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EP.4

 何頁あるかも分からない本を閉じた。生者の名前が記された本で、生者が死ぬとそこから名前が消える仕組みになっている。しかし、今確認した中で数百人単位で、死んだはずの生者の名前が薄く記されていた。これは、ミカエル様に報告せねばなるまい。

 天界にある宮殿にミカエル様は住んでいらっしゃる。中世ヨーロッパを思わせるような造りで、入り口にはルシファーの石像があったが、ルシファーはもうここにはいない。神の裏切り者として罪人と見なされ、石像は破壊されていた。私はそれを横目に入り口を潜り抜け、大きな黒い羽を引きづりながら王の間へ向かった。

 「ミカエル様」

 「アズラーイールか、どうした?」

 王の椅子に座っていたミカエル様は五枚の大きな羽を引きづりながら、わざわざこちらへ歩み寄って来られた。

 「私のこの本を先程確認していたのですが、死んだはずの人間の名前が記されていました。その数、数百人ほど」

 「死んだはずの人間がか? ゾンビにでもなったか」

 「いえ、冥界近くに行くと見えるようになるようです」

 ミカエル様は少し考える動作をして、「なるほど、サタンの仕業かもな」

 「サタン、ですか?」

 「天界に復讐するなら手段を選ぶことは無いだろうからな。アレの考える事は私が一番分かっているつもりだ」

 ミカエル様はルシファーと競うほど美しい大天使だ。二人は似ている所があり、いつも会えばいがみ合っていた。だからミカエル様はルシファーが堕とされてから時節寂しそうな顔をしているのを見かけたことがある。

 「彼は悪魔の長としてここに来るのでしょうか」

 「ああ、間違いないだろうな」


 鼻歌交じりに冥界を視察していた。ヴァルデ・ルート街の中心には大きな建物を一つ囲うようにしてルシフェール塔が七つ佇んでいる。街の郊外には大きな城が立っている。そこには、“サタン”がいる。今のところ大きな動きはないようだ。今日のところは挨拶だけで終わらせればいいか。私は二つに結った長い髪を揺らしながら大きな羽を羽ばたかせ、城へ向かった。

 「お客様ですか」

 私を見るや否や目の前にいる天使は震え出した。左右で違う瞳、白髪にベージュのメッシュ。彼はこの間、ちょうど百年前に堕とされた天使だった。名前は忘れたけれど、とても美しい天使だったことは覚えている。

 「い、イスラーフィール様……」

 「ふふっ、そう怯えないで頂戴。今日は視察に来たのよ」

 「視察、ですか」

 「そうよ。サタン様はいるかしら?」

 「はい、大広間にいるかと」

 「ありがとう」

 怖がらせないように笑顔で振るまった。私が行こうとすると、天使が、「あ、案内します!」と言って案内してくれた。案内された部屋の奥で、サタンは偉そうに王の椅子に座っていた。

 「イスラーフィールか、久しいな」

 「そうね」

 「何しに来た?」

 「今日は様子を見に来たのよ」

 「そうか。変わりは無いだろう?」

 「そうかしらね、ルシフェール塔に人間の気配が増した気がするけれど、一体何を企んでいるのかしら?」

 「さあな。用が済んだのならさっさと帰ってくれ。住人が怖がるだろう」

 「あら!あなたが住人の心配をするなんて! あなたも変わったわね」

 と少し意地悪に言ってみた。

 「関係ないだろう」

 サタンはあきれた様子だった。

 「いいわ。今日のところは帰ってあげる。またね」

 「サタン様」と最後に嫌味たらしく付け加え、冥界を去った。ルシフェール塔の件は帰ってミカエル様に報告をした。

 「やはり、何か企んでいるようだ」

 王の間にはすでにアズラーイールがいて、ミカエル様はうーん、と言った後、私の報告によって何かが確実になった様だった。

 「こちらも何か対策を打つべきではないでしょうか?」とアズラーイールが言った。

 「……ああ、そうしよう。しかし、今では無いな」

 「と言いますと?」

 「我々もアレと同じ手段で対抗しよう。軍をつくるのだ。“軍人”を育成し、天界を守るぞ」

 そう言ってミカエル様は拳を天につき上げた。アズラーイールと私は顔を見合わせ頷き、そして言った。

 「御意!」


    *


 宮殿の先を行くと、天門と呼ばれる天界の出入り口である大きな門がある。そこに彼はいた。門番としてそこに立っている彼の名は、カマエル。十四万四千の能天使エクスシーアスの指揮官の一人で、「破壊の天使」と呼ばれる天使軍を率いている。彼の強力があれば、サタンと対抗する事が可能になるだろう。

 「サタンと?」

 「ああ、そうだ。協力してくれるか?」

 「そうだな、神に背いた罰だ。俺がやってやろう、あの時殺し損ねたからな」

 「いや、殺せなどとは」

 「殺さなければまた復活するぞ」

 「そうだが、しかし」

 「まあいい、俺に任せろ。ミカエル、お前はガブリエルたちに報告しろ」

 「分かった。貴様に託すとしよう」

 カマエルがあとは何とかしてくれるだろう。私はまずは神に報告せねばならない。サタンがやってくる。あと九百年後、サタンが帰ってくる。

 神の御前に立てるのは、私とガブリエルと言う天使だ。ガブリエルは神の言葉を人間に伝える役目を担っている、そして私と共に二大天使とされ、最重要視される天使の一人。位が最高なので神の御前に立つ事が許されている。

 門からまた歩く事になるだろうから、五枚の羽を器用に操り、丘の上にある神殿へ飛び立った。そこにはガブリエルがいた。これから役目を果たしに行くのだろう。

 「ガブリエル」

 「ああ、君か。どうしたんだい?」

 「大変な事になった」

 「何があったんだ?」

 神殿の階段に二人で腰かけ、神に伝えるための言葉をガブリエルに話した。

 「それは大変だ。神に伝えなければならない」

 「ああ、だから私はこれから行くところだ」

 「私もお供しようか」

 「いや、大丈夫だ。私一人で十分だ」

 「しかし、サタンか……」

 「仕方が無い、これは分かり切っていた事だ。今しがたカマエルに話したところだ、きっと彼ならやってくれる」

 「そうだな。私は幸運を祈る事しかできない。神の御加護のあらんことを」

 そういって首に下げた十字架の前で手を組み祈った。私も同じことを繰り返し、ガブリエルとわかれ、神殿の中へ入っていった。

 「ああ、神よ。どうかわたくしめをお許しください」

 神の御前で膝まずき、手を組んだ。

 「約九百年後、サタンがこの地へ降り立ちます。軍を率いてやってきます。私は最善を尽くしますが、どうか見守っていてください。必ず追い返します故」

 私がそこまで言うと、神の言葉が頭に響いた。

 「殺せ。サタンを殺せ」

 そう聞こえた。

 「殺せ? 罰を与えるわけでは無いのですか?」

 「殺さねばならない、サタンは悪しき悪魔だ。殺せ、殺せ」

 「……御意」

 

 「あら、どうだった?」

 宮殿に戻ると、イスラーフィールが待っていた。

 「神にこの事を伝えてきた」

 「神は何て仰られましたか?」とアズラーイールが聞いた。

 「殺せと、サタンを殺せとそう仰られた」

 「サタンを殺すのね」

 「彼を殺すには相当の魔力が必要では?」

 「ああ、カマエルに力を貸してもらう事にしたが、足りないかもしれないな。そちらは、何か報告はあるか?」

 私が二人に聞くと、アズラーイールが口を開いた。

 「ラファエルにこの事を伝え、協力するよう促しました」

 「結果は?」

 「協力してくれるそうですよ、天界を守る為、あわよくば人間も守る為に、と」

 「なるほど、イスラーフィールは?」

 「私は大天使アークエンジェルや力を与えてくれる能天使エクスシアにも一応話してみたわ」

 「彼らは私が動けば動いてくれる。前もって話してくれるのは有難い。それだけいれば大丈夫だろう。時間は有限だ。サタンを殺すために、我々は一刻も早く力を付けねばならない。天界を守り切るぞ」

 「御意」

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