と貴族達は、再建のために大奔走しておりますれけど、それもいい傾向でしょう。シエスタ様の伯爵家は取り潰しになり、伯爵及び子息達が消えたことを聞いても、シエスタ様は特に嘆きもしませんでした。番が出来て、家族に対してあったはずの情が消えたのでしょうね。

……伯爵達の行方?そんな事、私が知るはずないでしょう?……もしかしたらどこかの神国の神官が、どうやったら"神"の教えや"神"をより深く理解させる事が出来るかの実験台にしているかもしれませんけど、外交官でもない私が知る由もありませんの〜。


……では何故私がこんな話をしたのか?一番いいたい事を簡潔に述べさせていただくなら、常日頃、私が大切にする愛の中にも、恐ろしい愛が存在するという事ですわ。

シエスタ様は恐怖を感じなかった"番"。けれど、私にとっては……一度背を向けた愛。


永らくお待たせ致しました。

幕間を経た今、次のお話を始めましょう。


いかにしてこの私が、今の私になったのかを。


読了ありがとうございます。


それではまたいずれ。

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