第3話 異世界のアザラシは二足歩行するみたいです
新作投稿という事で3話まで連続投稿させて頂きました。
昨日はとても快眠出来た。いつも僕が家で寝ているベッドとは雲泥の差だ。
「んーー、目覚めてもやっぱり変わらないのか」
変わらない天井を確認し、背筋を伸ばす。
異世界に来たのは夢ではないようだ。
コンコン、コンコン
「お目覚めでしょうか」
「は、はい、起きてます」
「失礼します」
「おはよう、メアリーさん」
「彼間様おはようございます。本日からは、食堂にて朝食となります。その後は王の間にて国王様からお話があるそうです」
国王様からの話か。なんの話だろう?
僕は案内され食堂に入る。
「彼間くんおはよう、よく眠れたかい?」
「おはよう。疲れてたのもあるけど、寝れたから大丈夫だよ」
朝から神王子は爽やかだ。
こうしてまともに話すのも初めてな気がするが、僕が勇者ではない事にショックを受けていると思って心配してくれているようだ。
朝食は、3種類から選べるようで、メインが、肉、魚、果物+パンといった感じだ。
昨日のお肉が忘れられず僕はお肉を選んだ。
しかし、出てきたお肉は美味しいのだが昨日とは違い。レストランではなく、定食屋などで出てくるような美味しいが庶民的な味の料理だった。
楽しみにしていただけに落胆も大きいが、異世界に来て衣食住が保証されてるのだから、有難い状況と言えるだろう。
他の皆も、来たようで個々に頼んで食べていく。
「ちっ、昨日のだけ特別かよ。ケチなやつらだな」
根影が文句を言いながら食べている。
お肉を選んだ所を見ると僕と同じで昨日のお肉が忘れられなかったのだろう。
そう言えば昨日のお肉はなんだったんだ?鑑定が出来るのをすっかり忘れていた。
殆ど残っていないが今日のお肉を確認してみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◾︎ララビットのお肉
品質:普通
詳細:ララビットから取れるお肉。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
兎の肉って事かな?普通に美味しいけど、兎って考えない方が美味しく頂けそうだ。
食べ終わったので一度部屋に戻る。
「国王様からのお話しは1時間後との事です。また呼びに参りますのでお願いします」
「わかったよ。ありがとう」
今日から訓練が始まる。僕は武術と魔法どちらの適正が高いのだろうか?魔力を感じる練習とか多分やるんだろうな。
小説とかでは、心臓辺りから何かを感じとる。見たいな内容が多かった。体内に血液の流れのように感じる何かを行き渡らせる。
なーんてね。やってみたけど何も感じなかった。現実はそう上手くいかないようだ。
コンコン
「そろそろお時間です。王の間で国王様がお待ちです」
「わかったよ。すぐいくよ」
案内に従い、王の間へと向かう。扉の前には根影以外の全員が待機していた。扉の前の兵士達が扉を開け僕達は兵士達に続いて中へと入る。中で待っていたのは、国王様、エルア王女様、ダージリン宰相の3人だった。
「待っておったぞ、勇者と巻き込まれた者よ。此度は、提案が合って呼ばせて貰った。エルアよ、話すが良い」
「はい、皆様には、お城で訓練を受けて貰うとお伝えしました。しかし、こちらが呼んだにも関わらず選ぶ自由がないのでは、何かあった際のトラブルになりかねません。ですので今此処で問います。
城に残り訓練を積み、国を守ってくださるか、城を出て自由に暮らし帰還の時を待つか。勿論、城を出る際にも旅支度として金銭や武具などの支給はさせて頂きます」
確かに、後で言い訳をする人も出そうだもんな。最初に自分で決めたなら文句は言えない。僕は普通に暮らせれば良い、城で訓練させて貰いながらゆっくりしようかな。
他人任せなのは良くないけど、巻き込まれた者にそれ程求められないだろう。
「一つ質問していいですか?」
「はい、どうぞ」
「根影の姿が見えないようですが……」
「はい、それも後でお伝えするつもりでしたが、根影様は今朝私の元へと来られて、僕は城を出て自らの力で最強になる。
それが主人公だ、と仰られまして止める間もなく出ていかれました。元々、この話をする予定でしたので止めなかった。というのもありますが」
根影は城を出たのか……確かに城に残る主人公って殆どいない。だが、根影お前は本当に主人公なのか。っと突っ込みたくなるが今更遅いだろう。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「では、問おう勇者と巻き込まれた者よ、主らはどうする?」
「僕は残って戦います。戦える力があるのに戦わないのは、僕の正義に反します」
流石は神王子、光魔法を覚えている勇者は言う事が違う。
「そうね、私も残るわよ。何も知らない状況で出るよりも、教われることは学ぶべきよね」
花実さんも残るのか、と言うか出て行く人いるのかな?学べる事を学んでから……というのは賛成だ。今出て行く必要がないからな。
「うちも訓練は正直面倒くさいけど、街で過ごすのはもっと面倒くさいわ。城に残るに決まってる」
藤堂さんは、面倒くさいという理由のようだが、外へ出ればお金は貰えるが、いつかお金も尽きるだろうし知らない土地で働かないといけないのは間違いない。
勇者なら楽して稼げそうだが、城に入ればその必要もない……か。
「わ、私は……1人で旅なんて出来ません。戦える自信はないですけど。お城にいたいです」
新見さんは、それが正解だと思う。決めつけは良くないが外へ1人で出たら悪い人に捕まって良くないことになりそうだ。まあ、僕の偏見なのだが。
結局、みんな残る事になったか。次は僕の番だ。
「僕も……「彼間殿は恐らく城を出て行くのでしょう。勇者との強さの違いに次第に劣等感でいっぱいになる。なぜ、勇者ではない者が城で過ごしている……と、街の人からの批判も受けるかも知れん。
その苦渋の決断、しかと聞き届けた。旅支度の資金も増やそうではないか」
「い、いえ……」
なっ、僕は城に残るつもりで……何故こうなった。咄嗟の事に言葉が出ない。
「国を守るのは任せてくれ。僕達が絶対に守り抜き無事帰還させてみせる」
神王子……ち、違うんだ。僕も城に残るつもりで。
パチ、パチ、パチ
「彼間殿の決断に儂からも拍手を送ろう。旅支度は早い方が良い。彼間殿を街へと案内したまえ」
ダージリン宰相まで……誤解している。
今更、何を言えば良いのだろうか。お城に居させてくださいと叫ぶか?そんなカッコ悪い所みんなので前で出来るはずもない。
僕は何も言えず兵士に連れられ門の外へと出されてしまった。
「ほれ、これが支度金だ。陛下のお心に感謝するんだな。街までの道のりは言わなくてもわかるな。真っ直ぐに橋を渡ればすぐ街だ。じゃあ俺は仕事に戻るんでな」
僕は城の兵士からお金の入った袋を受取、暫くぼーっとしていた。冷静になり中を見てみると中には金貨が3枚入っていた。これでどれくらい過ごせるのだろうか?……
魔法も使い方がわからない、ユニークスキルは鑑定の類似スキル。根影は1人で出たみたいだけど僕とは違って能力も高いし勇者だ。強くてニューゲームな根影とは違う。
僕は重い足を動かしながら街へと向かって行く。
「待ってください」
んっ……誰か呼んだか?
「彼間様、お待ちください」
後ろを振り向くと、エルア王女様がこちらへ向かって来ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……追い付けて良かったです」
こ、これはもしや王女様に一目惚れされて僕と一緒に旅立ちたい的なやつか?重かった足取りが急に軽くなる。
「どうしました?エルア王女様」
「私達が呼んだのにこんな結果になりすみません。貴方が追い出されるのではないかと私は分かっていました。ですがお父様を止める力は私にはありません。
なので、少しでも役に立つものを入れて置きました。神のご加護がありますように」
そんな都合が良い事はないか。神王子見たいなイケメンでもあるまいし。だが、この王女様は良い人なようだ。有り難く受け取ろう。
「ありがとうございます。では、また会う機会がありましたら」
僕は旅立った。先程よりは幾分か足取りは軽い。橋を渡りきった所で僕はその光景に目を奪われる。獣耳の生えた獣人、そして、馬車を引く牛のような生き物。
建物は煉瓦作りの物が多いようで、地面も綺麗に整備されていて馬車が通りやすいよう道幅も広く作られている。歩いている人の服装は割と地味だが、たまに鎧を着ている人やいかにもハンター見たいな格好をした冒険者達もいる。
「そうだ、僕は異世界に来たんだ。楽しまなくてどうする」
まずは街を散策してみる事にした。
歩いていると屋台街と言えばいいのだろうか。美味しそうな物が沢山売っている。何か食べてみようと思ったがよく考えると金貨の価値がわからない。
暫く過ごせると言っていたので屋台などでは使われないかも知れない。あまりお金を持っているのを見せるのは良くないだろう。トラブルに巻き込まれたら負けてしまう自信がある。
まずは、宿屋……かな。そう言えば、巻き込まれた者だが、この世界の言葉や文字は読めるようだ。男神が何かしてくれたのだろうか?安宿は不安だが、先を考えると高い宿でお金を使う訳にいかない。
手頃な宿はないかとキョロキョロ見渡していると……
ドンッ……
いてて……
「おい、小僧気をつけろ」
「す、すみません」
僕は慌てて謝り、その場を退散した。
慌てていたので、道に迷ってしまったようだ。路地裏のような危ない場所には行っていないがこの広い王都で道も知らずに迷ったのだ。
「どうしよう……誰かに聞くにしても信用していいかわならない。みんな怪しく見えてくる」
「お兄さん、宿をお探しじゃないですか?」
アザラシの着ぐるみ?いや、着ぐるみにしてはフードと顔の境がない。という事は獣人の一種という事になるのだろうか、本当に不思議だ。
それより、今は宿だ。とても怪しく見えるが宿を決めなくては異世界で野宿をする羽目になる。自分から話す勇気が中々出なかったので有り難く伺おう。
「丁度探していた所だよ。お姉さん宿の人?」
「そうだよ、是非うちの宿に泊まってください。料理もうまいし、大広場へのアクセスもバッチリよ」
料理と交通アクセスの良さを謳っているのか。日本でも良く広告であったなー。とりあえず事前に騙されないように色々と聞いておくか。ぼったくられては堪らない。
「お姉さん所は1泊いくら?食事代も知りたい」
「1泊銀貨1枚食事代込みよ!良心的でしょ?お湯は必要なら銅貨2枚頂くわ」
良心的かはわからないけど金貨1枚でお釣りが何枚くるかで大体の感覚がわかるかも知れないな……ここは乗ってみるか。
「料理が美味しくてそれなら良心的だね。案内してもらえる?」
「そうこなくっちゃ」
アザラシなのか、人なのかよくわからないお姉さんに付いていく。太くもないし二足歩行もしているが、顔以外がアザラシそのものなのだ。
顔も一部以外は鼻とか髭とかアザラシそのものなのだが……メアリーさんが懐かしい。どうせ会うなら猫耳とか犬耳とか可愛い感じが嬉しいよね。
大広場が見えて来た。大広場の手前の路地を曲がりお姉さんが止まった。此処がお姉さんの宿なのだろう。見た目は綺麗だ。安宿でもなく、高級宿でもない求めていた通りのような雰囲気を感じる。
「じゃあ、入って」
扉を開け僕の背中を押しながら受付のような所に案内する。
「あら、ラピスお客さん?」
「ええ、お母さん、お客さんよ」
お母さんなのか、わかってはいたが、年齢を増し、体型が太るとアザラシに近づくのか。喋るアザラシとは珍しい。っと失礼だよね、自重しよう。
「ようこそ、アザラシの宿へ。初めてのお客さんだね、変わった格好をしているね。何泊泊まっていくんだい?」
アザラシの宿。看板にも書かれていたがそのまんまだ。何泊しよう。とりあえず何か出来る事を探すまでの時間もいるし1週間くらいでいいかな。幸いまだ余裕がある。
「彼間 天と申します。遠い所から旅をしてきたもので。1週間程滞在したいのですが、大丈夫ですか?」
「お、ラピスでかしたね。長期滞在者は貴重よ、っと7日間で銀貨7枚ね、追加滞在する場合は前日までに言ってもらえれば大丈夫よ」
僕は金貨を1枚渡す。
「はい、お釣りが銀貨3枚ね。お湯は銅貨2枚だから必要な時に声をかけておくれ。食事は18時以降なら声をかけてくれればそこの食堂で出すからね」
「はい、ありがとうございます」
「ほら、ラピス案内しておやり」
僕は案内され2Fの1室に通された。
中に入ると、ベッドと机が置かれていた。それ以外には特に何もないシンプルな部屋だ。
広さは8畳程だろうか。広くはないが1人で過ごすには十分だ。
「じゃあ、何かあったら呼んでね。貴重品、戸締りの管理は自分でね」
ふぅ……何とか宿は確保出来た。
わかった事を自分なりに纏めてみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
金貨1枚=銀貨10枚
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1泊銀貨1枚という事は大体金貨3枚で一月分くらいのお金を貰ったという事か。他にも使う事を考えると少ない。それともこの宿より安い宿が想定されていたのか?
それよりも、エルア王女様に貰った袋を開けてみよう。少し重量感がある、何をくれたのだろうか。
中を見てみる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
○金貨3枚
○風魔法初級編
○短剣
○手紙
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー手紙が入っていたので確認してみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼間様
この手紙を読んでいるという事は既に旅立たれているのでしょう。私に出来る事は少ないです。役立つ品を入れて置きました。お使いください。参考程度に基本的な事を書いて置きます。
○銅貨100枚=銀貨1枚
○銀貨10枚=金貨1枚
○金貨10枚=大体金貨1枚
○大金貨10枚=白金貨1枚
○白金貨100枚=光金貨1枚
一般的な庶民の一月の生活費は金貨1枚程と聞いております。私個人のお金は殆どなく、支援出来る額が少なく申し訳ありません。魔法を覚えると選択肢も増えるはずです、ご活用ください。
神のご加護がありますように。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分のお小遣いから出してくれていたようだ。やはり王女様は良い人のようだ。いつかお礼を言おうと思う。
金貨の価値は僕の予想より高いようで普通に安宿に泊まれば3ヶ月近くは持つ額だった。安宿に今更泊まるのは嫌だし一日銀貨を最低1枚以上稼がなければならない。余裕はあるが早い方がいいだろう。
異世界と言えばやはり、冒険者……になるのかな。採取スキルや鑑定スキルもあるし、魔物と戦わなくても薬草を取れば生活は出来そうな気がする。
みんな今頃訓練してるのかな……
追い出す前提だったとは言え、嫌がらせを受けた訳でもないし、無理やりではなく穏便に外へ出された。
王女様には感謝してるし、何とも複雑だ。こういう時小説の主人公なら恨みで覚醒したりとあるんだろうな。
とりあえず出来る事から始めよう。
短剣を鑑定してみる。王女様から貰ったものだ凄い物かも知れない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◾︎短剣
品質:普通
詳細:一般的な短剣、素材の剥ぎ取りや、
採取の際に使われる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、普通の短剣だった。
採取用に入れて置いてくれたのだろう。
次は風魔法の本だ。少しワクワクしてくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
風魔法[初級編]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔力操作が出来るようになった貴方、次は属性を操る基礎に入ります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バシッ
僕は本を閉じた。
「役に立たないじゃないか……」
風魔法初級編の前に魔力を感じる基礎編的なのがあるのだろう。僕は魔力を感じる事が出来ない、本を読んでも意味がないのだ。
「はぁ……疲れた。少し寝よう」
いかがでしたか?
少しでも興味持って頂けましたら、評価の方をよろしくお願いします。