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12、帝国貴族らしくない、と誰かは言ったようですが、"平凡"だなんて、認めた覚えはありませんわよ?

ティアちゃんの(一方的に)楽しいティータイム。


これは私がおにい様達のところに戻るまでに寄ったお店での会話です。


「シエスタ様は"番"についてご存知?」


ドレスの採寸をされているシエスタ様を横目に、私は侍女が用意してくれたお茶に口をつけます。

シエスタ様は綺麗な琥珀の瞳ですから、妖精感をだす為にふんわりした色合いのドレスが良さそうですわね。


「つ、番……ですか?」


色のサンプルを見ながら、戸惑った様子の彼女にそうですわと返して、浅緑や白緑などを一部つかうドレスがいいか、それとも梔子や山吹がいいか迷います。私のドレスの色と被らないようにしなくては。(同じ色のドレスだと、私の前に霞んでしまいますから)


「昔、お祖母様に聞いた事が、あります。

番という概念があって、それは……普通ではあり得ないほどの深くて一途な愛を向け合う相手の事だと。一生の間に出会えるかは分からないもので、けれどもし逢えたなら、その相手以外に心が動かなくなる。……聞いた話では、お祖母様の曽祖母が、妖精の番だったそうです」


真偽はわかりませんが。と、自信なさげに告げられた言葉に、少し納得しました。成る程、だから国1つ、危機に瀕したままなのね。


「貴女は信じる?その番の話を」

「……はい。素敵だと、思うので」


素敵?と、私は聞き返しました。サンプルを見る気は失せて、採寸されながら何やら妄想中のようなシエスタ様を見ます。……あら、これ聞こえてるかしら?自分の中のまだ見ぬ恋人とかに酔いしれてません?


「だって、自分だけを見てくれるんですよ?自分がどんなに醜くなったとしても、ずっと離れないで居てくれるんです。例え犯罪者になったとしても。

……私の事を、見捨てないでくれるんです」

「……貴女の話を聞かせてくれる?」


採寸が終わったところで、彼女を向かいの椅子に座らせ、侍女の淹れたお茶を勧めて、話を聞くことにします。


"聖女"が生まれた、その理由を。



シエスタ様はとある裕福な貴族の長女として生を受けたそうです。……貴族にも裕福、貧乏ってありますのよ。豊かな土地や人材がいれば栄えますし、逆なら廃れる。今は豊かでも災害1つで財政は浮き沈みします。まあ、侯爵位以上ともなれば、普通は裕福ですので、わざわざ裕福なと付けるのですからシエスタ様の家は伯爵位程度でしょう。


彼女は生まれつき、幸運体質だったそうです。転びそうになると、逆風が吹いて、転ばずに済んだり、誰かに虐められそうになると何処からともなく人が来て未遂でおわったり、泉に落ちた際にはその水が揺らめいて、溺れる前に泉の外に押し出されたり。


妖精に好かれていると誰かが言い、彼女は妖精姫とまで呼ばれたそうです。妖精姫。……確かに、それに相応しい見た目ですものね。

優しい父親と、兄弟に大切にされて、そしてある日、さる高貴なお方と婚約が決まったそうです。


……しかし、学院に入学して数日。その生活は一変した。


兄弟も、婚約者も、平民上がりの教養もマナーもなっていない少女にのぼせ上がったそうです。彼女以外にも、何人か婚約者(それも見目麗しく身分の高い貴族子息ばかり)を奪われる方々が続出し、学年末の卒業パーティーでとうとう、やってもいない罪で彼女は国外追放され、ついでとばかりに彼女の父親がやったとされる横領やらも背負わされてしまったらしいです。妖精姫の幸運も、尽きてしまったと大笑いされたそうです。


「……その頃には、お父様も、お兄様も、弟も。……婚約者も、誰も……誰も、私を見なくなっていました。私は、……私が耐えれば、これからも家は存続できますし、家族が幸せなら、それで……。

でも、……その後、幸いにも私を匿ってくれた老夫婦がいたのですが、その人たちに引き合わせられたのが、貴族の男性でした。その人は、……私を、殺そうとしました。どこかで見た覚えのある方でした。

どうして、と言ったのは覚えています。助けてと、叫んだのも」


私を受け入れてくれて、私の事を大切にしてくれる場所にと強く望んだことも。

そこからは記憶がなくて、気づいたら神殿のような所にいて、神官に出会ったそうです。


「神官様は、言いました。

私の家族のいる国は、前の豊かさなどかけらもなくなり、国政自体が荒れてしまっていると。あれからそんなに時間も経っていないはずです。なのに、急に国が傾き始めたと。このままでは、国の金を横領した私のせいで、家族が大変な目に遭うと。


……協力してくれるなら、それを助けようとも言ってくださいました」


だから神官の言う通り、偽りの"聖女"の役を引き受けたそうです。


「……そうすれば、家族は助かります。

それに、……私も、誰かに必要としてもらえるならって」

「……自己犠牲もそこまで来ると被虐趣味ですわねぇ」

「え」


面白いと笑って差し上げたのに、顔を青くして震えるなんて失礼じゃなくて?


「けれど……そんな貴女がこうしてここに聖女として送り込まれたのは、ある意味幸運だったのかもしれませんわね」

「……どういうことですか……?」


こういう時の私の勘って、外れないのよね。


「番。羨ましいのでしょう?」

「え……。はい。裏切られるのも、殺されるのも、嫌です。誰でもいいから、……いいえ、1人だけでもいいので、私は、せめて理解してくれる人が、欲しいです」

「あら、僥倖ね。私は貴女が負け犬になった経緯も結果も、私ならあり得ないと言いますけれど、……貴女の考えやその清々しいほどの他人のため精神を、残念ながら私貴女と違って好戦的なので、賛同はしませんが、理解はします。一個人の考え自体を否定は致しません」


泣きそうになって俯いていた顔がパッと晴れて私を見ました。表情コロッコロ変わりますわねぇ、この方。


「じ、じゃあ、お友達ですか⁉︎」

「……友達?」


…………………………うん、ええ。数百歩譲って友人カテゴリ、受け入れましょう。"家族"の一員になるかもしれないですし。


「貴女は幸運にも、妖精たちにも見放されておりませんわ。送り込まれた先で会ったのが私であったことに感謝なさい」


……あら?……今誰か、ある意味魔王の所に行き着いたからもう安心とか思いませんでした?まあそうね。私は、身内の不利益をゆるしませんわ。だから……そう呟いた。


あまりにも私の声が小さくて、聞こえはしなかったでしょう。無邪気に私に会えてよかったと笑っておりますわ。


にい様もこれで少しは、従妹の大切さを実感してくだされば宜しいけれど。まあにい様に褒めていただかなくても、おにい様が甘やかしてくれるはずですので、いいですが。


こういうのをなんて言えばいいのか……弔い合戦?けれど誰を弔う?……ああ、強いて言うなら、にい様かしら?

にい様は自分は周りに比べたら凡庸だと主張なさるけど、それこそ猫被りの酷すぎるほどの"役"への没頭でしかない事を、頭はいいのになぜ気づけないのかしら。でもまあ……


"番"が酷い目に遭ったと知れば、流石に"平凡"ではいられないでしょう。


自分があくまでも私たち"家族"の中ではまともだと言うのなら、その非常識をぶち壊して、それまでの"可哀想なにい様"を弔いましょう。


「さあ、反撃をしましょうか」

常々非常識だと言ってくるにい様への反撃。そのついでに近隣の国のどこかが荒れそうな予感。



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