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13、例えそれが裏切りだとしても、それが"愛"故だというのなら、胸を張って生きればよろしいのではなくて?

今日は3本連続投稿です。


とある神官が教主となってから、教主は毎日毎日、ただひたすら空の祈りを捧げて生きておりました。

ある日、弟が1人の少女を連れて帰ってきました。少女は神が遣わした聖女であり、これまで以上に世界に名を、その御心を伝えるために天界の神より与えられたものだと言いました。しかし、教主は少女が偽物の聖女だと分かっていました。それでも弟を咎めず、成り行きを見る事にしました。そして弟が行った事を知り、その事態に対処せざるを得なくなるのと同時に、国王軍から逃げなくてはならなくなりました。

教主様は、今の今まで、ずっと自分自身を、ただ祈るという作業をしているだけの人形のようだと思っていました。

自身を敬虔な信徒であると信じて疑わない人間達を、心のどこかで嘲笑っていました。弟すら、その本質を見抜けず、諦めのようなものを抱えていましたが、その日それまでの当然は、呆気なく崩れて壊れました。

さて、ここで問題です。


「教主様が選んだ解決法は何故、"聖女"の無効化だったのでしょうか?」


とある神官は、幼い頃に彼にとっての"神"に出会い、その至高の存在の為に生きてきました。彼は彼が素晴らしいと思ったものを全世界に広めようとしていただけでした。気に入って手に入れた宝飾品を貴族の皆様はよく隣人に事あるごとに自慢したがるでしょう?それがどれだけ価値を持っているかによりますが、王すらも持っていない貴重な品ならば、その時の気分はまさに天にも昇る心地でしょう?彼にとって、それが教主様でした。

教主様の素晴らしさを理解して欲しかった。自分の持つ繋がりの中で、最も価値ある存在を知らしめたかった。

だから1つずつ準備して、漸く仕掛けるタイミングが来た。彼は、邪魔に思うものを退けようとした。出来るだけ穏便に。帝国側の代官の身を確保したのは、直接話をつけるためだった。帝国は支配者であろうとも、独裁者ではない。他者の意見や信仰などを否定するのではなく、話を聞き、考えのうちの1つと理解して、共感はしないが、制限する訳でもない。清濁併せ呑む国だから。

そういう話をする為に信徒を使う為の、"聖女"という存在であり、代官の身柄の確保だった。それは彼の目的を達成する為に"争いの種"を作り出した瞬間であり、神の教えを裏切った瞬間でした。しかしその程度の事は、彼の"神"の為ならば、勘定に入れる程のものでも無いはずです。

さて、ここで問題です。


「何故、神の教えを破った事を、彼は"神"への裏切りと言われて絶望したのでしょう?」


とある"聖女"は生まれた国から消え去る事を望まれ、全く慣れない環境の中、差し伸べられた手を握らずにはいられませんでした。

命以外は全て奪われた自分に、生きる術をくれると言うのなら、縋るしかなかったのです。彼女は、死にたくないから生きていたのですから。手を差し伸べたのが、例え世界の敵だとしても、救ってくれたのは、その人です。死にたくない自分を生かしてくれた人の言う事を何故聞かないなどできましょうか。

"聖女"は望まれた通りにしました。と言っても彼女は何もしませんし、していません。それが彼女が望まれた事だったから。

……だからといって、彼女は偽物にすぎません。その本質は、あくまで以前のまま。

兄弟や親にすら蔑まれ、婚約者にも捨てられ、国に追い出された、"悪魔"と呼ばれた令嬢のまま。……弱くて、臆病で、なのに正義感は強い少女のまま。彼女には、偽物であることは重過ぎた。恩を仇で返すわけにも、かといって世界を騙す事をよしと出来るはずも無く、苦しむ彼女を拾ったのは、とある令嬢でした。


「何故彼女はその正義感を振りかざして、反抗して見せなかったのかしら?」


テーブルを囲んでいるのは3人。勿論それは私と、従兄達です。


「それらの疑問の答えを、ティアは知っているんだろう?」

「当然です。自分すら答えの分からない問題は、問題としてどうかと思います」

「意味ねえ事聞くんじゃねえよ。時間の無駄だ」

「むぅ……。やっぱりダイルにい様はすぐに合理性と結論を求めるのでヤです。質問なさったから、私は答えを提示しただけですのに」

「教主と神官と聖女の話の何処が答えだよ」

「答えですわ。なんならおにー様とおじ様の話でも答えは同じですけれど、どちらかといえば……その三者の話の方が、刺激性は低めですし」


おにい様たちは黙り込みました。そうでしょうね。わかりやすい分、過激ですものね……。


「……ティアは、彼らがやった事、やろうとした事は、彼らの感情……それも愛情によるものだと言いたいんだよね」

「はい。そうでなければ何だというのですか」

「超ブラコン同士の国を巻き込んだ迷惑な痴話喧嘩と、利用される事に甘んじている被虐趣味」

「痴話喧嘩は両者の間に愛かまたは恋がなくては成立しないので、愛情で間違い無いね。後者に関しては……」

「……にい様、そのお言葉、後で後悔しますからね」

「今の話で俺が後悔する要素が何処にある」


絶対、後悔しますからね。

一先ずは黙って、話の続きです。


「皆さまそれぞれ、思う所があるようで、どうも控え目なのが気になります。


私が教主でしたら、まず間違いなく、止めるなんて真似は致しませんでしたわ。寧ろ後押しして、失敗するから罰せられるのを阻止するために動くのではなく、成功させた上で罰することなど出来ないように手を尽くしたでしょう。


私が神官でしたら、神より寧ろご本人を奉りますわね。白昼堂々神ではなく、自分が祈りを捧げたいものを崇めます。私にとってはおにい様たちでしょうか。全世界をおにい様たちの前に平伏させてやりますわ。やったらやったでおにい様たちに余計な虫がたかるようなものなので、やりませんけど。


最後に聖女、ですが……。まあ、実証済みですので割愛致しますわ。

兎に角、皆さま、……甘いんですのよ。やり方が。緩いし、後手ですし、成り行き任せで、愛がふわっふわですわ。一途なのは認めますけれど、それだけでは現実で愛を示すなど不可能です!」

「……なんか、物凄く熱が入ってねえか?」

「ほら、だってティアにとっては、"溺愛"と"寵愛"と"親愛"って、私たちから受けたものなんだよ?世界を変える事ができるほどの愛が、どれほどのものかを実体験した人間なんだから当然じゃないかな」


「目的の為の犠牲が出ようが、それでも譲れないものこそが愛ですわ。甘く優しく夢のように美しいだけなら、それはただの恋でしょう。結果失うばかりで何も守れない。愛とは炎によって燃え尽きる物質などではなく、金属すら焦がし溶かして更に強く燃え上がる炎そのものなのです。歯止めが利かず、遂には守りたいものすら焼いてしまうもの。それこそが、私の知る"愛"です」


重々しくて、愚かな程に一途で、時に恐ろしいもの。それこそが、私の知る愛。


「教主様は、何万人もの信徒を守った上で弟君を守る為に聖女を斬り捨てようとしましたけれど、私が知る方がその地位にいたなら、間違いなく信徒も聖女も国も即座に切り捨てたでしょう」


私の為ならばそのくらいの事を平気でやってのけると知っております。


「どれだけ恐ろしい事をしでかしたとしても、最愛を裏切る行為だとしても、何人もの血が流れようとも、それを気に病むこともないでしょう。

自分がそれが正しいと、だからやってきた事ならば、私は下を向く必要も無ければ、絶望する必要もない」


このお茶会は、王城の庭園で行われております。背後の生垣の奥に誰が居ようと、王城のなかなので、黙認しましょう。


私は隠れている方々に聞こえるように声を少しだけ大きくして、同じように気付いているのに、呆れたように黙認するおにい様達に言い放ちました。


「たとえそれが裏切りだとしても、それが愛だというのなら、胸を張って生きれば宜しいのではなくて?」


そこだけは揺るがなければ、後のことはどうとでもなりますわ。


「……さて、そろそろ城に入ろうか。王子が宴を開くらしいよ。ティアも頼んでいたドレスが届いてるけど」

「あら、あれは私のではありませんのよ?」

「ティアのじゃない……?」

「ダイルにい様、今日の夜会でエスコートして欲しい方が居ますので、そこだけはお忘れなきよう。私の善意を無駄にしないでくださいね?」

「あ、ああ……?」


____________________


「はいはい。動かないでくださいませ」

「ひえっ⁉︎あ、あのこれは……⁉︎」

「この私自ら何故貴女を保護してドレスまで仕立てたと思っておりますの。大人しくしてなさい。着替えてエスコート役に引き渡したら私の仕事は終わりですから。もう構ってあげませんから」

「えええっ⁉︎」

「はい、次。髪飾りは……紅ですわね。それ一択ですわ」

「あのっ、カティア様っ⁈」

「はい。完成」


カティアも侍女に仕上げをしてもらい、準備は完了。彼女を連れて会場へ行けば、その美しさに感嘆の悲鳴が上がった。


「ティア、今日も綺麗だね。さあ、踊りに行こうか。……聖女様もお綺麗ですね(ティアの前には霞むけど)」

「あ、ありがとうございます(なんかものすごく失礼な事を考えられた気がする……)」

「エスコート役はいつも壁の華になるのが好きでね。侍女が案内してくれるよ」


じゃあいこう。とカティアとトーリはダンスホールの中心へ。シエスタは侍女につれられて、その"壁の華"の所へと向かう。

"壁の華"は、シエスタを見つけると一瞬呆然として、そして無言で手を差し伸べた。シエスタも何か不思議な感覚、安心に似た感覚のままに手をとった。侍女はいってらっしゃいませと声をかけて静かに下がっていった。


ダンスホールへ行くと、まるで初めて会ったとは思えない程の息の合ったダンスを踊った。


従妹を溺愛してずっと離すことなく踊り続けて居たトーリが、ターンの一瞬、障害物などが無いか確認しようとして走らせた視線がダイルと合い、驚きに見開かれたのが分かって、ダイルもまた自覚して、驚いた。

その場の中で彼らの従妹だけが、ただ笑っていた。

後からトーリが聞いた話では、"聖女"だからという理由だけで、私が保護に出る筈ないでしょう?とカティアは言っていたそうだ。


今日も読んでくださってありがとうございます。


突然ながらお知らせです。

次回の投稿は1週間後を予定してます。ついでに更新頻度を傑物同様1週間にします。


週一更新を待っててくださる方がいたら幸いです。

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