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11、誰かの為に働くだなんて、皆さま、被虐趣味でもお持ちですの?

暑すぎてちょっとダレてきました。皆様も脱水には呉々もお気をつけて。

第2章はこの話含めてあと2、3で終わりの予定です。


こっそりと、私たちがおにい様たちの所に戻ってみると、おにい様は相当心配してくださっていたらしく、人前だというのに膝の上に座らせてお茶やお菓子を勧めます。


「おにい様、落ち着いてくださいませ」

「無茶を言わないでよ。私のティアが、私が離れた途端に"聖女"や教主の弟に接触したなんて聞いて、生きている心地がしなかったんだよ?」

「あら。私、どちらにも後れを取るような真似は致しませんわ」

「……だとしても、……その"聖女"を今ここに連れてくるというのは、どういう意図なのかな?」


おにい様の言葉の通り、現在この部屋の中には、私とおにい様の他に、教主様と"聖女"がおります。お2人はまぜるな危険というやつでしょうか。あはっ。


「……き、教主様……」

「……カティア嬢、これはどういうつもりですか」

「どうもこうもございません。保護しただけですわ。

誰がなぜ"聖女"を追う必要があるのかはともかくとして、追われておりましたから」


教主様は弟を偽りの聖女から取り返す、なんて言葉を仰いましたが、実際に"聖女"を利用したのは弟君の方です。取り返すも何も、あの弟の心は全て教主様に向いております。彼女は何もしていない。そう望まれたから。


「そもそも、私は貴方の望む形で、この小さな世界を終わらせる事は了承しましたけれど、その方法については同意した覚えはありませんわ」


私は人の手で良ければ貸すと申し上げましたが、聖女などとは烏滸がましい。私は徹頭徹尾、私の為に生きておりますもの。誰かの為にだなんて……、家族のためならば別ですが、相手が一国の王だろうが、世界を滅ぼす魔王だろうが、情も無い相手の為に動くほど、私は安くは無くてよ。


……聖女とは一番程遠い、物語の悪役の生き様のようですって?あら、素敵。だって、それが彼であれ、彼女であれ、持てるものを全て使って、現実を自分の為に生きているだけですもの。悪役令嬢(でしたっけ?)はその身分で許される振る舞いをしております。婚約者としての権利です。どう考えても犯罪行為と言ったものを押さえられてしまう所は、かなり残念ですが。詰めが甘いんですのよ、詰めが。私はおにい様にすら気付かせませんでしたのよ?(何をって……ふふふ)

それから、世界を滅ぼす魔王……ですけど、自分が持っているもの以上に素晴らしいものがあって、それを得られるだけの力もあったら、普通侵略しますわよね?面白いものですわね。ある王が隣国を攻めれば戦争という枠組みにはなるものの、人類全体の問題にはならないのに、魔王が隣国を攻めたら世界征服を目論んでる、なんて言われ、対人類の構造を作られるのです。やってる事は人間と同じですのに。本当に不思議ですわねぇ〜?


……まあ、つまりなんというか、悪役というのは、その時最も現実に適応して生きている人達の事ですわ。(王国の子爵令嬢や侯爵については論外。あれは物語序盤で相手の実力も知らずにケンカを吹っかける雑魚レベルですので。その点侯爵の令嬢は悪役令嬢と呼べるだけの人材になれた可能性はあります。私がいなければ婚約者はあの方だったでしょうし)

だから、夢見がちな乙女の称号としての聖女という評価なんて、こっちから願い下げです!


「私はやり方はあくまで私のやり方で、貴方の望みを叶えて差し上げると言いましたのよ」


おにい様の膝の上から降りて、聖女(いいえ、名前は確かシエスタでしたわね)の側に立ちます。彼女の蜂蜜を溶かしたように光を孕んだ琥珀色の目の縁は、教主様への恐怖で濡れています。あらあら。なんて弱いメンタル。これが角砂糖精神力(軽く指で突いただけで壊れるほど脆いメンタル)というやつかしら?


仕方がないので、彼女の目の前に立って、彼女の両頬を私の両手のひらで包み、視線をしっかり私に向けさせます。彼女、私より年上のくせに、小柄な私より小さいんですのよ。多少見上げる為首が苦しいかもしれませんが、仕方ないですわね。


「シエスタ様、貴女は教主様の弟君に何故従ったの?」

「わ、わた、くしは……」


頬を赤くしながら、恥ずかしそうに彼女はたどたどしく言葉を使いました。私の顔の美しさの方が教主様への恐怖に勝ったそうです。当たり前です。だって私ですもの。長かったので要約させていただきます。

曰く、家族にも婚約者にも国にも捨てられた自分に、理由はともかくとして手を差し伸べてくれたから、だそうです。彼女はお礼に何かを差出そうにも、何も持っていない。だから協力をすることにした、と。彼女が捨てられてきた理由について尋ねると、いつのまにか家族の犯した罪が自分がやった事にされており、国から追放されたとの事。これはまた……トカゲの尻尾切りでしょう。無実の人間に被せ(なくてはならないほどに世間にバレてしまってい)る時点で十分同情の余地はありませんけれど。


「悲しかった、です。でも、でもっ……!私は、家族が、大好きでした……!おかしくなってしまうまでの時間は、嘘じゃなかった!

……あの時のことを、私は何て思えばいいのか、わかりません。ですが……ゼシェル様がやろうとしている事は、その時私が黙って罪を受け入れたのと、同じ想いが根底にあったから……」


だから、利用される事を良しとしたんです。代官さんには、軟禁だなんてかわいそうな事をしましたけど!お屋敷の中では自由に過ごせていますし!そう言い切った彼女から手を離せば、途端にその場に座り込み、今度は自分で頬に手を当ててふるふると小刻みに震えています。……あら、リスみたい。可愛らしい。


「さて、そういう訳ですけれど、教主様。まだ聖女……シエスタ様をすべての黒幕に仕立てあげて罪を負わせて断頭台に送る気がありますの?」


私が彼女を見つけたのは、なんと雑貨屋の机の下。敷物の影にうまく隠れておりましたの。彼女は今朝方、ゼシェルから呼んでくるように言われたという壮年の女性信徒に連れられて外に出て、そこを襲われた。聖女という肩書きゆえにか、多数と接触されると問題が起こるからか、彼女は特定の信徒の顔しか覚えていない。だから誰が敵か味方かわからず、命辛々逃げ出したものの誰に助けを求めればよいのかと悲観していたところで、私に見つかったらしいです。


だから私は追われていると表現いたしましたの。この部屋に入った際に、令嬢が青ざめ、教主様の側に控えた信徒の内、片方の顔に視線を留めているのを見て確信致しました。この確認をするのには、被害者本人に見せるのが一番早いですから。


「"壮年の女性信徒"。そちらにいらっしゃいますよね?」


教主様は私からの突然の問いかけにも悠然として答えました。


「……お見事、です。私は聖女という免罪符を無効化し、弟を含めた信徒の皆を守るため、そちらの令嬢には、死んでいただこうと思っていました。

ですが、貴女がもし、これ以上犠牲もなくこの騒動を終わりにできると言うのなら、即刻それはやめてもいい。……ただし、弟が責苦を負うことになるのなら、王に進言してでも、貴女を排除して予定通りに事を運びます。遠い王国の小娘1人の命など、この国にとっては安いものだ。

……人間として、理性のない獣にも似た決断でお恥ずかしい限りですが、仕方ありません」


動揺も一切無いその瞳は、強い意志を持っています。譲らない、と。そう言っている。おにい様が私を守るように教主様との間に入ってくださいました。優しいおにい様大好き。この国の担当であるにい様だったら、絶対に私の事を庇ってくださいませんもの。


「ええ。誰も罰せられませんわ。教主様も、彼女も、弟君も。そして、罰を受けるのは1人だけ」


それにしても、誰かの為に動くだなんて、皆様被虐趣味でもお持ちなのかしら?私には理解できませんわ。

だって、自分の為の行動が、最終的に誰かのためになるならまだしも、その逆なんて、自分が得られるものなど、ただの自己満足。それで満足するようなら、私は私ではない。

自分の幸福ばかりを求めて、他者など気にしない独裁者と言いたければ言えばよろしいですわ。その程度のこと、"悪役"ならば当然ですもの。


「……それを出来る、手立てがあるのですか?」

「当たり前です。ね?おにい様」

「ええ。ここにいる誰も嘘をついていないなら。

……特にそちらの元聖女。先程までの言動に嘘はありませんね?」

「は、はいっ!勿論ですっ!……ところで、何でそんなに睨んでくるんですか……?」

「いいえ?ぽっと出の小娘のくせにティアと至近距離で見つめ合ってんじゃねえよとは思いましたが(べつに?)」


おにい様、本音と建て前が逆になっておりますけれど……まあいいですよね。だっておにい様笑顔ですもの。


「……一体、何が出来ると言うのですか」

「敢えて答えましょうか?

何でもですわ」


何でも?そう聞き返す教主様に、私はおにい様と並んで立ち、笑ってみせます。


「それが自分の為ならば、人はなんだって出来るのです」


だから私は聞きましたのよ。皆さま、誰かの為に動くだなんて、被虐趣味でもお持ちですの?と。

読了ありがとうございます。


10万字まであと凡そ14000字……。機材の熱にまけず、頑張るんだ……。

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