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8、聖女?……誰ですか。今私と真逆の人間を示す言葉だなんて思ったのは。



皆様御機嫌よう。長らく見かけておりませんでしたが、私の事を覚えておいででしょうか?

かの王国での一騒動、おにい様の企みにより王子の婚約者という立場から解放され、自由の身になりました私、カティア・クロムクライン改め、カティア・セレスティーナ・エステランテと申します。

ええ!おにい様が!そう、私の従兄であるおにい様こと、トーリ・クロムクライン様が私を解放してくださったのです。(……え?以前私が城の牢屋の前で、物凄くいい顔で、何か罪人の心を折るどころかぶった斬るような事を言い放っていたと?あら……?何のことかしらー?目撃者が居なければそれは立証出来ませんのよー?…………楽しかったわぁ)


……あら失礼。私とした事が。少し気分が高揚してしまっているみたいですわ。けど、旅というのはそういうものでしょう?


「ティア、見えて来ましたよ。あれがディゼスフィア神国の都ですね」


はい。私の現在地は、かの王都から些か遠い神国でございます。この国はディゼスフィア神を信仰する宗教国ですの。言いにくいことこの上ない国名ですよね。早く改名して頂きたいものだわ。


かの騒動の後、帝国から送られてきた手紙をもって、おにい様の帰国許可が出たので、おにい様がある程度王国の政治を弄った後、帝国に寄る前に、諸外国に旅行してから帰ることにしましたの。

だって帰ったらしばらーーーーーく、他国に遊びに行けなさそうですし。私もおにい様も行ったことがない国は多いですし。政治的に関わるつもりはありません。単なる観光旅行です。

まあ、最初にその国を選んだのは、おにい様が、とある従弟の働きぶりを見たいとのことだったからです。私にとっては従兄ですが、おにい様にとっては従弟。同い年ですが産まれたのがおにい様の方が早かったの。それで、そんな歳の一番近い従兄弟同士で仲はいいけど多少競い合うような部分がございまして、自分の担当国と比べてみたかったということです。……王国と神国では、場合によっては神国の方が扱いにくいはずですけどね。


「楽しみだね、ティア。都の方は今、物凄くお祭騒ぎになっているそうだよ?」

「お祭り、ですか?」

「うん。とても楽しいね」


今頃困ってるだろうなぁ。姿が眼に浮かぶ。と、おにい様は楽しそう。私はその膝の上に乗せられて馬車に揺られております。

お祭騒ぎ。

なんだかとっても楽しそう。


「おにい様、あちらの樽の上で、大声で演説してらっしゃる方はどちら様?」

「信徒だね」

「……では、似たような衣服で長鞭振るってらっしゃる方と、額に帯を巻いて鼻息荒くビラを配りながら街行く人々に声をかけている方々は?」

「……ティア、もう暫く進んで中心部まで行ったら馬車から降りるけど、私の側から離れるのはダメだからね?」


それはもちろん。道を進んで行くほどに不審な輩が増えて行くのですから、当然ですわ。

おにい様が窓の外を見てまた怖い顔をなさってます。「……解体復元」って、おにい様、流石に他の従兄弟の担当国で遊んだら、反省してないのかと言われてまた別の国に飛ばされてしまいますわ。足を運んでしまった時点で、おにい様がやったと思われること間違い無いのですから。


「私が(はかりごと)を苦手としているのは皆様ご存知ですし」

「そっちの分野は私たちがやればいい。その代わりにティアにはよく囮になってもらっているからね」


ごめんね、と本当に申し訳なさそうにおにい様は言ってくださいますが、私は私で勝手に支障のない範囲で遊んでおりますから、気にする必要はありませんのに。……まあ、この神国担当の従兄は妙に私の本性……ええっと……後ろ暗……こほん、……乙女の秘密を暴こうとするので、その従兄に関しては、もっと気にしてほしいところではございます。殿方なのですから、もう少し紳士らしくあってほしいものですわ。

え?従妹だからこその対応と仰いますの?なんて嬉しくない可愛がり方……。


そうこうしている間に、馬車は都の目的地よりも少し手前の洋服屋に着きました。貴族御用達のお店です。このお店の繊細な刺繍は、王国でも評価が高く、王妃様とのお茶会の時に噂に聞き、直ぐに注文しておきましたの。ミセス・マリアンが型から作り、あのお店の職人であるミセス・バルマンが刺繍をしたドレス。羨ましがる令嬢たちが目に浮かびますわ。お店にはいり、ドレスの引き取りは使用人に任せてそのまま裏口から出て、街の中へ。馬車は目立つので置いていきます。


「ティア、大丈夫かな?疲れたら直ぐに言ってね」

「ご心配、ありがとうございます。おにい様。この程度なら大丈夫ですわ。お気になさらず」


目的地は王城です。

……神国は宗教国ですが、……いえ、だからこそといえばよろしいのか、国の代表が2人いるのです。国民の90%が信徒ですので、その信徒を纏める教主と、建国主の血族……代々国を治める王の2人の代表がおります。国同士の公的な話し合いは、王がしているのですが、それもあくまで教主の意見通りに事を運んでいるだけ。まあ、お飾りの王様といっても良いでしょう。私たちが向かうのは、その王がいる王城です。ちなみに教主は普段大神殿にいるそうです。

……単に観光に来ただけですし、本来なら訪れる予定のない場所ですが、なんと泊まる予定の屋敷の主である従兄弟がそちらでお世話になっている上に、屋敷が信徒たちに乗っ取られたらしいです。……何やってるんでしょう、私たちの従兄弟は。


「企んだ上での一方的な後手なのか、それとも言い訳の出来ないほどの後手後手か、どっちかな?」


ああ……おにい様の笑顔が一段と輝かしく……。これは場合によってはおにい様が手を出せるパターンかも……。大丈夫かしら、首謀者と従兄。


何故王城まで馬車でいかないのかというと、通れないのです。信徒が多すぎて。道という道を塞ぐかの様に信徒の方々がおりまして、観光客などをターゲットに悪質な勧誘をなさいますの。変に絡まれるのも嫌なので、貴族御用達のお店を何店か経由して、徒歩で向かいます。迷惑この上ないですわ。

この国の教徒の方々、布教活動が熱心なのはいいのですが、周りの迷惑を考えないという悪い性質をお持ちなのです。

前はもう少しだけマシだったのですが、この間小耳に挟んだ情報では、聖女とやらが召喚され、喚んだとされる信徒曰く、聖女は神から遣わされた。帝国の貴族によって抑制されている我々を救い、活動を促進させ、諸外国の方々の事すらも帝国の支配から解放する為に我らと共に闘う。……らしく、このところ活動が活発化……といいますか、元の強硬さが戻ってきたといいますか……。兎に角、放っておくにはあんまりな状態になっておりますの。

それを鎮圧するべきこの国の王は、教主の傀儡のようなものなので、派手に動いたりしません。そもそも動かせる手足がありません。何せ国民の90パーセントが信徒ですから。今回は従兄が居ない時に神国での仕事をしてくれている代官が捕まっておりますので、従兄が動いていますから、これを幸いと動いているのでしょう。だから私たちの従兄弟は今王城にいますのよ。


いうなればこの国は今、柵を無くした動物園……ですわね。

最初に噂を聞いた時、なんておめでたい頭の中身だと思いましたけれど。


「そもそも、本当に"聖女"なのかしらね」


ディゼスフィア神は、愛と平和の神といわれています。その神はかつて愚かに争い、傷つけあい、殺しあった人間たちを救い、その戦いを止めて、共に暮らせる安住の地をくれたらしいです。その神を祀り、崇め奉っているのが、ディゼスフィア教です。そんな神が"聖女"を遣わして、下手をするとこの国が地図から消えかねない状況を整えるとお思いで?


"聖女"が扇動しているにしろ喚び出したとされる神官が扇動者であるにしろ、なんとも愚かなものです。


「救いようがないですわね。"人間"って」

「そんな事を言ってくれますな、一応あれでも可愛い弟なのだ」


王城まで、後一歩といった地点。白の外壁に仕込んである隠し扉に一番近い店の奥で、その方は待っておりました。

おにい様が私の前に出て笑顔で対応致します。


「やあ、初めまして。私はトーリ・クロムクラインです。こちらは従妹(いもうと)のカティア。貴方は、……ディゼスフィア教、教主のゼルビア様でお間違いないでしょうか?」

「ああ。いかにも私がゼルビアだ。

クロムクライン嬢、私の弟が不快な想いをさせた事は私がお詫びする」

「……私、人間としか言っておりませんわ」


おにい様の影から見て受けた印象は麗人……でしょうか。


「申し訳ない。本当は今すぐにでも出て、信徒や弟を止めたいのだが、私も私で捕まりそうなんだ」


教主を捕まえて縛り上げようとする信徒なんているんですのね。


「……誤解されそうだから、言っておくが……。私を捕まえようとしているのは、王でね。帝国貴族と国内信徒、敵に回した時に恐ろしいのは帝国貴族だと彼は分かっているんだ。それに対して、我が弟は分かっていない。私が教主であったが故に、狭い世界しか知らず、そのせいで純粋であるが無知。だから今頑張って、送り込まれてくる帝国の貴族を抑えて仕舞えば、勝てるとすら思っているんだ。本当に、馬鹿な子だ。……そして、王は彼を止める為に私を捕まえて、交渉に入ろうとしている」

「……そんな事されたら、それこそ止まりませんわね。私なら、大切な身内を人質に取るような真似をされた場合、生まれてきた事自体を後悔する迄、報復致しますわ」


兄弟を思うその気持ちに一票です。


「うん、話が進まない。とりあえずティア、教主様の話を聞こう。

時間も無いですし、貴方は何を求めているんです」

「単刀直入に言うなら……うん、協力して欲しいんだ。そちらの……カティア様に」


と、いいますと?


「偽りの聖女から弟を取り返し、教徒や信徒たちの暴動を鎮める為に、君に聖女になって欲しい」


聖女、宗教で偉業を成し遂げた女性を示す言葉。イメージとしては、皆に慈愛に満ちた、優しい女性で、大抵は美人。弱き者や貧しい者に、惜しみなく自分の力や物を分けてあげるような自己犠牲を厭わない、博愛主義者。


……あら、今誰か、私とは正反対の人間を示す言葉だとか思いませんでした?

読了ありがとうございます。

書いていて気づきました。元婚約者の王子の名前、考えることすら忘れてたな、と。

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